4月17日/月曜日(後)ー探索 そしてー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。
というわけで後編です。
今回は大分削ってあります。
それでは、どうぞ!
そうしてここまでやってきた。
現在時刻は12時を回ろうとしている。
俺は黒羽の家の前に立っていた。
根源を絶ちに行くのも重要だが、まずは黒羽に結果報告をすることが最優先だと判断したからだ。
もう怯える必要のないいじめからの恐怖を逸早く解消してやりたい。
「黒羽」
小声でも随分遠くまで聞こえる、マイクいらずのコンサート会場である住宅街から報告を開始する。
「聞こえるか?起きているか?……中原達はもういじめないと言った。今度は本当だ。もう大丈夫だ。もうお前をいじめる人間なんていない。安心して明日学校に来てくれ」
留守番電話にメッセージを吹き込むかのような一方通行の伝言。
相も変わらず静まり返った住居には閑古鳥が鳴いているだけで、それ以外は何も聞こえない。
「俺…いや、俺たちはお前の帰りを待っているからな…それじゃあ…」
そう言い残して俺は彼女の家から離れる。
カーテンが開かれたような音がしたような気がするが、俺は振り向かなかった。
駅前に到着。
ここ周辺の住人が最も待ち合わせ場所で指定するであろう噴水スポットに腰を下ろす。
この駅前を拠点に銀堂がいるはずである病院を探していきたいところだが。
具体的に大きい病院とはどの程度の大きさのことを言っているのだろうか。
唯一にして最大のヒントが大きい病院では、あまりに抽象的すぎて検索が絞れない。
妹の病院がこの町で最大に大きいが、それに継ぐ大きさの病院はちらほら存在する。
虱潰しというのは何とも効率が悪いが、それ以上やりようがないのが現状である。
策らしい策は持ち合わせておらず、これ以上捻りだすことは不可能と判断した俺は手持ちの携帯を取り出し、近場の病院を検索する。
この駅周辺にある数多ある病院の中からどれを最初に訪れようか考えていると
「あーっ!」
どこからかそれはよく聞く声がした。
「つっじむっらくぅぅぅううぅうん!」
刹那、俺は本能的に立ち上がってその危機を回避する。
「ぶべぇっ!」
俺にダイビングしようとしていたそいつは派手に俺の脇に逸れる。
「おいおい俺は一塁じゃないんだからヘッドスライディングなんてするんじゃないぞ」
「わ…わかっててよけてんじゃねーよ…」
タイルに豪快に頭から突っ込んだ達也の顎は赤くなり、ヒリヒリしていること請け合いだった。
「辻村くーん!」
「栗崎、それに神納寺も?」
模範的な女の子走りしている神納寺とは対称的に部活で磨かれた美しいフォームで小走りしている栗崎の姿が目に入る。
栗崎が俺の前に到着して達也が顎をさすりながら立ち上がった頃に神納寺がかなり息を弾ませながら遅れてやってきた。
3人とも制服と鞄を持っている。
「おっはよー!って、今はお昼だったねっ。こんちゃっ!」
フラッシュを炊いたようなまぶしすぎる笑顔付きのあいさつに思わず手で遮りたくなるほどだ。
「ああ、みんなうっす」
「うす」
「はーっ…はーっ…、ご、ごきげんよう…」
両手を膝につけて酸素を求める、走るのが苦手なのが実にお嬢様らしいなと彼女に視線を移すと、説明しようのない小骨が刺さるような違和感を感じた。
指摘しようと思っても具体的になにがどうおかしいのか言えないので「なんか神納寺変わった?」と女の子の変化に敏感な男子みたいな質問するのもありかもしれないが、あくまで小骨の違和感なのでそっとしておく。
とりあえず神納寺が落ち着くのを全員が待った。
