6 ゆっくりと
教室は、相変わらず騒がしかった。
僕が教室に入ると、男子が皆集まってきて
後は質問攻めだった。
そして、僕が彼女に告白された、ということを言うと
男子は皆絶句して、今度は彼女が質問攻めになった。
それが少しおかしくて、思わず笑ってしまった。
教室の中では、二人の男女が質問をクラスの男子
全員から受けているなか、女子達はそれを黙って見ていた。
やがて、一人の女子が口を開く。
「ねぇ・・・。前から思ってたんだけどさ」
最初に口を開いたのは、クラスでもリーダー的存在に位置する
女子だった。
「実那って最近調子乗ってない?」
「はーい。それ、うちも思ってた」
クラスの中心にいるグループの一人が、また口を開く。
「だよねー!だって、前の彼氏があの子に恋したから
私振られたんだよぉ!?なんか悔しくない?」
「うちもその理由で彼氏に振られたぁ!!」
そして、次々と便乗して女子達は口を開く。
その内容は、全て実那に対する妬みのようなものだった。
「調子乗り過ぎでしょ。実那」
その言葉に、女子達はだよねーと同感の意を表す。
「・・・いじめちゃう?」
リーダー的存在の女子が、薄笑いを浮かべながら言った。
「そーする?全員でハブっちゃうとか?」
「さーんせーい」
「つーかそれよりもぉ・・・」
実那をいじめるという計画は、どんどんと膨らんでいった。
その話題で女子達は盛り上がり、教室内は
さらに騒がしくなった。
それを実那は、静かに横目で見ていた。
なんてことだろう。
彼女と一緒に帰ることになってしまった。
今、僕は彼女と一緒に並んで歩いている。
周りには誰もいない。
人に見られるのが嫌で、人気のない道を選んだからだ。
しかし、それが仇となってしまった。
細くて車も通れない道なので、何の音もない。
せめてもの救いは、鳥のさえずりくらいだ。
僕は、心の中でどうしようを繰り返しながら
彼女のことを、横目で見た。
彼女は少し俯きながら、歩いている。
何か話をしなければ。
そう思い、僕は決心して口を開いた。
「・・・えっと・・・」
「・・・何?」
彼女が笑顔でこちらを見てくる。
「えっと・・・」
しまった。話す内容を決めてない。
どうしよう。何か話さなければ。
焦った僕は、とにかく何か喋ろうと試みた。
「えっと・・・手、繋いでもいい?」
彼女の頬が赤くなる。
「・・・え?」
と言ったのは彼女ではなく、紛れもない僕だった。
今・・・何言った?自分。
手、繋いでもいいって・・・。
自分で言ったことに驚き、慌てて説明を加える。
「いや!別に嫌だったらいいんだけど、っていうか間違いというか・・・」
しどろもどろになりながら、とにかく説明しようとする。
ふと、彼女を見ると、顔が赤くなっていた。
僕だってそうだろう。というか、自分で言ったことに
照れてどうするんだ。
「いやっ、その・・・だから・・・えっと・・・」
とにかく間違いだと言う事を、彼女に伝えようとした。
すると、彼女はゆっくりと顔を上げ、笑顔で言った。
「・・・いいよ」
「・・・え?」
彼女の言葉の意味が分からなくて、一瞬固まる。
「私も、賢君と手・・・繋ぎたい・・・から」
彼女は顔を赤くし、はにかんだ。
その言葉に、僕はさらに照れる。
「えっと・・・じゃあ・・・繋ごっか・・・」
僕の手と彼女の手が重なる。
そして、手を繋いだまま再び歩き出す。
とにかく、結果はよかったのか・・・?
僕は、耳まで真っ赤になりながら思う。
彼女を見ると、彼女も相変わらず顔が赤かった。
それに、何か楽しそうだった。
その顔を見ていたら、ずっと見詰めていたくなるので目を逸らす。
視線を上に移し、空を見詰めた。
・・・まぁ、恥ずかしいのは変わりないけど・・・。
僕は心の中で静かに笑った。
空は、相変わらずの天気だった。