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第五章 いつでもどこでも姉妹喧嘩

 目を閉ざして定期的に胸を上下させ、ただ眠っているだけに見える身体に触れる。

 それは鼓動を刻み、血潮を流して、あたたかかった。

「……戻れない……」

 茫然とタイル張りの床に屈んだまま動くことができない。

 そして――迷いが映し出される。

「どうして、起きない?」

 それは自分がここにいるから。

 認められないから――自分が幽霊だと。

 美蕾は、彼女の心はまだ、己が実体であるという意識を持っていた。

 触れられるのはその為であると、誠也は知っていた。

「そのままでは駄目だ。自分が生き霊であることを自覚し、身体に戻りたいと強く願わなければ――」

「白雪姫みたいに王子様に起こしてもらえば」

 諭しにかかる誠也を芹華が皮肉を込めた口調で混ぜっ返した。

「やだ」

 短く即答。

 美蕾は俯いたまま顔も上げなかった。

「どうして?」

「気持ち悪いから」

 至極簡潔な返答に、芹華は妹を見下ろしながら唇の端を歪めた。

「わかった……要するに男が嫌いなのね」

「嫌いじゃないよ。好きでもないけど」

 淡々と返されて、芹華は戸惑う。美蕾の声に表情がない。感情が、窺えない。

 ひやりとしたものを感じながら、妹が何故気持ち悪いと思っているのかを考える。

「……あんた、人間が嫌いなの?」

 範囲を広げた芹華に、またしても平坦な声が答える。

「…………そういうヒトって、人間が嫌いだったら自殺してるんじゃない?」

 逆に訊ねられ、芹華は暫し考え込む。

 美蕾が指摘していることは、人間嫌いの人間は人間が嫌いなのに、自分もまた人間だから、自分が人間であることに耐えられなくなって、自分で自分を殺している……ということだろう。

 改めて深く考えてみると、確かにその通りだ。

 自分が人間嫌いだと思っている人間が、“人間”という枠から自分自身は例外にするのはおかしい。

「人間嫌いを主張しておきながら生きているなんて……単に甘えているんだよ、その人たちって」

 自嘲するように言った妹に、姉は片方の眉を器用に持ち上げて、馬鹿にしたように笑った。

 ――わかった。

 美蕾は純粋に行為そのものが嫌いで。そして……、

「自分が嫌いなんだ」

 それを受け入れられない自分自身が嫌いなのだ、と。

「そうだね。我が身は可愛いけど、あまり好きじゃない」

 静かに肯定する。

 芹華には、美蕾が身体に戻れないでいる原因の一端が、わかった気がした。

「死にたいんだ」

「ううん。死ぬのは怖いから生きていたいよ」

 生きたいから生きるのではなくて、死にたくないから生きると言う。

 仮に、自分が嫌いだとしたら――死が救いという価値を前提に考えて――嫌いな自分をわざわざ救ってやるために、自分を殺してやることはしない。

 しかし絶好の機会が目の前に転がっていたら?

