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トリムルティ  作者: 姫野博志
第三章  楽天知命《らくてんちめい》
31/56

回想――慄然

 生まれ落ちたその瞬間から、すでに生存競争は始まっていた。

 日常生活のすべてが戦いだった。

 戦って勝たなければ、食べることも、休むことも、眠ることさえままならなかった。


 そして三歳になって―かろうじて防具の装着だけは赦されていたが―

 実戦形式の過酷な訓練が開始され、熾烈を極める淘汰が始まった。


 そんなある日……

 見たこともない程巨大でごつごつとした人間が、剣術教官としてボク達の前に現れた。

 これまでの教官は皆、でこぼこした柔らかい小柄の人間ばかりだった。

 ――それはもちろん、性別の違いによるものであったのだが……


 当時ボク達の周りにいるのは、ほとんどが養育担当も兼ねた女性研究員であった。

 初めて見た男性剣士は、とてつもなく巨大で、

 身長よりも長くて太い棍棒を軽々と片手で振り回していた。

 油断なく警戒するボク達に、女性教官がいつもどおりの冷徹な最高音域(ソプラノ)で指示を出す。


 ――あの棍棒でひき肉にされたくなかったら、殺られる前に巨人を殺れ―と……


 ボク達は一斉に跳びかかった。巨人は恐ろしかったけど、ひき肉になるのは嫌だった。

 でも…………巨人は恐ろしく強かった――

 誰も一太刀すら浴びせることが出来ず、足を払われ、胴体を押され転がされていく。

 長大な棍棒を軽々と振り回し、剣だけを器用に弾き飛ばしていく巨人……

 それでもボク達は、飛ばされた剣を拾って、何度も何度も打ち掛かっていった。


 ――凶悪な表情を浮かべた巨人が、何か叫んでいる。


 でも、ボク達には聞こえない。頭部保護具(ヘッドプロテクター)が視覚以外のすべてを封じているから……


 ――唯一聞こえる声は、教官からの冷徹な指示だけ…………


 殺せ―― 殺せ―― 殺せ―― 殺せ―― 殺せ――

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