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4月22日/土曜日(後)ー現実ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。


後編です。

黒羽は無事なのでしょうか?


それでは、どうぞ!


皮膚に刺さる日光。

人は日当たってないと皮膚に痛みを感じるらしい。

今日は土曜の4月22日、俺は3日間部屋にいたことになる。

無感情で漆黒の蜃気楼に包まれた部屋は時を異常に加速させていた。

はやく黒羽の元へいかなければ。

最近やけによく通っている圧倒的な存在感がある病院の中へ入る。




「あら辻村君じゃない!」

ナースセンターから顔を出したのは、いつもの看護士さんが。

「明日香ちゃんに会いに来たの? んー彼女ができたことを報告しに来たのかな?」


いつもならここで雑談をしていたいところだが、今の俺にそんな余裕はなかった。


「すみません,今日は急ぎの用があって」

「あらごめんなさいね。どうしたの?」

「黒羽雪見,という人のお見舞いに来たんです」


瞬時に仕事モードに切り替わった看護師さんはその言葉に表情が一瞬固まり、記憶を辿っている。


「くろはゆきみ?…あの子ね」


履歴には最近のところにあったようで、すぐに思い出してくれた。。


「どこの部屋か分かりますか」


看護士さんには申し訳ないが一刻もはやく彼女に会いたい。


「ええ2階の……209号室にいるわ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


俺の思考回路には黒羽しか浮かばない。

突き当たりの階段目指して小走りをする。


「…えっと,今は…」


看護士の掛け声は最後まで俺の耳に入ることはなかった。





「ここだ」


209号室。

大した怪我じゃなければいいのだが。

二度と歩けない体になっていたり、そうでなくても切断を余儀なくされていたりしていないだろうか。

直前にきて緊張が心臓の鐘を連打する。

…大丈夫だ。

祈る気持ちで慎重にその扉を開く。



肺が一瞬止まる。

文字通り息を呑んでしまう。

そこには常に清潔を保たれたベットに寄りかかる少女が、紛れもない、黒羽雪見だ。

奇跡的に体には特に目立った傷はみられないが、頭に巻かれた包帯が痛々しさを俺に見せつけてくる。

この環境はどこか異質だった。

妹の病室となんら変わりないはずなのに、シンプルな病室であるはずなのに、どこか神秘的ななにかがこの部屋を支配している。

彼女はこちらに気付いてはいなく、窓の向こうを見つめている。

その無表情は,何を考えているのか考えさせてくれない。

声をかけてみようか。

でも彼女がこちらを向いたそのとき俺は、一体どんな顔をすればいいのだろうか。

雪景色をそのまま染め上げたようなカーテンが風に揺られてなびいている。

長考の合図が出る前に行動の駒を動かす。

笑顔だ。笑おう。

そうじゃないと黒羽が俺を助けた意味がない。

俺が悲しんでいては身を捨ててまで助けてた彼女は報われないだろう。


「…く…」


無意味に入る力が喉を詰まらせる。


「……黒羽」