「でも――コレ、このまま放っておいたら死ねるよね? そしたら痛みもないし、楽だよね」

「やっぱりか……」

 案の定の答えに舌打ちした芹華に、誠也は驚いて彼女の苦い表情を見つめた。

「あんたが死んだら母さんとかが悲しむでしょうが。とっとと身体に戻りなさい!」

 イライラしながら、急かすように足を踏みならした。

 示威行為に、だけど美蕾は微動だにしない。

 ぼんやりと床に視線を落として、ぽつりと呟いた。

「お姉さん、人間は慣れるんだよ」

「なに?」

「お祖父さんが死んだとき、お姉さんは悲しんでいたけれど、いつしか慣れて、哀しみを忘れたでしょう。だから大丈夫……」

「大丈夫って、なにがよっ!?」

「ボクが死んでも全部時間が解決してくれる」

「~~~っ! じゃああんたの身体を探したあたしの努力を無駄にするって言うの!?」

 彼女がどのくらい努力したかはこの際、棚上げしておく。

「そうだよ。だってボクには何の取り柄もなくて、誰もボクを必要としているわけじゃないから」

 不似合いなほど穏やかな断言に、芹華は絶句した。

 言葉を探して、天井を見上げた。

 自分が妹を捜したその理由を探して、言葉にしようとする。

「……慣れるまでには時間がかかる。無駄に悲しむより、生きていてくれた方が助かるよ」

 もっともらしい理由は見つからない。けれど――悲しんでくれる人がいるのだから、生きて良いと思った。

「それにあんたが何もできなくても別に誰も困らない。価値がなくたって堂々と生きていればいい。今までだってそうなんだし――それに誰かに必要として欲しいなら、家族にばっかり甘えていないで必要としてくれる誰かを自分で見つけな」

 生きる理由とは、他人から与えられるものじゃなく自分で見つけるもの。必要とされたいなら自分で価値を見つければいい。

 しかし――美蕾は。

「どの口がそれを言うの!? 価値がないとボクを見下して罵るのはお姉さんじゃないか――ッ!!」

 激昂、した。

 立ち上がってぼろぼろと流れ出した瞳で睨み付ける。

「価値なんか要らないと言いながら、ボクが役に立たないと『余計なことはするな』と言って追い出して、仕方なく何もしないでいると今度は『なにもしないで良いご身分だな』とか責めて、どうすればわからなくなって手伝ったら、挙げ句の果てに『おまえ、もう、いなくていいわ』とか言うじゃないかッ!」

 叩きつけるような勢いで詰り、茶色い瞳が憎しみに彩られていく。

 美蕾の悪感情に引きずられたように、黒いもやが――障気が、集まり始めた。障気とは人間を害する、人間の悪感情など負の念が凝ったもの。ましてここにあるのは空の器と剥き出しの精神体。姉妹喧嘩に口を挟めないでいた誠也が顔色を変え、即座に動いた。じわじわと四方八方から滲み出てくる黒い靄にありったけの塩をぶちまけて、呼吸を整える。


