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4月19日/水曜日(後)ー転機ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで後編です。


扉を開けたのは…?


それでは、どうぞ!


「辻村君!!」

「黒羽!?」


この期に及んでこんなご都合主義的な展開があろうとは。

ここで叫ばなかったのは上出来だ。

天地が二回ひっくり返ってもあり得ないことが俺の目の前で広がっているのに。


「はぁ…はぁ…」


この事件の最大の関係者、そしてこの事件解決の最大の鍵を握る少女が俺の隣に立っている。

その目には不安を拭い切れていない怯える小動物の目だ。それでも恐怖をなんとか堪えている。


「黒…黒…」


新たなる来客、それは銀堂にとって最も招かれざる客であり、復讐すべき敵。

一気に顔の体温が上昇し、みるみるうちに赤くなる銀堂は爆発の予兆が漏れ出ている。

それを察した黒羽は急いで開いた扉を閉め、耳を塞ぐ。

俺も耳の穴に人差し指を、できるだけ深く挿れる。


「くぅぅうううろおおおはああああぁああ!!!!」


衝撃波が発生しかねない音量劇量の叫び。

覚醒、そんな言葉がしっくりくる。


「貴様ぁあぁ!!どの面下げてきやがったぁあ!!!」


これでもかという位目くじらをたて血管が浮き出ている…いや、生易しい表現なので訂正する。あれは血管が破裂するかしないかの極限状態だ


「黒羽ああぁああ!!!!」


怒りのエンジンにニトロを放り込んだこの男は体を震わせ、憎悪を最大限開放している。


「ひっ…」


頭に角が生えれば鬼に転生完了の銀堂を見て、後ずさるのはむしろ自然。

顔を強張らせて恐怖を有りのままに表現している。


「黒羽!一体どうしてここに!?」


来る理由が見つからない

しかし、彼女が言った言葉に、俺は納得せざる終えなかった。


「……私は…銀堂さんと話しに来たんです。私いいましたよね『もっと前向きに生きていこう』って。それを果たそうと思ったんです。私…一人の力で」


中原達は銀堂の元で動いていた、ということを知っていたというのか。


「ほ、本当…か?」

「はい…隣町に辻村君が行くって言っていましたが、まさかこの町で、同じ電車に乗っているとは思いませんでした」


ほんの少しの安堵から来た笑なのか苦笑なのか分からないはにかんだ笑顔を向ける。


「無視してんじゃねぇよ!!」


銀堂の目の焦点は黒羽一点張りで、視線で彼女を殺しにかかる。


「私、びっくりしました」


しかし彼女はそんな視線を無視し


「入ろうとしたら、辻村君がいたから…」


淡々と話す黒羽。


「それと…銀堂さんが…怖くて」


言葉一つ一つに不安が混じっているのがわかる。


「この扉の前で、ずっと見ていたんです」

「聞いていたのか…」


黒羽は、ずっと俺達のやり取りを聞いていたのだ。

不自然に開いた、その隙間から覗き込んで。


「いつ入ろうか迷い…、いや、入る勇気がなかったんですが、辻村君が私を『信じている』って言ってくれたとき…入ろうって、決心がついたんです」


この苛烈を極める戦場で黒羽の一輪の微笑みが花咲く。本人には決してそんな余裕はないはずなのに、彼女はあくまで気丈に振る舞った。


「ぐぉらああ!!俺様を無視してんじゃねぇ!!!」

「ひっ………ぎ、銀堂…さん」


この選択は彼女にとって茨の道であり、地雷原に裸足で突っ込んできたとんでもない選択だ。

それなのに彼女は銀堂に立ち向かっている。

逃げ出しても誰も文句を言わないというのに、一体何が彼女を強くしたのか。誰も信じられなく、なんに対しても無関心だった彼女を。

…そんな疑問は愚問か。

彼女のその小さな手に握られたそれ。


『これは雪見に元気と勇気をくれる人形なの』


そんなおばあさんの声が、聞こえたような気がする。

人形は黒羽の手にしっかり握られていた。

黒羽の勇気を奮い起こさせる、今まで共にしてきた最高の家族。

それは縋るだけのものではなくて、共に生きていくものであるとわかった今の彼女だからできることなのだ。


「銀堂さん、落ち着いてください」


彼女はその『家族』と共に敵に立ち向かっている。


「落ち着いてられっか糞野ろおおぉおお!!!」


黒羽は良く尖った視線を受け取り、話す。


「私…知っていたんです。あなたが…中原さん達を使って…いじめていたことを」

「あ゛あ゛あ゛!?なんで知ってんだよ!?!!」

「ひぃ…」


銀堂の殺気が籠もらせる気のない声に恐怖を覚えながらも、小さい体を震わせて逃げずにいる。

おばあちゃんの人形を精一杯握りしめて勇気を振り絞り、因縁の人間と相対している。