30秒もしないうちに呼吸を整え終えた神納寺がふぅと一息つくと微笑みながら
「形はどうであれ、駅前では三度目ですわね辻村殿」
「まぁ、これもカウントとっておこうか…。その話はひとまず置いておいて」
「ちょっ…」
「どうしてお前らはここに来た?ってかわかった?」
神納寺ともっと話の花を咲かせたいところだったが、今は銀堂の存在の方が気がかりだ。
「自意識過剰だなあ、偶然だよ」
「辻村君にプリントを渡すって聞いてあたしも今日部活ないし、心配だったからついてきたのっ」
「わたくしはたまたま廊下で2人とすれ違い…成り行きで」
三者三様の答えが一気に押し寄せる。1人癇に障る言い方をするやつがいたが許容する。
「そうだったのか…ん?ちょっと待てよ。今日は月曜だから7限まであるはずなのに」
会社員じゃあるまいし、昼休みにちょっと商店街でランチタイムとはいかないはずだ。そもそも校則で外出られない。
当然の疑問を口にしたはずなのに、3人の頭に疑問符が浮かんでいるのは何故だ。
それを察したのか、恐る恐るといった感じで神納寺が聞いてくる。
「…もしかして辻村殿、忘れましたの?」
「何の話だ?」
「え-っ!?今週から三者面談で4限までしかないんだよっ!」
「う、嘘?!」
知らなかった。
「人の話をちゃんと聞きなさい紅!金曜のホームルームで言ってたでしょ!?」
「え?…あ、あぁ、そうだったな」
金曜日といえば雨が降る中黒羽を発見した日だ。日中俺は放心状態だったため人の話は右から左へ受け流していたのだろう。
「もう、しっかりして欲しいものですわ」
肩をすくめた後、神納寺の目を細めて俺をじろじろ見始める。
「な、なんだよ」
「その姿を見る限り風邪を引いて休まれた、というわけではないですわね」
いつものように肩をすくめるのを俺は受け入れるしか術はない。
「紅…お母さんは悲しいわ!こんな不良少年になって…」
「辻村殿?どうして学校をサボったですの?」
3人のいかにもサボリの人間を見る視線が痛い。1人保護者面している馬鹿がいるが許容する。
「は…ははは…」
ここは本当の事を言うべきではない。
これ以上こいつらに心配を駆けさせるわけにはいかない。
どういってはぐらかすべきか。
「や、やだなぁ、俺をさぼりと勘違いしないでくれ。さぼりじゃないし、達也の存在の方がよっぽどさぼりだぜ」
「さぼりじゃないならなんなんだよ」
それはもちろん…
選択肢
┏1「悪魔と契約してきた」
┣2「他校のやつに告白されたんだよ」
┗3「人生…かな?」
「人生…かな?俺は今の行動にさぼりなんて感情は抱かないけど神に魅入られた」
「うわぁ・・・・」
「( ;∀;)・・・」
「(ノ∀`)」
「ごめんごめん嘘嘘嘘。冗談だよ、ジョークだよ、ジョーク」
流石にわからないか。
「本当はお見舞いに行くつもりだったんだ」
「えっ、誰か入院しているのっ?」
さっきの俺を完全に憐れむような視線を浴びせてきた3人の態度が通常フェイズへ移行してくれる。
嘘であって嘘ではない話を続ける。
「いやー、実はいく病院を忘れちまってさ。今まで病院を行ったり来たりしてたわけなんだよ」
「お休みしてまでいかないといけないの!?」
「あぁ、親戚の人間なんだが昨日事故があったと連絡があってね。父さんがいないから、いかないわけにはいかなくてな」
ここ最近嘘ばかりついている気がする。この2人に嘘をつくことは良心が痛むが事態が事態だけに貫き通さねばならない。
「この町のどこかの病院に搬送されたらしいんだけど、それがどこの病院か…忘れちゃってさ」
「もう一度連絡してみてはいかがです?」
未だに醸し出す違和感を拭い切れない神納寺から出たその質問は予想していた。