 ――選ばせてやりたい。


 肉体からの自由を手に入れた少女に、だけど自由はなくて。

 故郷から自由を手に入れた自分は、だけど今も囚われていて。

 少女は期待されていなかったと言った。

 自分は“そうあるべき”と期待され続けていた。

 彼の故郷は、能力の特殊さ故に外部の音を持ち込むわけにいかず、閉鎖されていた。誠也はずっと、自分に選択肢があることすら知らないでいた。

 道は既に決まっていると思っていた。用意された道を行くしかないと思っていた。

 そんな彼が、初めて自分で道を選んだ。

 ただその自由は、あまりに呆気なく手に入ってしまった。何の抵抗もなく、与えられてしまい――難しいもので、いざ自由になるとその目的を見失ってしまった。

 少女には自由があった。だけどいくら自由が与えられていても、心が自由であり続けることは難しい。誠也は、自分も彼女と同じ状況に陥ってしまってることに気が付いた。

 女ばかりで男の子が少なかった故郷では、過保護なまでに甘やかされて、いつまでたっても小さな子供のように扱われていた。

 自由を求めていたのは、誰かのために存在するのではない、“自分だけの自分”が欲しかったからだ。

 彼女はもう十四だ。大人じゃないけれど子供とも言い切れない。自分自身に関して決断し、その自由に伴う責任を、負うことは出来るだろう。

 その年齢で――誠也には不可能だった選択が出来るはずだ。

 息を思いっきり腹の底に溜めると、音、を発した。

 一音。

 ただそれだけで、障気が怯んだ。ゆるやかに高まる音に連れて、ばらまかれた塩から清浄な空気が立ち上り、波紋のように広がっていく。

 黒いもやが、祓われていく。

 障気の見えない姉妹は、誠也の行動にも気づかぬまま、ただお互いに気を取られていた。

「そんなこと言ったって――」

 芹華は今度こそ完全に言葉を無くした。

 価値がないことを責め立てた人間に『価値などなくても良い』と言われても説得力がない。

 彼女がいくら綺麗な言葉を吐いても、彼女こそが美蕾を裏切り続けているのだから。

「あたしの言うことなんてどうでもいいっ!! ――つーか全部あたしの所為なのか!?」

 美蕾にとって芹華の存在が大きいと言えば聞こえは良いが、要するに罪を全部押しつけられている気がした。

 苦し紛れの叫びだったが、美蕾は睨むのを止め、泣き崩れた。

「違う……」

「……違う?」

 耳を疑って、芹華はぱちぱちとまばたいた。

「ホントは……誰も悪くなんてない。……強いてあげれば、ボクだよ……」

 美蕾には生きる楽しみだってある。だけどそれを凌駕してしまう、惨めさがあるから。生きていくのがとても苦しいだけ。

 生きるのが苦しいから、それを和らげるのに価値を欲しているのは他ならぬ――自分自身。

 それに囚われてしまっているのは美蕾だった。

「辛いんだよ……苦しいんだよ……! でもわかっているんだよ……そんなのボクだけじゃないってことくらい……!」

 きっと――姉の所為にしたのは甘えだ。

 誰かに罪を押しつければ楽だから、そうしただけだと。

 泣いている妹に、芹華は苦笑した。

 なんだか泣きたくなってきた。

 あんまりいつも脳天気に笑っているから、それがただの防衛手段だと気づかなかった自分を笑った。

 ――初めは違ったのかもしれない。でも現在は偽りなのだと、知った。

「……今のあんたは嫌いじゃないわ。あんたの普段の物言いは嫌いだけどね。……だから探したんだよ」

 嫌いじゃない。

 家族だから嫌いなところもいっぱい知っているし、良いところはなかなか見つけられない。でも本当に、嫌いでは、ない。

 気づくと、やわらかな音に包み込まれていた。

 ……それは、とてもやすらぐ。

 とても、あたたかい。

 音の発生源を探すと、誠也が歌うように唱っていた。

 それは日本語であるはずなのに――まるで違う言語だった。

 昔むかしの……遙か古、国という概念がない時代にこの地の人々が話していた、魂ある言葉。

 その音の違いを聞き取れる人がいなくなった現在でも、密やかに伝えられ続けていたそれは、意味あるものとして聞き取れず、わからない単語も多い。

 しかしぬくもりだけは伝わって、さざなみのように押し寄せる。

 心に、響いていく。

 青年がまきちらした白い結晶が清浄な白い光を発し、彼自身が輝きを纏っているようだ。瞳を灼かないうつくしい光が、歪みの全てを浄化していく。

 ……綺麗だった。

 心を打たれて、いつしか涙が頬を伝っていた。

