表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

12 衝動

6時間目が始まったというのに、彼女は戻ってこなかった。

瑠璃達の所為せいだ。

きっと、瑠璃達が何かやったのだろう。

僕は悔しくなり、瑠璃を睨んだ。

瑠璃はと言えば、授業中だというのに

周りの女子達と一緒に、遊んで笑いあっている。

彼女はあんなに落ち込んで、悲しんでいるというのに――。

本当に、どうしたらいいのだろう。

僕に、何ができるのだろう。

開きかけた口から出るのは

答えではなく、ため息ばかり。

僕は主が存在しない椅子と机を見て、目を伏せた。


放課後になり、皆が部活に向かう頃。

僕は彼女が帰ってくるのを、教室で待っていた。

教室の中には、自分一人。

廊下にも、他の教室にも誰もいない。

たぶん、この階にいるのは僕だけだろう。

オレンジ色の優しい光が、教室を包む。

僕は立ち上がり、窓枠に腕をのせて

外を眺めた。

夕日が街に降り注ぎ、柔らかな印象を与えている。

そんな景色を見ても、僕の心は晴れず

ただ、重く沈んでいった。

その時、背後で音がした。

振り向くと、そこには彼女がいた。

「・・・・・・実那」

彼女は僕がいることに驚いたらしく

一瞬ビックリしたような顔をして

それから、ゆっくり微笑んだ。

その微笑が、ひどく悲しいものに

見えたのは、夕日の所為だろうか。

「賢、なんでいるの?びっくりしたよ」

彼女はそういうと、自分の席につき

鞄の中に荷物をつめ始めた。

「今までどこにいたの?」

それを聞くのに、不自然なほど緊張した。

小さく開けた口から発せられた言葉は

少し震えていた。

「ちょっと気分悪くなっちゃったから、保健室で寝てたの」

声の震えに、彼女は気がつかなかったらしい。

作業が終わったらしく、一つ息を吐くと

鞄を持ち立ち上がった。

「もしかして・・・心配して、待っててくれた?」

「うん。まぁね・・・」

「・・・ありがとう。嬉しい」

彼女は照れたように微笑んだ。

それは、久しぶりに見る笑顔だった。

作り笑いでもなければ、同情でもない。

彼女の、本当の笑顔。

それを見たとき、心の何かがはずれるような気がした。

作り笑いなんかしないで欲しい。

悲しい顔なんか、もううんざりだ。

―――素直に、笑ってほしい。



無意識のうちに、僕の足は動いていた。

何がそうさせたか分からない。

ただ、衝動に駆られて

僕は彼女のもとへと向かっていく。

彼女と僕の距離が、さっきよりも

ぐんと近づいた時。

僕は彼女の細い肩を引き寄せて、抱いた。

彼女の髪から漂う匂いは

悲しいほどに甘かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>恋愛シリアス部門>「無能な僕と偽装な彼女」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