「いじめが始まった時期的に…私がなにかしたといったら…あれしかないです。そして、あなたの性格からも地位からも…想像できました」


そこまでは理解できる内容だったが、次の彼女の言葉に閉口せざるを得なかった。


「ですが…わたしはいじめを受けて仕方ないと、そう思ってたんです」


それは自分に非があるから受け入れたというのか。

絶対に信じたくはなかったが、本当に黒羽は銀堂を故意に突き飛ばしたというのか。

…早合点はよくない。彼女の言葉に集中する。


「ああ!そうだよなぁ!!受けて当然だもんなぁ!!」


満足そうに頷く。


「親は私を見捨て…おばあちゃんも死んじゃって…最初は仲良くしてくれた中原さんたちにも突然いじめられはじめて、私はもう、誰も信じられなくなりました」


無理もない話だ。

身内から友達にまで裏切られた彼女が縋る場所はなくなっていたはずだ。


「そしていじめは私の受けるべきものだと。銀堂さんが、生きる希望をなくした私にくれたものだと思いました」


…そうか。

欠けていたピースをようやく発見し、はめ込んで真実の全体像が明らかになる。


『やめてください!』


体育館裏で俺が中原を殴ろうとしたときにいったあの一言はいじめを受け入れているからこそいえる台詞なわけだ。

彼女にとっていじめは生きる価値を見失ったものへの最後の罰だとして受け入れていたのだ。


「エスカレートしていくいじめ、それに比例して私の生きようとする意志は、消えていきました。そして、自殺も…試みましたし、引きこもりもしました」


その言葉に銀堂の口が緩む。

他人の不幸を喜んでいる銀堂にもはや人権はない。

それとは完全に間逆の態度の黒羽は独白する。


「ですが…できなかったんです。辻村君が…、こんな…生きても意味がない女を必要だって…生きてほしいって…言ってくれたのですから…」


この殺伐とした部屋では、女神の微笑みに見えた。


「そういって何度も私が踏み外した道を修正してくれたんです。ですが人を信じられない私は辻村君も信用できなかった。でも…どんなときでも、辻村君は私のために、してくれました。だから…私はこんなにも前向きに、強く生きれる気がするんです」


この世で最も醜い笑顔であった銀堂は快晴からゲリラ豪雨のように180度表情と態度を転落させ、背景にあった『満足』は『不満』一色に染まる。


「今ならいえます」


小刻みに震える手を、冷や汗が滲むのも厭わず黒羽は人形をしっかりと握り、彼女の意思を伝える。


「私はもう、いじめを受ける気はないです。私を…こんな私でも…必要としてくれる人がいるから」


柔らかく笑む。


「黒羽…」

「銀堂さん」

「ああ゛!?」

「嘘を…つかないで下さい…」


銀堂の殺意が充満した空間に気後れしているものの、彼女の瞳には戦う意思がある。


「はぁ!?俺様がの嘘をついたっていうんだよ!!!ふざけんじゃねぇぞ!!!!」

「私は…一方的にあなたを押してはいません…」

「てめぇこそ嘘ついてるんじゃねぇぞ!!てめぇは俺を突き飛ばし、俺をこんな体にした!!」


乱狂する銀堂。

震える右手を布団の上からたたきつける。


「黒羽、どういうことだ?」


やはり銀堂の話にはトリックが存在していたというのか。

黒羽の小首が少し傾き


「話します…銀堂さんがこうなるまで…」


発狂している銀堂に怯えながらも、彼女は話してくれた。




「当時2年だった私は、なにもなくすごしていました。ですが、変化があったのは2学期の後半からでした…」



「おい黒羽、一緒に弁当食べるぞ」


昼休み

突然の申し入れに、私はびっくりする。


「え?え?」


確かこの人は…、同じクラスの銀堂君。

どうして私なんかと。


「うるせぇ!いいからこいっていってんだよ!!」


右手を乱暴に捕まれる。


「や、やめてください!!」


その手を振りほどく。


「んだぁ!!?俺様の言うことがきけねぇのか!?」

「やめて下さい…!」


なにこの人…怖い。


「ふざけんなぁ!!」

「痛っ!?」


殴られる。

どうして…?


「チッ…死ねよ…」


そういって銀堂君は去っていく…

一体今なにがどうなってのかわからない。



「銀堂さんは私のところに来て、私となにかをしようと誘いに来ました。男の子に慣れていない私は、戸惑い、怖かったです」



「黒羽、俺様と一緒に商店街に行くぞ」

「え?」


え?


「この俺様が買い物に誘ってんだよ!!ありがたく思いやがれ!!」


銀堂君の耳に刺さる声が、怖い。

こんな人と一緒にいたくない。


「でも私…、今から図書館に…」

「んなことどうでもいいんだよ!!」


どうしたの?どうして私と行動したがるの?

