表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリムルティ  作者: 姫野博志
第三章  楽天知命《らくてんちめい》
34/56

回想――サーラ&マーラ

 的確に急所を狙って襲いくる幼児の群れ――

 何度剣を弾いて転がしても、その都度剣を拾って立ち上がり、飛び掛ってくる。

 表情の見えない分、より一層恐怖を煽り立てる。


 部屋の隅から嗜虐的な眼差しを送り、

 何かを期待しているように舌なめずりを繰り返す指導教官――

 静止を呼びかけるが返事はない。

 それどころか頭部通信機(ヘッドセット)に向けて何事か囁き続けている

 頭部保護具(ヘッドプロテクター)から流れる声で操られているに違いない――

 そう判断したガリウスは、幼児の保護具を、棍棒で慎重に頭から跳ね飛ばしていった。


 二人、三人、四人、五人…………


 ――が、そうしたガリウスの行動は、より一層の驚愕を彼に与えることとなった。

 保護具の下から現れる無表情な顔、顔、顔…………


 五つ子? いや六つ子……?


 そんなはずは無い――似ているなどという水準(レベル)の話ではないのだ。

 まるで同じ鋳型で大量生産した人形のように、皆寸分違わず同じ造作をしている。

 ガリウスは顔を歪めて怒鳴った。


「……これは…何だっ!? 何なんだ――マーラ――っ!! 」


 ――と、その瞬間、

 一瞬の隙を見逃さず、幼児の一人がまるで獣のように俊敏な動きで飛び掛ってきた。


「うおっ!?」


 来る――と思った瞬間には、すでにもう懐深くまで飛び込まれていた。

 とても幼児とは思えぬ体捌きの鋭さに、とっさに反応するガリウス。

 左足を一歩引き、突き出しかけた棍棒を……当てる寸前で中途半端に止めた。


「ぐっ!!」


 飛び散る血飛沫――

 幼児の振るった小剣は、ガリウスの厚い胸板に決して浅くは無い傷を負わせていた。


「そこまで――っ!!」


 室内に凛とした制止の声が響く。

 天井の拡声器(スピーカー)から聞こえてきた女性の声に反応して、ぴたりと動きを止める幼児達。


「――な、何を勝手に……! お前達――止めるんじゃないよ!!」


 幼児達に怒声を浴びせるマーラ。

――だが、幼児達は一歩も動こうとはせず、


「これで訓練を終了します。班ごとに整列……揃い次第、部屋へ戻って待機――」


 続けて発せられた透明感のある穏やかな声に従い、整然と部屋を後にしていく。


 お待ち――と制止の言葉を発しながら、幼児達を追いかけ出て行くマーラ。


 ……そして入れ替わるように、一人の女性が部屋に入って来る。

 血に濡れた剣をひっさげた幼児と、戸口で二言三言交わした後……

 女性は片膝を付いたままのガリウスの元に歩み寄り、優しく声を掛けた。


「ガリウス……怪我の手当てをしましょう……」


「…………サーラ……」


 ほとんど無意識のうちに名前を呟き、手を差し伸べる女性を見上げるガリウス。

 化粧っ気のない清楚な娘は、

 性格の違いが如実に表情に現れているため、普段余り意識することはないのだが――

 一卵性の双子というマーラと、基本的には同じ顔をしている。


 ガリウスの脳裏に、二人の顔と先程の子供達の無表情な顔が幾つも幾つも交錯する。

 浮かんでは消え、消えては浮かぶ顔、顔、顔―――


 今にもあの扉が開いて、

 サーラやマーラと同じ顔をした人間が、ぞろぞろ入ってくるかもしれない――


 そんな妄想が、ガリウスを捕らえて離さない。

 この時ガリウスは、彼女の差し出す手を取ることがどうしてもできなかった…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