4月4日/火曜日(中)ー新キャラ 昼食ー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。
というわけで中編です。少しづつ物語は動かしている…つもりです。
とはいえまだまだ日常パートですので、適当に読んで頂ければ幸いです。
それでは、どうぞ!
黒羽の壮絶なカミングアウトにより予想外に盛り上がった一限が終了し、生徒達の待ちに待った休み時間が到来する。
思わぬ伏兵がいたもので、休憩にはいってもチラホラとダークホースな彼女の名前が口に出されていた。
そんな雰囲気に腰を据える事ができないのも無理もない。噂の張本人は顔から火が出て速攻でここからログアウトした。
確かに可哀想ではあるが、こうして話題に出されるほうが達也みたいに誰にも相手にされないよりましな気がする。
怪我の功名…というやつなのかもしれない。
一方達也はあんな発言をしたのに怪我しかしていないわけだが。
「ふふ、みんな俺の話題で持ちきり」
どこまでも都合の良い耳をお持ちな達也は、近いうちに見られているという感覚すら錯覚してしまうかもしれない。
俺も近いうちにこいつに行きつけさせる精神病院を探してやったほうがいいかもしれない。
そんな事を思いながら達也の恍惚にとらわれている間抜け顔を見ていると突然その顔が顰めっ面に変化する。
「んん…あいつの声が聞こえた」
「幻聴にあいつもこいつもないだろう」
「さっきまでは幻聴だったが、今のは違う…」
なにかを感じたらしい達也は、自分が幻聴していたと認めてでもあいつの声は否定するつもりらしい。
こいつにしては潔よかったので、冗談ではないと悟った俺は耳に神経を研ぎ澄ませあいつの声を追いかけてみる。
……
…確かに、あいつの声が聞こえる。
要はすごく特徴的な声なのである。
「ありがたく頂戴させてもらいますわ。それでは」
どうやらうちの女子生徒になにかをもらったらしく、上機嫌さが見て取れる。
「か、かかか、っか、か神納寺!」
達也が死体を見て叫ぶように,顔を歪ませながら大声で彼女の名前を叫ぶ。
その顔と台詞をもしも演技でやったというのなら、こいつは俳優として食っていけるだろう。
いや、こいつ割と本気で演技をかましている。こんな所に無駄な才能があったのか。
「?」
そんな声に反応した女子生徒は、後ろを振り返る。
その振り返る様は、キラキラ光るエフェクトが掛かっても何も違和感を感じないそれだった。
彼女の洗練された視線が瞬く間に俺達の心臓を貫く。
俺達と確定したらしい彼女は不敵に笑みをこぼして第一声がその艶美な唇から出て行く。
「あ~ら、生き方、性格、顔、人生が全て歪んでいる倉金ではないですの」
綺麗な花には棘があると言われるくらいだが、言葉通りな彼女は周囲の人間をあっという間にに毒状態にしてしまうほどの猛毒を吐き散らす。
その臭いすぎるほどの貴族を臭わせる話し方は、昔から一遍たりとも変わっていない。
ゆっくりと、何度も何度も刺突しながら俺たちの方に歩み寄ってくる。
やられっぱなしは嫌なのか、達也が反撃を試みる。
「それが元クラスメイトに対する言葉ですかねえ。相変わらずだな、かかっかか神納寺」
「さっきから噛みすぎですわよ。なんですの?かかっか…かか神納寺って」
「自分でも噛んだよな、おい」
と言うのは頭で変換するよりも先に言葉がでた俺の発言である。
「く…倉金の戯れ言につきあったまでですわっ」
ぷいっとわかりやすすぎて寧ろツッコんで欲しいのかと思いたくなる反応をする。
「そ、そちらも相変わらず阿呆みたいに元気そうでなによりですわ」
まるで立ち絵のように腕を組んでいる姿勢を崩さない神納寺。
…神納寺夏帆それが彼女の名前だ。
立ち位置的には攻略対象外k…二年生のときのクラスメイトだ。
