9 心配
翌日、遅刻ぎりぎりで教室に着いた僕は
愕然とした。
そこにはありえない状況が広がっていたからだ。
女子が皆、彼女を避けるように座っている。
数人が集まって話しているところは
話をしながらも、彼女のほうを睨んでいた。
男子はどうすればいいか困ったような顔で
皆座っている。
僕は驚きながらも、自分の席につく。
「おいおいおいおい」
翔太が急いでとんでくる。
「どうなってんだよ、これ」
何がどうなっているか分からない。
そんな顔で問いかけてくる。
「僕だって知らないよ。教室入ったらこんな風に・・・」
困惑して答える。
「どうやらはぶられているようだね」
無表情で稔もやってくる。
「それかいじめられているか」
その言葉に僕は反論する。
「なんでだよ。実那がいじめられる理由なんてどこにもない」
「んー・・・」
稔は考えるような顔をしながら唸る。
「まぁ何かしら理由はあるんだよ。たぶん理不尽なものだけどね」
「あれじゃね。あいつ調子乗ってるよな、とか
そういう理由じゃないの?」
翔太と稔は、顔を見合わせてだよなぁ、とか言っている。
他の男子達も、僕のほうを横目で見ている。
その男子のどの表情にも、困惑の色が混ざっていた。
僕がどうしたらいいか悩んでいると
チャイムが鳴った。
翔太と稔は頑張れよ、と僕に言い残し
自分の席に戻っていった。
授業中、僕は外ばかり見ていた。
相変わらず雨ばかり降っている。
ため息をつく。
彼女はいじめられているのか?
信じたくないが、あれはどうみても
はぶられているように見えた。
もしいじめられているとしたら――僕はどうしたらいいのだろう。
額に手をあて、ため息をつく。
首を回し彼女のほうを見る。
その後姿からは悲しみが滲み出ていた。
授業が終わったら、彼女に聞こうか。
でも、面と向かって聞けない。
どうしたらいいんだろう。ただ悩むしかなかった。
次の授業は移動教室ということで
僕は翔太と稔と一緒に廊下を歩いていた。
「なぁ。お前どうするんだよ」
翔太が口を開く。
「だってあれはどう見てもはぶられてるぜ?」
「うん。僕もそう思う」
稔も便乗する。
「もしかしたら、陰でもっとひどいことを
されてるかも知れないし・・・」
二人の言葉に、僕はまたため息をつく。
「でも、どうしたらいいか分かんないんだよ。
彼女に直接聞くこともできないし」
僕がそういうと、二人はまた悩み始めた。
「んー・・・とにかく、白井さんがヘルプサインを
出してきたら助けてあげればいいんじゃない?」
「そうそう。そうすれば白井も賢のこと
惚れ直すかもしれないぜ?」
二人は必死に僕にアドバイスをくれたり
元気づけようとしてくれたりするが
僕の心配は一向に消えない。
「まぁ俺もそういうことあったからなぁ。
あれは俺が中二のとき・・・」
「うわぁまた始まったよ。話さなくていいから」
「なんでだよ!」
二人が騒がしく歩いていると、クラスの同級生たちが
僕に近づいてきた。
「賢。頑張れよ、白井さんのために」
「そうだぞ。白井さんがかわいそうだろ」
「俺達もなるべく努力するからさ、必ず救ってやれよ」
やはり、皆彼女に好意をよせているのだろう。
皆心配そうな顔をしていた。
「うん。頑張るよ」
僕はため息を飲み込み、無理矢理笑顔をつくった。