こんななんの特徴もない暗い私と。


「…どうして…私なんです?」


恐る恐る聞いてみる。


「あ?んなことどうでもいいんだよ!!ほらぁ!!」


右肩を力強く掴み、私を立ち上がらせようとしている。


「いた、痛いっ…!やめてください!」

「うっ…」


その手を払う。


「この女あああぁああ!!」


ものすごい表情で睨まれる。怖い。


「なんで俺様の誘いに乗んねぇんだよ!馬鹿が!!」

「きゃあ!」


頭を殴られる。

どうしてそんなことするの…?


「くそ…ふざけやがって…」

「うぅ…」


意味がわからない。

どうして私、殴られているんだろう。



「そんな関係が続くようになり…とうとう、あの日がやってくるんです…」




最近の銀堂君はおかしい。

無理やりやらせようとして、拒否したら殴るなんて。

昨日も昼休みに一発殴られた

携帯を見せるのを断っただけなのに。だから今日は携帯を持ってきていない。

私、どうしたらいいんだろう…。

先生に相談したほうがいいのかな…。

商店街を抜け、人通りが少ない通りへ。

目の前に白線でかかれた横断歩道。

今日は早めに帰って夜ご飯の準備でも―…


「黒羽ああああああああ!!」

「え?」


背後から奇声と共に走ってきた人に私はいきなり押し倒される。


「キャアアアア!!」

「ふへっ、フヘヘヘ!!」


嘘!?痴漢!?

私の背中に男の人がのしかかっている。


「ヘヘヘヘヘヘ!!」


…なにか私のお尻に硬いものが当たっている。


「イヤアアアアアアアア!!」


その体を押し返す。


「うお!?」


案外軽い体だったので、簡単にはがれる。

涙が出そうになりながらも、その姿を確認する。


「銀堂君!?」


そこには体制を立て直そうとしている銀堂君の姿が。


「そんな…銀堂君、変態だったなんて…」

「黒羽あぁああああ」


立ち上がる。

息が荒い。

それは疲れて出ている息ではなく。

興奮して、高ぶっている人がする息だった。


「もうわかっただろ…?はぁ…ハァ…俺はお前のことが好きなんだよ…はぁ…」

「え…」


本当に…好きだったの?


「勿論OKだよな?ハア…ここ一ヶ月、お前にずっと尽くしたんだからな…好きになって当然だよな」


尽くした…?

あれは全部、私に好意を持たせるためにやったことなの?

信じられない。


「俺のが、こんなにもお前を求めているんだぜ…!?ハァ…ハァ…」


…気持ち悪い…本当に気持ち悪い。


「イヤ…気持ち悪い…こないで…」


刹那、銀堂君の顔が怒りに満ちる。


「てめぇえええ!!俺がこんなにもお前に恋しているのに受け入れてくんねぇのかぁ!?ふざけるなぁ!!!」

「やめて…こないで…」


軽蔑してしまった。


「ああぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!うぜえええ!!!」

「ひ…」

「畜生おおおおお!!ちくしょおおおおおおおおお!!ウヴァアアアアアアアアアアア!!!」


銀堂君が絶叫しながら壁に八つ当たりをする。


「ああぁああ……はぁ…はぁ…」


しばらく黙り込む

逃げたいけど…逃げたら危ない気がする。

すると


「…もういい…飽きた」


声質が完全に反転すると、一気に冷たくなる。


「俺様のいうことを聞けない豚は、死ね」


ポケットから取り出す、銀の刃が付いた危険なものを。


「うそ…ですよね?」


手にはドラマでしか見たことのない様なナイフ。

この場面でおもちゃを扱っているとは思えない


「せいぜいいい声聞かせてくれよ…!しねぇ!!」


襲い掛かってくる。

狂気の目と凶器の刃が同時に私を襲う。


「キャアアアアアア!!」


その場にしゃがみこむ

正確には、腰が抜けて、しゃがんでしまった。

もう…おしまいだ…


「うお!?」


大胆にナイフで空を切る銀堂君。

そして私に足が引っかかり大胆に転げる。

その勢いは、すこし体を歩道に出してしまった。


「…っ…とと!てめぇーっ!!ぶっころ…」


それが いけなかった。


「「え?」」


くる―…


「ギャアアアァァアァアア!!!」


私の背中から骨が砕ける音と、彼の悲鳴が同時に聞こえた。

悲惨な光景しかない光景が広がっている。

奇怪な形になって転がり、蹲る銀堂君が見える。

車は轢いたにも関わらず、通り過ぎてゆく。

ひき逃げ…。


「が…は…?」


頭から血を流し,呻き声しか出せていない。


「いや…いやああああ…」


軽く痙攣し、当たり前のように血が散乱している。

血のむせるような匂いが、今の私に状況を伝えてくる。

そんなことより…!