金髪貧乳微ツンデレという、エロゲが並ぶコーナーに入って30秒もしないうちにパッケージで見かけそうな特徴である。
そこにツインテールが追加されれば紛う方ないテンプレ鉄板美少女のできあがりだが、生憎彼女はかなり長めのウェーブヘアだ。
二次元の女の子で例えるなら貧乳ツンデレで髪のボリュームが若干落ちたシェ○ルといえばわかってもらえるだろうか。
いくら現実じゃなかなかいないからって『芸能人』で例えるんじゃなくて『二次元の女の子』で例える辺り、俺は相当末期なのかもしれない。
これも達也の洗脳に近い教育のおかげである。
あとここまでの会話でわかる通り、つくっているのかどうかわからないが、ステレオタイプな『お嬢様』口調である。
※
…元々彼女は存在しなかったのだが、この日常パートが『俺 達也 栗崎』の会話で埋め尽くされるのを忌避するために誕生したというどうでもいい裏話がある。
逆に言えば個別ルートでは差し支えのない程度しか登場しかしないのが哀しいところである。
そんな不遇なキャラではあるが、個人的には気に入っている。
※
「つ、辻村殿…そんなわたくしを舐め回すように見ては…///」
普通の人間ならそう思うのが自然であり、神納寺は模範的な解答を示してくれる。
…元々存在しなかった~とか思っていて、ただボーッと見ていただけだなんて口が裂けても言えない。
「まぁ倉金の意味不明な発言は無視するとしまして。本当、お久しぶりですわ辻村殿」
もの凄く感慨深くそう言ってくれるのは非常にありがたいが、別に10年ぶりの再開というわけでもないのに、大袈裟な奴だ。
彼女の気品から手にセンスがあればどれだけ似合っているだろうかと思うが、彼女の右手に握られているのはなぜかGペンだった。
Gペンと言えば、アナログで漫画を書くときに一般的に使われている奴ではあるが。
なんで彼女がそれを持っているんだ?
「おう、久しいな」
最もらしい相槌を打つが、心は完全に彼女とは無縁としか思えない異物に奪われている。
「辻村殿?」
「…いやなんでもない」
神納寺が怪訝な顔でこちらをのぞき込んできたので、体裁を立て直すことに集中しすぎてペそんな事を言ってしまい、ペンについて聞きそびれてしまった。
大変興味があるが休み時間ももう終了間近であるし、まぁ今度あったときに聞けばいいかと思い直す。
「これからも…おっと」
「どうした?俺に告白することを忘れていたのか?」
神納寺がいつも俺が達也にするような尻目に懸けた目で達也を見る。しかしお嬢様オーラ全開の彼女がそれをすればまたひと味違う。
これが本物の見下しなのかと敬服すら覚える。
「…倉金に告白する時間がありましたら気泡緩衝シートを潰している方がよっぽど有意義ですわ」
「…あぁ…もう我慢できない…踏んで下さい」
簡単にドM心を擽られた達也は人としてどうかと思う発言を当然のように言いながら跪く。
神納寺は婉艷の中に攻めが入っている表情を残しながらこっちを振り返り、口元を僅かに上げてこう言った。
「もう次の授業が始まってしまいますわ。名残惜しいですが、わたくしはクラスが違います故、これにて失礼させて頂きますわ」
跪きっぱなしの達也を放置してそんなことを言う。これが噂の放置プレイか。
「おう、またな」
「ごきげんよう」
その綺麗な顔に見合った笑顔を見せて教室から出て行く。
「ハッハッハッハッ」
踏まれ待機しているこいつの尻を思いっきり蹴るか迷ったが、ここは神納寺に習って放置することにした。
この後も適当に時間が流れ、授業が終わってようやく昼休みになる。
当たり前ではあるがこの学校に給食という制度は存在しない。
その代わり所謂学食が別館にそびえ立っており、暖かい飯を求める者は食券を握りしめて昼休みを告げるチャイムを合図に一斉に走り出す。
弁当、パンを持ってきているものはゆったり教室で仲の良い友達と食っている。
