陳腐な台詞
生温かい夜風にさらされ、窓掛けがふわりと揺れる。
集会所の小さな一室で、ガリウスは窓際にそっと佇み、暗い天頂をじっと見つめていた。
「あなた……」
もう寝んでいるものと思ったのか――
そうっと扉を開けて入ってきたベルムが、部屋の様子を窺うように問いかける。
「サティは…… 来て…いませんよね?」
ガリウスは窓の外を眺めたまま天井を指差すと、なんとも抽象的に答えた。
「シュリー殿と月を語らっているよ」
「こんな遅くまで…………。 まだ病み上がりなのに――」
ベルムは頬に手を当てため息をつくと、サティを迎えに部屋を出ようとした。
「……そっとしておいてやりなさい」
ベルムの後姿に向けて、ガリウスが声を掛ける。
「……これは、二人にとって必要なことなのだよ」
不得要領な顔つきで振り返ったベルムは……
なにか感じるものがあったのか、立ち止まったまま夫の様子を窺う。
無言のまま振り返ったガリウスは、物憂げな表情を浮かべて、
「宿命――などという陳腐な台詞は使いたくもないが………
あの二人の出会いを表現するには、他に適当な言葉はないだろうな」
後ろ手に窓を閉めると、ゆっくり歩み始める。
「……あなた……」
「ダリウスの傍に付いていてやりなさい……」
すれ違う際に、妻の肩に軽く手を置いて、
「あの子にも、そろそろお姉ちゃんっ子は卒業してもらわんといかんな……」
そう言い残したガリウスは、部屋を出て……重い足取りで階上に向かった。




