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トリムルティ  作者: 姫野博志
第四章  鷹視狼歩《ようしろうほ》
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一瞬に、散る

「父さまっ! 後ろ――!!」


 サティの警告に反応したガリウスは……

 鈎爪の猛攻を避けながら咄嗟に前転し、唸りをあげて迫る断平を紙一重で避けた。

 二度三度転がりながら、こぼした大剣に手を伸ばすガリウス。

 剣の平に、指先が届こうとしたまさにその時―半瞬の差で剣を奪った老族長(ダナオス)と、寸時目が合う。

 大きく剣を振りかぶった老族長(ダナオス)は、一刀の元に――――


        ☆


「――退がれっ!! 」


 叫んで駆け寄ったガナは、《鮫》男を真向唐竹割りで二枚に下ろす。

 左右に割れた合成獣(キメラ)が地面に倒れるのも見届けずに、次の獲物を目指して走り出す。

 残存合成獣(キメラ)兵も片手で数えるほどになり、一体を屠る時間より、捕捉するために移動している時間の方が長くかかるようになった。


「……そろそろ潮時かな――」


 また一体乱切りにしながら辺りを見回し、手ごろな距離に合成獣(キメラ)が居ないと見て取ると、ガナは集会所へ向けて急ぎ取って返した。


        ☆


 一刀の元に――

 写陀鵡(シャダム)を切り落とした老族長(ダナオス)は、腰だめに団平を構えて突っ込んできた写瞳騎士(シャドウナイト)と刺し違える。


義父(おやじ)――!? 」


 座り込んだまま、呆然と見上げるガリウス。


 一瞬の出来事に立ち尽くすサティとベルム。


 まるで時が止まってしまったかのような数瞬の後…………

くず折れるように倒れる老族長(ダナオス)――


義父(おやじ)っ!!」「お父様!!」「お爺様!!」


 三者三様に呼びかけ、老族長(ダナオス)の元に駆け寄る。

 間近にいたガリウスが抱き起こした頃、ベルムとサティも膝をつき、黒くごつごつと変わり果てた老族長(ダナオス)の手を取った。


義父(おやじ)――」


 ガリウスの呼びかけにうっすらと瞼を開く――その瞳は普段の穏やかな灰色を取り戻していた。


「どうだ――力の集中……一瞬を…摑み……とった…ぞ……」


 そう言って、にやっと笑って見せたその顔は、血の繋がりも無いガリウスと見紛うほどそっくりであった。

 ガリウスの命の恩人で、後に義父となった老族長(ダナオス)は、彼の剣の師匠でもあった。

 単純な剣の腕だけであったなら、出会った頃すでにガリウスの方が優れていただろう。

 しかし、練習で(まさ)っても、より実戦形式の戦いになると、三本に一本しかガリウスは取れなかった。

 そんな老族長(ダナオス)の口癖が、


 ――一瞬の勝機を見逃すな。力は集中してこそ生きるものだ――


 であり、その教えはガリウスからサティへと受け継がれている。


「……ガリ…ウス……あとは…頼むぞ――」


 最後の力を振り絞って、訴える老族長(ダナオス)


「……ベ…ルナ、サティ…… あ……、姉…上を……憐れな…あの……(ひと)を…………葬送(おく)って…………」


「お爺様っ――!! 」


 力尽き眼を閉じる老族長(ダナオス)――全身の力が抜ける。

命の灯が、今…ひとつ……燃え尽きた…………

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