「銀堂君!?」


重傷の彼に近づく。


「あ…ぅう…」


腕から激突したようで、脳へのダメージはそんなになさそう。

でも危ない事は変わりない。

急いで連絡を…

携帯を入れてあるポケットに手を入れる。

けれどいくら探しても携帯がない。

布越しに伝わるのは私の体温だけ。

そうか、銀堂君に携帯とられるのが嫌で今日は家に置きっぱなしなんだ。

近くに人はいない。

やっぱりこの辺りは誰もいない。

急いで駅前まで戻って誰かに救急車を連絡してもらわないと銀堂君が…危ない。

いくら私を殺そうとした人でも、見殺しになんかはできない。

私は抜けた腰を入れ直し、立ち上がる。


「銀堂君待っててね」


この場を立ち去り駅前に向かった。




黒羽の語りが一区切りする。

真っ先に思いついた感想は自業自得。額面通りに話を聞いた限りではあるが、黒羽が語ったことは真実なのだろう。


「その後私は人を見つけて連絡してもらいました。そして銀堂さんを搬送したのはこの病院。私は何度もお見舞いに行きました,ですが…」


黒羽の頭が力なく振られる。

目の前にいる既に興奮している患者が次の答えを教えてくれている。


「決して会っては,くれませんでした…」

「そうか…」

「ですから…」


以外におとなしく聞いていた銀堂の方を見据える。


「私は突き飛ばして銀堂さんに怪我なんてさせてません」

「それで、その後銀堂に訴えられた…と」


なんとも酷い話である。理不尽にも程が―…


「え?」

「え?」


あまりに気の抜けた声で言うので便乗してしまう。

どうして彼女は初耳であるかのような反応をするのか。まるで台本とは違う台詞を言われて困惑する大根役者のような素の反応。


「なんの話ですか?」


嘘をついている人間が、こんな瞬きをしない。


「いや、銀堂に訴えられたんじゃないのか?」


銀堂が言ったことと話が違いすぎて俺はパラレルワールドにでも巻き込まれたのだろうか。

銀堂の嘘で塗り固められた虚言は音を立てて崩れ去っていく。


「そんなことないですよ!私,訴えられた記憶が―…」

「…嘘をつくんじゃねぇ!!クズが!!」


さっきから顔の筋肉をピクつかせて黙って聞いていた銀堂がついに口を開く。


「辻村ぁ!!こいつの話を聞いてやつたが…この女は嘘をついている!!その女は自分に責任がないように言ってお前を信用させようとしている!糞女だ!!」


銀堂が言っていることもまた可能性はゼロではない。だが


「俺の話が本当だ!!そんな誰も信じていないクズを信じるなぁ!!」


手を思いっきり水平に振る。


「なんなら今からでもてめぇの親父に連絡でもしてみろやぁ!!」


それはいけなかった。(・・・・・・)

