妖女の狂宴
壁一面に投影されていた二人の娘の姿が、一瞬のうちに光の洪水に呑み込まれた。
目玉獣『写陀鵡壱号』からの映像が途切れて、一瞬黒くなった後……
白黒の細かい点がチカチカと砂嵐のように点滅して壁面を覆う。
しばらくの間、無秩序な光の乱舞が続いたが、写陀鵡弐号が気を利かして映像を巻き戻し、遮断される直前を停止画像で表示した。
粗い粒子ではっきりと顔の判別はできないが、弓を構えた長い黒髪の娘がこちらに向けて狙いを定めている。
「……引っかかった…………………」
実験の手を止め、食い入るように画像を見つめる妖女。
「~~~引っかかりおったな~~~PÅ―P1~~~」
重っ苦しい静寂が支配する薄暗い空間に、子供が聞いていたら夢にうなされて心的外傷になりそうな驚ろ驚ろしい怨嗟の声が響く――
村はずれの洞に立て籠もった兵団は、わずかの期間に大規模な改造を内部に施し、洞窟内は驚くほど様変わりしていた。
入口から最奥部に続く――人一人立って歩くのがやっとだった横穴は、大きな荷車さえ楽に通り抜けができるほどに拡張されている。
数米おきに不思議な形状の照明具――水晶管とでも呼ぶべきか―が灯され、通路を真昼並みの明るさに照らしていた。
また小部屋程度であった最奥部の空間は、舞踏会でも開けるのではないかと思えるほどの大広間となり、大小様々の魔道機具がそこかしこに安置されていた。
こちらはわざと光を抑えた薄暗い空間になっており、色とりどりの数字や記号が明滅を繰返している。
獣人兵を総動員したとしても、これだけ短期間でかくも著しい変貌を成し遂げることが、果たして可能なのだろうか?
何か……人知を超えた秘密が、さらに隠されているようだ――
そして……同じような秘密の匂いを漂わせている黒髪の娘……
ガナが映る壁面を、ひたすら睨み据えていた妖女は、
「今度こそ、今度こそ逃さぬぞ~~PÅ―P1 この改造月忌人――泥壱号が、お前を地獄の底まで追い詰めるわ。 ウゥゥゥゥ~~~~~~~」
まるで悪霊のごとき呻き声を上げながら、またまた内面世界へ旅立っていった。
そんな主人の狂態を無表情に見守っていた写陀鵡弐号は、どことなく居心地の悪そうな様子で、パタパタと飛び去ってしまう。
「ウゥッフッフッフッフッフ~~~~~~~~~~」
光と闇が乱舞する空間に止め処なく続く含み笑い……
この世に顕現した妖女の饗宴で、老いさらばえた生贄の羊が、新たな生を今まさに授かろうとしていた―――