 怒りも哀しみも、虚しさも。

 あらゆる感情が鎮められていった。

 歌は、終わり。夢が、醒める。

「……落ち着いたようだね」

 剃髪した青年がやさしく微笑んだ。

 ふたりは初めて――彼を、うつくしいと思った。

 静けさを取り戻した講義室には、早くも夕暮れの朱い光がさし込んできていた。

 瞳を刺すようなまばゆい光に眼を細める。

 帰る時間だよ、と。世界が告げているようだった。

「今なら……戻れる気がする……」

 袖で顔を拭いて、自分の身体に触れた。

「もうちょっと、頑張ってみるよ」

 そこに笑顔はなかったけれど。安らいだ表情で、その身体が半透明となって――




「美蕾……?」

 心配を滲ませた芹華の声に、美蕾はうっすらと重たい瞼をあげた。

 頭上で姉が安堵の息を吐いたのが聞こえた。

 だが、身体が異様に怠くて思うように動かない。

 視界がとても暗い。視力は良いはずなのに、歪んでいた。

「美蕾、どうした?」

 ぐったりと横たわったまま起きあがらない妹に、不審を感じた姉が床に寝そべる身体を揺さぶる。

「待っ……て、起きる……」

 ゆらりと通常の倍の時間をかけて上半身を起こす。

 力の入りきらない腕と、鉛を詰め込んだような頭の重さに、美蕾は怠さの理由がわかった。

「な……んか……熱あるみたい」

 床の冷たさが恋しい感じ……と、余計な科白も付け加えながら自己申告した美蕾に、本当かどうか芹華が自分の額に手を当てて美蕾と比べた。

「……あ、ホントだ。そういえばあいつ……あの幽霊、水に濡れたって言っていたもんね……」

 それがどうかしたのかと首をひねる誠也に気づいて、美蕾が説明した。

「ボクねー……イチオウ、身体弱いの」

 明るく元気な天然ボケなのに、意外や意外。本人も“一応”と付け加えるくらいに、性格とかけ離れているため、忘れられがちな事実であった。

「あんた、動ける?」

「うん……これくらいなら慣れているから~……」

 症状にもよるが、四十度の熱を出しても自力で動ける自信があった。

 熱でふらつきながらもひとりで立ち上がった美蕾は、これも特技にはいるかな、と朦朧とした意識で考えていた。

「確か前にもらった風邪薬残っていたよね~?」

「さあ。あるんじゃない? じゃああたしたち、もう家に帰ります。……ありがとうございました」

「ありがとうございました~」

 深々と頭を下げる姉妹に、誠也は照れて形良い頭をかいた。

「あ、いや……」

 誠也がまごついている間に、芹華はあっさりと背を向けて歩き出し、

「それでは~」

 美蕾も手を振ってから、慌てて姉の後を追った。熱がある割には足取りに危なげない。慣れているというのは本当だろう。

「いや……そうじゃなく……! もしかしなくても気づいていないのか!?」

 待つように差し出した手は、追うかどうか迷って降ろされた。

 実は端正な顔をしている青年は、あまりにも彼女たち"らしい"非常識さに、苦笑した。

「……そのうち気づいて、きっとまた来るだろう」

 やがてそれはとても楽しそうな笑顔となり、木っ端微塵に打ち砕かれ粉になるほど踏みにじられ続けた自分の"常識"を懐かしむものへと変わった。

 しかし常識といいつつも、幽霊退治なんぞを請け負っている自分の方が“常識”とかけ離れている。そのことに気づいて、誠也は苦笑した。

「手の掛かる妹が出来たみたいだな……」

 その“妹”のお陰で目的を思い出せたことに奇妙な感慨を抱きながら呟くと、彼は静かにその瞳を伏せた。




「いらっしゃい、ご苦労様」

 出迎えたのは、彼が心酔している先輩の、優しい笑顔だった。

「…………」

 何故ここに――と訊くのは愚問だろう。

「あ、佐々くんも食べる? あがってあがって~」

 真紀が箸を置いて手招きする。

 部屋はすっかり片づけられて、明るい光に照らされている。誠也は初めて彼女の部屋が淡い緑で統一されている事を知った。

 異性の家に夜に訪ねるのは失礼だろうが、安心させたかったので誠也は依頼人に成功の報告をするために歩いた。生活費に事欠く彼に電話という選択肢は存在しなかった。

 まさか羽矢斗が真紀の家で食卓を囲っているとは考慮しなかった。よく考えればひっくり返ったベッドを元に戻すには男手があった方が助かるのだ、彼氏の羽矢斗が呼び出されたとしても不思議はない。

 しかし――ご苦労様?

 そんな言葉がかけられるということは、もしかしてもしかしなくても……彼は知っている?