それらの中間に位置するのが購買部であり、弁当やパン、飲み物が心せましと並べられている。
そこも休憩の10分くらいは戦争状態であり、ちょっとした満員電車を味わうことができる。
この三つの選択肢の内どれを選ぶかは生徒次第というわけだ。
学食までは行くのは億劫だし、一人暮らし同然なので弁当もないし作る気もない。
そうなると残るのは購買に行くという選択肢だけだ。
「はははっ、あはははは!いやいや、そこまで見透かされているとはね。これでは私だけが愉快な道化ではないかっ」
某中2病キャラであるヒノエさんの名言を声優ぶって音読するが棒読みなので折角のセリフが陳腐なものにしている輩がいる。
誰がだなんてもはや愚問である。
「おら、小説読んでないでさっさと昼飯を買いに行くぞ」
「なぜなら私は世界を滅ぼす絶対悪なんだ」
「うっせぇいつまでやってんだよ」
「なぜなら私は世界を滅ぼす絶対悪なんだ」
腕をピンと伸ばして本を読んでいる小学生に軽い手刀をいい音が鳴りそうな頭に食らわす。
「ウッ…」
その一撃でぱたんと小説を閉じる。
「…さ、昼食を買いに…なぜなら私は世界を滅ぼす絶たっひ…絶対悪なんだ」
ルビがずれてでもそう言いきった達也は立ち上がり、すまし顔で出て行く達也の後を追って購買に向かうのであった。
いっておくが突っ込む気は毛頭ない。
1階にある購買部に到着する。
俺達三年生は4階にあるため、2階や3階にいる1、2年生に必然的に距離のハンデを与えることになり、更に先程の会話によるロスタイムで俺達が到着する頃には人が溢れかえっていた。
相変わらずの盛況ぶりで、このゴミゴミとした風景は始業式の帰りを彷彿させる。
欲しいパンや弁当を我先と購買のおばちゃんに差し向け代金を払おうとしており、おばちゃんたちは目を回しながら怒涛の生徒の波に対応している。
こんなに人がいたら、捌けた頃には弁当は完売し不人気パンの残骸が戦場後に転がる末路だ。
俺も1年の頃はこの戦争に積極的に参加して欲しいものを強奪していたものだが、全て食い尽くした今、体力を削ってまで参加するほど欲はない。
大人しく余らない日がない『今最高に売れています!』という煽り文句が値札の上に書かれた『生トマトパン』とコッペパンをほぼ全部くりぬいて粉砂糖をただ詰め込んだピザご用達の『ピザパン』という、パンの名前が煽りという斬新なパンを買うとしよう。
もう少し引いてきたら買いに行こうかな。
「人混みがうっとおしいからここで少し待とうぜ」
購買部から少し離れた場所で事の成り行きを見ていた俺と達也。右肩隣にいる達也にそう通告する。
「よかろう」
片目を閉じてゆったりと頷く。
いるよな、特定のキャラが好きすぎてその口癖とか決め台詞を連呼する奴。―……なんだこのもやもやとした気持ちは。
「同族嫌悪 ってやつだよ」
「うるせぇその通りだよ、いわせんな恥ずかしい」
「はっはっは」
扱いづらい達也を横目に、バーゲンコーナーに群がるおばちゃんのような学生が三々五々していくのを待った。
それから五分後、人の出入りが良い塩梅になってきたので、さっと買い物を済ませる。
「さ、どこで食おうか」
至極普通に聞いてきやがった。
さっきの設定は最初から無かったかのような態度の達也に少々面食らう。
追求するだけ徒労なのでやめておく。
「そうだな…」
選択肢
┏1屋上
┣2教室
┗3職員室
…と本来ならここで選択肢が3つ出てくるわけだが、俺はこれを選ぶことしかできない。
「屋上で食うか?」
こんな天気の良い日は外に出て食うのが一番だろう。
という訳で屋上に到着する。
勿論屋上という位なのだから、学校の一番上、つまり5階に位置する。
俺と達也は1階の購買部からここまで来たわけだから、一気にのぼってきたということになり、額に少々汗が滲むほどの疲労を強いられる。
そんな学校の屋上は生徒達も自由に出入りができ、昼休みの憩いの場となっている。
