逢魔ヶ刻の邂逅
部屋へと向かうサティを見送ってから、ガナはゆっくりと窓を閉めた。
彼女の足音が、すっかり階下に消えてしまうのを確認すると――
「……聞いていたんだろう?」
背後に向かって静かに声をかける。
廊下の突き当たり――わだかまる暗がりの中へ潜む気配に、ガナは気付いていた。
「………………」
硬い表情を浮かべたガリウスが、窓際から差し込むほのかな光の下に歩み出る。
まるで逢魔ヶ刻のような薄暗がりの中、ガナの陰鬱な声が響く。
「この事件に|《機関》《アムリタ》が関わっているのは解っているね…………
この村が狙われたのも、単なる偶然じゃないんだろう?」
ガナはガリウスの方に身体ごと向き直ると、厳しい視線を送る。
「いったい、どこまで関わっていたんだい? あんたは……」
ガナの数歩手前で止まったガリウスは……
窓の縁に手をつき、暗い眼差しを窓の外に向けたまま重い口を開いた。
「二十年前……王立学院に留学していた頃、気付かぬうちに片足を突っ込んで、そのまま抜けられなくなってしまった。
――そして九年後……大切なものを失ってから、初めてその恐ろしさに気付いた」
二十年……と、小さく口の中で呟き、溢れる殺気を隠そうともせずにガナが再び問う。
「アシュラ計画を知っているかい?」
「……耳にしたことはある――だが、中枢に関われるほどの立場ではなかったのでな……
具体的な内容まで知らされることはなかったよ」
同じ姿勢で淡々と答えるガリウス。
言葉を切り、少し考え込むように眼を瞑る。
「――ただ……………………」
「……ただ……?」
右手を窓枠に乗せたままガナの方を向き直り、ようやく視線を合わせるガリウス。
「貴女とは――貴女本人なのかどうかは判らないが…………
まだ小さい……五歳くらいの貴女達に、剣の稽古をつけたことがある―」
「…………そうか――! どことなく見覚えがあると思ったら……あの時の――」
そう言いながら、記憶の引き出しを探るようにガリウスの顔を凝視するガナ―――
十一年前……そう、二十年前の九年後、ボクが四歳の時だから計算は合う…………




