4月19日/水曜日(前)ー最終戦ー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。
というわけで前編です。
黒羽は学校にきてくれたのでしょうか?
それでは、どうぞ!
学校が始まってもう2週間が経った。
俺の18年生きてきた人生の中で類を見ないほどほどの高密度な2週間だった。
黒羽のいじめ、自殺、発狂、そして過去。様々な出来事があった。
その経験で俺は少し成長したように思える。
「おはよう」
有人の教室に挨拶をする。
俺はこの教室を一人で過ごしたことはなく、どんなに早く来ようと必ず彼女はそこにいた。
彼女のリスポーン場所はあの席で間違いはない。
ひとりでに両手を挙げて席に着く。
時計の短針は7を、長針は12と1の間を。
俺はこの日ほど彼女が待ち遠しいと思ったことはない。
黒羽雪見、彼女の登場を今か今かと待つ。
閉まるシャッターに並び、のどから手が出るほど欲しい超人気のゲームが発売三十分前に迫ったとき、感じるであろうこの期待感とワクワク感。
それが今朝から続いている。
この動悸は、到底収まることはない。
「ん…んん…うるさいなぁ…」
すると不機嫌そうな声が後ろから漏れる。
「うぅん…だれだよっ…こんな朝早くからハリセン振り回しているのは…」
寝起きの惚けた顔を無修正で俺に向ける。…栗崎だから見れる顔だな。
とは言え、一応言っておく。
「栗崎、酷い顔しているぞ…」
栗崎の口が『へ』の字になる。
「ほわ…?あ!?辻村君っ!?」
「おはよう」
「あははっ…お、おはよーっ!」
俺が目の前にいたことに驚いたのか目を丸くして慌てふためいている。
「いきなり辻村君の顔があったから、びっくりしたよっ」
「それは悪かった」
「それでっ、あたしの顔が酷いって?」
「あ、ああ」
「うお…乙女として…何たる失態!ちょっと、顔洗ってくるねっ」
「あ、ああ」
慌ただしく椅子を引き、教室の後ろから出て行こうとするのを見届けようと首を曲げると。
「キャア!」
「あれれーっ!?」
ゴチーンとなんとも乙女チックなSEとともに栗崎が仰向けになって倒れる。
「大丈夫か!?」
「いっつーっ!!なんだなんだー!?」
それこそラブコメの主人公のように、平然と立ち上がる栗崎。
年がら年中こんな展開に恵まれた彼女をなんとなくうらやましく思う。
「ごめんっ!怪我はない?」
「は、はい、大丈夫です」
「ならよか―…あ…」
彼女がぶつかった先の人物を確認するや否や、俺の神経という神経に電撃が走る。
ようやく店頭のシャッターが開いた。
「ご、ごめんなさい、急に入ってしまって」
そこには目を生き生きとさせた、黒羽の姿があった。
彼女は、来てくれた。
「い、いや、こちらこそごめんねっ」
「いえいえ、本当にごめんなさい…」
「…へ?」
見事な『へ』の口を作ってこちらに視線を向けてくる。その口から『雪見ちゃん…?』…と書いてあるフキダシが脳内で構築される。
確かにこの変わり様なら、そう思っても不思議じゃないだろう。別人だと勘違いするのもうなずける。
「『その通りだ』」
頷いて栗崎のフキダシに肯定する。
「えぇーっ!?」
何を驚いているんだ…?