というかあんまりギャルゲエロゲで屋上が解放されていなかったり、舞台にならないって事はないような気がする。
それにこの作品もしっかり踏襲しているわけだ。
憩いの場と今謳ったばかりだが、夏は熱すぎて冬は寒すぎて利用者は激減する。
が、今のように非常に過ごしやすい暖かさな春なので、爆発的に利用者は増幅する。
今日も屋上はちょっとした祭りでもやっているのかと錯覚するほどの人だかりだ。
「今日も賑やかだな」
各人が思い思いの昼休みを過ごしている風景を眺めながら率直な感想を述べてみる。
一方達也は目を細めて顎に手を当ててなにやら呟いている。
今朝黒羽にそうやったように聞き耳を立てる。
「この状態でもしテロリストが来たら俺はこうしてああやってこうなって…ブツブツ」
ラリアットを食らわせたい気持ちをグッとこらえながら中2病バリバリな達也を生暖かい目で見る。
「…あそこで食おうか」
俺が指さす先には丁度カップルがベンチから腰を上げているところだ。
そんな彼等を見た達也は片目を半目にしてゆるい笑みでこう言った。
「ん、なんだリア充か。でもあの男はせいぜい2、3人としか付き合ったこと無いんだろうな。俺なんてもう300人は超えたぞ?ん?」
これが現実と空想の区別つかなくなった末期患者の典型的な症状か。
非常に良いサンプルになりそうだ。
そんな末期患者は、彼に負けているのに誇らしげにそんな妄言を言うのだからもうどうしようもない。
「俺にドヤ顔されても困るんだが…。それにお前は2Dとしか付き合っていないわけで、あの人とは付き合っている人の次元が違う。」
正論を言ったつもりだったのだが何一つ顔色変えずに達也は反論してきた。
「はぁ!?俺ちゃんと『3Dカスタム小学生』で3Dの彼女と付き合ったし!はい完全論破!」
「も、盲点だったわ。すまない…」
「ふっ、若さ故の過ちって奴だな。気にするな」
…
「まぁどうでもいいや、座るか」
達也の返事を待たずに歩き出す。春の陽気が俺を誘ってきて仕方がない。
「ま…待ちなさいよっ」
『お嬢様系ヒロインが言いそうな言葉ランキング』第6位にはランクインしてもおかしくないセリフを言いながらしっかり付いてくる。
「よいしょっと…」
達也と馬鹿な会話をしていたせいで他の誰かが先に座ってきてもおかしくない状況だったが、幸運にも座ることができた。
このベンチの2メートル前後の正面には柵があり、その網の向こう側は所謂空中なわけだが、更に視線を奥へ向けるとこの町をうまい具合に見渡せるかなりおいしいポジションだ。
そんな非リア充お断りなベンチに両方非リア充な男二人が堂々と座るのはいかがなものか。
本物のカップルからひややかな視線が送られているのか、爽やかなはずの風が妙にしめっぽい気がする。
「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
鋼の心を持つ達也は全く気にした様子もなく購買で買ってきたのり弁をカッ食らっている。
実際の所あまり俺も気にしているわけでもないので、遠慮無くトマトパンの包装を破り、かじりつく。
味は悪くないのだが如何せん生トマトなため好みが分かれるのも当然だというのに、嘘の広告までして売ろうとするのなら販売中止にすればいいのに。
そんなどうでも良いことを黙考しつつ、パンを咀嚼する。
ゴクリと一口目かじったパンを完全に飲み込んだ時のタイミングだった。
「なんか視線を感じる」
「え?」
この男が視線を感じることができるとは思わなかった。
「この視線は『女の子』のものだな。我の鉄の処女の範疇にあるものを察知するなど、造作もない」
「そんな所だけめざとい達也はあながちオンナノコマスターの称号は伊達ではないのかもしれない。自称だが」
「なんだよその地の文は。それよりこの視線はマジだぞ、マジ」
