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4月5日/水曜日(中)ー始まりー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで中編です。


ここから具体的にいじめのシーンが入ってきます。暴言が飛び交っていますので、苦手な方、不快に思う方は『戻る』ボタンを押してもらえると幸いです。


物語は一体何処へ向かうのか…?


それではどうぞ!

黒羽の行動の端々に喉奥に魚の小骨が刺さったのときようなあの居座り続けるもやもやを俺はずっと感じてきていた。

それを取り除く方法の中で『様子を見る』か『帰る』のうちどちらか選べだなんて、それは鼻で笑わずにはいられないというものだ。

――様子を見るしかないだろう。

別に彼女に直接手を加えるわけでもないし、たとえその結果が勘違いだったとしても双方にダメージはない。

俺が今置かれている状況は気になっている店に入るかはいらないかの決断を迷っているのと何ら変わりない程度の支障だ。

何もしないで後悔するよりする後悔のほうが何倍も価値を持っているというのは今までの人生で生きていた中でよくわかっている。

どんな意味を持とうとも、俺は彼女が気になっていることは間違いないんだ、ならやるしかない。

…なんだかこういう発想が超飛躍してストーカーが誕生するんじゃないかと一瞬心を惑わせたが、そんなことを思えるならまだ俺は大丈夫だろう。

そう自分に言い聞かせ、何故か引きずる罪悪感を頭の片隅に寄せて黒羽の方へ顔を向ける。

俺が黙考している間に彼女は購買部より少し奥の方にある自動販売機コーナーで足を止めている。

さて様子を見ると入ったものの、流石に廊下の真ん中に突っ立ってじろじろ見ていたらストーカー以下の変態たつやということになるわけだ 

いや、そんなものは五十歩百歩だろ、もっと堂々としろよ。…と過激派の脳内議員が申し立ててきたが、姿を見られるよりは見られない方が良いだろうという慎重派が意見を押し切る。