即座に黒羽を向く。
そして
「雪見ちゃん!?サイボーグになったって本当!?」
「誰もそんなこといってねぇよ!!」
「あははははっ!そうだよねっ」
黒羽の席を囲むようにい俺と栗崎が立つ。
顔を洗ってバッチリ目が覚めた栗崎が取り繕うように笑う。
「第五の力もまだ解明していないのに、サイボーグだなんて、まだまだ早いよねっ」
「いや、分野が違う気がするんだが…」
「同じだって!」
「はぁ…」
呆れ気味の俺の顔を見て微笑んだ黒羽は、途切れた会話に入り込むように口を開く。
「栗崎さん、さっきは本当にごめんなさい」
栗崎の目を見て丁寧にお辞儀をする。
「ん?いやいや、本当に気にしなくていいって!あたしはサイボーグすら凌駕する肉体だよっ!?」
ポンと胸を叩く。なぜドンではなくポンなのかは割愛する。
「あははは、そうかもしれませんね」
今までの彼女なら冷めた目をむけるであろう栗崎式の会話にしっかり切り替えしてきた黒羽に、栗崎が目に見えて驚く。
「うお、あたしテンションについてくるなんて…」
「予想外だな、サイボーグ」
「全くだねっ…あ」
忙しく頭に電球が出てきたかと思うと、黒羽の方を見る。
「雪見ちゃんっ」
「はい?」
「あたしのことは あずきって呼んでよ」
「あずき …ですか?」
聞き慣れない言葉を口にするような言い方をする。
「あたしの名前だよっ。栗崎さんだなんて堅苦しいもんねっ」
笑顔のプロがその名に恥じない笑顔を向ける。
「そうですか、それじゃあ あずきさん…って呼ばせてもらいますね」
今までの彼女なら冷めた目を向けるであろう栗崎式の振りにしっかり対応してきた黒羽に、栗崎が目に見えて痺れるように喜ぶ。
「うお、あたしの名前を呼んでくれるなんて…」
「予想外だな、サイボーグ」
「全くだねっ」
「あずきさん…あずきさん…」
一方黒羽は覚えたての呪文を忘れないようにする魔法使いの見習いのように何度も栗崎の名前を復唱している。
「そんな名前を言わなくても…名前…?」
クイッと栗崎の不敵な笑みを浮かべる刹那を俺は見てしまった。
この笑みは策略の笑みであることが彼女と接してきた経験からすぐに理解する。
「雪見ちゃんっ」
笑顔という名の悪党面を被った栗崎が話しかける。
だが一般人にはそれはいつもの栗崎の笑顔であり、猛者でなければこの中段攻撃を見抜くことはできずにしゃがみガードをしたままである。
「はい?」
「あたしの名前も呼んだからさっ、辻村君の名前も呼んじゃいなよっ」
笑顔の裏にある悪魔の笑み。
彼女の背中に黒い翼が生えているのが見える。
「な!?」
「辻村君の…名前ですか…?」
「そうそう!あたしだけ悪いじゃん?」
「いや、別にそんなことはないって」
栗崎式侮るべからず。高みの見物を決め込んでいたらあっと言う間に同じ土俵に引きずり込まれている。
というかとんでもない話になっている。親と男友達以外に下の名前で呼ばれたことなどない。
「そうですね…」
そこでなぜ悩む。
「ユー!言っちゃいなよ!」
「やめろ黒羽聞かなかったことに―…」
「……こう…君?」
恥じらいの属性がついたそれに痛恨の一撃、もといクリティカル、もといweakをもらってしまう。
その一言で羞恥心のパラメーターの最大値を余裕で突き抜けてカンストをおこす。
「あははははっ!顔超ー真っ赤だよ?辻村君?」
大爆笑しながらどうなってるか見たくもない俺の顔を指さす。
仕掛けた罠で大成功した孔明でもしない、してやったり顔をする栗崎。
「くそ…栗崎…」
「いひひ…」
言った本人も赤面し、俯いている。
「く、黒羽っ!いつも通り辻村でいいから」
「…そうですか?」
真っ赤になった顔で上目づかいで見てくるな殺す気か。
「いいや、雪見ちゃん、名前で呼んであげてっ」
この小悪魔はまだ俺をいじめ足りないらしく、にんまりと笑った栗崎の悪意の囁きは止まらない。
「その必要はない」
「いーや、あるねっ」
「いや、ない」
「ある」
「ない」
「ある」
「ある」
「ない…え?」
「と、栗崎がいってるから、黒羽、苗字でいいよ」
「は、はぁ」