のり弁を手元に置いてまで熱弁する辺り、本当らしい。
だからってキョロキョロして探そうとするのはなんか達也に負けた気がするので、俺はあくまで気にしない体で貫く事にする。
「ままmままmままm全くぅ!だだだっだ誰だよぉぉぉ。俺をみみ見つめる奴はぁぁ。まま、まぁ、おおお俺は全然っっ、きに、き、気にならないけどな?」
そう言いながらレーダーのようにグルグル首を回転させており、さっき自分が思ったことをぶち殺したい。
相手をしてられないのでコーヒー牛乳と言う名のコーヒー風味の砂糖水を一口啜り、甘い感覚を舌で満たしていると
「―す…m…ん」
唐突に女の子の声がかろうじて耳に入る。
そしてこの声の主は俺の予想の範疇を超えていた。
振り返り、その主に驚愕する。
「黒羽…?」
俺達の真後ろに立つ、黒髪を軽くなびかせる少女は、逆光のおかげもあるのか全身がやや黒く見えるその姿は天国へ迎えに来た天使のように思えた。
だがその正体はクラスメイトであり、自己紹介で爆弾発言をした美少女…黒羽雪見である。
っていうか達也はこんなに近くにいたのにどうして気が付かんのだ。
視線は気づけても姿は気づけない、何とも役に立たない鉄の処女のようだ。
達也が気づけなかった黒羽は若干息を切らせながら立っており、一番最初に合ったときと姿が重なる。
「こ…ここにいたんですか…」
「黒羽?一体どうした?」
台詞から察するに彼女は俺達を探してくれていたみたいだ。
一番俺に近づかないであろう彼女が何故話しかけてくれたのだ?
そんな疑問は直ぐに霧散したものの、別の疑問が浮かび上がった。
「……さっきの事を…謝ろうと…思って」
黒羽が自信なさげな声でそう言ったから。
謝る?何を?
「ん?いやいや、当然の事をしたまでさHAHAHAぁぃぢぢぢぢぢ!!」
頬を抓って黙らせる。
「さっきの事って?」
頬に手を離さずにそう聞いてみる。
黒羽には悪いが思い当たる節がないし、むしろ俺が謝らなければならないんだろうか。
そう意中を考えていると黒羽は実に重いであろう口を必死になって開きながら答えた。
「折角…話しかけてもらったのに…わたし…冷たくあしらったから…。すみません…人と話すのが私…苦手で…。それに…人に話しかけられるのが……久し振りで…驚いちゃって…つい…」
俺から無意識にはずれてしまう目線を無理矢理合わせようする黒羽の必死さがひしひしと伝わる。
やはり黒羽は人と話すのが苦手なみたいだ。
だがそんな彼女がこうして俺を探して、勇気を振り絞って来てくれたのは大変光栄なことであるし、なんて律儀なんだ。
「いや、俺のほうこそゴメン。なんか不良みたいな振る舞い方をして怖がらせてしまって」
自嘲気味にそう返事をすると彼女は困った表情になってこう言った。
「い、いえ…そんなことないです。私が悪いんです。本当にごめんなさい」
途端に彼女のつむじが露わになる。勿論黒羽が深々と頭を下げたから。
「そ…そんな頭を下げなくても…。ほら、頭を上げて」
思わず立ち上がり彼女の元に寄る。周りからしてみればかなり異様な光景である。
ゆっくりと俺の足元からだんだん顔を見上げる形で上目遣いをしながら顔を上げる彼女にドキリとしてしまい、顔に出ていないか心配だ。
こんなCGがあったら達也は有無を言わず即保存してしまうだろう。
「…ゆるしてくれますか?」
それこそ神に懺悔し許しを請う修道女な彼女を許さない理由などこの世にあるわけがない。
それ以前に許す許さないの話ではない。
「許すも何も、俺はそう言われる筋合いも理由もないよ」
そう黒羽に伝えるとほんのり笑顔を垣間見せてくれた。
こんな場面で彼女の初笑顔を拝めるとは思ってもみなかった。
あえて言おう、可愛いと。
「でもでもさ黒羽ちゃん、人と話すのは苦手なのにさっきの自己紹介ではもっとチャンスを欲しがってたみたいだけど?」