別に告白しているわけでもないのに声がうわずってしまう。

聞いた彼女はゆっくりと振り返る。

それに合わせて予定通り笑う。

そして凍り付く。


「どなたです?」


黒羽の言葉は、あまりに無慈悲で無感情だった。

瞬間、目の前がフラッシュを焚いたように真っ白くなる。

目の前が真っ白になるというのは比喩でもなんでもないことを身をもって確信する。

冗談が分からないほど俺は馬鹿ではない。だがこの言い方は明らかに冗談には、どんなに曲解してもそう解釈できない。

どう考えても初見の人間の対応だ。本気で疑問符が籠もった質問。

黒羽が重傷でなかったことの安堵感などどこかにいってしまい、一気に新たな懸念が刻一刻と現実になりつつあった。


「な、俺だよ辻村だよ。悪い冗談はよしてくれよな」


目に嫌でも映る頭にある包帯。


「な?」

「すみません、あなたとは初めてお会いしました」


彼女の悪意のない極めて平常で放たれた言葉に俺はこれ以上ない異常を認めなければならなかった。

――…。

ドラマや漫画でしかないと思っていた『記憶喪失』は、目の前の少女が俺のせいによって現実世界に降臨した。

黒羽は事故の衝撃で記憶を失った。それ以外のなにものでもない。


「ど,どうしたんです?」


四日前の黒羽から『不安』が抜け落ちたような喋り方。

決して悪いことではないが、それはあまりにも悲しい。


「黒羽、本当に俺が思い出せないのか?」

「くろは? 私の名前を知っているんですか?」


小首をかしげる。

所持物から名前を特定した医者が彼女に言ったのだろうか。

そんなことはどうでもいい。

記憶喪失?冗談じゃない。

心拍数は彼女が平静でいればいるだけ比例し、絶対に信じたくない焦りがつい語気を荒くしてしまう。


「辻村紅、俺だよ!思い出してくれよ!!」


無駄だと分かっていても聞いてしまう。


「うわわ,そんなに大きなこえださないで下さい」

「そんな嘘だろ!?記憶喪失だなんて嘘だろ!?」

「いきなりなに言い出すんですかぁ!?」


認めたくない。

記憶喪失は命に関わるほどの重傷ではないし、今までの記憶が蘇る事がないというわけではない。

だが、逆も然り、一部の記憶が欠け落ちたまま戻らないこともあれば記憶がこのまま永遠に戻らないこともあるだろう。

そんなのは…嫌だ。

3年に入ってからの俺たちの関係がなかったことになるなんて、最後まで書き上げたテストの答案用紙が白紙に戻るなんて考えたくもない。


「嘘だ…嘘だ…!」

「嘘じゃないわ。…辻村君、その子は事故の時に頭を打って記憶を失っているわ」


開けっ放しになった扉の前に立っているのは、俺のいつもとは違う態度を察したのか看護士さんが来てくれていた


「看護士さん」


不安を拭ってない顔で看護士を見てしまう。

それを見た彼女は軽いため息を吐いて二歩前にでる。


「とりあえず部屋から出ましょう」


俺は迷いなくうなずき,看護士の後ろに着いた。

黒羽は突然来訪し突然慌てだす奇妙な客をただ純粋に、不思議気に見ていた。

俺はその顔がなによりも見たくない。今まで積み上げていた関係性が更地に戻されるなど夢にも思わなかった。

閉じられた扉。周りはいつも通りの風景。彼女の部屋だけがどこかパラレルワールドの狭間にいると言われれば俺は疑いもなく信じる自信があった。