「辻村君っ!あたしを利用したねっ!?」
利用とはそれいかに。
「というかその前にあるっていったよね?」
「その後否定してくれたじゃないか」
「あー…あははは…、まぁこれくらいで許そうかなっ」
「俺は栗崎殿になんにもしていないはずですが…」
「いーや、したねっ」
それはないはずだ。無意識にやっていることを除けば、俺は彼女に何もしていないはずだが。
栗崎が黒羽にボソボソとなにか耳打ちをしている。
「は、はい」
「予想外だねっ、サイボーグ?」
なにかを言い終えた栗崎が顔を上げて俺に向けて疑問符がついた言葉を放つ。
「あ?ああ」
それ移行普通に三人と会話を楽しんだが、結局栗崎がなんといったかは分からなかった。
※ここで√分岐が発生し、4月17日で『もう関わらない』を選択するとベターエンドへ行きます。どうでもいい話ですが。
今回トゥルールートなのでまだ話は続きます。
「謝ってきた?」
「はい、昨日の夜に」
時間は太陽が本格的に主役を務める昼。
疾風のごとく過ぎ去った午前中。三者面談中の今週、学校は午前中で終了だ。
そのことを知らなかった黒羽は、弁当箱を持ってきていた。
せっかくなので屋上に黒羽を誘って一緒に昼飯を食べている。
なにより彼女の近くにいたい。俺の心は黒羽の色に染められてしまったようだ。
ベンチに座るなり話を持ちかけてきたのは黒羽からで、その内容は中原たちが謝ってきたことだった。
「本当か?」
中原達は本当に彼女に謝りに行ったようだ。
「今までの行いを許してくれって…」
「そうか」
「辻村君」
「ど、どうした」
随分食い気味な呼びかけに少々たじろいでしまう。
今までとは一転攻勢、黒羽が積極的に質問してくれるなど、これ程嬉しいことはない。なんでも答えてしまいそうだ。
「いったいどんな魔法を使って止めたんですか?」
冗談ではない、本当に興味津々の眼差しが光る。
「まぁ、いろいろ説得なんかしたんだよ」
「そうなんですか?…やめたら大変じゃないでしょうか…」
一体それは誰に向けての言葉なのか理解しかねる。
「ん、どういう意味だ?」
「え、いや、ほら、ストレス発散の的がいなくなったじゃないですか」
「笑顔で怖いこといわないでくれよな…」
「あはははは、そうですね」
風呂敷の結び目を弄くりながら答える。なにやら誤魔化されたような気がしないでもないが追及はしないことにする。
俺もサイダーのフタをあけ、一口喉に通す。
「ふぅ…、あの人形はどうなったんだ?」
頭を切断され、綿も自由に体から飛び出しているあの人形
いくらおばあさんの思い出の品とはいえ、今日はもってきていないようだ。
「これですよ」
という俺の妄想は2秒で爆散し、黒羽のポケットから取り出される見るも無惨な―…
「あれ?」
ではなく、見れなくもない形を保っている。
戦場に取り残された人形と言っても誰も不思議に思わない人形はその時より少しではあるが回復していた。
「これいま直しているんですよ」
「え?」
「ちぎれたところを繋ぎ直したり、飛び出た綿を入れなおして、塞ぐんですよ。形は大体残っているので、つなぎ合わせれば何とかなると思うんです」
確かに裁縫の心得があれば可能であるが。
「わたし、裁縫はあんまり得意じゃないんですが…絶対に直したいんです。おばあちゃんからもらった…大切なものですから」
黒羽の人形に対する熱意に感服する。
俺には抱くことのできない感情。
それを彼女は確かに持っている。
「はやく元通りになるといいな」
「ええ、そうですね。なんだかあれがないと、落ち着かなくて…」
そう言いながら黒羽は上機嫌に弁当箱を開け、箸を躍らせている。
そんな彼女を微笑ましく思う一方、気が気でない課題が残されていることを考えてしまう。
言わずもがな、銀堂の存在。
この後もう一度奴の元へ行こうと思っている。先送りにしてきたが、いよいよもってコイツの存在だけがネックになった。
当たり前ではあるが、銀動が黒羽を知っているように、黒羽もきっと銀堂の存在を知っているはずだ。彼との間に決定的な何かがなければあそこまで黒羽を憎悪することはできないだろう。
