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トリムルティ  作者: 姫野博志
終 章  実事求是《じつじきゅうぜ》
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初夏の爽風

 初夏の強い日差しが降り注ぐ中、なだらかな起伏の続く丘の上に動くものといえば、伸び放題の草と生温い風だけであった。


「……サティ、見送ってくれなかったな…………

 意識は戻ったって言ってたけど、本当に大丈夫なのかなぁ…………

 ……やっぱり、衝撃的(ショック)だったんだろうなぁ………それとも……………」


 熟々(つらつら)と取り留めもないことを考えながら、ぼんやりと歩くガナ。


 …………と、突然―傍らの草叢から飛び出してきた小さな人影……


 もちろんそれは、お約束の――


「――サティ…… 」


「遅いですよ、シュリーさん」


 唖然として見つめるガナを、腰に手を当て軽く一睨みするサティ――

 内心の想いが溢れて、眼は笑っている。


「……お前、どうして……」


「当然でしょ あたしは、あなたのモノ(・・)なんですから……」


 邪気のない顔でにっこり微笑むサティ。

 ほんのり紅潮して焦るガナ……


「ば、馬鹿っ! ……お、親御さんが心配してるぞ―っ 」


「そんなことありませんよ――どこまでもお供するようにって」


 すました顔つきで軽く(あしら)って、雑嚢を背負いなおすサティ。


「……さあ、日が暮れる前に山道を抜けなくっちゃ―草薮で野宿はごめんですよ」


 そう言うと、まだ呆けているガナを置き去りにしてさっさと歩き出した。

 はっと気を取り直して、慌てて追いかけるガナ――



 心の中でそっと呟く…………



 ――サラ、いいのかなぁ……サティも一緒で――



 ――何を言ってるんですの……もう決めてらっしゃるくせに―



 初夏の日差しが……ちょっぴり柔らかくなり、

 爽やかな風がそよいで新緑の草をそっと撫でていった――――







 傍らに寄り添って眠る、

 少女の温もりを感じて安らぎを覚えた。



 自分の姿を映す

 少女の瞳を見るのが好きになった。



 少女とともに

 明日に立ち向かう自分に誇りが持てた。



 そして、

 新たな旅が始まるこの日から……



 ほんの少しこの世界を―――――

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