俺は購買部の反対側より少し左に位置する男子トイレの入り口は少し凹んでいるので、そこに身を隠すことにした。 

隠れ場所を見つけた俺は顔半分出して様子を見る。

彼女はせっせとお金を入れてなんかの飲み物を買っている。

その行為は1回で済むことはないらしく、取り出し口からペットボトルを取り出した黒羽はすぐさま2本目の購入準備に取りかかっている。

それにしてもあの人形は凄いな…

なぜかしみじみとそう思ってしまった。

ここから黒羽の位置までせいぜい20Mといったところだが、こんな離れていても熊の人形は圧倒的な存在感を示していた。

一度気にし始めたらもうそれしか見えなくなると言うのはだまし絵なんかでよく陥る現象だが、あの人形はそれに近い。

…いや、俺は黒羽のそういうことを観察しに来たのではない。これでは本当にただのストーカーである。

黒羽のその行動の『行く末』を見に来たんだ。そこはきちんと区別しておかなくてはいけない。

このままでは誰かに見られれば疑いようのない犯罪者になってしまうが様子は気になるというこのジレンマに一人勝手にわたわたしていると…

黒羽のツインテールがその動きに従って揺れる。つまりそれはこちらを振り向いたという意味であり、俺が危険であることも意味する。

俺慌てて背後の半開きになっている扉の中に身を滑り込ませる。

ここは女子禁制の聖域であり、黒羽が実は男で双子の妹の代わりに女装して学校に忍び込んでいる系エロゲでもない限り、彼女がここに来ることはない。

妙な安心感を覚えた俺は彼女が通り過ぎるのを待つ。

徐々にその足音は遠のいていく。

隠れる直前に見た限りでは彼女が抱えていた飲み物は全部で3つ。それらをあのか細い腕に抱いてこれまた小走りしてどこかに向かっている。

…3人分、あるいは自分用と2人分、それをどこかに急いで運んでいる。

―残念なことに後者である可能性は低い。後者であるならばどうして彼女はあんなに必死な形相で飲み物を買って走って戻らないといけないのかを説明しないといけない。

合理的に、最高にポジティブな思考で前者も否定し、1人で飲むと仮定する。

黒羽が大の飲み物好きな女の子で、急いで教室に戻って飲まないと時間がないの!…という設定上かなり無理のある女の子でもない限り、成り立たない。

消去法で考えると、どうしても3人分という結果にしか結びつかない。

……いや、まさか、な。

しかし生憎俺は思い当たる3人がいるわけで。

1番考えたくなかった事態が他のありうる事態を蹴散らし、優先順位1位の座に上り詰めその地位を不動のものにしていく。

1番最悪な事態の片鱗を、見てしまったというのだろうか。いや、ありえない。

そう無理矢理にでも納得させようとするが、目の前の事実と推測が素直にそう思うことができない。

神納寺が他人の位置がわかることを知ったときとは全く質の違う衝撃が全身を駆けめぐり、寒気すら覚える。

とにかく、追うしかないみたいだ。

以前彼女の行動を罰ゲームと思ったことがあるが、今回もきっとその類なんだ。そういうのが流行っているんだ。俺の早とちりだったと言ってほしい。

俺は手の体温で少しぬるくなってしまったコーヒーを一気に飲み干し、兆しにも満たない希望を持って彼女を追いかけることにした。





彼女のストー…追跡は全く苦になることはなかった。

元々飲み物を持っていてることにより機動力が落ちていて、なお且つ階段という狭い空間を上る彼女を見失う方が難しい。

俺が階段を2段とばしで上っていくと、直ぐさま上り行く足音に追いつく事ができた。

缶とPETボトルが混じり合い、中の液体が踊る音も足音に合わせて聞こえてくるので、この足音が彼女であることは紛いない。

2階、3階と、黒羽は30段くらい先にいる俺に弾む吐息を聞こえさせながら着々と駆け上がる。

そしてついに4階に辿り着いてもおかしくない所まで着たのに彼女は足を止めることなく階段を上り詰めていた。

つまり屋上に行くことがこの時点で確定する。

さっきコーヒー牛乳を飲みきったばかりだというのに、今日一回も水分補給していないような口の渇きを覚える。

怪しさが更に加速する。

短い休み時間にわざわざ屋上まで行って過ごす思考を持った生徒は少ない。いや、ほぼいない。

それを逆手に取ると、昼休みや放課後以外で屋上に来る人間は希であり、そこで何が行われていようと誰にも気付かれることはないという事だ。

これだけ論拠が存在すれば、もはや疑いようがないではないか。

だが俺個人としては全て論破して白紙に戻したい。こんなの、認めたくない。

そう思った矢先、黒羽は屋上入り口まで到着して両手が使えないため肘を使って扉を開けていた。

その中に一度入れば、彼女は彼女ら(・ ・ ・)の手によっておもちゃにされ、気が済むまで遊ばれるというのに。


