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トリムルティ  作者: 姫野博志
第三章  楽天知命《らくてんちめい》
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陳腐な台詞

 生温かい夜風にさらされ、窓掛けがふわりと揺れる。

 集会所の小さな一室で、ガリウスは窓際にそっと佇み、暗い天頂をじっと見つめていた。


「あなた……」


 もう(やす)んでいるものと思ったのか――

 そうっと扉を開けて入ってきたベルムが、部屋の様子を窺うように問いかける。


「サティは…… 来て…いませんよね?」


 ガリウスは窓の外を眺めたまま天井を指差すと、なんとも抽象的に答えた。


「シュリー殿と月を語らっているよ」


「こんな遅くまで…………。 まだ病み上がりなのに――」


 ベルムは頬に手を当てため息をつくと、サティを迎えに部屋を出ようとした。


「……そっとしておいてやりなさい」


 ベルムの後姿に向けて、ガリウスが声を掛ける。


「……これは、二人にとって必要なことなのだよ」

 不得要領な顔つきで振り返ったベルムは……

 なにか感じるものがあったのか、立ち止まったまま夫の様子を窺う。

 無言のまま振り返ったガリウスは、物憂げな表情を浮かべて、


「宿命――などという陳腐な台詞(セリフ)は使いたくもないが………

 あの二人の出会いを表現するには、他に適当な言葉はないだろうな」


 後ろ手に窓を閉めると、ゆっくり歩み始める。


「……あなた……」


「ダリウスの傍に付いていてやりなさい……」


 すれ違う際に、妻の肩に軽く手を置いて、


「あの子にも、そろそろお姉ちゃんっ子は卒業してもらわんといかんな……」


 そう言い残したガリウスは、部屋を出て……重い足取りで階上に向かった。

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