黎明の追憶
「……一旦心の中に根付いた恐怖と不信感は、|《機関》《アムリタ》に逆上せあがっていた若造の熱を冷ますには十分だったよ……」
口元を歪めて、自虐の言葉を吐き出すガリウス。
「………………」
そんなガリウスを無言で凝視していたガナは、
「あの時…………サーラさんはボクにこう言った………
――ごめんね、怖い思いをさせて……
でも、これで解ってくれるわ……あの人ならきっと――と…………」
ほんの少し……ごく僅かではあるが、表情を柔らかくして伝えた。
主に健康管理をしてくれたお姉さん――
たまにしか会うことはなかったけれど………
全くの無表情、あるいはマーラのように気色の悪い視線を寄せてくる女性研究員たちの中で特別の存在だった。
あの当時はそれが何なのかよく解らなかったが……
今にして思えば、厳しさの中にも優しさが垣間見えていた唯一の女性だった。
「あの頃は何を言っているのか、さっぱり解らなかったけど……こういうことだったんだね―ー」
ガリウスの表情が切なげに曇り、瞑目したまま天井をふり仰ぐ……
――その頬を伝う一滴の光は、涙であったのだろうか…………
そろそろ黎明の頃を迎えようかという廊下はあまりにも暗く、ガナの瞳にもそれは映らなかった――