だらかとて、俺は黒羽に銀堂との関係を探ることができずにいた。
折角ここまで復調してきた黒羽に『銀堂』という禁呪で再び黒羽を苦しめ、恐怖に陥れる可能性があるからだ。
ここまでの黒羽は虚勢で空元気を演じている可能性も否定できない。
分の悪い博打は控えるのが得策か。
結局殆ど無策でもう一度銀堂に説得することにした。
お昼ご飯を食べた後、駅前に到着。
「それじゃあ黒羽,ここでお別れだ」
「はい,わかりました」
「用事はここから近いんだってな」
屋上で昼食をとっているとき、午後からの予定を話していたのだが、なんでも黒羽は駅付近で用事があるとのことだった。
「あ、はい。ここまでありがとうございました。辻村さんはどちらへ?」
「あぁ,ちょっと隣町に用があって」
「…そうですか」
微妙に歯切れの悪い返答だが、指摘するほどではないか。
「それでは、また明日」
「あ、あぁ。また明日学校でな」
「はい。また明日」
挨拶を交わし、踵を返して改札口へ向かう。
黒羽はどっちの方角へ向かったのだろうと歩みは止めずに後ろを振り返る。
そこには意志を持った力強い瞳がこちらに視線を釘付けにしている。その瞳が意味することは分からない。
俺はもう一度手を振り、キップ売り場に向かったのだった。
巨大な白い病院を見上げる。
強い午後の日差しが白い壁に反射する。今日もよく晴れている。
その光りに自動的に俺の右手が目周りに影を作らせる。
本来なら姫である妹と対話できる王の城だが、今見れば人外で対話ができない魔王の城に見える。
今度こそ決着をつける。黒羽からいじめを根絶するために。二度と彼女の悲しむ顔を見ないために。
『地獄への扉』を開け、いざラストボスの元へ。
中に入り正面の総合受付はいつも通りの込み具合といった感じで、いつも通りの日常がある。
通り過ぎて階段を昇り、あっという間に銀堂扉の前まで来る。
この扉の向こうに誰がなんと言おうと奴はいる。
今度はちゃんと話をしなければならない。
もう一度白い扉を見つめる。
面接室へ続く扉の前に立つ受験生とは違う緊張が走る。
病院に相応しくない深呼吸を入れ、拳を握る。
耳栓を持ってこなかったことを若干後悔しながらその扉をノックし
「だれだ!?」
この間と打って変わって荒々しい返事が防音扉越しに聞こえた。この時点で奴はアイドリングを済ませていつでも暴走できる状態のようだ。
飛んで火にいる夏の虫である上に、俺自身油を持ってそこに突っ込むのだから、果たして俺は生きて帰れるのか怪しくなる。
一度立ち去って体制を立て直そうかともめぐる思考にあったが、ピンポンダッシュさながらの行為に憤るのは目に見えており、元よりいつも通りの銀堂なのではないかと思い直す。
覚悟を決める。
「辻村だ」
扉を開けた。
「なぁ…!?」
そこには一昨日と何ら変わりない姿の銀堂。薄い掛け布団を肘から下にかけている。
ここだけ切り抜けば普通の患者だ。
「二日ぶりだな,銀堂」
ベットに全身を預け、顔だけをこちらに向けている。
即座に扉を閉める。俺と銀堂との距離は5M前後といったところか。
あからさまと思わせるくらい顔を歪めてどんな化学反応より分かりやすい反応を見た俺はそうすることが当然のように、耳元を塞ぐ。
「なぜきたあぁ!!」
強烈な咆哮が塞いだ耳元を容易く貫通する。
銀堂から背を向ける。
その爆音で一気に熱を帯びた体に通り抜けていく風は俺の目の前にある扉。
今締めたばかりの扉が少し開いてしまうくらいそれは破壊力があるというのか。
「ごらぁあああああああ!!」
銀堂に再び顔を向ける。
「な…何度でも来るさ」
「一昨日来るなっていっただろ!?聞こえなかったのかあ!?」
「そんな大声で言われて聞こえなかった訳がないだろ…」
手元に凶器があれば何の迷いもなくそれで殺しにかかる勢いがある殺気しかない目。
「じゃあなんできたんだよ!?」
「いじめをやめさせにきた」
単刀直入に切り込む。
「はぁ?」
轟々と燃えさかる怒りの炎にまたガソリンを放り込むかと思うと気が引けるが、そんな事を言っている場合ではない。