「おせぇぞ!!!」



ほら。



「ジュース買ってくんのに何分かかってんだ?あ?」


妙に聞き覚えがある…いや、デジャヴ…いや、さっき(・ ・ ・)聞いた(・ ・ ・)声が、僅かに閉め忘れている扉の隙間からはい出てきた。

俺はまだ入り口までそこそこ距離があるというのに、160kmストレート級の勢いある罵声が鼓膜を突き刺し、俺すらも不快にさせる。

至急駆け上がり、耳だけじゃなく己の目でもこの光景をしっかりと焼き付けなければならない。

ほんの少し開いているその隙間に目を当て、そして絶望する。

もうこれは認めざるを得ない。

言い逃れも言い訳も一切することができない決定的光景の全容が俺の眼に明らかになった。

これでもかと眉にしわ寄せて怒り狂う中原、そしてオプション2人がさっぱりと晴れ、オゾン層が仕事をして作り上げた青空の下で、余りに醜く汚い行為を平然とやっていた。

敢えてこの行為を具体的な名称で言うのならば、『いじめ』以外該当するものなど知らない。


「す…ん」


地獄耳でも聞き取ることが困難なもはや言っているのか言っていないのか判別付かない程黒羽の声は小さく、弱々しい。

この場面で彼女たちに挨拶をするはずもないので、謝罪を述べていると考えるのが――

次の寸陰、俺は目を何度疑って眼科に行こうかと苦悩するはめになる。


「は?謝まってんじゃねぇよ!!これで何度目だと思ってるんだよ!」

「きゃはっっ!?」


嘘だろ?

俺の視力が正常であるならば、間違いなく中原の容赦ない右拳が黒羽の鳩尾に吸い込まれるように向かっていき、それ相応のダメージを黒羽は受けていた。

トウガラシを丸かじりし、襲い来る辛辣なショックを脳天にぶち込まれる感覚と酷似するものを感じ、目眩がする。


「がっ…はっっ…」


そんな豪打を受ければ本能がそこを抑えるのは尋常一様で、黒羽は手に抱えていた飲み物すべて落として部位の痛み分けをしている。

左目を見開き右目を半目にして両手で溝を抑え、必死に体勢を崩さないという人間として当たり前の反応をする黒羽に対して、3人はそんな黒羽に冷笑を浴びせるという人間として最低な反応をしている。


「んッククク…」

「ねぇ黒羽ちゃん、私達が飲むものが落ちて汚れているんだけど?これじゃ飲めないんだけど?」

「早く拾って?汚れを拭いて?ねぇ?」


矢継ぎ早に中原のオプション達が自分の言いたいことを述べる。


「…」


中原の正拳から来る激痛と、このシチュエーションと、3人からの罵詈雑言と、屈辱の嵐が黒羽の涙腺を決壊させ、もう顔はグシャグシャだ。

だが、そんな陵辱を受けても尚彼女は無抵抗に、実に従順に彼女たちの命令に従い、缶ペットボトルを拾って自分のハンカチで汚れを拭き始める。

中腰になって丁寧に殆ど汚れなんか付いていない缶を自分のハンカチを汚してまで綺麗にし、それを中原に手渡す。

次の展開は様式美と言っても過言ではないので、安易に、容易に.簡易に連想でき、そして現実になる。


「拭き足りねぇぞ!!こんな汚いものを渡すんじゃねぇよ!!」


缶の仕様用途が最初から投げものであるかのように、なんの遠慮もなく黒羽の足元に投げつけ、その怒りに歪んだ顔も黒羽に叩きつける。


「…ん……い…」


両腕を眼前に寄せて防衛体制を取るがそれは後の祭りだ。

しかし投射角が完全に彼女の死角から飛び込んできたのだから反射的にそうするのは人間の摂理だ。

なぜ中原と黒羽は対面しているはずなのに死角から飛んできたのかだなんて、解説するだけで胸が痛くなる。

それは、もはや黒羽は顔を上げて中原を見ることは不可能であるためその黒髪で視界を遮断しているように見えてしまうほど俯いているからだ。

美しい髪のカーテンの下にはそれを持つに値する顔立ちがあるというのに、中原達はそれを拒絶するかのように、カーテンに手をかけて開かせない。


――…いや


馬鹿か、俺は。



どうしてこんなに冷静になって彼女の行動を実況しているんだ。

なら、この光景に胸が痛むのなら、おかしいと思うのなら、変えてやれば良いんじゃないか。

俺の行動には何の制限もない、例えここで帰ろうが勝手だ。

逆に言わなくても俺が止めに行くのも勝手だ。

未来を変えるのは俺。未来を変えていくのも俺。

あんな不条理を束になって押圧おしへす奴等を止めないのはおかしいじゃないか。

だが、あの惨状をみて動けなかったのは、その圧倒される暴力的な光景に、心が怖じけ付いていたのかもしれない。でも。

もう、そんな言い訳は許されない。

止めてやる。

そう決意を固めた俺は扉に手をかける。

彼女を助けなければ。

だが、いつだってこの学校の時間と規律を統括するチャイムというのは残酷なまでに現在いまを正確にはじき出す。

!?