この良いムードの中、なんとも達也が無神経な質問をする。
「~~~!」
そんな疑問を投げかけると黒羽は忽ち手に持つのパンのトマト並に真っ赤になる。
それが意味するのははたしてどちらなのか。
「い…いえ…あれは…その…罰…罰ゲームです…よ」
胸前に軽く握った拳を押しつけ、前屈みで小首をフルフルと振りながら声を絞り出してそう言う。
それを唇を歪ませ何かを期待して聞いていた達也はあからさまに残念そうな溜息をついてこう言った。
「なんだ罰ゲームだったのか…羞恥プレイが好きなヤンデレ女の子っていうかなりレアなキャラかと思ったのにさ」
もはやこいつと同じ生物でいるのが恥ずかしくなってくるような事をかろうじて黒羽には聞こえていないみたいだが平然と言ってのける達也に痺れる。
「く、黒羽、変なことを思い出させてしまってすまない。ま、まだ昼飯も食べていないだろ?早めに教室に戻らないと昼食が終わってしまうんじゃないか?」
とりあえずこれ以上達也が余計な事を言ってまた変な誤解を作るのはゴメンだ。
一刻も早く黒羽にはこいつから離れて欲しい一心でそう聞いてみる。
「そ…そうですね…。謝ることはできましたし…」
涙目になりかねない瞳を向けてそう言う。随分前向きに捉えてくれたようで嬉しい。
「そ、それじゃあわたしはこれで…。本当にすみませんでした」
「あぁ、本当に気にしなくて良いから。わざわざありがとう」
まだ赤みが抜けきっていない小顔を縦に深々と振り、彼女は屋上の出入り口のほうに足を運んでいった。
二人でしばらくその姿を呆然と見つめる。
かなり重い人見知りだけど、律儀で良い子だなと改めてそう思った。
「…達也」
彼女の後ろ姿が完全に階段のほうへ吸い込まれた後、俺は言いたいことを言わせてもらう。
「ん、どうした?」
「どうした?じゃねぇよ。三次元の女の子は『耳』ってもんを持っているんだ、お前のさっきの言葉が聞こえていたらドン引きじゃすまないんだぞ?そりゃ二次元の女の子は画面の向こう側にいるわけで、お前がいくらブヒブヒ言ってもシナリオ通りにしか喋らないけどよ」
このエロゲ脳に現実の女の子しかもっていないものを教えてやると、一拍置いた後、なぜか殊勝顔になりこう返事をした。
「そ…それは…。……。紅…お前は気付いて…いないのか?この…『試練』に…、だ」
「なに?」
「俺は初めから自分の株なんてきにしちゃあいない。問題はお前の評価をいかに下落させるか…」
達也は空になったコーラのペットボトルを左手に打ち付けながら語るような口調でそう。
パッと聞けばそれはそれは酷いことだが、達也の話し方を憶測するに、ただ『遊んでいる』だけだ。
「俺は道化を演じることによって君たちを試していたんだ。…そう、初めからいっているだろう?」
酒が無くても自分の世界に泥酔できるこの男は、とびっきりのドヤ顔でこう続けた。
「私は世界を滅ぼす絶対悪なんだ(ドヤァ」
「嘘こけ!!後付の言い訳じゃねぇか!!」
「あへぇ!?」
達也のペットボトルを奪い、全力で頭に叩きつけたのだった。
面倒な掃除が終わり、午後の授業が始まる。
俺の掃除場所は4階男子トイレというサボるには絶好のエリアなのだが、問題はメンバーであり、省略したい気持ちを堪えて言わせてもらえば、達也である。
こいつと一緒に掃除などそれは掃除紛いなことしかできず、俺は終始ツッコみっぱなしだった。
おかげでかなり疲労をため込む結果となり、この5限は睡魔との死闘で終わりそうになる。
…かと思えば、時間割を見ればその瞬間、睡魔の圧勝で終わることが決定した。
なぜなら5限はあのエr…ロリ巨乳のまかり先生プレゼンツの現国だったのだ。
以前記したように彼女の授業は練乳も凌駕する程の激甘な先生であり、俺が居眠りしたところで先生にとってそれはただの生徒に過ぎず、叱りつける対象などではない。
