11 沈痛
5時間目の授業は数学だった。
僕はうわの空で、まともに先生の話なんか
聞いていなかった。
考えるのは、彼女のことだけ。
心配で、不安で、心細くて、どうしたらいいか分からなくて。
―――何も、できなくて。
色んな感情が心の中に渦巻いて
一つになり、”悲しみ”になる。
どうしようもできない悲しみは
心の器を溢れ出て、今度は目から
溢れようとする。
はぁ、とため息をついた。
彼女を見る。
横顔の表情は暗くて、僕の心を
きつく締めた。
ふと見たら、彼女の後ろの席の女子が
周りの女子達と笑いあっている。
その女子は、女子達の中でも
リーダー的存在の、瑠璃だった。
ああ、あいつらはあんなに楽しそうにしてるのに。
それを思うと、また胸が締め付けられた。
瑠璃は女子達と笑いあうと
彼女の肩に、重いきりシャーペンをさした。
「痛っ!?」
彼女は顔を歪ませる。
「あ、ごめーん。ぼーっとしてたらささっちゃった」
瑠璃が笑いながら言うと
周りにいた女子も、くすくすと笑った。
彼女は悲しそうな顔をして、俯いた。
あれは、絶対にわざとだ。
思い切りシャーペンをさしていた。
段々と腹が立ってきた。
休み時間になったら、絶対に言ってやる。
僕は笑っている瑠璃を見ながら、決心した。
授業が終わり、休み時間になった。
彼女はすぐ教室を出て、どこかへ行ってしまった。
それを見て、ますます瑠璃に対して
腹が立った。
「おい」
瑠璃のところへ行く。
「何?」
「さっき実那の肩にシャーペンさしたの、わざとだろ」
瑠璃はそれを聞き、眉間に皺をよせる。
「はぁ?わざとじゃないし。何言ってんの」
「思い切りさしてたの見たんだぞ。わざととしか思えないだろ」
「そーだぞー。俺も見てたけど、そう思った」
僕が反論すると、様子を見てた翔太が入ってきた。
「何言ってんのあんた達」
「瑠璃がわざとじゃないって言ってんだから
そうに決まってんじゃん」
すると、瑠璃達といつも一緒にいる女子達が
瑠璃の味方をする。
「あれのどこがわざとじゃないんだよ」
「だから違うっつてんだろ!」
だんだん瑠璃の口調が変わってきた。
「つーかさ、お前等白井さんいじめてんだろ?」
稔が女子達に向かっていった。
「は?何いきなり?」
瑠璃は、はっと鼻で笑った。
その時、彼女が教室へ戻ってきた。
それを見た瑠璃は、彼女の元へ駆け寄り
肩を組む。
「うち等、超仲いいんだけどー」
それを見た周りの女子達も、瑠璃と同じように
彼女の周りに集まる。
彼女は何が何だか分からず、ただ驚いている。
「ほら。これで誤解解けた?」
「・・・そのうちばれるからな」
「何のことー?」
瑠璃は笑う。
そして、笑顔で言う。
「ねぇ、皆でトイレ行こうよー。ね、実那も一緒に」
「え・・・」
彼女は戸惑いながら、瑠璃達に強引に連れて行かれた。
翔太は僕の肩に腕をまわす。
「賢ー。お前が怒るなんて珍しいな。
ま、あれじゃしょうがねぇか」
「・・・あいつ等、調子に乗りやがって」
稔は、はぁと腕を組んで息を吐いた。
「とにかく、様子見なきゃね」
「・・・」
僕は瑠璃達が出て行った、教室のドアを睨んだ。
実那は、瑠璃達に強引に
トイレに連れ込まれた。
そして、実那を壁に突き飛ばす。
「っ・・・」
実那は思い切り突き飛ばされ、背中をぶつける。
瑠璃は実那の顔の横に、両手をつく。
「何だよお前の彼氏。調子のってんじゃねぇの?」
瑠璃は実那を睨みながら言う。
「そんなこと・・・」
思わず、視線を逸らす。
「あれかなりムカついたんだけど」
実那は横を向いたまま、口を開かない。
「お前調子乗ってんじゃねぇぞ?」
きつい視線に、実那は思わず
「ごめんなさい・・・」
と言ってしまった。
「次あんなことあったら、今度こそキレるから」
瑠璃は手を壁から離し、実那をきつく睨む。
「あんたの彼氏によく言っときな」
そして、瑠璃達はトイレから出て行った。
一人取り残された実那の頬には
涙が伝っていた。