既に答えは出来ている。

違和感の尻尾をつかまえた。

正しいのは




選択肢


┏1黒羽

┣2黒羽

┗3黒羽




「いや、連絡する必要なんかない」

「なにぃ!?」

「正しいのは黒羽だ」


それは黒羽が好きだからだとか、女の子だからとか、そんな主観的な判断ではない。

歴とした矛盾があるから俺はこの答えに達した。


「てめぇええええ!!なに騙されてんだよおおぉお!!」


俺は銀堂の元に歩み寄る。


「あ゛あ!?」


腕を掴む。

銀堂が黒羽の手を掴んだときのように、気に棘が生えるほど荒々しくなっているこいつなら。


「離せぇ!!」


俺の腕を払いのけるのは必然の行為。

それはいけなかった。

俺の読みは完全に一致し、それと同時に銀堂への憎悪が完全に頭を回る。


「それが答えだ」

「あ゛ああぁ!?……チッ!」


━━


「…首くらいは動かせるが…この体の9割はもううごかねぇ!こんな体にしたのはだれだよ!?そうだよ!クズ女黒羽のせいだよ!!!」


━━


さっきから感じていた違和感。事故で全く動かせなくなったはずの手がなぜ動くのか。

話は簡単、嘘をついているからだ。そんな奴の話など眉唾物である。


「今更気付いてもおせぇんだよ!!」

「うお!?」


俺が振り上げた拳は銀堂の頬に狙いを定めて振り下ろす。

一発浴びせないと気が済まない。こんな奴に黒羽が死にかけていたと思うと本当に腹だが立つ。

しかし、またしてもその拳は制止を強いられることになる。


「や…やめて下さい!!」


彼女の一言。

その一言で俺の行動は強制キャンセルされる。


「く、黒羽!」


抗議を申し入れる。こいつは殴られて当然の行為をしてきた。


「駄目です…人を殴ってはいけないです! 例え銀堂さんでも…殴ってはいけないです!」


彼女のその言葉には絶大な説得力がある。

いじめを受け、何度も殴られていた彼女だからこそ言える言葉。


「……そうだな」


それに俺は従う他なかった。


「はぁーっ…ハァーっ…」


毛を逆立ちにして威嚇する猫の様な目つき。


「良かったな。黒羽に助けられて…」

「ふざけ…ふざけやがって!」


黒羽の善意に煙草を押しつける発言に反射的に手が伸びそうになるが、慈愛の女神になんとか支えられる。


「くそ!!くそ!くそおおおぉお!!」


遠慮なしに両手をベットに何度も叩きつける。

深呼吸をして衝動のレベルを意図的に下げて、話を続ける。


「銀堂…聞かせてもらおうか。なぜ嘘をついた…」


全身怪我したと言うのが嘘と分かった以上、奴が言ったこと全ての『信用』は雪崩を起こして崩れ落ちた。


「畜生おおおおぉお!!!」


中庭にいる仲間達に危機を知らせているわけではない、これは銀堂の本音だった。


「あああああ!!っ……はぁ…はぁ…!!」


400Mダッシュしてきた陸上選手同様に息を荒げる。

そして崖際に追い詰められた犯人は、それでも己の立場を理解していない愚かな発言をする。


「はぁ…はぁ…俺様が…俺様が言った以上,黒羽が悪いんだよ…」


暴君もここまで傍若無人になると,もはや失笑しかでない。


「そうだ!!そうなんだよ!!俺様は悪くない!嘘をついているのは黒羽! 俺はいじめをやめない!こいつが苦しみ悶えるまでぇ!!」


やっぱり駄目だこいつは。言葉じゃ伝わらない。

呆れを通り越して哀れに思えてきた銀堂に言葉の矢が飛ぶ。


「俺様は悪く―…」

「銀堂さん!!」


矢の出先を振り返る。

あの黒羽から叱咤が飛び出すとは。

さぞ怒った顔で銀堂を見つめているだろう。


「…駄目ですよ」


違う。

そこには叱った後、子供を宥める母親のような優しい笑顔を持った黒羽。

しばらく俺の出る幕はなさそうだった。


「銀堂さん」

「うるっせぇ!!俺様は貴様が死ぬほど嫌いだっ!!」

「逃げちゃ…いけないです」

「黙れ!!」

「黙れません!!」

「な…!?」


気迫で銀堂が負ける。


「逃げちゃいけないです!」

「んだとぉ!?俺様が逃げているっていうのか!?」

「現実から逃げても、それは一時的なものにしか過ぎません」


銀堂の場合、それを強引につなぎ止める財力と地位と発言力がある。ここまで落ちた王が誕生したのはそのためだ。


「私もそうでした。自殺したり、引きこもったり、他人を嫌ったり…。けど、結局それはその場しのぎにしかならなかったんです」


自分が誤った道を歩いてきたからこそ、現実味を持って銀堂に言い聞かせることができる。


「やるだけ虚しく、何も変わりませんでした。前を向いて歩かないとなにも変わらない、変えられないです」

「は!?俺はなんにもまちがっちゃいねーよ! 俺様が思うことやることそれが真実!真理!現実なんだ!!今までも!そしてこれか―…」

「それはもう通用しません」


この場の熱を一掃するクール極まりない一言は、新たなる来訪者からに他ならなかった。

全員がその人物たちの登場は頭の片隅にも考えてなく、ただただ黙って受け入れることしかできなかった。


「間違って…います」


思わず鼻で笑ってしまう。

戦隊ヒーローでもこんな都合良く登場しない。


「…銀堂様」


俺の視力が正常なら,扉の前にいるのは中原とその取り巻き。

俺が銀堂を説得するのを分かっていて銀堂の仲間が来ないか見張ってくれた3人、言い換えれば命の恩人。

黒羽の命を脅かした奴等はいつしか黒羽を救う立場に着いている。


「中原あぁ!!?」


突然の部下の出現に問答無用の罵声を浴びせる。


「銀堂様」

「おやめ下さい」

「もう私達は負けたのです」


銀堂に嫌でも従属させられている3人組。

こいつらも黒羽と一緒に、そして黒羽が入った後も俺たちの話を聞いていたのだろうか。

つくづく抜け目のない奴等だ。


「てめぇら見えねぇのか!?そこの二人をどうにかしろ!」

「銀堂様…」

「私達はもう…黒羽雪見をいじめていません」


冷静に、冷静に銀堂伝える。


「なにぃ…?」


さっきから自分の思い通りにならないことが重なり、銀堂の理性はひねくれにひねくれる。