かけた手の反射弓へ素早い電流が流れていき、ビクッと生理的行動を遂行する。

気持ちが悪いくらいタイミングが悪くチャイムが鳴り響く。


「ちっ…。休…間が…終…か…。黒…、昼…み……」


視線を再び戻せば、見下す視線を一切変えないで中原がなにか(・ ・ ・)を言っている。

しかしこの屋上に設置されている拡声器は校庭にいる人間にも聞こえるように音量設定がなされているため、そんなものが目と鼻の先にある屋上では人間の声など無力に等しい。

ここで俺が出て行ったところでなんでここにいるのと言われるのがオチだ。

残響が拡声器の中で激しく行われている中、何かを言い終えた中原達はそれまで彼女に刺しっぱなしだった視軸をようやくはずす。

かと思えば3人が一斉に扉のほうへ向けられる。

意外といったら失礼だが、彼女たちは授業のために戻るつもりらしい。

このコースは間違いなく屋上から降りるコースだ。まずい。

ここで存在がばれたらすべてが終わってしまうため、作業を強制終了して俺は2段飛ばし階段を駆け下りる。

決着は昼休みに付けた方が良いのかもしれない。

とりあえず自分も教室に戻る。






授業の開始を告げるチャイムから1分もしないうちに俺は教室の後ろの扉から何食わぬ顔をして入る。

幸い、教科担任はまだ来ていないようだ。

いたときの言い訳を考えていたのだが、それも無駄になったので『ごみ箱』にぶち込んで無駄な容量を削減しておく。

自分の席に近づくと休み時間中カンニングペーパーを作成していた達也がどうやらその作業を終えたらしく、なんと汚い清々しい顔でふんぞり返っていた。


「ん」


俺が帰ってきたことを視認した達也は何気なくこう聞いてきた。


「お前今までどこいってkって怖っっ!」

「お前人の顔をみるなり『怖っっ』とか失礼極まりないな」


目を開いて驚きを露骨に露呈してきやがったこいつにそう言うと、それは俺にも言えることだと屈辱的だがこいつに教えてもらった。


「いや、顔が怖いぞ?どうした?ジュース買う金がなくてその顔で下級生にカツアゲでもしたのか?」

「な…」


これまた無意識のうちに表情が強張っていたらしい。あんなものを見れば誰だってこうなる。

とにかくこの顔をどうにかするため、息詰まる環境から脱却したかと思えば走ってここまで来た己の身体に空気を新調する意味も含めて俺は大きく深呼吸を1つ。


「ふぅ…ねーよ」


適当に体裁を整えて席に着くと

再び扉が擦られそう悲鳴が聞こえた。

中原先生とその補佐達のご登場だ。

他の生徒達からの視線も俺同様担任を期待したそれだったが、中原達だと確認した瞬間、誰しもがその視線を歪曲させた。

ガンを飛ばしたんじゃないかと勘違いされるのを未然に防ぐための利己的な判断からだろうが、それはなにも間違っていない。

うまい具合に調合された絵の具に中原達という黒が入ってきてすべてそれに飲み込まれるように、教室の雰囲気が劇的に変化する。

対して彼女たちは先程の出来事がすべて嘘だったような態度、具体的に記すなら笑いながら入ってきた。

恐ろしい。

そんな中原達が各々の席に着いた頃だった。


「…」


ヒョコっと奴等が開け放って閉めもしなかった半開きのドアから黒羽が滑り込んできた。

周りから見ればいつもの半俯き気味の無表情だが、今の出来事を聞いていた俺には周りの連中の輪に入ることはできない。

悲しみ、恐怖、怒り…すべてをかみ殺したかのような表情にしか見ることができない。

あれから彼女は涙を枯らしてその顔を作って来たというのか。

しかし、そそくさと自分の席に戻っていく黒羽を見ながら思う。

あんなことが本当に、身近に行われていた事実は俺に見るものすべてが真実ではないということを嫌でも思い知らしてくれた。

一体どうして?なぜ?なにがどうなって?こんなことに?