「黒羽雪見 のいじめをやめさせに来た」
『発狂』解除の合い言葉を告げる。
「黒羽…?黒羽だとぉおぉ!!?」
狂犬の咆哮は龍の咆哮に勝とも劣らず、鼓膜が容赦なく犯される。
「…やめ…ろ…」
「てめぇ!!黒羽の名前を出すなっていっただろ!!?」
「ぎ…銀堂!」
キンキンと耳障りな音が消えない。
「いじめをやめてもらおうか」
「うるせぇ!!貴様にはかんけぇねぇだろ!!!黒羽の名前を聞くだけで虫酸が走るんだよ!!黙っていろ!!」
一体なにがこいつをここまで狂わせるのか、何も知らない俺が来ることはやはり間違いだったのかもしれないとようやく気付く。
そもそも顔を素性もしらない男にやってることやめろと言われてはいそうですかと納得する奴などいるだろうか。俺でもしない。
とりあえず行けばどうにかなるという自分の浅はかさを呪いたくなる。それだけ彼女を助けたい気持ちが先に出ていたという証拠でもあるのだが。
「大体貴様は何者だぁ!?俺は貴様なんてしらねぇぞ!!」
至極真っ当な質問。
一言間違えれば『狂』の歯車が加速する恐れがある。
言葉を選ばなければ。
「俺は…」
選択肢
1黒羽の友達だ
2黒羽の彼氏だ
ここで彼氏ということになんのメリットもない。
下手をしたらこいつは黒羽の元彼という場合もあり得なくはない。恋愛の縺れは時として人をおかしくするとはよく聞く。
直感で、彼氏といえば問答無用で殺される気がしたので無難に友達ということにする。
「黒羽の友達だ」
「友達だとおぉぉおおおぉおお!?!!」
「く…」
「はーっ…はぁーっ…」
キレ方が人類を凌駕している。
額に刻み込まれる血管の怒張は,もう破れてもおかしくはない、いや、破れないほうが不思議なくらいだ。
だが、その張り裂けんばかりの血管を浮かして怒り狂っているはずの銀堂の次の言葉は、罵詈雑言ではなくその顔に似つかわしくない一言だった。
「貴様……はぁ…どうしてあんな最低な女の友達でいる」
銀堂の態度が転調する。
「あんなクズとなんか付き合ってて何が楽しい」
あれだけ張り叫んでいたのに唐突な冷静さにこっちが冷静さを欠く。
「黒羽はクズでもない普通の女の子と付き合って何が悪い」
言葉を選んだほうがいいと思ったばかりなのに、只の本音はまたしても怒の炎上を助長する燃料と化す。
「ふざけるなぁあ!!何がクズでもないだぁああぁああぁ!!」
「さっきからクズいいやがって…」
定期的に耳を襲う不快感でイライラは増すばかり。
元々俺は気が長くない。今の言葉は堪えた。理性のリミッターが少しずつ緩和してくる。
「黒羽はクズじゃねぇ!」
「俺様がクズっていったらクズなんだよ!!」
「黒羽がクズなわけないだろ!」
「クズだ!ゴミだ!俺様に従わない不良品なんだよ!」
将棋で言うところの千日手。
別の手を指して出方を伺う。
「とにかくやめてくれ」
「ああ゛!?うるっせぇ!!部外者は黙って消えろよ!!」
「どちらにせよいじめをするのは何があってもしてはいけないだろ!」
ぐうの音も出ない正論を突きつけられるが、反撃する。正論には正論で相殺するしかない。
「俺はお前らの過去には譲歩しない。だがいじめはやめてもらう。これは関係あるなしなんて関係ないだろ」
「てめぇはあいつがどれだけクズなのか知らないくせに勝手なこといってんじゃねぇよ!いくらいじめても足りねぇくらいなんだよ!!」
銀堂はその手を振り上げて主張する。
「ふざけるな!!」
リミッター解除までもう秒読み段階だ。好きな人をここまで馬鹿にされて怒らないわけがない。
「うっせぇんだよお!どうせ死ぬ分際がぁああ!!」
「なに!?」
「あーあーあー!うぜぇうぜぇ!わかったよ!わかりましたよ!!」
うんざり顔で言葉を投げて有る意味銀堂が空気を読む。
「貴様が黒羽が良い子ちゃんだと勘違いして死んでも癪だ!冥土の土産に教えてやるよ!!」
悪役にこれほどまで相応しい台詞はない。
寧ろこうなって欲しかったようだ。
「あの女はなぁ…!俺様の人生とプライドをぶっ壊したクズなんだよ!!」
「どういう意味だ」
どういう意味だ…?
