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トリムルティ  作者: 姫野博志
序 章  嚆矢濫觴《こうしらんしょう》
1/56

プロローグ

 あの日から、

 眠るのが怖くなった。

                                

 あの日から、

 鏡を見ることが出来なくなった。

                            

 あの日から、

 自分自身が嫌いになった。

                              

 そして、

 あの日から…………

                            

 この世界のすべてを――――



ピトン…………

   ピトン…………


射干玉の闇に刻まれる耳障りな響き。


       ピトン…………

          ピトン…………


闇を貫き天空にそび 立つ蒼白く透明な柱―

巨大な月輝石(ムゥナストン)が放つ淡い燐光は、

奈落の罪人に慈悲をもたら すべく、

天空より垂らされた一筋の救いの糸のようにも見えた。


            ピトン…………

               ピトン…………


蒼白い燐光の中に、ほのかに浮かび上がる人影―ひとつ、ふたつ、みっつ………?

糸の導きによって、奈落の底から救い出されているかのように、宙空に静止している。


                  ピトン………

                     ピトン……


淡い光に包まれた裸身は、まだ若い女性達のようだ。

ひときわ高く浮かぶ娘は、巨大な月輝石の中に……

残るふたりは、等身大の月輝石に閉じ込められ正三角に相対している。


                         ピトン…

  ……ツーン……                   ピ                        

       カツーン……

           カツーン……


永劫に続くかと思われた単調な調べを乱したのは、軽く硬い靴音……

蒼い光に照らされて、暗闇の中に新たな人影が浮かびあがる。


               カツーン……        

                   カツーン……

                       カツーン……


手近な等身大の月輝石に近づいた人影は、滑らかなその表面を片手で軽く触れながら、閉じ込められた人影を値踏みするように仰ぎ見た。

白く滑らかな肌に腰まで届く黒髪を纏った娘が、驚いたような瞳でもう一方の等身大月輝石を凝視している。美しく整った顔立ちに均整のとれた姿態は、名だたる芸術家の創造した女神像をも色褪せたものにするだろう。


                           カツーン……

                               カツーン……


よどみなく続く足音………


ふたつめの等身大月輝石には、まるで鏡に映したかのように同じ容貌をした人影がーー二人の間にはひとつだけ決定的な違いが存在してはいるがーー全く同じ表情を浮かべて、とき の流れから置き去りにされていた。


「フッフッフッフッフッ……ついに来たわ、この時が―」


自己陶酔に浸る耳障りな女の声が闇に(こだま)する。


                                   カツーン

                                       カッーー



巨大な月輝石の柱に封印された人影に舐るような視線を向け、


「すべての準備は整ったわ……」


優しく手を添えると愛おしそうに頬ずりをする。


「今こそ……、今こそ、目覚めるのよ!

 アーシュラァァァァーーー

 オーホッホッホッホッホッホッホ…………………………」


冷たい月輝石の表面にぴたりと身体を押し付け、よがるように身悶えしながら狂笑を続ける女。


射干玉の闇にわだかまる単調な刻が,今動き出した…………

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