訳がわからない。

しかしここでどうして黒羽が虐められているのか考えたところで机上の空論になるだけなので、これ以上無闇に追求することはやめた。

ただ、わかっていることはただ1つある。

『ちっ…。休…間が…っ…か…。黒…、昼…み……』

断片的ではあるが、中原は確かにこんな事を言っていた。推量に過ぎないが、言葉を当てはめてみると

『ちっ…。休(み時)間が(終わ)っ(た)か…。黒(羽)、昼(休)み……』

という、完全に呼び出しを意味する文章が出来上がる。

俺はそれを止めたい。

もう二度と怖じ気づかない。

とは言え俺にはこの件についてはなんの関係ない。出逢って2日しか経ってない人間に助ける義理もまた、ない。

だが、それでも俺は何とかしたいと今思っている。

もしかしたら情けや同情に動かされてできた偽善なのかもしれない。

「可愛そうだから,助けてやるよ」なんて上から目線からの行動なのかもしれない。

しかし、偽善だろうが何だろうが彼女を助けるという結果さえ果たせればそれでいいんだとネガティブ一点張りの単細胞な思考に一喝する。

それに、俺はなぜだか全くわからないのだが彼女の事が気に掛かって仕方がないのだ。なら尚更だというものだろう。

やろう、やってやる。

そんな決意を胸に焦点を中原達3人に集め、今一度確認する。

相変わらず笑いながら話し合っており、そんな光景に俺は眉にしわを寄せずにはいわれない。

あんな事をして黒羽を傷付けるのは彼女達にとっては日常茶飯事であり、罪悪感とか後悔なんてものは最初から欠片としてなかったのだろう。

3人で雑談をしてあんなに楽しそうに屈託無く笑っている奴等を見て、そのあっけからん態度に殺意すら芽生えてくる。

そんな彼女達に黒羽は汚辱を受け、苦しめられているというのだろうか。

黒羽の後ろ姿を見れば、顔を見なくても覇気は死に絶えた事を背中が語ってくれる。

俺がその姿を、変えることができるのだろうか。


「すまんすまん。授業を始めるぞー」


絶妙なタイミングで英語教師が授業の開始を合図する。

少々小太りの、30半ば過ぎの中堅教師といったところだろうか。

二重顎を作ってしまう笑顔を浮かべ、こう言った。


「じゃあ、今日は昨日アナウンスした通り小テストするぞー」


適度なブーイングがなされる中、先生はニコニコしながら小テスト用のプリントを配る。


「フフっ、今こそ勉強の成果を見せてやるぞ!進○ゼミであんなに勉強したんだもん!」


隣で殊更にそう言う達也の机の下にはカンペをもった左手が隠れており、ゼミの漫画でこのシーンが再現されたらさぞ哀しいものになるだろう。

―普段ならカンペを取って遊んでやるところだが、今はそんなことをしている場合ではない。

全ては昼休みの決戦に向けて、だ。





「…それじゃあ、今日はここまで。ちゃんと24ページの予習をしておくんだぞー」


そう言って授業は終了し、学校は昼休みと呼ばれる時間帯に移行する。

