一瞬に、散る
「父さまっ! 後ろ――!!」
サティの警告に反応したガリウスは……
鈎爪の猛攻を避けながら咄嗟に前転し、唸りをあげて迫る断平を紙一重で避けた。
二度三度転がりながら、こぼした大剣に手を伸ばすガリウス。
剣の平に、指先が届こうとしたまさにその時―半瞬の差で剣を奪った老族長と、寸時目が合う。
大きく剣を振りかぶった老族長は、一刀の元に――――
☆
「――退がれっ!! 」
叫んで駆け寄ったガナは、《鮫》男を真向唐竹割りで二枚に下ろす。
左右に割れた合成獣が地面に倒れるのも見届けずに、次の獲物を目指して走り出す。
残存合成獣兵も片手で数えるほどになり、一体を屠る時間より、捕捉するために移動している時間の方が長くかかるようになった。
「……そろそろ潮時かな――」
また一体乱切りにしながら辺りを見回し、手ごろな距離に合成獣が居ないと見て取ると、ガナは集会所へ向けて急ぎ取って返した。
☆
一刀の元に――
写陀鵡を切り落とした老族長は、腰だめに団平を構えて突っ込んできた写瞳騎士と刺し違える。
「義父――!? 」
座り込んだまま、呆然と見上げるガリウス。
一瞬の出来事に立ち尽くすサティとベルム。
まるで時が止まってしまったかのような数瞬の後…………
くず折れるように倒れる老族長――
「義父っ!!」「お父様!!」「お爺様!!」
三者三様に呼びかけ、老族長の元に駆け寄る。
間近にいたガリウスが抱き起こした頃、ベルムとサティも膝をつき、黒くごつごつと変わり果てた老族長の手を取った。
「義父――」
ガリウスの呼びかけにうっすらと瞼を開く――その瞳は普段の穏やかな灰色を取り戻していた。
「どうだ――力の集中……一瞬を…摑み……とった…ぞ……」
そう言って、にやっと笑って見せたその顔は、血の繋がりも無いガリウスと見紛うほどそっくりであった。
ガリウスの命の恩人で、後に義父となった老族長は、彼の剣の師匠でもあった。
単純な剣の腕だけであったなら、出会った頃すでにガリウスの方が優れていただろう。
しかし、練習で勝っても、より実戦形式の戦いになると、三本に一本しかガリウスは取れなかった。
そんな老族長の口癖が、
――一瞬の勝機を見逃すな。力は集中してこそ生きるものだ――
であり、その教えはガリウスからサティへと受け継がれている。
「……ガリ…ウス……あとは…頼むぞ――」
最後の力を振り絞って、訴える老族長。
「……ベ…ルナ、サティ…… あ……、姉…上を……憐れな…あの……女を…………葬送って…………」
「お爺様っ――!! 」
力尽き眼を閉じる老族長――全身の力が抜ける。
命の灯が、今…ひとつ……燃え尽きた…………




