血に塗れた竜鱗
円形に抉り取られた地面を前に、悄然と立ち尽くす哭臥竜邪(ガナ&サラ)――
不意に、数多の紫電をその身に纏うと……
眩い閃光に包まれた次の瞬間、
竜魔神形態が解除された。
光輝消え去りし後に残りしは、孤影悄然たる後姿――
紅みがかった漆黒の髪が、風に靡いて揺れている……………………
「――ガナ…さん………」
順番を順当に考えればサラの筈である。
しかし遠慮がちにではあるが、一切の迷いなく呼びかけるサティ。
その表情に畏怖や嫌悪の念は見当たらない。
「………………………」
ぴくっと少しだけ肩を震わせて、それでも無言のまま振り返ろうとしないガナ。
まるでサティの顔を直視することを恐れているかのように……
「……洞窟と採掘場を見てくるよ。
調整初期の段階なら……サラが救えるかもしれないからさ……」
頑なに前を向いたまま、それでもしっかりとした口調でガナが応じる。
「――あ、あたしも…………」
「合成獣が…まだ残っているかもしれない……。
危険だから、サティはここにいて……」
「ガナさ――」
歩き出したガナを追おうとしたサティが――突然その場にくず折れる。
「サティ―っ!?」
気配を察して振り返ったガナが、狼狽えて駆け寄る。
抱き起こそうと思わず手を伸ばしたが――
躊躇うように手を止めると、そのまま触れることなく戻す。
己が手に血に塗れた竜鱗の幻影が浮かび……
どうしても触れることが叶わなかったのだ。
遅れて到着したガリウスが抱き上げて容態を診ている様を、心配そうに見守るガナ。
「……たぶん、大丈夫だ。魔力放出による疲労で、意識を失っただけだと思う……」
「…………そうか……」
ほっとしたように呟いたガナは……
サティの寝顔を見つめたままそっと立ち上がると、月輝石剣と弓籠手を回収するために歩を進める。
「シュリー殿………………」
いざ呼び止めたものの、二の句の続かないガリウス。
そんな彼にガナが告げる。
「合図をしたら、ガリウス……とりあえずあんただけで来てくれ―
辛い…決断をしてもらわなければならないかもしれない…………」
硬い声でそう呟いたガナは…………肩越しに、そっと付け加えた。
「それから――サティに、ありがとう……と伝えておいてくれ…………」




