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トリムルティ  作者: 姫野博志
第四章  鷹視狼歩《ようしろうほ》
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魂の開放

 吐きかけられるどす(、、)紫の液体を、サティを抱えたままひょいひょいと躱しながら、人気のない方向へ摩覇化螺(マハカラ)を誘導するガナ。

 毒液の掛かった場所からは、じゅっと嫌な音がたち、不気味な黒紫の煙が立ち(のぼ)る。

 人に当たれば立ち所に骨まで残さず融けてしまうことだろう。


「ええいっ ちょこまかと……逃げ回るんじゃないっ―そこにお直りっ!!」


 無理無体な要求を喚き散らす妖女(マーラ)をきっぱりと無視して、壁を走り超えるガナ。

 わずかの隙をついて、妖女(マーラ)の死角にサティを下ろすと、左手から弓籠手(ブレイサー)を外して手渡した。

 そしてほんの一瞬……柔らかく抱きしめると、慈しむような眼差しで、そっと告げる。


「これを持って、ここから動かず待ってるんだ……いいね――」


「……ガナさん……?」


 怪訝な瞳を向けるサティ。

 寂しげな微笑を残して、素早くその場を離れるガナ。

 村はずれの広場へ(いざな)うべく、摩覇化螺(マハカラ)と付かず離れずの距離を維持して駆け続ける。

 ――摩覇化螺(マハカラ)を構成する月忌石(オミナストーン)の邪力は、ガナの操る月輝石の魔力と打ち消し合って相殺してしまうようだ。

 あの怪物を葬り去るには、遥かに強大な力をぶつけて瞬時に消し飛ばすしかない――

 そう考えて挑発するガナであったが……

 壁をぶち破って出て来た摩覇化螺(マハカラ)は、防壁前で動きを止めて、それ以上前に進もうとはしなかった。


「どこにお行きだい―PA―M1。

 いつまでも逃げ回るようなら、そこの小娘を半分融かしてやるよ」


 ド(たま)に血が昇って逆上しまくっているように見えても、標的(ターゲット)が一人減っていることに気付かないほどの単細胞(バカ)では、さすがになかったようだ。

 門の脇に隠れていたサティを、目敏く見つけて脅しをかけてくる。


「いや、なにね……あんな広々とした明るい所より、暗くてじめじめ湿気っぽい所の方が好みなんじゃないかと思ってね……案内しようとしてたとこさ」


 内心で舌打ちしながらも、挑発的に悪態をつくのは忘れないガナ――

 肩を竦めながら、ちらっとサティに視線をやる。


 ――どんな姿でも関係ありません! 二人とも素敵なあたしのご主人です――


 サティの言葉が脳裏に蘇る……

 さもしい未練が生んだ告白に精一杯応えてくれたサティ。

 その真心を、決して疑うわけではない。

 だがしかし――――

 眼を(つむ)って、踏ん切りをつけるように二、三度首を振ったガナは、


「……もう少し離れたかったけど……しょうがないか…………」

 何かを諦めたように呟いて、呼吸を整える――



 内面世界(インナースペース)外面世界(アウタースペース)――

 双方に向けて同時に心を収斂させ、尚且つ拡散させる。

 二律背反の命題を統合するための手順を、危険を承知で一切とばして、涅槃寂静の間に直接相棒(サラ)に呼びかけた。


 ===サラ! いくぜ===


 ===仕方……ないですわね===


 「過程算術式(プログラム)

     “緊急起動要請(シグナル)

          着手(ビギン)

             盤古の臥所(ふしど)微睡(まどろ)む護人よ、

             魂の奥津城(おくつき)に封じられし()のものを、

             ともに怖れ、

             ともに(かしこ)み、

             仮初めの覚醒(めざめ)(もたら)し、

             我が血潮となりて蘇らん、

              承諾署名(サイン)

                (ユーザー)1= लक्ष्मी(ラクシュミー)

                (ユーザー)2= सरस्वती(サラスヴァティ)

                (ユーザー)3= गणेश(ガナイーシャ)

              来臨(ログイン)証明番号(ID)तबाहीवीमाヴィムクティディーヴィー

           変換(コンパイル)

      ~情報連結(リ ン ク)

   ~起動(ラン)




 ――あたし達は誰に教えられなくても感じていた――


 ――二人の中に眠っているそれ(、、)の正体を――



 ――そしてそれ(、、)の護人……

 

   二人の起源(オリジナル)=ラクシュミーと意思疎通(コンタクト)が取れたとき――



 ――二人で解呪(ヴィムクティ)言霊(マントラ)を唱えれば――


 ――それ(、、)を蘇らせることなく、その恐るべき力を使えることを知った――


 ――忌まわしき……その姿と引き換えに――


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