華麗なる昼下がり
採光用に設けられた広い出窓から穏やかな陽光が降り注ぎ、昼下がりのひとときを満喫している客達の談笑が、絶えることなく続いている。
そんな落ち着いた店内の片隅では……重苦しい雰囲気と使用済みのお皿が、どんどんと積み重ねられていた。
食べることばかりに夢中で人の話を聞いているのかしら、この人…?と、
寓話に登場するハベルの塔のように高く積み重ねられた皿を半眼で見遣るサティ。
そのまま何となく押し黙ったとき――
「……いくつか分からない点があるんですけれど――」
サティの沈黙が、話の終了を意味するものだと判断したのか……唐突にラクシュミーが口を開いた。
「――えっ……?」
「まず第一にぃ――広場での質問の補足なんですけどぉ……
国軍でも二の足を踏むような魔女相手に、市井の魔道士を一人や二人雇ったところで、とても勝ち目はないと思うんですけどぉ?」
ここで始めて目線を上げ、サティを見据えるシュリー。
光の加減だろうか……神秘的な黒瞳がまるで青瑪瑙のような光を帯びている。
言外に、勝算はあるのか――と、サティの見識を問い質し、器量を試しているかのように思えた。
思わず知らず居住まいを正したサティは、
「確かに――力対力で真正面からぶつかっていったところで、あの地獄の魔女と合成獣軍団に打ち勝つなんてことはできないと思います。
でも……物事には抜け道があります。正面が無理なら横から、裏から、真上から、地下からだって行けばいいんです。
総戦力で劣っていても、一瞬の勝機を逃さず一点に集中すれば、奴らを出し抜く手段はあるはずです」
淀みなく理路整然と、なおかつ熱く主張する。
そんなサティの様子を好ましげに見守りながら、のんびりとシュリーが続ける。
――ほんの束の間、頬がひくっと動く瞬間もあったが――
「次にぃ……お父様の言いつけをを破ってまで戻ろうとしているのはなぜ~~ぇ?
お父様の仰るとおりにすれば、少なくとも一族の血を絶やす危険性だけは回避できると思いますけどぉ……」
わずかに強張るサティの表情。俯き加減に、小さく肩を震わせて答えるサティ。
「………………私じゃ……駄目なんです……その資格はないんです…………」
「……………………」
しばらくの間、サティの次の言葉を黙って待っていたシュリーだったが――
これ以上は明かしそうにないし、問い詰めるのも酷だな…と考えて、次の質問に移る。
「あとぉ~、先程から話に出てくる獣人が『合成獣』と呼ばれていることを、なぜサティさんが知ってらっしゃるのかしらぁ?
……あまり一般人の方が使うような用語では、ないのですけれどねぇ…………」
と、ここで葡萄酒を一口――
「それから……馬鹿笑いの声の主が、アーシュラ・アムリタだとなぜ判ったのかしら?」
料理が給仕されてから初めて小刀と叉子の動きが止まった。
答えを促すようにサティの瞳を覗き込むラクシュミー…………
黒瞳に宿る深遠の闇に引き込まれてしまうかのような錯覚を覚えて、サティは思わず目を背けてしまう。
「あ、あの、ラクシュミーさん……、もうちょっと続きがあるんです」
あれだけ料理に夢中になっていながら、聞くべき事は聞いていたんだな……と、
心の隅で妙な関心をするサティ。
質問が変わってほっとしたこともあり、慌てて付け加える。
「抜け道にたどり着くまでに、まだいろんなことがありました……」
「あら……、そうだったんですの。ごめんなさいねぇ、早とちりしちゃって……
それとぉ……私のことはシュリーと呼んでくださいね」
フォークを持った手で、こつんと頭を叩きながら、
私ってうっかりさん……なんぞとにこやかに呟いている。
そして再び……全献立制覇の野望を果たすべく、彼女は果敢に次の一品に取り掛かった。
(どんな野望やねん…………)
呆気にとられるサティへ、もはや目もくれようとせずに――
ただ黙々と食事に専念するラクシュミー=シュリー。
その華麗なるナイフ捌きが、話の続きを促す無言の圧力のように思えて……
サティは諦めきった表情で話を再開した。