三々五々生徒が自分の行くべき場所に向けて散っていく。

クラスメイト達は屋上なり購買なり学食なりでバラバラになり、この教室には通常の4分の1程度しかいない。

そして、4人の女子生徒も例外なく立ち上がり、並ぶ。完成された縦一列で移動を開始する。

だが、決してそこは食物を購入したり食べたりするところではない。

メンバーは前から中原、黒羽、そして2人の女子生徒。

それぞれの顔は十人十色であり、先頭の中原はいつもの無愛想を前面に出した表情で、二人の女子生徒は互いににやつき合っている。

彼女達に挟まれる形の黒羽は無実の罪を着せられ、公開処刑執行2分前の、絶望に満ち溢れた不憫な修道女にみてとれる。

それは形容でも何でもなく、真実らしさが存分にある。

そんな異様な4人を見送った後、席を立つ。

尾行していると気付かれない程度の距離を見極め、そして開始――



「ぐぼっ!!?」

「キャッ」


教室の後ろ側から出ようとした刹那、反対側からやってきた何者かの猛烈なタックルがパーフェクト無警戒な俺に直撃する。

暗殺者も顔負けで涙を流して逃走する位完璧な闇討ちに、為す術もなく衝撃の反動に従い尻餅をついて倒れ込む。

反動こそその勢いに準じたものであったが、衝撃はやけになにか柔らかいもので吸収されてたような気がしないでもない。


「うおお…いつつ…だ、大丈夫?」


まず第一に女性らしい方にぶつかってしまったことによる傷害の安否を確認する。


「あいてててて…って!辻村君だったの!」


俺と同じく尻餅をつき、尻をさすりながら痛みを堪えているを栗崎さん登場だ。


「すまん、怪我はない?」

「あ、あうう…大丈夫だよっ。それよりあたしが謝らないといけないよっ」


顔は少々痛みに耐えているのか、歪んでしまっているがその顔から笑顔が離れることはなかった。


「忘れ物をして焦ってここまで走って戻ってきたあたしがわるいんだよっ。ごめんっ」

「いやいや前方不注意だった俺が悪いよ。ごめんな」


お互い圧迫をかけてしまった箇所を抑えながら立ち上がり互いに謝り合い、俺がそう言うと安心したのか、いつもの笑顔を覗かせてこういった。


「そう言ってくれるのなら、そう言うことにしておこっかな?」


そんな顔を見たら、思わず微笑み返してしまう。

いや、今はこんな和やかな雰囲気に浸っている場合ではない。


「すまん栗崎,ちょっと先を急いでいるんだ。先に行っておくよ」

「うんっ、本当にごめんねっ」


そう断りを入れると俺に興味がないのかそれとも聞かないでおいてくれたのか定かではないが心地よく頷いて快諾してくれた。

栗崎から視線をはずし、廊下へと向ける。

廊下に出た後、すぐさま彼女らの集団が近くにいないか左右を確認する。

弁当を持って他のクラスに行こうとする者、歯を磨きに水道へ向かう者、購買へ向かう者などそれぞれ目的を持って行動している生徒をチラホラと見かけるが、俺が熱望する集団の姿が見えない。

完全に見失ってしまったようだ…!

