8 二人で
何かおかしいと、思っていた。
最近、クラスの女子に話しかけても
冷たい反応をされる。
移動教室にしたって、今までは一緒に
行ってくれる人がいたのに
こないだから突然、避けられるようになった。
休み時間には、女子達皆が教室でひと塊になって
こちらを見て、何かひそひそと話をしている。
そういう反応をされる度に、実那の心には
傷と悲しみが増えていった。
唯一安らぐことができたのは、賢の隣だった。
賢のくったくのない笑顔を見るたびに
心の傷は、幾分か癒されていった。
しかし、癒されて消えてゆく傷よりも
悲痛でつく傷のほうが多かった。
クラス内での無視、それだけならまだしも
今度は靴箱にごみ。
そうともなると、実那は実感せざるを得なかった。
―――ああ、私はいじめられているのだ、と。
雨の降る中、傘もささずに歩く道。
灰色のコンクリートは黒色に変わり
なんともどんよりとしていた。
ため息をつく。
さっきから出るのは、そればかりだった。
ああ、せめてこんなとき賢の笑顔が
隣にあれば。
そんな、他人に甘えようとする自分に
気付いたときには、自分が嫌いになっていた。
また、ため息をつく。
雨のせいか、ますます実那の心は沈んでいった。
そんな時、ポケットに入れた携帯がなる。
軽快なリズム。それを聞き、実那の心は少し晴れた。
それは、賢からの着信だった。
メールを開く。そこには
『最近元気ないよね?どうかしたの?』
という文章が、ゴシック体で踊っていた。
実那は、その文章を読んで
思わず賢の心配そうな顔を思い浮かべた。
顔がほころぶ。
実那の心は、温かくなっていった。
僕は家に帰ってからも、ずっと彼女のことを考えていた。
今日は家の用事で早く帰ったので
彼女と一緒に帰れなかった。
元気がない理由を、今日こそは帰りに聞こうと思ってたのに。
ため息をつく。
外を見ると、雨が降っていた。
考えれば考えるほど、心配になる。
僕は机の上にある携帯を見詰めた。
もう、聞くしかない。
僕は携帯を手に取り、メール作成を選んだ。
文章を作っては、何回もやり直した。
五分くらいそれを繰り返し、やっとのことで
文章を作成する。
ボタンを押して、彼女に送信する。
こんなに時間を掛けたメールは初めてだ。
僕はふぅ、と息をはいて、仰向けに寝転んだ。
それからしばらくして、彼女から返事が来た。
着信音が鳴ったとき、漫画みたいに
ドクン、と心臓がなった。
携帯を開く。だんだん鼓動が早くなってきた。
なんでこんなことで、ドキドキしてるんだ。
そう思ったけど、鼓動は早くなるばかりだった。
メールを開く。そこには
『何でもないよ。大丈夫!心配しないでね』
という文章があった。
絵文字が使われていて、そのメールからは
元気がない様子なんか、微塵も感じれなかった。
それに、『心配しないでね』という文のあとに
ハートの絵文字がついている。
それだけでドキドキしてしまう僕は、なんなのだろう。
自分で突っ込み、自分で落ち込んで、自己嫌悪。
彼女と会ってからは、色んな意味で
ドキドキしっぱなしだ。
「はぁー・・・」
大きく息を吐くと、彼女にメールの返事を送って
ベッドに寝転んだ。
今日は疲れた。
心の奥の不安は、まだ完全には拭えない。
でも、今は彼女を信じるしかなかった。