4月23日/日曜日ー3度目ー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。
辻村君がまずとった行動とは一体?
それでは、どうぞ!
「黒羽,入るぞ」
「はーい」
「あ,辻村君,こんにちは」
「よう、今日も来たよ」
「どうぞこちらへ」
黒羽の顔を見るのが勿論第一であり、彼女の顔をみて安心したが、俺は確認した後彼女から視線をずらしてその存在を発見する。
進められるがままに、ベットのそばにある椅子に腰を下ろす。
日曜の午後、俺はまたしてもこの病院に来ていた。
目的は、3つ。
1つ目は勿論黒羽の様子を見て話をすること。
2つ目はハンガーに寂しそうに掛けられているに俺は用がある。
決していやらしい意味はなく、擦り切れて少々汚れている制服のポケットに二つ目の用件の全てが詰まっている。
対黒羽専用万能人形。訳せば『おばあちゃんからもらった人形』
そいつを入手して補修して黒羽に見せる。
これが今後俺がするべきことのひとつ。
推測でもなく仮定でもない。それを見せたら必ず黒羽は何かしら反応を起こすはずだ。
達也は馬鹿だと確信を持って言える位自信がある。
そして3つ目は、いつも通り妹の見舞いだ。
…と、つらつらと考え込んでいたら変わったものを見るような目で黒羽が見ている。
「すまんすまん」
「病室に入っていきなり考え事なんてしないで下さいよ…」
「ごもっともだ、悪かった」
黒羽は表情を変えずに話を展開する。
「というか、今日も来てくれたんですか?」
迷惑そうな言い方ではなく、普通に疑問系だ。
「ああ、当然だろ?」
「当然なんですか?」
「俺がお前を事故らせたんだから、治るまで来るのは当然だろ?」
「そのことはもう気にしなくてい言っていったのに…」
「いや、それじゃあ俺の気が済まない。それとも…迷惑か?」
「い、いえ、迷惑ってほどでもないですけど…」
視線を少し斜めに落とす。
「なんだかあなたを見ていると、こう、変な気分になるんです」
解けそうで解けない問題に直面したときの、むず痒そうな表情を浮かべる。
「変な気分?」
どういう意味だろうか。
「変な気分というか…なにか違和感を感じるんです…。それがなにかはわからないですけど」
「違和感ねぇ。もしかして前の記憶が蘇っていたりして」
「そうなのでしょうか?」
小首をかしげる。
「昨日辻村君が帰った後,私が事故に遭う前の事を思いだしてみたんですが…、何も思い出せませんでした」
鉛筆で書いた字を消しゴムで消しても完全に消えることはない。黒羽の頭の中でもその現象を期待したいが。
「ひとつでもなにか覚えていればなぁ」
やはりきっかけが必要だ。
光りの当たり具合で消した後の字は浮かび上がることもある。その光りの役割を果たしてくれるのはあの人形。
今のうちに聞いておこう。
「そうだ黒羽」
「はい?」
「制服の中のものを取って良いか?」
ぱっちり開かれた目は俺が言い終わると共に半目になるまで瞼が垂れ下がる。
自分の洋服の中を探られて気分がいいはずもなく、というかその眼は俺を疑うような眼だ。
「はぁ…構いませんですけれども」
一気に俺を見る目のレベルが一般人から変質者にダウンする。
「い、いや、そんなやましいことは考えていないって。俺が貸していたものなんだ」
「あ、そういうことならどうぞ」
彼女がなにも憶えていなくて数少ない好都合だ。ありがたく頂戴させてもらう。
「では」
ベットの隣に歩み寄り放置された制服に手を掛ける。
手に取った制服が鉛の様に重く感じてしまう。ただの制服だというのに。
今度は俺が助ける番だ。
「一体私は何を借りていたんですか?」
後ろで黒羽が気さくな質問を投げかけている。
「あぁちょっと待って」
ポケットに手を突っ込めばそれはすぐに手の内に。それを黒羽に向けて手を…
――…いやいや。
流れで自然とそう答えてしまったがここで見せて良い訳がない。
…いや、少し待て。
完全な状態で見せることが一番いいのは当然ではある。だが早めに見せた方が記憶は取り戻しやすいのではないか。
まだ事故にあって日にちはあまり経っていないうちに。
鉄は熱いうちに打たなければ意味がないように、もたもたしていると人形の力を持ってしても駄目になるかもしれない。
どうしたものか…
選択肢
┏1後で見せる
┗2今見せる
今は駄目だ。