「見たところあの子の知り合いみたいね」

「…はい」


普段見せるとのない動揺した俺に看護師は気を使って優しい口調で聞いてきた。

とりあえず説明からはいる。


「黒羽は俺を庇って事故に巻き込まれたんです」


平静を保っていた彼女に驚きの波紋が広がる。


「なんですって?」

「実はですね…」


俺は看護士に事故の前後を話した。


……


「…ということだったんです」


今まで一言も聞き漏らさなく聞いてくれた看護士が口を開く。


「…そんなことが…あなたも大変だったのね」

「俺のせいなんです。俺が飛び出したばっかりに…俺の…俺の…」

「そうやって自分を責めないの」


ぴしゃりと言われる。

いつもニコニコしている天使のナースではなかった。


「黒羽さんはあなたを助けたいから庇ってくれたんでしょ? 助けられたあなたそんな弱気になっちゃだめでしょ」

「それは、そうなんですけど」


的確に物事を判断するあたり看護士さんは大人だ。

俺もそのことは分かっている。だだ理解はしても納得することができない。


「いい?黒羽さんの前では決して弱気なところを見せないこと。見せるなら明日香ちゃんのところで見せなさいよね」

「はい?」

「そうすれば次の日には明日香ちゃんが私におもしろおかしく話してくれるからね」


口元を押さえ笑いを押し殺す。それは看護士さんいつもの笑い方。


「は、はぁ…」


俺の気持ちを落ち着かせるための気遣いと配慮なのだろう。


「ふふ、まぁ今のは冗談だとして…黒羽さんのところで弱気を見せちゃ行けないことは本当よ」

「はい、分かりました」


頷く。


「さっきも言ったけど彼女は事故の衝撃による記憶喪失。頭部に外傷は有るけれど脳へまでダメージはないわ」


それだけで済んだのが不幸中の幸いかと胸を撫で下ろした手を止められる続きがあった。


「その他の外傷は…肋骨が2本,折れているわ。まぁ交通事故でこの程度で済んだこと自体が奇跡ね。他に目立った傷はないわ」

「そうですか…」


死ななかっただけでもよかったと言う事か。


「あと記憶喪失の程度だけど…」


聞き耳を立てる。

今しがたの会話をした限りでは自分の名前も憶えていないレベルであったが。


「…かなり忘れているわ。言葉はしゃべれるみたいだけど自分の名前とか事故のことは全く覚えていないわ。今辻村君から聞いた話は初耳でしたもの」


…かなり重傷だ。


「……それで、思い出すことは出来るんでしょうか」


一番重要で、できれば聞きたくなかったことを聞いてみる。

合格発表の日に自分の番号を見に行きたくはないが見ないわけにはいかないあの不安と期待が交差する心境に似ている。

看護士さんは横に首を降る。

俺の番号はなかったというのか。血の気が引くと同時に最悪の結末を予想しかけたが、続く言葉で撤廃する。


「…それはわからないわ」


可もなく不可もない解答。

寧ろ俺はそれを望んでいたのかもしれない。


「そんな…」

「記憶喪失ってそういうものなのよ。こればっかりは,私達にもわからないわ。これからこちらもいろいろ治療を試してみるけど、はっきりと治る見込みは皆目見当も付かないわ」

