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トリムルティ  作者: 姫野博志
第四章  鷹視狼歩《ようしろうほ》
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竜破の泡沫

還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……


試験管の中で……、


訓練の過程で……、


囁かれ続けた魔性の言葉――


……現在(いま)はラクシュミーまでもが共鳴して泣いている。


……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい…………還りたい……還りたい……「――っ……」還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……


眼の光が弱まり、夢遊病者のように覚束ない足元でふらふらと歩みだす哭臥竜邪(ガナ&サラ)


妖女(マーラ)の招きに従って、一歩、また一歩と、毒百足の触肢の内側に自ら近寄っていく。


……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……「――さんっ……」還りたい……還りたい……還りたい……還りたい……還りた―――


「――ガナさんっっ!!」


尋常ではない哭臥竜邪(ガナ&サラ)の様子に、声を限りに叫んだサティ――


「「…わ……我………我は……………」


 サティの叫びが、二人の心に直接届く――


「「………我は………人間だ――っ!」


渾身の力を込めて、弓籠手(ブレイサー)弓弦(ゆづる)を引き絞るサティ。


身体に残留している魔力の欠片をありったけ丹田に集中し…………


狙いを定めて……一気に撃ち放つ―――――


放たれた魔力の矢は、狙い違わず摩覇化螺(マハカラ)の蝕肢の付け根――


妖女(マーラ)の眉間を撃ち貫いた。



暫時――摩覇化螺(マハカラ)のあらゆる活動が停止(フリーズ)する。


その一瞬に身体の自由を取り戻し、


摩覇化螺(マハカラ)の直前で踏み止まった哭臥竜邪(ガナ&サラ)は――――



「「たとえ……姿形は魔物でも………………」」



過去からの魍魎の呼び声を振り切るべく――


全身全霊を込めて魂の叫びをぶつけた。



「「心だけは人間だ――っ!!!」」



想いの丈すべてを込めて、力ある言葉(バラフマンワーズ)


その精神こころの内に紡ぐ哭臥竜邪(ガナ&サラ)



妖女(マーラ)を――その精神を縛る怨霊ごと――昇華するべく、


紡いだ魔力(ちから)を一点に集中して解き放った。



  【【【【――अजगरतबाही(竜 破)――】】】】

   


暗き雷光が時空を駆け抜け、


球形の崩壊領域に摩覇化螺(マハカラ)を囚えた。


領域内部で荒れ狂う漆黒の電光はその中心に集約され、時空の特異点を形成する。


崩壊の因子を穿うがたれた妖女(マーラ)は、


自らの中心に向かって幾何級数的に崩れ去っていく―――



「うぎぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!!!!!!!!!!」



断末魔の咆哮を上げ、虚無の彼方への放逐から逃れ得ようと、


虚しい試みを続ける妖女(マーラ)


「掴むのよ………この手に……世界を……」


奈落の底に通じる虚空の扉から、


差し求めるように手を伸ばし、


最後まで破滅の女神(パールヴァティ)渇仰(かつごう)する



「……還り………い……故……郷……………………へ…………………………………」



…………漆黒の深淵の中から覗く亡者の双眸が、


哭臥竜邪(ガナ&サラ)の脳裏に焼きついたまま、


いつまで経っても離れることはなかった―――――――――

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