「俺様が何故ここで入院していると思ってんだよ!!」
「それは…」
学校を休み入院しているという事実。それが意味するのは勿論。
「大きな怪我をしたからか」
「大きな怪我!?ふざけるなあぁ!!」
慣れているのだろう、一瞬で目一杯眉間にしわを寄せて喚く。
「複雑骨折!脊髄損傷!」
聞くだけで痛々しい単語が出てくる。
「俺様は二度と動けない体なんだよ!!」
こいつの言葉を鵜呑みにするのなら、そのインパクトの強さの飛距離は300ヤードを軽く超える。
しかし、疑念の向かい風がその勢いを失速させ、インパクトを下げる。
なんだ…この違和感は。
マジックを見てすごいと思いつつもどうせトリックがあるのだろう…と素直に驚けない気持ちに似ている。
それはこいつを欠片も信用していないところからもあるが、なにかがおかしい気がしてならない。
「…首くらいは動かせるが…この体の9割はもううごかねぇ!こんな体にしたのはだれだよ!?そうだよ!クズ女黒羽のせいだよ!!!」
きまったといわんばかりの勝ち誇り顔。
「どうしてそんなことになったんだ」
こいつから折れてくれたのだから聞くしかない。秘密のベールに包まれた黒羽と銀堂との出来事。
嘘をついている可能性はいくらでも考えられる。
「あ?まだ疑ってるツラしやがってぇ!!」
不機嫌に不機嫌を上塗りしたような顔になる。
「てめぇのその信じ切っていない顔を変えてやるわぁ!」
支配欲,独占欲がどこまでも強い男だ。その欲を擬人化したらこの男が鋳造されるだろう。
銀堂は独演を続ける。
「忘れもしねぇ!1年前だ…あいつは俺を突き飛ばして車に激突させた」
「なに…!?」
こいつから車に轢かれたという単語をきいて、さっきからなにか引っかかっているライブラリーが紐解かれ、その中身が露わになる。
それはそう、この間栗崎や達也、黒羽と一緒にカラオケに行った帰り―…
━━━
俺たちの視線の向こうにある静かに照らされた横断歩道に車の車輪がすぎることは滅多にない。
その人気ひとけのなさがひき逃げの人気にんきを集めているそうで、ここはひき逃げが多い。
そういえば去年うちの学校でひかれたやつがいたっけか。
名前は…覚えていないが。
━━━
「まさか…去年惹かれた生徒っていうのは…」
あの横断歩道でなにかがあったことは噂になっていたが、もしかして。
「あぁそうだ!この俺様のことだよ!!」
「ど、どうしてそんな状況になったんだ?」
これだけではあまりにも情報が少なすぎる。
しかしこいつがここまで大怪我を負って入院生活を余儀なくされているのは紛れもない事実であり、銀堂の親が黒羽に殺されたくらい恨みをもっている理由を考えると、奴の話は辻褄があってはいる。
「あ?俺が歩いていたら後ろからやられたんだよ!そしてあいつは俺を見捨てて逃げやがった!!俺は今まであいつの事なんて全く知らなかったのに!!」
口が挟めなくなる。これでは今の状況とはまるで真逆ではないか。
「あいつは!!この俺様の人生をメチャクチャにした低俗悪魔なんだよ!!だから!!俺にはむかった罪を償わせているんだよ!俺様に手を出したらどうなるかってなぁ!どうだ!?あいつは最低だろ!?」
にわかには信じがたい。いや、信じられない。
黒羽がやるとは思えない。
「ああぁあ!!?んだそのツラはあぁああ!!」
きっと胡散臭いマジックを見た時になる顔をしているのだろう。その顔に適した言葉を言ってみる。
「俺には信じられない。俺は黒羽を信じている」
「あぁああ!!うぜぇええ!!…糞男があああああ!てめぇ!名前は……!」
そこまでいって一時停止する。言葉が出せなくなるほど膨大な情報が頭の中で処理されているのか、中途半端なところで途切れる。
防壁に囲まれた病室は、唐突に静寂が訪れる。
俺と銀堂の間で変な緊張が走り抜ける。俺もなにを言われていいように臨戦態勢を崩さない。
ダウンロードを済ませ、テキストを読み込み終えた銀堂はCPUに余裕ができたのかフリーズしていた己を再び稼動する。