短い間で作り上げた答えを頭でなぞりながら答える。
「いや、連絡してくれたおじさんの携帯がつながらないんだ」
「だったらわざわざ風邪といわずに見舞いに行くと言えばいいのにー、どうしてそんな嘘をついたの?」
栗崎のぐうの音もでない正論を突きつけられる。それを言ったらおしまいであり、思わず吃ってしまうが
「そ、それは見舞いじゃ休めないと思ってな」
「ふぅん?」
…根拠が弱い言い訳だったが、納得させることが出来たようだ。
しかし、油断できない状況であることは明白であり、これ以上詮索されてボロが出る前に俺から3人に話題を提供してこの場をやり過ごさねば。
「…そこで神納寺、良いところに来た」
「なんです?」
「そのおじさんがいるところを教えてくれないか?俺を占ったときのようにいつものを」
「ええ、そういうことならお安いご用ですわ」
そういってポケットを探る。
「またあれがみられるのか…武者震いで全身運動をしよう」
ブルブルと震える達也と苦笑いする神納寺。最も、達也は彼女の眼中にはなく、苦笑いの原因はキモい動きによるものではなかった。
全身のポケットというポケットを漁るが彼女が望んだものは出てこず、申し訳なさそうにこう申し出た。
「あはは…インクを忘れてしまいましたわ…それと…Gペンも…」
「…あ」
右手には、手にはっついていると見間違える位持っていないことがないGペンがない。俺が感じていた違和感の正体はこれだったのか。
「そうか。仕方ないよ、ありがとう」
「も、申し訳ないですわ…」
いつもはすくめる肩が珍しく落ちる。
「うぅん…Gペンとインクを買いそろえるほどお金持ち会わせてないし…」
「右に同じですわ…。24円なら耳裏に挟んでいるけど」
「右に同じですわ」
だからその文面だけみたら神納寺が言ってるみたいにするのやめ―…いや待て、神納寺も24円耳裏に挟んでいるのか?
…そっとしておこう。
「なんなら今からとってきましょうか?」
神納寺がそんな提案をしてくるが、労力をかけてまでしてもらうのは悪い。
「そこまでしてもらうわけにはいかないよ」
「ですが…」
「じゃあ大きい病院を教えてくれないかな」
「おーきい病院?」
「親戚の人大きい病院にいるって…それだけ覚えているんだよ」
「随分都合の良い記憶力ですなぁ」
「は…はは」
全くだ。
「うーん、大きい病院ねぇ…」
栗崎が目を泳がせて思い出そうとしてくれている。
「なほちゃんは何か思い当たるところある?」
「そうですわね…少し時間が欲しいですわ」
Gペンがないからだろう、神納寺の手は所在無さげにぷらぷらと動いている。
「おっきいよぉ…な病院ねぇ…」
こっちは腕を泳がせて考えている。
「あ、隣町の病院は大きいですわよね。あの白くて大きいやつ」
明日香がいるこの町最大の病院のことだろう。
「うんっ。あたしの家に案外近いんだけどっ、とっても大きいよっ!例えるなら辻村君5万人くらいっ!」
「もっと別な例え方があっただろ!」
「えーっだってほかじゃ例えられないのっ」
「それじゃ全然イメージが沸いてこないんだけどな…」
「んなわけねぇだろ紅!」
何故か達也が乱入する。
「あずきちゃんが言っていることは全てわかりやすいじゃないかぁ!」
「信者は教祖の言葉を盲信するわけか」
「うるさい!あずきちゃんが言っていることは全て正しいんだ」
そう力説する達也だったが、その脇で俺に言われてすぐ顎に手を添えて考え込んでいた栗崎の頭の電球が点灯する。
「うぅん…辻村君じゃわかりにくいねっ…うちの学校位の大きさかなっ?」
「そ…そうだそうだ!学校と同じ位の大きさが―…」