中原たちの冷静さが、逆に銀堂に怒りを沸かす。


「てめぇら死にてぇのかぁあああ゛あ゛あああ!? 俺様の命令を無視した罪は死!! 死しかねぇぞこらぁあああああ!!」

「…あなたはもう,そんな振る舞いは出来なくなりますよ…」

「中原ぁ!! 俺様はもう話すことはねぇ!! 今すぐ俺様の視界から消え失せろぉ!」


狂乱した銀堂はもはや目の焦点はどこをも捉えておらず、何もかもうまくいかない現実を逃避していた。


「後で貴様らは銃殺だ!! わかったかぁ!!」


しかし、そんな言葉を華麗に躱した中原は、喚く犬を黙らせるような低く、重い言葉を放つ。


「跡継ぎ」

「ぐ!!?」


その瞬間銀堂の顔色が青々しくなり、呪文を唱えられて石化したモンスターの様に勢いは完全に死滅する。


「う…ぐぐ…」


彼女たちは激辛料理に更に唐辛子の粉やタバスコを加える様な追い打ちをかける。


「もうすぐあなたは,こんな態度を取ることができなくなります」

「跡継ぎのこと…忘れてはいませんよね」

「ぐ…!」


跡継ぎ。

銀堂不動産の跡継ぎということだろうか。


「あなたはもうすぐ銀堂家の跡継ぎとしてここから出てなくてはなりません。長の元で会社の仕組みや秩序を学んでもらいます」

「そうなったら,あなたは我が儘を言うことは出来なくなりますよ」

「嫌だ!!俺様は絶対にそんなこと…! 俺様は今の生活が…」

「それが…逃げているということですよ」


始業式に明日香のお見舞いをしたその帰りに言い争いをしていた部屋があったことを思い出す。

もしかしたらこいつらの親子が跡継ぎについて言い争っていたのかもしれない。


「だからもうそんな我が儘言わないで、跡継ぎとしての自覚を持って学校に復帰して下さい」

「…嫌だ…嫌だ嫌だ…嫌だ!!」


学校にも行かず、好きなことをし放題のこの贅沢すぎる環境から抜け出すのは絶対に嫌だという魂胆だろう。

自由に駆け回っていた狂犬にいきなり首輪を繋げたら暴れ出すのは当たり前だ。


「銀堂様…」

「もうこうやって私達を使って遊ぶ時間はないのです」

「これを機会に,もうやめて下さい…」


中原たちも常々思っていたことであろうことをこの場を借りてすべて吐き出している。

物事にはきっかけが必要であるということか。

銀堂がふんぞり返って座っていた王の地位の椅子にヒビが入り、壊れるのも時間の問題。

そんな境地に立っているのにこの男はまだその椅子に食らいつこうとしている。


「黙れぇええぇ!!うるせぇええぇええ!! 俺は…俺は絶対に!! 親父の跡なんかつがねぇえ!! つが…ねぇ…」

「銀堂様、私達もできるだけサポートします」

「限界です。このままこんな生活を続けていては…」

「長の機嫌を損ない私達だけでなく、銀堂様の命も…」

「く…」


勢いが強火から弱火になる。

追撃をかますのは今しかない。


「銀堂、お前にはそんな立派な部下がいるじゃないか。お前は一人じゃない、支えてくれる部下…いや、友達がいる。こんなところで遊んでないで一緒に行けよ」

「銀堂さん」


黒羽が後に続く。


「変えることの出来る未来を変えないのは後悔しか残らない。変えていかない未来に未来は開いていかない…と、辻村君は私に言ってくれました」


死の淵に立った黒羽を引き上げるときに言った言葉を黒羽は覚えてくれてたというのか。


「それは…今のあなたにも言えることだと思いますよ。銀堂さん、前を向いて行きましょう?」

「…が…く…ぐぐぐ……」


この動揺具合はかなり好感触だ。

怒りとは別の感情が,銀堂の眉を寄せる。


「嫌だ…違う…俺様が…この世の秩序……俺は…ここから…でたくない…嫌だ…くそ…うお…嫌だ…嫌だ…畜生…糞…」

「銀堂!」

「銀堂さん!」

「銀堂様!」

「お前の地位は既に剥奪されたも同然なんだ!こんな生活はもう無理なんだ!逃げるな!」

「大丈夫です!きっと…うまくやれます!だから…立ち上がってください!中原さん達がいるじゃないですか!」

「銀堂様!私達は今まであなたに反感を持っていました。ですがもうそんな気持ちはありません!ですから…」

「お願いします!」

「どうか…!!」

「お願いします!!」


各々が思い思いの言葉を銀堂にぶつける。

主旨がいじめをやめさせるから銀堂復帰説得に変わっているが結果はかわらない。

黒羽へのいじめをやめさせる という結果は変わらない。

そう、俺が最初黒羽を助けるときと同じように。


「…く……………はぁあああああああ…」


全てを押し流すかのような深いため息をつく。

そして大きく息を吸い込み


「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっぉおぉぉぉおぉぉぉおぉおおおおおおお!!!!!」


拳が入るくらい割った口から吐き出される絶叫。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおあぁあああぁあああおおああああああああ!!!!!」


声を絞り上げて叫び続ける。

自分に起こりえて欲しくなかった事から逃げているのか、認めようとしているのか。

それはわからない。


「銀堂様…」

「銀堂さん…」

「あああああああああああああああああああぁぁ………」


満月へ雄叫びを済ませた銀堂の顔が俺達に向けられる。

その顔はどこか諦観しているような、怒っているのか困っているのかよくわからない顔だった。

5人が次の銀堂の行動を静観する。これだけ言ってもわからないというのなら、もう手はない。

何分経ったかわからないが、渇いた喉を唾で潤す行為を4回程した時だった。


「……俺様はなぁ…黒羽…貴様が…嫌いなんだよ…」

「え?」


銀堂の言葉に殺意と棘と勢いが取り除かれ、銀堂は意気消沈して語り始める。


「俺様は今まで…与えられた地位で,自由気儘に生きてきた。金、暴力、地位で俺様が思うこと、欲しいもの、何でも手に入った。そんな中、俺様の思い通りにならなかったものがある」