「…辻村?…。辻村…ああ…」
感情の波が全く予測できない。
しかし次に述べられたことは、一番予測できないことだった。
「…てめぇの父親、弁護士か?」
「…は?」
ここにきて一番意味の分からないことを言われるがここにきて一番面食らう。
こんなところでこんなやつから父の話題が出るとは思いもよらなかった。
「あ,ああ…」
否定がしようがないので頷く。
「ひゃはははっ!やっぱりそうか!!やっぱり辻村の息子かぁ!!」
「何故父の名を…」
どうして銀堂が父親のことを知っているのか。つまりそういうことなのか。
銀堂の思いもよらないバックアタック。
「ヒャアハハハ!!これが証拠だ!!裁判だよ裁判!!俺はあいつを訴えたんだよぉ!!そして…勝った!!」
「なんだって!?」
そんな話聞いたことない。
「嘘だと思ったらてめぇの父親に聞きなぁ!!『一年前高校生一人有罪にした?』ってなぁ!!」
今の銀堂の言葉に何か引っかかる。
しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
「おかしいだろ!なら何故黒羽は普通に学校にきている!?」
「ん!?ああ!?んなことどうでもいいだろ!?」
「どうでもよくないだろ!」
「ああっ?…あぁ、俺が許してあげたんだよ」
「は?」
「裁判で勝って満足したし,それに…少年院にいたらいじめられないだろ?」
にやりと、栗崎の笑顔に-7乗したような汚い笑顔が煌めく。
「野郎…」
「…あーあ…これでわかっただろ?」
この場に似つかわしくない間抜けなあくびをひとつする。
「あぁ満足。俺,満足したし…お前死んでいいよ」
「は?」
使えないアルバイトを解雇するとき店長が言う様な軽い口調。
「いや,もう死ぬから。お疲れ」
「いや,何をいっているんだ?」
あまりに突拍子なことを言い出す奴だ。先程の父親の件といい、こいつの思考についていけない。
「まだ気付かねぇのか?俺が無闇に叫んでるわけねぇだろ」
無闇矢鱈に叫んでなかったのか。
「俺の部屋からみた窓から何が見える」
「それは中庭だろ」
「そう中庭だ。そして…俺の仲間が常に中庭にいるんだよ」
「な?」
以前1年前まで憩いの場となっていた中庭。
確かに最近その場から笑い声や子供が庭を駆ける音がしなくなっていたきはしていた。
「てめぇみたいな馬鹿がきたとき気付かれずに抹殺するときには役に立つんだぜ?」
はめられた…!
しかし、こんなこと言っているがただ感情をどう引き出すのが分からなくてその悪さが仲間以外だと顕著に出てしまうだけだろう。
その助けを、逃げ道を作っているだけではないか。
と、そんな事を考えている場合ではない。
それが事実ならもう近くに来ているはずだ。
どうする、俺。
選択肢
※以下の選択肢は中原達と仲直りをしておかなければどちらを選んでもBAD
※4月17日のイベント1許せる 2許せない で許すを選択すると次へ。
┏1逃げる
┗2脅しだ
こいつはまずい。脅しとは思えない。
暴君と化した人間の言葉で我が儘といえる部類の言葉は本当な事が多い。
コイツの関係者と鉢合わせしたらまず命がないと警告してくれた中原の言葉を思い出す。
大人しく身を引いて、再び説得しよう。
身を翻して逃げる。
「はっはっはは!逃げられると思ってんのか?地獄に連れて行くまでどこまでもおってやるよ!」
病院に有るまじき強引な開け方で外へ飛び出す。
俺自身が死んでは元の子もない。なんとかしてここは生き延びなければならない。
飢えた野獣のように辺りの様子を窺い、敵が近くにいないか確認する。
※以下分岐するが一番いい方を。
すると敵か味方か判断しかねる三人組の姿を発見する。
『なに?長と話しているって?』
高揚した左耳から会話が聞こえる。
目を疑う。
「そうです。ちょっと精神が安定していないようで…存続の話で,いつものように揉めているようです」
中原。…中原!?
