5 告白
なんで、彼女は僕に話しかけてきてくれるのだろう。
彼女に話しかけられたとき、僕はそれを無意識に思った。
静まりかえる教室。うちのクラスの皆が
こんなに静かになったのは、初めてではないだろうか。
――と言ったら大げさだが、それくらい静かだった。
男子は、皆僕の方を見て唖然としている。
女子は、何?という顔をして、友達と顔を見合わせたりしている。
彼女は今、なんと言った?
驚きすぎて、あんまり覚えていない。
確か――そうだ。
『話したいことがあるんだけど』
そういったような気がする。
・・・話したいこと?何だ、それは?
彼女が僕に話すことなんか、何もないと思うけど。
僕は不思議に思った。
「・・・時間、大丈夫?」
彼女は、静かで凛とした声で言った。
僕は無意識に頷く。
彼女はそれを見ると、ほっとしたように
にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、ちょっと来て」
僕は彼女の言うままに立ち上がり
教室を出て行こうとする、彼女の後を追っていった。
その後、教室は大騒ぎだったと思う。
彼女は図書室に入った。
人気の少ない図書室。僕は、後ろでドアを閉めた。
彼女は窓際の机に向かい、椅子に座った。
僕は彼女の向かいに座ると、少し緊張しながら口を開いた。
「・・・話って、何?」
僕が言うと、彼女はにこりと微笑んだ。
「・・・夏休みに、偶然図書館で会ったじゃない?私達」
僕は少し唖然とした。そんなことを言うために、わざわざ呼び出したのか?
「本を読んでいたら賢君がいたんだもの。少し驚いた」
彼女は笑った。
僕だって驚いた。だって、彼女がいたらいいな、と思って
行った場所に、彼女が本当にいたんだから。
「そこで、私達初めて話をしたよね?」
彼女は、そこでふっと微笑んだ。
「・・・嬉しかったなぁ」
僕だって、嬉しかった。
僕はそれを口に出そうとしたとき、ふとした疑問に気がついた。
――今、彼女は僕と話せて嬉しいと言った?
驚いて顔を上げたら、彼女と目が合った。
彼女は少し頬を赤くして、はにかんだ。
初めて見るその表情に、僕はまた惚れてしまったかもしれない。
「・・・それって・・・どういうこと・・・?」
相変わらず頭の整理がつかないまま、僕は聞いた。
彼女はますます頬を赤くし、それから黙ってしまった。
僕はどうすることもできずに、ただ彼女が何か言うのを待っていた。
それから少し経ち、彼女は決心したように口を開いた。
「・・・賢君が、好きです」
――――え?
思考回路がストップしてしまった。
何も考えられない。口はポカンと開いたままだ。
彼女は顔を赤くし、俯いた。
まだ全て整理できないが、僕が言うことはただ一つ。
「・・・僕も・・・好きです・・・」
消え入りそうなその声を、彼女はしっかりと聞いていた。
顔を上げた彼女の顔は、ほんのり赤くて、綺麗だった。
彼女はだんだんと、笑顔になっていった。
「よかった・・・!!」
彼女は、嬉しそうにそう言った。
「私、告白するのって初めてで。だから・・・
失敗したらどうしようって・・・心配だったの」
嬉しそうに語る彼女を見て、僕もつられて笑った。
そして、予鈴がなった。
「行こっか」
彼女は微笑むと、立ち上がった。
そして、僕達は二人で教室へと帰っていった。
憧れの彼女と、付き合うことができるなんて。
それだけで胸がいっぱいだった。
幸せすぎて、何も考えることができなかった。
――幸せは、一生続くことはない。
そんなこと、人一倍分かっていたくせに。
それでも、このまま幸せが続けばいいのに。
そう、願ってしまった。