とはいえ当てがないわけではなく、大体行くところは想像できる。

そもそも昼休みなので彼女達がいる場所は限定されるわけだ。

しかし確信があるわけではないので、もし違ったときのロスタイムは相当痛いが。

俺は…


※以下リアルタイムイベント

黒羽の元にたどり着くまでの間に要した時間(選択肢)によって,イベントがABCの三つに分かれる



┌1 屋上に行く

├2 神納寺に聞きに行く

└3 闇雲に探す


±0からスタートし、選択肢を間違える毎に+1する。

+1~2で見つける→A +3~4で見つける→B +5以上で見つける→C


…という、なにげに凝った選択肢を用意していたのだが、これをプログラミングするのは相当面倒な事になるだろうと思う。

しかしながら今回は一番最速のルートである2で行かせてもらう。





神納寺に聞けばいいじゃないか。

つい昨日俺は神と同等の力をこの目でまざまざと見せつけられたばかりじゃないか。

Gペンを紙の上に置き、神納寺の気合いのこもった一言で飛び散るインク。

それをなぞるだけで人の場所がわかるというまさに神業をまざまざと見せつけられた昨日。

今でも鮮明に記憶している。なにせインパクトが強すぎた。

そう言うわけで人探しのプロ、いや、神に聞いた方が手っ取り早いわけだ。

早速神納寺のいる3年4組へ向かうことにする。

とにかく、今は時間がない。


「神納寺!」


そう呼びかけながら扉を開けるとそこには女性専用車両のような光景があった。

ざっと数えても50はいるであろう、教室を埋め尽くすほどの女、女、女。

各人が持ち寄った弁当を囲み、実に楽しそうに談笑しているではないか。

おかげで俺の声は彼女らの会話の防火壁によって容易く弾かれてしまったようだ。

だが、教室を人間だけで占拠している所であっても、彼女の圧倒的存在感は健在するどころか更に際だっていた。

無数のクロユリの中にたった一つだけ黄金に輝く一輪の花は、まさに教室の中心にあった。

この教室で金髪であるのは彼女だけだ。

そこに照準を合わせ手でメガホンを作ってシャウトする。


「神納寺!!」

「?!?」

「!?」


女一色の部屋に突然男の低い声が入れば注目されないはずもなく、その叫びと同時に中の人間の視線が全て俺に注がれる。

死んだように静まりかえる教室。が


「つ、辻村殿!?」


漸く目当ての人物が俺の存在に気付いてくれたらしく、慌てて立ち上がってくれた。


「食事中すまん!ちょっと頼まれてくれないか?」

「わかりましたわ、今すぐそちらに向かいますわね」


そう言って神納寺は教室を縫うようにしてこちらに向かってきた。


「―…」


前方180度から差し向けられる視線を気にしている場合ではない。


「んっ」


なんとかぎゅうぎゅう詰めになっている教室から抜け出した神納寺は、一つ咳き込んで話を聞く体勢を整える。


「…それで、辻村殿がこのわたくしに頼み事とは?」


期待半分、うれしさ半分混合しているこの表情なら、快く俺の頼み事を引き受けてくれるだろう。


「単刀直入に言うと、人を探して欲しいんだ」


それを聞いた神納寺は「なんだそんなことか」と、腕を組みつつ眉を一度だけ上げ下げさせてこう答えた。


「辻村殿がわたくしに頼って人探しとは珍しいですわね」

「俺もそんな時があるさ」


栗崎とはまた違った微笑を浮かべている彼女は、その顔のまま肩をすくめてあっさりな口調でこう言った。


「まぁ―…深くは問いませんわ。人捜しということでしたらおやすい御用ですわ。大船に乗ったつもりでいて欲しいですわね」


俺が頼む、と短く返事をするとそれをオウム返しした神納寺は右ポケットに手を突っ込み、当たり前のようにGペンと黒いインクを出す。


「では貴方が探している人の全体像を頭に思い浮かべて下さる?」

「あぁ」


ってか頭に思い浮かべないといけないのは同姓同名の人物を当てないためなんだろう。


俺が探している人物…黒羽雪見を思い浮かべる。

頭の中でも、彼女は笑っていなかった。

頭は折れ下がってうつむき、暗い顔で地面を見つめている。

この姿しか想像できない自分に怒りが湧いてくる。

すると神納寺が思案顔でこちらに焦点を合わしてきた。俺の想像力が足りなかったのだろうかと問い合わせようと口を開きかけたとき、彼女の言葉によって封印される。


「…申し訳ないですわ。今日はMPが足りませんわ」


えむぴー?…MP?…マジックポイント?マジックポイントが足りない!?