一拍おいて黒羽を見る。


「お前だよ、黒羽。俺様が初めて好きになった人が貴様。なにがなんでも俺様のものにしようとした」


その言葉に言われた本人は目を丸くする。


「だが…貴様は俺様に従わなかった。俺様の誘いを断った。それが許せなかった…俺様の思い通りにならないなんて。だから殺そうとした。俺様に従わない我が儘なやつは死ねばいいと」


淡々と語る銀堂に窓から射す夕日が重なって、儚さが増す。


「結局俺様が事故する羽目になり何カ所も骨折をした。恥ずかしかった。こんな無様な結果になって。それを俺様は認めたくなかった…全部なかったことにしたかった」


その気持ちはわからないでもない。顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした姿を好きな女の子に見られるなど、自殺したくなる。


「それと同時に貴様への憎しみが増えた。俺様がこうなったのは黒羽のせいだ…と。そして中原たちを使って貴様に復讐を始めた。俺様の行為を踏みにじったらどうなるか教えてやるために…ってな」


これが黒羽をいじめることとなった発端と全容だというのか。理解できない気持ちではないだけに、強く言えないものはある。

だが、誰かが誰かを一歩的に傷つけるのは許されない。いじめは絶対にしてはいけない。


「黒羽を恨みに恨んだ末、俺様は誰でも構わず黒羽の話をした。だから辻村にも嘘をついた。そうでもしないと…惨めな自分を庇うことが出来なかった…くく…馬鹿だよなぁ……クク…,ハハハ…」