この壊れた人形では黒羽の治りかけの傷をこじ開ける凶器になる。
「…秘密だ」
右手をポケットの中に滑り込ませる。
「え?どうしてですか?」
「今は見せられない」
「そ,それはどういう意味ですか…?」
「いやぁいずれ見せるから。今はな?」
「気になりますよ…」
残念そうな顔で俺の視線を捕らえる。
俺はそれに苦笑いで対応することしかできない。
ごめん黒羽。
「ところでさ,昨日のTV見た?」
早急に話題を変えて話を明後日の方向に逸らす。
それは不自然な対応に間違いないが黒羽も空気を読んでそれ以降人形について触れなくなった。
とりあえず駅前に戻ってきた。まだ時間はある。
俺がしなければならないこと、『人形を元に戻すこと』それ以外することはない。
俺に課せられた絶対実行の使命。裁縫の経験は学校の授業でかじった程度で実力は鼻で笑い飛ばせるほどだがやるしかない。
例え失敗しても何度でもやり直せる。現実はそうはいかないが。
まずは道具を揃える為に俺は商店街に足を向け、百貨店へ向かうことにする。
時間帯的に一番活気がある雑多な人々を縫うようにして歩いていき、すぐにその目的地へ辿り着き、ガラスの自動ドアが開いて店内に入る。
創業70周年を過ぎたばかりの老舗で何度か改修工事が行われているものの、どこか懐かしさを感じることができる大型百貨店だ。
休日ということもあってかなりの賑わいを見せている。俺は足早に手芸エリアへ足を運ぶ。
「おや?」
それはたった2文字であり、数多の喧噪の一つに過ぎないのに俺の鼓膜は見過ごすことなくキャッチする。
投げられたボールの主を探すためにエスカレーター手前で気付いた俺は、通行人の妨げにならないところに避難してぐるりと視界を一周する。
「おやおや? そこにいるのは辻村殿ではありませんか」
生まれる時代を間違えた休日なのに制服を着ている(立ち絵が制服姿しかない)少女がそこに立っている。
しかしその腰まで下ろされたウェーブのきいた美しい金髪は、その時代でも生まれる時代を間違ったといわれるのかもしれない。
「神納寺」
あたかもある時間でしか交流ができない特殊ヒロイン枠にいるような彼女はいつものように握られたGペンをくるりと回してこう言った。
「こんなところでお会いするとは…。これで3度目ですわね…ん?」
この間の台詞を忘れたとは言わせませんわとでも言いたげな思わずニヤリとしてしまいそうな表情で俺を見る。
「あ、ああ。でもな神納寺、4度目が二度あることは三度ある、三回目の正直を越えた、正真正銘運命の出会いということにしておこう」
「なんだが誤魔化されてような気がしますが…まぁそういうことにしておきましょう。次は覚悟してくださって?」
彼女のいつも通りの口調、仕草にどこか安心してしまう。神納寺は神納寺なんだと思わせてくれて。
「神納寺は一体何の用でここに?」
それに対して彼女は左ポケットからおもむろに漫画なんかで使われるインクを取り出して返答する。
「ええ、ただインクを補充しに来ただけですわ。辻村殿は今日どういったご用件でこちらに?」
どうやら彼女はもう帰る前だったようだ。これはチャンス。
正直な話道具を買いに行こうにもノウハウもハウツーもない俺は一体何をどう買えばいいのかさっぱりだったが、神納寺なら裁縫の一つや二つやっているかもしれない。
「ああ、そのことについてなんだが、暇ならちょっと付き合ってくれないか」
「あえ?しょ、しょうがないですわね…付き合ってさしあげますわ」
「ちょっと手芸コーナーにいかないか」
「しゅ、手芸!? …あー! わたくし裁縫得意なんですこう見えても」
よし、なぜか俺の誘いに瞬きを増やす神納寺が分からなかったが、これで力強い味方を見つけた…
「…なんですの、これ」
…はずだった。
「見ての通り待針だが」
神納寺を連れて3階の手芸エリアへ足を運んだ俺たち。
色とりどりの布や事細かに識別されたビーズ。多種多様の色と素材を揃えた毛糸など、趣味の人間なら宝物庫であろうふんだんに用意された手芸道具が並べられていた。
さっそく神納寺に人形のことについて説明し、アドバイスを貰おうと片手をポケットに突っ込んだそのとき、彼女から爆弾発言が投げ込まれた。
「あ? え? ま、まちばり? あ、あぁーまちばりですわね! うっかりしてましたわまちばり。うんうんまちばり」
発言が終わったと共に俺の神納寺からアドバイスを頂戴しよう計画は頓挫し、白紙に戻される。