という訳で俺は安心して睡眠ができる。
「は、はぁーい!皆さん授業をはじめちゃいますよー!」
身長の低さが本人が狙わないあざとさを呼ぶ。というのも教卓がまかり先生の大半を隠し、残るのは胸から上だけだから。
嫌でも見ざるを得ないその格好に、あざといと呼ばずなんと呼ぶ。
こうして子どもっぽいあざとい挨拶でまかり先生が授業の開始を宣告する。
ロリコンの目を殲滅させる姿に達也はとっくに天に召されていたが、幸い俺はそんな性癖を持っていないので依然として眠気が襲撃し続ける。
「ふぁ…眠い…」
ここは生理的欲求に従ってしばらくの休息をいただくことにしよう。
「あふ…」
一眠りしようと、体を傾ける。この調子なら数刻程眠ってしまうことができる自信がある。
意識が朦朧としかけたその時、何かが刺さる。
だが俺にとってそんな事は実に些細なこと――
「いってっ!?」
「くっくっくっ…」
後ろから笑をこらえた声がする。俺がしらない間に席替えがあった以外なら、誰がやったのかは明白だ。
「なんだ栗崎」
普通に後ろを向く。
「あはっ」
肩くらいまでのびている栗色のストレートの髪で、大きい三角のピンで髪を分けている少女がケタケタと肩を揺らしながら笑っている。
陸上部主将、栗崎あずきが俺の眼前にいる。
「授業中に刺すのは卑怯だろ」
「アハハッ、ごめんねっ。でも授業中寝ようとする辻村君もわるいよぉ」
これ以上ない正論を言われて完全に反論の活路をふさがれてしまう。
「うっ…、まぁ、それを言われたら何も言い返せないな」
両手をあげて参ったポーズをすると栗崎はシャーペンをまわしながら
「うんうん,授業は真面目に受けないといけないよ。定期考査赤点とっちゃうぞっ?」
「わかったよ,受ければいいんだろ?受ければ。でもその前に」
「んー?」
俺は栗崎の視線を誘導するようにゆっくり達也のほうにシャーペンで軌跡を描く。
「こいつをおこしてくれよ。俺だけじゃ不公平だ」
厳密に言えばこいつは寝てなんかいないし、現にこいつは目を開いて起きている。
だが精神は完全に飛ばしているのだ。いってしまえば植物人間状態。
そのことを主張すると栗崎はもの凄い不思議なことを言われたときのような顔をする。
「何であたしがそんなことしないといけないの?」
「え?おまえ,授業はちゃんとうけないとだめだって今言ったじゃないか。なら,授業をちゃんと受けていないこいつも起こすべきだろ」
「あたしそんなこといったっけ?」
10秒前に自分がいったことすら忘れたことを証明する爆弾発言。
「それにしても今日は暖かいね。あたし何だか眠くなってきちゃった」
「お,おい!ちょっと待てよ!?おまえさっき言ったことと180度回転しているぞ?」
「ふぇ…?今日ほど寝るのに適した日はないですよぉ。それじゃあ、お休み~」
「矛盾だ!矛盾だっ!!」
つい声をあげてしまった あ…
「辻村君ー?今は漢文の時間じゃないですよ~?今は現国ですよー?」
「す、すいません…!」
適当に謝ってこの場をやり過ごす。
「りょうかいですー。では続きを綾村さんおねがいしますね~」
授業を通常状態へとシフトさせることに成功させて微弱に安堵をした俺は、改めて栗崎に顔を向ける。
「栗崎」
「くくくくく…」
栗崎がまた、笑いをこらえていた。
その姿を見た俺に一筋の閃光が脳内を駆け抜ける。
罠だったのだ。俺を陥れるための…!
これは全て奴の罠だったのだ…!
……なんだよこの〆は……
という訳で中編終了です。
本文のなかにも書いてある通り、神納寺は元々存在しなかったキャラですので
彼女が行う行為に物語を動かす力はありません。
つまり神納寺との関わりの部分が無くても物語は正常に進むという事です。
なにこの言い訳って思う方は、是非次回もご覧下されば幸いです。
それでは最後まで読んで下さり、ありがとうございました。