「マジックポイントが足りない?!」

「ええ、この儀式はMPを20消費しますの,わたくしの最大MPは…」

「わ、わかった。とにかく今日はできないのか?」


駄目なら駄目でも構わない。


「いえ、わたくしが直接その名前を思い浮かべればMP0で使用できますわ」


神納寺は若干の困窮が混じった口を結んだ後にそう言い、俺のセリフと地の文の両方を否定する。


「ですが…」


フッと、いつも自信たっぷりでこちらの目をガッチリマークする神納寺が珍しく明後日の方向へ視線を向け、なにやら歯切れが悪いセリフを吐く。


「ですが?」


彼女は再び視線を交差させてこう言った。


「プライバシーに関わる問題です故、申し訳なくて…」


「いやいや、昨日やっていたときも名前聞いていたじゃないか。それと同じであって、別に気にすることはないだろう」

「で、ですが…辻村殿がわたくしの力を使ってでもお会いしたい人物の名前を聞くというのは…いささか気兼ねしてしまいますわ」


お前は俺をどういう風に見ているんだ。


「そんな気にする必要はないさ。お願いするよ」


神納寺を安心させるつもりで言った台詞は思惑通りの効能を果たし、ほんのり微笑んでくれた。


「わかりましたわ。では、お伺いしましょうか」


そう言うなりその目に力が入り、儀式が始まる事を無条件に意識させる。

つられて何故か身構えてしまう。


「辻村殿が探しているその人物の名前とは?」



選択肢

※名字と名前を選択肢、一定の条件を満たせば次に進める


(名字)1「黒羽」2「佐藤」3「内藤」4「神納寺」 

(名前)1「ホライゾン」2「雪見」3「夏帆」4「裕也」



※ここは読まなくて良いです。


中々誰得な面子がいる。そしてこの選択肢も相当…いや、本気で面倒なプログラミングになりそうだと、こういってはアレだがこの段階に来るまでに打ち切られなくて良かったと思う。

これプログラミングした後に打ち切りするだなんて考えるだけでも恐ろしい。

…と制作側の愚痴は置いておいて、本題に入るが、これも正規ルートを突き進ませてもらう。


「黒羽」「雪見」だ。

そう告げると先程とはかなり質の違う、どちらかと言えば眉をひそめるという表現が正しい眉根の寄せ方をした神納寺だが、すぐにいつもの調子でこう言った。


「くろは…ゆきみで、間違いないですわね?」

「あぁ、頼む」


頷くと神納寺は左のポケットから先程の英語で使用した小テストのプリントを取り出して床に置く。

そしてGペンにインクを付け、構える。


「それでは…」


準備完了した彼女はインクを染みこませたペンを床においたざら紙の中心に置いて一呼吸入れる。

通り行く生徒のその自然っぷりには焦る。まるで神納寺のすることはもはや当たり前みたいなその反応。


「くろはゆきみの居場所を教えたまえ!!」


俺の地の文を遮り、そう喝を入れると黒い水玉がペン先からあふれ出て来たかと思えば散弾銃のごとく拡散する。

手慣れた手つきで飛び散った粒をなぞっていく。

線と線が映し出した図はどこかで見たことがある。

やっぱり。

完全な予定調和を果たした今、ここにとどまる理由はない。


「ありがとう、神納寺、じゃあ俺は行くな」


軽く手を挙げてお礼を言う。


「お役に立てて光栄ですわ。それではいってらっしゃい」


Gペンを華麗に回しながら見送ってくれた。

急げ…!

神納寺に見送りを受けながら俺は一直線にその場所へ向かったのだった。

という訳で半分終了です。


神納寺をださせてもらいました。この辺りは完全に私の趣味です。すいません。

頭に思い浮かべないといけないのは同姓同名の人物を当てないためという、まんまその設定がデ○スノートすぎて、当時の私がなにに影響されていたかが丸見えで実に滑稽ですね。


さて、辻村君は間に合うことはできるのか、そして今後の展開は…?

それは次回で!


次回は少し長文になってしまう恐れがありますのでご了承下さい。


それでは最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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