「…あのさ神納寺」
「はいはいなんですの? ―…辻村殿?」
売り場を少し離れて質問する。
いつもより半音高い声で受け答えする彼女はある意味新鮮で良かったのかもしれない。
「裁縫やったことあるか?」
「…あー……もち―…」
「まてまてなんでそこで答えるまでにタイムラグがあるんだよ!」
確信する。彼女はやってないと。
「あー…うー……はい。ごめんなさい嘘をつきましたわ辻村殿。小学校以来やってないですわ」
観念したようで、ガックリと肩を落として真実を供述する。
「んふふ…辻村、まちばりを失念してしまうくらいのダメ人間をどうぞ笑いなさい?」
ハッハッハとキャラが崩壊してしまうほど落ち込んだ神納寺は乾いた笑いを漏らす。
「落ちつけ。神納寺みたいに授業でしかしたことない人間なんてごまんといるから気にしないでいいよ」
「ですが辻村殿の期待に応えることができませんでしたわ…」
可愛い人形や小物を作っていると勝手に俺の脳内がイメージしていたが、ちがったようだ。
「そう思ってくれるのはありがたいが、なぜ嘘をついた?」
「……それを聞かないで下さらない?」
顔を赤くして無念そうに口をへの字にする。そこには羞恥だけでないなにかが混ざった顔色だった。
別に怒っているわけではないのでわかったと頷いた後話題を転回する。
「やっぱり神納寺は占いが趣味なのか」
「…ええそうですわね。わたくしといったらやっぱりこれですわね」
これという名のペンを器用に指と指の間を走らせながら答える。やっぱり彼女にはそれが性に合う。
「ここで買い物が済んだら占ってくれよ」
「も、勿論ですわ! ささ、買うべきものは早く買ってしまいましょう」
手元が明るくなるくらい元気を取り戻した神納寺が売り場へ足を運ぶ。
店員に聞きながら必要なものを揃えるとしよう。
彼女の背中を追って歩き出した。
なんとか必要な道具と材料を買い揃えた俺たちは5階にある自動販売機と丸テーブルの周りに椅子が置いてあるくらいの簡易休憩所に到着した。
老夫婦や子連れの母親がちらほらと利用している。
神納寺に椅子をすすめて財布を取り出しながら聞く。
「なにか飲みたいものはあるか。付き合ってくれた礼に奢るよ」
「本当です? そしたらミルクティーをお願いできますか、ホットで」
「あいよ」
自動販売機に向かい小銭を突っ込むなんでもない行為なのにあの事故が過ってしまう。
あのとき俺が自動販売機を見かけないで、そのまま歩いていたら車は俺たちより先に通り過ぎていた。
走らなければ、彼女を傷つけることはなかったのに。
俺が……
「辻村殿?」
「あ、すまんすまん」
お金を入れたのはいいものの、ボタンに指を置いて静止してしまっていたようだ。
慌ててミルクティーとコーラを買って神納寺に差し出す。
「ありがとう。どうしましたの?」
「いや、なんでもないよ」
受け取りながら神納寺は少し不思議そうな顔をしたものの、特に気にした様子なくフタを開けて紅茶に口をつける。
今は思い出しても仕方がない。そう思って席についてプルタブに指をかけて炭酸が抜ける音と共に気持ちを切り替える。
アフターミルクティーを一口飲んだ彼女はテーブルにペットボトルを置いて手の一部と化してる筆記具をどこからともなく取り出し、ポケットからインクを出す。
「それで、一体なにを占ってほしいですの?」
汚名返上と言わんばかりに気合の入った声で俺に催促する。
勿論なにか役に立ちたいという彼女に対して気遣ったというのもあるが、本命はこれだった。
「黒羽の今後について、だ」
「えっ、くろはというと以前辻村殿がわたくしに探させた、あの黒羽ですの」
「そうだ、彼女を占ってほしい」
少しじとっとした目で見られる。
さっきの期待感が入り混じった声はなんだったのか、面白くない成分8%配合された機嫌になっている。
「確か名前はゆきみ…黒羽雪見でしたわよね。一体どうして彼女を占ってほしいのです?」
「実は彼女が事故にあってだな」
「えっ!? 大丈夫でしたの?」
さっきの面白くない成分はなんだったのか、手のひらをくるりと返して彼女を心配する。
他人に近い人間でも心配できる神納寺はやっぱり根は優しい女の子だ。
「いや、そこまで大きな事故ではなかったんだけどさ。今後彼女は大丈夫なのかなって」
「そうでしたの…。わかりましたわ、そういうことでしたら」
