合成獣の脅威
「ホ~~ホッホッホッホッホッホッ……………………」
谷間の小さな村落セロンに、奇矯な笑い声が響き渡った直後――それらは現れた。
凶悪な兵士の一団――一言でそう言ってしまっていいのだろうか…………
その大半は鰐・狼・熊・獅子・蜥蜴・蛇・蜘蛛等々…ありとあらゆる種類の動物の頭を、筋骨隆々とした人間の身体にくっつけて、無理矢理擬人化したかのような姿をしていた。
ぬらぬらと黒光りする鉄色の肌は、鱗状の表皮で覆われている。
生物分類上の節足動物門……簡単に言うと昆虫類以上の動物は、家畜等の有益動物を除いて、このアロォーンの地ではほとんど存在しない。
すべてお伽噺や神話等に登場する想像上の動物――大昔には実在したが、現在は絶滅してしまっている…という説もある――であるという、その点だけをとっても異常かつ不可思議な存在である。
あまつさえ顔の一部が異常に肥大化し、眼球・耳あるいは鼻だけが頭部についている―まるで悪夢のように畸形な姿をしたモノまで混ざっていた。
村の入り口付近の畑で日常の農作業に従事していた村人達は、何が起こっているかも理解できないうちに、次々と打ち倒されていく。
一方的な戦いは、瞬く間に村の中央広場にまで達しようとしていた。
異形の兵士達――獣人兵とでも言うべきか――はその恐ろしい姿とはうらはらに、剣の腹を使って、なるべく村人達を傷つけないように昏倒させると、手際よく縛り上げていく。
殺戮を目的としているわけではないようだ。
獣人兵の唸り声と村人達の悲鳴で満たされていた中央広場に、突如として剣戟の響きが混ざる。
村の自衛団の男達が、剣を持ちだして獣人兵に抵抗を始めたのだ。
「女・こどもは集会所に避難しろ!!――
副長――っ! 三~四人連れて、裏山の抜け道を確保しておけ―っ!!」
大剣を手にした筋骨たくましい男――
セロンの若長ガリウスが、村人達へ矢継ぎ早に指示の声を張り上げる。
あごひげを蓄えた精悍な表情はまだ若い。三十代後半には届いていないだろう。
「――サティ お前も行くんだ」
「まだです……っ! 逃げ遅れている人がいます――」
転んで泣いている幼児を抱き起こし母親の手に委ねながら、サティが真顔で応える。
「それに……父様のそばにいたほうが安全です」
ガリウスの目元がふっと和む。
「煽てたって俺は知らんぞ。自分の身は自分で守れ――!」
わざと突き放すように言ったガリウスは、腰元から短剣を引き抜き、サティにぽんっと放り投げた。
「あとは……自分の判断で行動するんだ――いいな」
「えっ?」
何とも言い知れぬ表情を浮かべて、深い眼差しをサティに向けたガリウスは……
次の瞬間くるりと身を翻し、戦いの指揮をとるべく中央広場に向かった。
放られた短剣を両手で受けとめたサティは、呆気に取られて突っ立っていたが、はっと気を取り直して慌ててガリウスの後を追って駆け出した。