「「おまえは黙って いろ! くれなくて!?」」
はさみで挟むような感じでハイ、ローキックが達也にクリーンヒットする。補足すると神納寺がハイのほうだ。
「お゛おおおぉう!?」
固いコンクリートの上に膝から落ちて倒れ込む。高速で手のひらを返すこいつの手首はどうやらモーターがついているらしい。
「そこで寝ていろ」
達也に背を向けて決め台詞を一つ。
神納寺との協力でFATAL K.O.が決まったところで話の軌道を修正する。
「そいつは放っておいて、だ。そこは行くつもりだが、最後に行こうと思っているんだ」
「え?どうしてっ?」
「隣町だからさ」
あぁ~と神納寺が頷く。
その言葉と入れ違いで何かを思いついた栗崎があっと感嘆詞を放つ。
「どうした?」
「ひかりざか…光坂病院は大きいんじゃないかなっ?」
「あー最近出来た奴か」
「そうそうっ」
ここからは少し遠いが、1時間もないくらいで向かうことができる、最近できた明日香がいる病院に引けをとらない大きさを誇っている病院だ。
「確かに新しい病院なら開いている病室もありそうですわね」
「でしょーっ!?もうそこにいるにちがいないよっ」
「ふむ…光坂病院で責めてきたか…やるな」
いつの間に立ち上がったのか、輪の中に入っている達也。
「ならば俺は大塚病院を押すぜ」
「確かに大塚病院はなかなかの大きさを誇りますわ」
「それも候補の中に入れておくか」
「それと…そうですわねぇ…」
「……う~ん……お腹すいたねぇ」
各々が悩みこんで会話が途切れたところに、栗崎がお腹を抑えながらポツリと空腹を伝える。
そういわれると俺も朝食以来なにも口にしていないことを思い出す。
アナログ時計は1時の10分前を指しており、昼時を逃しかけている微妙な時間だ。
「すまんすまん、時間を取らせてしまったな」
「じゃあ軽くみんなでどっかに食いにいかないか」
「わたくしはやぶさかではありませんね。辻村殿もご一緒にいかが?」
普段なら二つ返事で昼食へ駆り出すところだが、とても談笑しながら飯を食いたい気分ではなかった。
申し訳ないがここは断って病院探しに専念することにする。
「ごめん、俺はおじさんの見舞いを優先するわ」
「へっへっ…、気を遣わなくてもよかったのにぃ」
女子高校生とホテルに行く中年オヤジのようなねっとりとした笑顔の達也を一気に冷ます魔法の言葉をプレゼントする。
「まあそうでもしないと一生童貞だもんなあ」
「ば、馬鹿!和姦だよ!和姦!」
その返しも十分意味が分からないが、童貞という言葉に敏感な童貞である。
「そういうことなら仕方ないねっ。夏帆ちゃん一緒にご飯食べにいこ?」
「そうですわね、早くいきましょう」
「倉金!わたくしの口調で話さないでくださらない?!」
「ちょっと待ちなさい!それじゃあたかもわたくしが言ってないみたいではないですの!?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
神納寺の狂気に満ちた凶器の平手が頬を抉るように振りぬかれ、達也はきりもみ回転しながらぶっ飛ぶ。画面端なら壁張り付きから追撃が狙える。
ヒステリックではなくハンマーを投げる瞬間に吠えるあれに近い、女として越えてはいけない線を踏み込んだ怒号は決してやってはいけないものだった。
「ナイッシュー!」
「いや栗崎、そんなゴールを決めた選手を讃えるような賛美はどうかと思うぞ」
「あっ、あんまりにも良いものだったからついっ」
拳を突き出して威勢のいい歓声を浴びせるが、ゴールされたボールは現世をゴールしそうだからありがたい。
首が人間がしてはいけない方向に向いてうつ伏せに倒れているボールに視線を外し
