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トリムルティ  作者: 姫野博志
第二章  傾蓋知己《けいがいちき》
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妖女の狂宴

 壁一面に投影されていた二人の娘の姿が、一瞬のうちに光の洪水に呑み込まれた。


 目玉獣『写陀鵡(シャダム)壱号』からの映像が途切れて、一瞬黒くなった後……

 白黒の細かい点がチカチカと砂嵐のように点滅して壁面を覆う。

 しばらくの間、無秩序な光の乱舞が続いたが、写陀鵡弐号が気を利かして映像を巻き戻し、遮断される直前を停止画像で表示した。

 粗い粒子ではっきりと顔の判別はできないが、弓を構えた長い黒髪の娘がこちらに向けて狙いを定めている。


「……引っかかった…………………」


 実験の手を止め、食い入るように画像を見つめる妖女。


「~~~引っかかりおったな~~~PÅ―(プロト)1~~~」


 重っ苦しい静寂が支配する薄暗い空間に、子供が聞いていたら夢にうなされて心的外傷(トラウマ)になりそうな驚ろ驚ろしい怨嗟の声が響く――


 村はずれの洞に立て籠もった兵団は、わずかの期間に大規模な改造を内部に施し、洞窟内は驚くほど様変わりしていた。

 入口から最奥部に続く――人一人立って歩くのがやっとだった横穴は、大きな荷車さえ楽に通り抜けができるほどに拡張されている。

(メルトレ)おきに不思議な形状の照明具――水晶管とでも呼ぶべきか―が灯され、通路を真昼並みの明るさに照らしていた。

 また小部屋程度であった最奥部の空間は、舞踏会でも開けるのではないかと思えるほどの大広間となり、大小様々の魔道機具がそこかしこに安置されていた。

 こちらはわざと光を抑えた薄暗い空間になっており、色とりどりの数字や記号が明滅を繰返している。

 獣人兵を総動員したとしても、これだけ短期間でかくも著しい変貌を成し遂げることが、果たして可能なのだろうか?


 何か……人知を超えた秘密が、さらに隠されているようだ――

 そして……同じような秘密の匂いを漂わせている黒髪の娘……


 ガナが映る壁面を、ひたすら睨み据えていた妖女は、

「今度こそ、今度こそ逃さぬぞ~~PÅ―(プロト)1 この改造月忌人(オミナヒューム)――(ディ)壱号が、お前を地獄の底まで追い詰めるわ。 ウゥゥゥゥ~~~~~~~」

 まるで悪霊のごとき呻き声を上げながら、またまた内面世界(インナースペース)へ旅立っていった。

 そんな主人の狂態を無表情に見守っていた写陀鵡弐号は、どことなく居心地の悪そうな様子で、パタパタと飛び去ってしまう。


「ウゥッフッフッフッフッフ~~~~~~~~~~」


 光と闇が乱舞する空間に止め処なく続く含み笑い……

 この世に顕現した妖女の饗宴(サパト)で、老いさらばえた生贄の羊が、新たな生を今まさに授かろうとしていた―――


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