「俺に…何かできることはないんですか。俺、黒羽のためなら何でもします」


まっすぐと看護士を見る。

勿論今言った言葉は本気だ。

命を張ってくれた黒羽になら命も張れる。


「ふふっ…」


笑窪を見せて笑ったのはそのときだった。


「あなたがそんな人だから彼女はあなたを庇ったのかもね」


からかっているわけではない、看護士さんの本音と思われる言葉。


「…そうでしょうか」

「きっとそうよ。それほどあなたを信頼していたんじゃないのかしら? こんな風にあなたが看病してくれるってわかってたから」

「…わかりません」


信頼。

どうしても強調されてしまうその言葉。

今まで誰も信用していなかった彼女が、言葉では改心したように言っていた彼女が、俺を心の底から信用してくれていたのだろうか。

そして今も。記憶を失った今の彼女も、俺を信頼してくれているのだろうか。もしくはしてくれるだろうか。

答えはでるはずもなかった。


「そうね,あなたができることはひとつよ」

「それは」

「それは…できるだけ傍にいてあげることよ。そしていっぱい話ししてあげて」


それはあまりにも簡単で当たり前すぎて。


「それは,最初からするつもりです」

「でもね」


釘が刺される。


「思い出してほしい気持ちはわかるけど、焦って彼女に言葉で責めたり、嫌なことを無理やり思い出させようとしたら駄目。彼女が混乱してしまうから」

「わかりました」

「ならこれ以上言うことはないわ。あなたの力で黒羽さんを元気にしてあげて」

「…はい、ありがとうございました!」


お礼を述べた後、またねと看護士さんは去っていった。


「行くか」


俺は背にある扉に体を正面に向けて再びノックする。


「はぁい」

「黒羽」


異様な雰囲気を漂わす部屋に再び入る。


「あ…」


町から俺に視線を切り替えた黒羽はなんともいえない顔を向けてくる。

どちらかといえば不審者を見るような訝し気な表情。

その姿は穢れを知らない無垢な子どものようで、子どもがそのまま高校生になったような初心さがあった。


「こんにちは」


歩み寄る。


「こ、こんにちは」


先程の対応をされたのだから当然警戒心丸出しの挨拶が返ってくる。


「さっきはごめん。いきなりわけ分からないこと言って」

「あ,ああ。気にしないで下さいよ」


言葉の裏に潜む不審の情。

不審から憤慨にかわるであろう言葉を今から言う。

それでも,近くにいて良いというのならそうする。

それは俺の中でのけじめ。

今看護師に戒められた


「俺、おまえが記憶があった頃友達でいた人なんだ」

「え?」

「そして今から言うことを聞いて欲しい。それで怒ったら怒って良いし殴りたかったら殴ってくれ」

「…え?」


目をぱちくりさせて唖然としている。

俺も彼女と同じ立場ならそうするだろう。


「黒羽をこんな状態にしてしまったのは…俺のせいだ」

「…え…?」


まぶたは開けたまま動かなくなる。


「黒羽が俺を事故から守ってくれたんだ。俺が不注意で車に轢かれそうになったところをおまえが俺を突き飛ばして代わりに轢かれてくれたんだ…俺さえ注意していればこんなことにはならなかったんだ。本当にごめん…」


頭を下げる。

黒羽の善意だろうとなんだろうと、彼女をこんな目に合わせた事実は変わりない。


「…気にしないで下さい」


特に考える様子もなく黒羽はすっと答える。

彼女は波風一つ立てずに、先程となんら代わりない顔で言う。


「だからその頭を上げて下さい」

「いや、申し訳ないよ…」

「…申し訳ないですが、それは他人事のようにしか聞こえないです」

「え?」

「私にそうしてそうなったという記憶がない以上それは今の私にとって…他人事ですし…その話なら私はあなたを助けたかったからそうしたんだと思います。気にしないで下さい」


確かに至極真っ当でごもっともな意見である。

記憶がない以上それはただの他人事で、彼女にとって今がスタートなのだ。

その言葉で俺は救われたとは……思えなかった。

黒羽であって俺が知っている黒羽じゃないような気がして。

それはただのエゴなのかもしれない。わかっている。

黒羽は記憶を失った。これが現実。

その現実を受け止められない我が儘な子どもなのかもしれない。

それでも、今までのことはどうでもいいといわれたようで胸が痛む。


「ね?」

「でも…」

「本当にいいですって。忘れてしまいましょう。私は…全部忘れてしまったんですから」


その言葉は轟音を立てて胸に突き刺さる。

こうなったからにはこういう対応しか出来ないのは当たり前なのに。


「…そうだな」

「そうですよ」

「改めてよろしくお願いします」

「あ、ああ」


黒羽は『それでいい』といいたげに薄く笑い頷く。


「では自己紹介してもらったからには私もさせてもらいます。私の名前はくろはゆきみ…だそうです?」

「疑問符を付けないでくれよ…」

「そ、そんなこといわれても困ります。昨日お医者さんに聞いたばかりですから」


頬を指でカリカリしながら半笑いする。


「えっと…つじむら…くん」


もの凄く慣れないものを話してる感じがある。


「あなたは私が記憶があったころの友達…だったんですね?」

「ああ」

「そのときはありがとうございました」

「あ、ああ」


そんな丁寧に頭を下げられては俺もこう相槌しかできない。


「そしてわざわざ見舞いに来てくれてありがとうございます。私全然覚えていないんです。過去の事が全くと言っていいほど……。どうしてここにいるのかとか…私は一体何者なのか…とか」