 とうの昔に知っているのだが、思いつきもしない誠也は凍りついてしまった。

 面白い反応をした後輩に、羽矢斗は楽しそうに瞳を和ませた。――その奥に油断ならない光が煌めいていたのだが、誠也は気づかない。

「今夜は鍋なんだ。材料は多めに用意してあるから食べていくと良い。どうせ食べていないんだろう?」

 穏やかな声に解凍された誠也は、天使の様な微笑みに、顔を真っ赤にして狼狽えた。

「い、いえ、でも仕事の報告に来ただけですから!」

 確かに空腹であったが、ごちそうになりに来たわけではない。けじめはきちんとつけなければ。

「報酬の一部だと思えばいい。気にするな」

 羽矢斗は誠也が堅苦しいことを考えているのがわかって、軽く背を叩いて部屋に上がるように示した。後押しされて靴を脱いでしまった誠也は、困惑に眉じりを下げた。

「ほら、もう食べ頃なんだ」

 さっさと席に着いた羽矢斗は逃げられぬよう小鉢に誠也の分をとって差し出した。

「……先輩……」

 捨てられた子犬のような瞳をしていた誠也が、笑顔と共に差し出された小鉢を前に、しっぽ振って飼い主に懐く子犬の目をしていた。彼は眼に入ってきたあたたかい湯気に涙ぐみながら大人しく席に着いた。

 しきりに感謝感激の意を伝えながら夕飯を食べている誠也。

 にこにこにこにこ、に~っこり。

 満面の笑みをたたえた羽矢斗が、ごはんをよそってやったりお茶を入れたりと、甲斐甲斐しく面倒見てやっていた。

 実は玄関のやりとりの段階であんぐりと呆れ顔をしていた真紀はようやっと口を閉ざし、男ふたりからそれとなく目を逸らした。

 何を隠そう、今宵のメニューを鍋にしようと提案したのは羽矢斗である。

 真紀の家へ訪れる前に、誠也の家に寄った事を告げた彼は、自ら買い出しに行って材料を多めに買い込んだ。

 会話の内容からして約束していたわけではないようだ。

 真紀の手の中で割り箸が、みし、と鳴った。

 どうして誠也が、羽矢斗のことを良く気が付くやさしい人だと単純に思いこんでいるのか、真紀にしてみれば謎であったが――力一杯、納得した。

 何のことはない、羽矢斗自身が誤解を助長させるべく、餌付けするなどして恩を着せているのだ。

「羽矢斗さん、あなたの背中に黒い羽根が見えるわ……」

 ついでを言えば先端が三角の角と尻尾も見え隠れ。既にわかっていたことだが再確認してしまい、疲労感が押し寄せてくる。

 誰にも聞こえぬよう呟いた真紀は嘆くように額に手を当てる。

「あれ、どうかしたんですか?」

 この年頃の青年には稀な純真さで食事に手を着けていない真紀に首を傾げた。

「何でもない。さぁ、食べましょ。……あ、春菊食べなさい、春菊。煮すぎたら美味しくないわ」

「はい」

 母のようなあたたかい勧めに、ほにゃん、と誠也が和む。

 …………餌付けしたくなった。

 動揺した真紀は肩を震わせて俯いた。

 面白い。面白すぎる……!

 何だこの反応は、本当に青年男子かと心の中で絶叫しつつ顔を上げると、悪戯っぽく微笑んだ眼差しと視線が交わる。

「……病みつきになりそうだろう?」

「ええ……とっても」

 意気投合し、瞬時に結託した恋人たちはとてもにこやかに微笑みかわした。それを目撃した誠也はぼんやりとそこに理想を見いだしていた。

 若いのにまるで熟年夫婦のように互いを知り尽くしたカップルと、図体はでっかいけれど中身はてんで幼い、世間知らずの子供が織りなす家族団らんの光景は、その後数時間続けられた。

 実は故郷にいたときと状況が変わっていないことに気づくのと、誠也の目にかかった分厚いフィルターが取り払われる日は、かなり先のことになりそうである。

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