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エピローグ  もう笑うっきゃない。


 テレビには、無味乾燥な口調のアナウンサーが映っていた。

 リモコンを片手にチャンネルを変え続けてきたが、どれもピンとこなかった。おもむろに今日の朝刊を広げ、テレビ欄を見ていた。

 面白い番組はないかと探していると、扉が開く音がして、顔を上げた。

 ねぼけまなこの姉が、目を擦っていた。

「あ、おはよー」

 もうお昼近いから"おはよう"は違う気がしたが挨拶をすると短い挨拶が返ってくる。

「……はよ」

 姉は真っ先に冷蔵庫に向かって麦茶を取り出す。

 自分は再び新聞に向き合ったが、めぼしいものは見当たらず、そのままぼんやりとニュースを眺めた。

 麦茶を飲み干した姉も、テレビを見に来る。

「う~……変な夢見た」

「どんな夢~?」

 彼女はよく面白い夢を見るので、身を乗り出して興味津々に訊ねた。

 すると答えは――

「あんたが死んだ夢」

 やはり面白かった。

「おいおい……お姉さん、ボクに恨みでもあるの? ……で、死因は?」

 どうせ夢のこと。夢が願望に直結しているとは思わないので、気軽に詳細を求めた。

「覚えてない。……そういえばあんた、時々H大学の構内を通ってるでしょう。あそこ通るとき気を付けてな」

「…………どうして?」

「現場があそこだったから」

「……。あんなところでどうやって死ねるの……?」

 心の底から疑問に思った。

 大学の構内なので自動車は通らないし、事故はありえないだろう。

「ん~と……あんたがそうやってテレビを見ていたらニュースが流れてきて、あんたが行方不明だって」

「へぇ……『昨夜から行方不明の○○さんは、目撃者の証言によりますと……』とか、顔写真出て捜索願出されて?」

「そうそんなかんじ」

「ってそれじゃあ、死霊だとは限らないじゃないか! 生き霊じゃないの? それとも死体発見したの??」

「いや……探しに行ったところまで」

 会話に既視感を覚えながら――由比美蕾は笑った。

「あっはっはv だけどそれ、夢じゃないと思うゾー」

「はっはっは。…………やっぱそうか……」

 何のことはない。昨日の出来事だ。

 つられて笑ってしまった芹華はげんなりと座布団に手をついた。

 昨日の夕方、美蕾が行方不明になった道を通ると、ちょっとした騒ぎになった。

 あっという間に人々に囲まれてしまった美蕾は、姉が自分を置いて早足で立ち去ろうとしていたから、今までどこにいたのか、という質問に対し『迷子になった』で片づけて『熱あって具合悪いから家に帰るね~』と、体調を理由に逃げた。そして姉が作ってくれたお粥を食べて、風邪薬を飲んで寝た。

 今朝はそのお陰か熱も下がって、無駄に元気だった。

「でもどうして……お姉さん、あんまり覚えていないのかな~?」

 記憶力は姉の方が断然良い。

 美蕾が疑問に思いながら再度テレビに視線を転じる。自分が発見されたというニュースが流れることを期待して、ちょっとわくわくしていた。

 どうやら未だ帰宅していない父と母は、美蕾たちが家にいることを知らないのではないか。美蕾が発見されたのは騒ぎになったのだから帰ってくればいいのに――

 と、ふたりが考えていると。

『倒れていたのは、一昨日から行方がわからなくなっていた西区の高校生、由比芹華さんであるということが警察の調べにより判明しました』

 テレビの、ニュースが――

「……はい?」

『芹華さんは学校からの帰宅途中に土手から転落し、目撃者がいなかったために発見が遅れた模様です。現在、市立病院で治療中ですが、頭を強く打ったのか意識不明の重体だということです』

 ――不可思議な事を告げていた。

「……え?」

『尚、同日ほぼ同時刻に行方不明となっていた次女の美蕾さんは昨夜無事に発見され、帰宅したことが確認されており……』

 ニュースのキャスターが、不思議なこともあるんですねぇとか話し合っているのを茫然と見つめる。

「……お姉さん……」

「言うな」

「……どうしよっか?」

「知るかッ!」

 半笑いの表情で訊く美蕾に、芹華は頭を抱えて吐き捨てた。

 乾いた笑いが虚ろに洩れた。

「も一度お兄さんのとこ行く? それとも素直に病院にする……?」

 それで何か言いたそうな顔してたのか……。

 美蕾は去り際の表情を思いだしながら、うちひしがれている姉に提案した。

 幽霊――それも生き霊だったのはお互い様のようだった。

 これを笑わずして何を笑う。

 疲労感漂う姉妹の空笑いは、しばらくやみそうになかった。

2003年3月31日脱稿。某文学賞(もうどれだったか忘れましたが)に応募して、落選したものです。

ちなみに由比は、ゆい。美蕾は、みらいと読みます。

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