「お、落ち着け神納寺」
「ゼェーっ……ゼェーッ…」
今にもコマンド必殺技を繰り出しかねない神納寺に声を掛けると、まだ痺れの取れない右手を達也に突き出して叫ぶ。
「次このようなマネをしたら息の根を止めてくれますわよ!?」
その眼は殺意に満ちていて、言葉に一つも偽りがない。正直怖い。
もう止まっていると野暮な口出しはやめて、改めて別れの言葉を告げる。
「それじゃあ俺はここで。またね」
「うん!じゃあねっ!辻村君!バイバーイ!」
「見苦しいところをおみせしてしまいましたわ。ごきげんよう、辻村殿」
ブンブンと音がしそうな勢いでお互いの顔が分からなくなるまで手を振ってくれる栗崎と、さらりといつものテンションに戻る神納寺と別れる。
俺は嬉しかった。
こんなにも俺のことを思ってくれて、一緒になってなにかをしてくれる友人の存在に。
黒羽もこの輪に入ることが出来るだろうか。
確実に言えることが一つある、
こいつらと一緒にいれば絶対に黒羽の心は癒える。それは間違いないと思う。
俺はそんな未来を実現させるために、もう一踏ん張りするため病院を目指す。
とりあえず候補を思い出す。
光坂病院…大塚病院…市立病院…。そして俺の妹がいる病院。
妹がいる病院は最後に行くとして、この3つの病院を2つ行こうかな。
…ここで選択肢が入って名前で察してほしいネタが挟まれるのだが割愛する。
2つの病院を回ってみたが、残念ながら両方ともハズレという結果になってしまった。
というわけで俺は今電車に揺られて隣町へ向かっている。
目的地は白い巨塔、妹がいる病院だ。
「あら,辻村君じゃない!」
速足で病院へ向かい、中に入って総合受付めがけて歩いていると見知った声、見知った顔のナースに話しかけられる。
「ご無沙汰です」
達也と来た時にもいた、天使と言われても納得してしまう美人の看護士さんだ。
今日もいつものようにカルテを持って患者のところへ向かっている最中だったのだろう。
「もぅ、どうして日曜は来なかったの?妹さん,寂しがってたわよ~」
「すみません,ちょっと用事がありまして…」
「まぁ、高校生だもんね。あー、恋愛の方で忙しいのかな?」
ニッコリというよりニヤリとした笑顔がクラクラさせる。
いじりも相変わらずで、天使の微笑みの裏に隠れた妖艶な瞳が俺のような高校生を幾人も騙してきたのだろう。
「ち、違いますよ。見舞いに行ったというか、なんというか」
そう分かっていても声がうわずってしまう自分を殴りたくなる。
看護士というよりイケナイお姉さんのようなナースは追撃してくる。
「ふーん?妹さんが日曜にいってたわよ?『お兄は彼女と遊んでいるからぼくのところにこないんだ』って…」
看護士が口に拳を当てて笑いを殺している。
「違いますって!そんなんじゃないですよっ!」
「フフ…妹さんが言ったとおり,辻村君は恋愛沙汰にほんっと疎いわね」
「な…!」
「そんなに怒らない怒らない!だって事実でしょ?」
「う…」
押し黙る俺を見て再びクスリと笑う。
恋愛経験ゼロのチェリーボーイとの会話を一通り楽しんだのか、話を元に戻す。
「っと無駄話が多かったわね。ごめんなさいね。はやく行ってあげなさい」
「いえ、今日はちょっと別の人も見舞いをしに来たんです」
「別な人?」
意外な返答にきょとんとする。
総合受付の人に聞くよりこのナースさんのほうが聞きやすいし、よい返事が期待できそうだと判断し、聞いてみる。
「ええ、銀堂って名前なんですけど分かりますか?」
「あの3階の340号室の銀堂君よね?ええー、知ってるわよ。いろいろ問題が多くて困っているの」