中原と二人の姿が俺の目にはっきりと映る。
こうなると分かっていたのか。
「ん、いつものことだな。しかし長は今出張を…」
「我々に心配をかけないようという長からの配慮です」
「流石長、考え方が違うね」
ガハハと中原の護衛と思われる恰幅のいいおっさんは笑い
「なら持ち場に戻る」
「ええご苦労様です」
そういって去っていく。
「中は―…」
完全にいなくなったのを確認した後、彼女たちに声をかけようとすると、こっちの存在も気付いた中原が手で×印を作る。
そして口パクをしているのか、口を動かしている。銀堂に自分たちがいることをわからないようにするための配慮か。
なんとか翻訳を試みる。
か・り・は・か・え・し・た・ぜ。
好意的に解釈するならこういってるのではないだろうか。
なんにせよ助かった。この上なく助かった。
俺は深々と頭を下げて再び病室に入る。
「なにぃ…?!」
生きていないはずのものが生きていることによっぽど驚いたのか、目を見開いて現実を受け入れようとしている。
わなわなと震えた体と唇から次第に唸り声が入りだし、そして
「くそおおおおおおお!!!なにやってんだよおおおおお!!はやくこいいいいい!!こいつをころせぇええええええ!」
魔王が本当の闘いの狼煙を上げる。
だが、どんなに叫んでも防音壁の前では無力。牙を抜いた狂犬は声を上げて叫ぶ。
「く…はぁ…はぁ…」
「さぁ、話を元に戻そう」
「戻すも糞もねぇよ!!さっきのがが事実だ!裁判で勝った。それがなによりの証拠だろ?!」
弁護士という普通の立場ではない人間の名前を知っていることは、銀堂の証言の確固たる証拠にはならないものの、大きな武器になっている。
だがいくらそれが本当の出来事であっても、いじめという復讐行為はやってはいけない。
それに面識もない人間が突き飛ばすなどという通り魔みたいなことを絶対黒羽はやらないと断言できる。その信頼ゆえに俺は一歩踏み込んで弁護できる。
「黒羽が有罪になろうがならまいが、いじめをすることが正当化されて言いわけないだろ!」
「んだと!?俺をこんな体にした人間なんだぞ!?報いを受けて当然じゃねぇか!」
「それはただの復讐だ!なにも生まない、何も解決しない!そんなことをやっていいと思っているのか?!」
「ああああああああ!!わかんねぇやつだああまあああ!」
駄目だ、コイツは言葉で理解するような人種ではない。
分かりきったことではあったが、一縷の望みで説得を試みたものの、やはり銀堂の心には届かない。
一体どうすれば。何の策もなしに来るのは愚策の中の愚策だったか。
それも分かりきったことであるのに、何よりもはやく彼女からいじめを解放してやりたかった気持ちが俺の行動を急いた。
「待っ…」
だからといってここで引いてまた出直すというのはリスクとリターンが釣り合わない。次からはこいつの付き人が常に目を光らせ、これ以上の説得が不可能になる。
だからといってこいつにいじめをやめさせる方法があるわけなく……八方塞がりだ。
「待って…い!」
ない頭をフル回転させている中、さっきから声が聞こえる。
そういえばこの声はなにか。
それは確かに俺の鼓膜を震わせている。
そんな背中にある扉から聞こえる。
それは地獄の使用人からの誘いでも、笑いでもない。
銀堂の発狂に混じって聞こえる、澄んだ声。
それは俺でも、銀堂でも、中原の声でもない。
「待ってください!」
その扉が開く。
というわけで前編終了です。
銀堂再登場、そして更に謎が深まる銀堂の存在。
なぜ彼は辻村君の父親の名前を知っていたのか。本当に裁判で黒羽を訴えたのか?
そして突然の来訪とはいったい誰なのか?
それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。