嘲笑う。

それは俺達に対して嘲笑っているわけではない。人生で初めての、自分に向けての嘲笑いだろう。


「は…はは…」


南極に住んでいたはずの銀堂の心。なのに彼の目からは温暖な心しか流せないものを


「…ちく…しょう…」


流していた。

頬に伝う涙。


「俺は…間違っていたんだ…な…分かっていたさ…でも…こんな風に振る舞わないと,俺は俺でいられなかったんだ…」


今まで強権で狂犬を演じられていた銀堂は乖離し、そこには大怪我を負った一人の少年になっていた。


「本当は親父の力を借りていただけで所詮はなんにも出来なくて、騒ぐことしかできない。友達一人作ることの出来ない」


心の奥底から絞り出される本音。間違いだらけのことを言ってきた彼からようやく正しい言葉を聞く。一つだけを除いて。


「ひとつ、違う」


銀堂の単独コンサート会場と化していた病室に、観客からメッセージを送る。


「お前にはいるっていったじゃないか。友達、が」

「なに…」

「銀堂様」

「私達がいます」

「不満かもしれませんが…」

「私達は,いつまでも銀堂様の味方です」

「お前達…く…」


止められない涙を払い除け


「こんな俺でも…付いて来てくれるのか…?」

「はい,ですが…間違った方向でない場合ですが、ね」

「銀堂様!!」


駆け寄る3人。


「く…うう…ああ…」

「銀堂様…!」


その光景が,とてもまぶしいものに見えた。


「…終わったな…」

「はい…」


黒羽と共に,しばらくその行き先を見続けていた。

…終わった。

中原達からいじめをやめさせ、銀堂からもやめさせるとこができた。

俺の目的が全て達成した。

黒羽を…元の生活に戻すことが出来たんだ。






「今日は世話になったな、ありがとう」


ここは『地獄への扉』ではなく『天国への扉』の前。

わざわざここまで見送りに来てくれた3人に今日のフォローも含めて礼をする。


「…まぁうちらもいずれこうしなくちゃいけないって分かってたからさ、あんたが良いきっかけを作ってくれた。礼をしたいのはこっちのほうだ」


頭を掻きながらそういう中原。


「銀堂のことは任せろ。適当にご機嫌とっておくからさ」

「うへ、その言葉遣いをあいつの前でやれよ」

「勘弁してくれ。まだうちらはごみ処理場にゴミと一緒に廃棄されたくないんで」


最後まで食えないやつらだった。


「それじゃあ後はよろしく頼む」

「ああ、また明日学校でな」

「失礼します」


黒羽と共に3人から見送りを受けて、俺たちは帰るべき場所へ向かう。




あれから一時間経った。

俺と黒羽はそっと病院を跡にして電車でここまで戻ってきた。

オレンジ色の日が、町を美しく染める。


「やっぱりずっと見ていたんだな」

「ふふ…一時はどうなることかと思いましたよ」


もう銀堂は黒羽を虐めないだろう。

そう,俺の役目は終わった。


「まぁな。黒羽の説得も中々良かったぞ」

「え?そ、そんなことないです…!」


夕日と相俟って真っ赤になる頬。


「なにがともあれ,よかったな」

「はい?」

「いじめが終わって」

「そう…ですね。でも…」


なにか名残惜しそうな目線を向けたかと思ったら


「…いじめられて良かったと思っています」


俺の思考の斜め上を遙かに超える言葉が飛び出す。


「なに?」


彼女の思考が理解出来ない。

力のある予言者が水晶玉とにらめっこしても,決して答えは出ないだろう。オトメゴコロとはそれほどにまで深く難しいものだ。


「それは…」


どうしようもなく出る唾を飲み込む。


「…辻村君と…出会えたからです…」

「が…」


恥ずかしさの激流が頭の先からつま先まで飲み込み、言葉が出なくなる。

彼女の頬も赤みが更に三倍増しになる。


「そ、そうか?」

「はい…。こんなことがなかったら…出合うこともなかったですし…」

「それはそうだが…」

「迷惑でした…か?」

「い、いやー…そんなことはなかった…よ」


まずい。

こんな時俺はどう、なにをすればいいんだ?

当たり前だが経験や知識がない事の対処法など、俺の辞書には存在しない。項目に新たな一ページを刻むには経験や知識が絶対条件。

この出来上がった気まずいムードを打破する方法はなんだ。


「そうですか…よかったです…」

「あ…ああ…」


未知なるものや事に遭遇したとき,人間が起こす行動は二つある。

逃げるか、立ち向かうか。

1+1の答えを導きだすくらい早く俺が選んだコマンドは、前者。


「あ、ちょ、喉が乾いたなぁ」

「え?え?」


流石に場違いすぎる発言に呆けた顔をする。


「黒羽も乾いただろ?」

「えーはい、それは」

「じゃあさ、買ってくるよ」


情けない、なにが逃げるな! だ。

自分が言っていたこととまるで矛盾している。


「あそこの自動販売機で」


横断歩道の先に見える自動販売機。

そろそろ販売機も明かりを照らす時間がやってくるだろう。


「先に買ってるよ」


とにかくこの場から離れたい。

俺は駆け出す。


「ま、待って下さい」


俺にはもう,目の前の自動販売機しか見えていない。

あそこに行けば,その場しのぎが出来る。

そんな希望を持って横断歩道の白線を踏み込もうとしたそのとき。



――不吉を運ぶエンジン音。



時間帯が時間帯だけに無灯火で現れたそれに、まるで対処できない。

この横断歩道は呪われている。

脳裏に駆けめぐる言葉と、最悪の結末。

突進する車にもブレーキが掛かっているが、手前で止まる気配はない。

俺は恐怖の呪いで体が自分のものでないように固くなる。


「う…うわああああああああ!」


俺の恋に対する弱さが,事故を招くことになろうとは。


「紅くーーーーーーーん!!!」











広がる衝撃。

宙に浮いているだろう体は、もうすぐ地面に激突するはずだ。


………

……


いつまで経ってもその二次災害は訪れない。

大体、車の衝撃にしては軽すぎる。

痛みが全くない。

有るとしたら尻に少し痛みが有るくらいで、以前栗崎と激突したときと違いがない。

いや、待て。

 

違いが(・ ・ ・)ない(・ ・)

俺はまさか


人間に押(・ ・ ・ ・)された(・ ・ ・)…?


開きたくない目を、開ける。

俺の眼前に広がるおぞましい光景。

目の前には車のタイヤが。

左を見れば。

頭から血を流して横たわる……黒羽の姿が。

俺を助けたというのか。

俺の左腕に残る、両手で押された感覚が痛いほど伝わる。


『私、もっと前向きに生きていこうと思っているんです』

『いつも後ろめいたことばっかり考えていたので…』

『そんな自分…嫌なんです』

『逃げてきたばかりの自分は…もう嫌です』

『これからは,自分の過去からも,今からも逃げないで…』

『前向きに生きていこう…そう…思っているんです』


いじめられて全ての希望を失った黒羽。

そこからこんな事が言えるまで回復したのに。

これからってときに。

俺が自動販売機に行かなければ。

黒羽から逃げなければ。

俺が、彼女を、傷付け、た。

―――!!!


「く…黒羽あああああああああああああああ!!!!」





馬鹿だ、有り得ない、俺はなんてことを。

というわけで後編終了です。


最後は所謂超展開です。美少女ゲームでかなり多く取り扱われている交通事故を踏襲したかったのでしょう。


ここから一章は終わり二章目に突入します。といってもそんなに長くはありませんが。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。現在√進行度75%といったところです。惰性でもぜひ最後までお付き合い下さい。


前回の黒羽の過去編で、原作ではおばあさんは黒羽が轢かれたところで亡くなっていました。只でさえ銀堂、黒羽が同じ場所で事故に合う自体ご都合なのに、おばあさんまでそうなるとご都合主義も甚だしいので、改変しました。この話自体がご都合だという正論はやめてください、反論できません。


次回もかなりご都合ですが、別の視点から黒羽の話が分かります。

それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。



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