回想――サーラ&マーラ
的確に急所を狙って襲いくる幼児の群れ――
何度剣を弾いて転がしても、その都度剣を拾って立ち上がり、飛び掛ってくる。
表情の見えない分、より一層恐怖を煽り立てる。
部屋の隅から嗜虐的な眼差しを送り、
何かを期待しているように舌なめずりを繰り返す指導教官――
静止を呼びかけるが返事はない。
それどころか頭部通信機に向けて何事か囁き続けている
頭部保護具から流れる声で操られているに違いない――
そう判断したガリウスは、幼児の保護具を、棍棒で慎重に頭から跳ね飛ばしていった。
二人、三人、四人、五人…………
――が、そうしたガリウスの行動は、より一層の驚愕を彼に与えることとなった。
保護具の下から現れる無表情な顔、顔、顔…………
五つ子? いや六つ子……?
そんなはずは無い――似ているなどという水準の話ではないのだ。
まるで同じ鋳型で大量生産した人形のように、皆寸分違わず同じ造作をしている。
ガリウスは顔を歪めて怒鳴った。
「……これは…何だっ!? 何なんだ――マーラ――っ!! 」
――と、その瞬間、
一瞬の隙を見逃さず、幼児の一人がまるで獣のように俊敏な動きで飛び掛ってきた。
「うおっ!?」
来る――と思った瞬間には、すでにもう懐深くまで飛び込まれていた。
とても幼児とは思えぬ体捌きの鋭さに、とっさに反応するガリウス。
左足を一歩引き、突き出しかけた棍棒を……当てる寸前で中途半端に止めた。
「ぐっ!!」
飛び散る血飛沫――
幼児の振るった小剣は、ガリウスの厚い胸板に決して浅くは無い傷を負わせていた。
「そこまで――っ!!」
室内に凛とした制止の声が響く。
天井の拡声器から聞こえてきた女性の声に反応して、ぴたりと動きを止める幼児達。
「――な、何を勝手に……! お前達――止めるんじゃないよ!!」
幼児達に怒声を浴びせるマーラ。
――だが、幼児達は一歩も動こうとはせず、
「これで訓練を終了します。班ごとに整列……揃い次第、部屋へ戻って待機――」
続けて発せられた透明感のある穏やかな声に従い、整然と部屋を後にしていく。
お待ち――と制止の言葉を発しながら、幼児達を追いかけ出て行くマーラ。
……そして入れ替わるように、一人の女性が部屋に入って来る。
血に濡れた剣をひっさげた幼児と、戸口で二言三言交わした後……
女性は片膝を付いたままのガリウスの元に歩み寄り、優しく声を掛けた。
「ガリウス……怪我の手当てをしましょう……」
「…………サーラ……」
ほとんど無意識のうちに名前を呟き、手を差し伸べる女性を見上げるガリウス。
化粧っ気のない清楚な娘は、
性格の違いが如実に表情に現れているため、普段余り意識することはないのだが――
一卵性の双子というマーラと、基本的には同じ顔をしている。
ガリウスの脳裏に、二人の顔と先程の子供達の無表情な顔が幾つも幾つも交錯する。
浮かんでは消え、消えては浮かぶ顔、顔、顔―――
今にもあの扉が開いて、
サーラやマーラと同じ顔をした人間が、ぞろぞろ入ってくるかもしれない――
そんな妄想が、ガリウスを捕らえて離さない。
この時ガリウスは、彼女の差し出す手を取ることがどうしてもできなかった…………