「そうか…でもなにか覚えているかもしれないよ」

「そうですね、何か覚えているかもしれません」

「とにかく黒羽がなにか覚えていないか。俺が知っている黒羽のことを全て話すよ」

「わかりました。聞かせて下さい」


表情を引き締め、聞く体勢を取ってくれる。

中庭から楽しげな子ども達の声が聞こえる。


「…自分のおばあさんを覚えているか?」


語りかけるように、ゆっくりと。


「おばあさんですか?」

「そう」


なによりも覚えている可能性が高いのはこの人以外あり得ない。

黒羽の恩人であり親であるおばあさん。

しかし、その小首は横に振られる。


「…すみません、覚えていないです」


…逆に言えば,これを覚えていなければ他を覚えているはずもないのではないか。

漫画の主人公を知らない人間が、1話しか出ないモブキャラを覚えているとは思えない。

だからとはいえ、ここで簡単に諦めるのもどうかしている。

モブキャラを偶然覚えているかもしれない可能性にかける。

手当たり次第質問してみる。


「そうか,じゃあ…中原」


おばあさんの次はやっていたことはとりあえず棚に上げて、印象深いのはいじめられた人で間違いないはずだ。

だが、小さな首は縦に振らなかった。


「栗崎」


頷かない。


「桜山ヶ丘公園」


すみませんで一蹴。


「達也」


だれですか?そうですか。端から期待していない。

この後も俺が知り得る限りの単語と出来事を話す。

結果は言うまでもなかった。






「…わかりません」

「…そうか」


いくら質問しても答えは全て同じ。

もうボキャブラリーはとっくに底をついた。


「…これ以上はないな」

「すみません、本当に何も覚えていなくて…」

「いや、徐々に思い出すだろうよ」

「だといいですが…。でも私の記憶が合った頃のことがわかっただけでもいいですよ。もっと聞かせて下さい,私の過去の事」

「…、黒羽がそういうなら…」


その後,俺は黒羽と二時間ほど話した。

俺がしってる限りのおばあさんのこと、栗崎や神納寺、ついでに達也の事も話した。

いじめにあっていたことは言わなかった。

黒羽は終始笑ってくれた。

その人達に会ってみたいとも言ってくれた。

その笑顔は嬉しかった。

…だけど。




「それじゃあまた」


そういって優しく微笑む患者に挨拶を済ませて扉を閉める。

直後、病室で我慢し続けていたため息が盛大に吐き出される。そのため息を聞く人間は誰もおらず、おかげで一層憂愁を引き立てる。

どうしてもあの黒羽の笑顔が黒羽の仮面を被った偽物の笑顔に見えてしまう。

本物が笑っているはずなのに本物が笑っていない。矛盾しているがそう感じるのだから仕方がない。

今の黒羽を否定するつもりはない。黒羽は黒羽だからだ。

でも俺は一刻も早く記憶が戻って欲しい。

結果的に事故を負わせてしまったのだから尚更だ。

俺が黒羽の『記憶』をなくしたのだから,それを見つけて返すのが礼儀だ。俺の願望で俺の欲望だということは重々承知だ。

でも彼女はああいっているが、戻った方が良いことに越したことはないはず。

…そう解釈して自分の行為を正当化するのもいいところで、自分のこの思考にはうんざりだ。

さっきとは毛色の違うため息が出る。

…今は俺が信じたほうの道を進むしかない。とりあえず、記憶を取り戻させる方法を考えよう。

おばあちゃんの単語や話ですら思い出す気配のない彼女に一体なにをすれば記憶が戻ってくれるのだろうか。

外に出て、白いはずが綺麗なオレンジ色に染め上がっている病棟を見上げて考える。

―その答えは案外すぐに思いつく。



選択肢


┏1人形を見せる

┗2俺の話をする

    

流石に2は自惚れすぎだろう。




というか考えるまでもない。黒羽にのみ絶大な効果を発揮する黒羽のおばあさんが貰ったあの人形。

その破壊力は正気を失った時でさえ人形を見ると我に返るほどでもあり、持てば勇気がでてくるほどで、効果は実績と共に折り紙付きだ。

これほど信頼できる切り札はない。

出せば勝てる、ロイヤルストレートフラッシュ的存在であり、もうそれしか頼み綱は存在しないだろう。

だが、黒羽が直しかけていたそれは頭が胴体と離れていたり、綿が飛び出ているところもあったはずで、まだ完全な状態とは言えない。

この人形を見せるのなら貰った当時のレベルまでの形でなければ、黒羽の深層に眠る記憶の扉を叩けない気がする。念には念を入れるべきではないだろうか。

だがそれを補修するのは誰か?

…俺しかいないだろう。

それがけじめ。

彼女が俺を助けてくれたのだから俺も俺の手で彼女を助ける。

そう考えると明日も忙しくなりそうだ。

頭の中で計画を練りながら俺は我が家に帰った。



というわけで後編終了です。


交通事故からの記憶喪失という黄金パターンです。

彼女の記憶は戻るのか? それとも。


それでは最後まで読んでくださりありがとうございました。

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