2 恋愛感情
一学期も終わり、夏休みに入った。
僕は、空に浮かぶ雲を眺めながら、窓辺に座っていた。
片手には団扇、肩にはタオルをかけて。
雲はいい。雲を見ていると、色んなことを考えさせられる。
例えば、彼女のこととか。
――そういえば、彼女はいま何をしているだろう。
友達と遊んでいるか。それとも、クーラーの利いた
図書館で、静かに本を読んでいるか。
・・・彼女に会いたい。
無意識に、そう思った。
突然猫の鳴き声がした。その声で、ふと我に返った。
いつの間にか、彼女のことばかり考えている自分がいた。
そんな自分に恥ずかしくなり、何故だか顔が赤くなる。
とりあえず落ち着こうと、窓の外を見た。
すると、そこには白い猫がいた。
塀の上にのって、のんびりと欠伸をしている。
動物好きの僕は、窓を開け猫の鳴き声を真似した。
猫の鳴き声の真似だけは、何故かすごくうまいのだ。
何回か繰り返していると、猫はこちらを向いた。
その顔は、猫の中では可愛いほうだった。
僕はそこら辺にあったサンダルを履き、裏庭に出た。
塀の前に立ち、手を伸ばして猫を呼んだ。
猫は、僕をしばらく見詰めると、立ち上がった。
僕の手の上に乗ってくるかと思ったが、それは違った。
猫は僕を見詰め、にゃあと小さく鳴くと
軽やかに、僕がいる方の反対側へと降りていった。
その白い色と、しなやかな動作は
思わず、彼女を思い出させた。
何を掴めなかった手を、しばらく見詰め
それをそっと降ろした。
夏休みの間中、僕はずっと彼女のことを考えていた。
何をするときも、何故か彼女の顔が頭に浮かぶ。
それを恋だと気付いたのは、夏休みも中盤に入った頃だった。
僕は、家の中でぼーっとして、暇を持て余していた。
それに、暑い。日は容赦なく僕を照らし続ける。
生憎扇風機は故障していて、風を僕に送ってくれる機械は何も無い。
クーラーをつければいいのだが、家には
クーラーは夜にしかつけてはいけない、というルールがある。
今は真昼間。こんな時にクーラーをつけていたら
母親に怒られる。
こんなルールを律儀に守る僕は、正しいのだろうか。
そんなことを思いながら、ふと思いついた場所があった。
クーラーが利いていて、落ち着ける場所。
図書館。そこからさらに浮かぶのは、本を読んでいる彼女の姿。
――もしかしたら。そんな期待を抱きながら、僕は図書館へと
向かう準備をした。
僕が近づくと、自動ドアは勝手に開く。
それと同時に、冷ややかな風が前から吹いてきた。
それを心地よく感じながら、建物の中へと入ってゆく。
図書館の中は、涼しく静かだ。
人は疎ら。しかし、平日よりはきっと多いだろう。
そんなことを思いながら、僕は棚に並ぶ
たくさんの本の背表紙を見ていた。
基本的に推理小説が好きなので、一冊の推理小説を
手に取り、机へと向かった。
本の表表紙を見ながら机に向かい、ふと顔を上げる。
そこで僕の目は、大きく開かれた。
これほどまでにないくらい、心臓がとても早く脈打っている。
思わず本を落としそうになった。
こんなこと、漫画ではよくあるが――まさか本当に起こるとは。
生唾をごくりと飲み込んだ。顔が火照っているのが分かる。
僕の視線の先には彼女がいた。