妄執の妖女
「何ですって――!!
『写瞳騎士参号』と『写陀鵡参号』が連絡を絶った――?」
耳障りな最高音域が洞窟内に反響し、破壊力が増幅されて怪音波とでも化したのだろうか……?
頭部に巨大な両耳のみを備えた合成獣が、ものも言わずにぶっ倒れた。
怪しげな実験器具が所狭しと立ち並ぶ中――妖女は倒れた合成獣を冷たく横目で見やると、次から次へと居丈高に命令を下す。
「写陀鵡伍号をすぐに現場に派遣するのよっ。
伍号は坑道内を確認後、夜陰に紛れて、貧相な避難小屋も偵察していらっしゃい――いいわね!
それから、全員に徹底させなさい。
PÅ―P1を発見しても手出しはしないこと。
むしろ、ほったって小屋の周囲の警戒を緩めて、進入させるのよ」
一通りの指示を終えた妖女は、命令を実行すべく右往左往する合成獣を尻目に、最奥に据えられた巨大な円柱―素材は判らない――に近寄った。
月輝石……?
いやそれにしては、色も輝きも異なっている。
淡い虹色の光沢を放つ透き通った月輝石の粒子の中に、蟠る闇を閉じ込めて濁らせているかのように見えた。
妖女は柱に手を伸ばし、その滑らかな手触りを堪能する。
封入された人影に視線を移すと、不気味な含み笑いをしながら独りごちた。
「フッフッフッフッフッ………。
今のうちにせいぜい小娘どもと馴れ合うがいい―情が移れば移るほど、お前は罠から逃れられなくなる……
PÅ―P1――明日こそ、長年の決着をつけてやるわ……」
妖女は鏡の如く反射する柱の表面に映しだされた自らの顔に爪を立て、ギギギギギッと脳天まで響く異音をたてる。
そして……ぼそりと誰にも聞こえないように一言付け加えた。
「………ガリウス……貴方とも……」
懐旧か――。
それとも悔悟か――
そのどちらでもない複雑な響きを含んだ独白は、喧騒に紛れ、誰にも聞こえないまま闇に溶け消えていった。
背後では、折角立ち上がりかけていた≪耳≫合成獣が、泡を吹いて痙攣していた……




