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トリムルティ  作者: 姫野博志
第四章  鷹視狼歩《ようしろうほ》
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血に塗れた竜鱗

 円形に抉り取られた地面を前に、悄然と立ち尽くす哭臥竜邪(ガナ&サラ)――

 不意に、数多(あまた)の紫電をその身に纏うと……

 眩い閃光に包まれた次の瞬間、

 竜魔神形態(ドラゴニックフォーム)が解除された。

 光輝消え去りし後に残りしは、孤影悄然たる後姿――

 紅みがかった漆黒の髪が、風に靡いて揺れている……………………


「――ガナ…さん………」


 順番を順当に考えればサラの筈である。

 しかし遠慮がちにではあるが、一切の迷いなく呼びかけるサティ。

 その表情に畏怖や嫌悪の念は見当たらない。


「………………………」


 ぴくっと少しだけ肩を震わせて、それでも無言のまま振り返ろうとしないガナ。

 まるでサティの顔を直視することを恐れているかのように……


「……洞窟と採掘場を見てくるよ。

 調整初期の段階なら……サラが救えるかもしれないからさ……」


 頑なに前を向いたまま、それでもしっかりとした口調でガナが応じる。


「――あ、あたしも…………」


合成獣(キメラ)が…まだ残っているかもしれない……。

 危険だから、サティはここにいて……」


「ガナさ――」 


 歩き出したガナを追おうとしたサティが――突然その場にくず折れる。


「サティ―っ!?」


 気配を察して振り返ったガナが、狼狽えて駆け寄る。

 抱き起こそうと思わず手を伸ばしたが――

 躊躇うように手を止めると、そのまま触れることなく戻す。

 己が手に血に(まみ)れた竜鱗の幻影が浮かび……

 どうしても触れることが叶わなかったのだ。

 遅れて到着したガリウスが抱き上げて容態を診ている様を、心配そうに見守るガナ。


「……たぶん、大丈夫だ。魔力放出による疲労で、意識を失っただけだと思う……」


「…………そうか……」


 ほっとしたように呟いたガナは……

 サティの寝顔を見つめたままそっと立ち上がると、月輝石剣(ムゥナストンブレード)弓籠手(ブレイサー)を回収するために歩を進める。


「シュリー殿………………」


 いざ呼び止めたものの、二の句の続かないガリウス。

 そんな彼にガナが告げる。


「合図をしたら、ガリウス……とりあえずあんただけで来てくれ―

 辛い…決断をしてもらわなければならないかもしれない…………」


 硬い声でそう呟いたガナは…………肩越しに、そっと付け加えた。


「それから――サティに、ありがとう……と伝えておいてくれ…………」

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