いつものようにかなり消費されたメモ帳が取り出され、またその一ページがこの謎の占いに使用される。
礼の儀式が始まろうとしていた。
「では」
言うや華麗に回されたGペンは可憐に舞い、うまい具合に片手で蓋を開けられた新品のインク瓶の中に収まるこの一連の流れはもはや金がとれる。
一瞬でペン先に溜ったインクを適正量まで瓶ふちで拭われてメモ用紙に一言『占い』を一筆書きする。
「黒羽さんの今後…それは!」
最早突っ込むことを諦めた揺れる文字は新たな形へと変貌する。
そこには
『苦』
の、一文字が。
「あ…」
文字の意味が意味だけに、神納寺はばつの悪そうな顔をする。
しかしすぐにそんな顔をした表情を吹き飛ばすように首を激しく横に振る。
「……いいえ! 苦しみこそあれどすぐ乗り越えられるって意味ですわよ!」
それこそ苦しいフォローを頂くが、鵜呑みにはできない。
彼女の占いが眉唾物ならともかく、黒羽のときも世話になったし、前回占ってもらった時もその結果は神納寺には申し訳ないが的中していた。
その実力を目の当たりにしている以上、彼女はこれから苦しむことになる可能性の方が高い。
「そうだな。きっとそうだよな」
「ええもちろんですとも辻村殿…それに! わたくしの占いは外れるときもありますし…!」
慌ただしく身振り手振りを交えてそういった後、居心地の悪さを紛らわすように俺から視線を外して脇に置いておいた紅茶を飲む。
占いの結果は不吉なものであったが、受け入れる他ない。
「さあ、気を取り直しまして他に何か占ってほしいことはあります?」
その後神納寺と暫く休憩所でお茶をしていたが、俺は心の底から楽しむことはできなかった。
場所は変わって駅前にあるいつもの噴水広場の前。
辺りはすっかり暗くなり、改札口からは部活を終えた学生や会社帰りのサラリーマンが忙しく各々の帰路を歩いている。
「それじゃあな神納寺、今日は付きあわせて悪かった」
「そんなことないですわ、わたくしは楽しかったですわよ?」
「じゃあまた学校で」
手を上げて彼女を一瞥して踵を返す。
「…あの!」
雑踏に紛れて消えてしまいそうなたった2文字の言葉なのに、どうしようもなく引きつけられて俺は振り返ってしまう。
「占いはあくまで未来を予知するもの…ですがその未来の未来はきっと変えることができるはずですわ!」
ただの慰めなのか、気遣いなのかわからないが彼女は人ごみに紛れながらも真っ直ぐにそう言い放った。
俺はもう一度手を振ってこの場を後にした。
針に糸に布。
素人ながら必要であるものはとりあえず揃えた。
普段俺の勉強机に乗ることがないはずのものがこうもあるとかなり異様な光景だ。
これでようやく治療をすることが出来る。
ポケットから重症患者を取り出す。
戦場から戻ってきた兵士のような見れば見るほど無惨な姿だ。
右手右足はもげ、胸は血のような大量の綿があふれている。
ここは黒羽が補修している途中だったのだろう。
こう改めてまじまじと見つめるといかに傷が深いかがわかる。これが人間なら白旗を揚げて降参するが、人形なら話は別。
早速作業に取りかかることにした。
針を置き、天井にぶら下がる蛍光灯を見上げる。
その左指は血の丘がいくつも連なり、小さな痛みが何重も襲い掛かる。
なんだこの難しさは。
いや、千切れた腕を繋ぐことくらいなら俺でも出来た。
問題はその完成度であり、おばあさんが縫っているところは一つも狂いなく正確に縫われている。そう、完璧に。
いかにこの人形を丹誠込めて作ったが伺える。
それに比べて俺が縫ったところはなんだ、全て見劣りする。技術の差は素人とメダリストを比べるくらい雲泥万里の差。
初心者だから仕方ないと言えばそれで終わりだがそんな事を言っている場面ではない。
限界まで元に近いものを見せないと話にならない。
嘆いている暇があったら手を動かせ。再び作業に没頭する。
それから何時間も人形と向き合って針を通す。
間違って針で指を刺した回数なんてもう覚えていない。
指は絆創膏だらけになる一方、人形は何一つ変わっていなかった。
というわけで終了です。
神納寺と遭遇する件は原作ではないのですが、突っ込んでみました。
人形を復活させると意気込む辻村君、でもその道のりは険しいようです。
それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。