きょとんとした表情を仕方かと思えば看護婦さんの表情に雲が一気に押し寄せる。
「問題…とは?」
「…ここではあんまり大きな声で言えないわ。行ってきなさい」
「はい、ありがとうございました。それでは」
「ええ、またね」
中原達の事前情報通り、銀堂は相当厄介な存在であることは現地の人間から言質をとったことで確信する。気を引き締めていかねば。
看護士と別れ階段を使って3階へ足を運び、問題の病室へ向かう。実は明日香の病室がある階でもあり、よく通る廊下である。
ツカツカと銀堂の病室の手前までやってくると一瞬、視界がダブる。
――俺はここを知っている。
何故既視感を覚えるのか。明日香の病室以外用がないから他人の病室で立ち止まるはずはないのだが。
思考を放棄してデジャヴというのは突発的に起こることもあると思い込む前に記憶がロードされる。
━━━
やり場のない虚無感をこらえつつ、俺(達)は廊下を歩く。
廊下には人という人がおらず、薄暗く続く道が俺の気持ちを再現してくれているようだった。
そのせいかいつもより周りの音に敏感になっており、病院内の静かなざわめきが良く聞こえる。
その中に…
「…!…!」
俺の視界に入る、ここから2つ先の扉の中から、やたらでかい声で喚いている奴がいる。どうかしたのだろうか。
それの前まで来ると、扉越しから声が聞こえる。なにかを主張しているようだ
「い…よ!…!」
…まぁこれ以上聞いていても無駄だし申し訳ないので,とっとと行くことにする。
━━━
思い出す。
あれは始業式の日に達也と一緒に明日香の元へお見舞いに行った帰り、この病室の前に止まったのだ。
俺は最初からこの男の居場所を知っていたのだ。
スライド式の扉の横に目線の高さで置かれたネームプレートには『銀堂翼』という文字のみが。ここは個室らしい。
ともあれ、聞くだけで会話が難儀そうな今からこの男に直談判をするのだ。途端に唇から水分が逃げだし、喉は渇きを訴え始める。
日は傾き、廊下の突当りの窓から射す夕日はこの男の扉を照らさない。
耳に響くは誰かの足音でもなければカーテンの衣擦れでも風の声でもない。己の心臓のみが高く鼓舞する。
ここまできたらもう後戻りするつもりはない。絶対に黒羽のいじめをやめさせる。そのために俺は来たのだ。
覚悟と気合いを入れ直し、魔王の扉をノックした指関節の痛みが妙に鋭く走った。
「だれだ?」
病室の中から普通の病室では考えられないほど恐ろしくくぐもった声が返ってくる。それは男の喉から調節されたものではなく、単純にこの扉自体が防音になっているようだ。
その意味を察する余裕もなく俺は扉を開けるキーを言う。
「お見舞いに来ました」
「…はいれ」
カギは差し込まれ開錠する。扉に手をかけて開け、ラストボスの顔を拝ませてもらう。
「…誰だお前は」
最もらしい一言が、開口一番に投げつけられた。
銀堂と初対面する。部屋自体は明日香の病室と然程変わりはない。だが、ベットに寝ているやや痩せ形のこの男自身の体は大きく違っていた。
パジャマ姿であるが右手左足、頭には大きな包帯が巻かれており、この男がなぜ入院しているか一目で分かる格好をしている。
もしかしたら見えない箇所も折れている可能性が高い。誰が見ても交通事故レベルの大怪我を負っていることは火を見るより明らかな状態だった。
目は不審者である俺を見ていることもあってかなり威圧的なそれを有しており、中原たちと比肩、いや、それ以上の世を恨み濁りきった荒んだ眼をしている。
一触即発しかねない、常にガソリンを染み込ませた導火線の前で炎をチラつかせている男にまずは挨拶する。
そのはずだった。
「俺の名は辻村紅。黒羽…黒羽雪見を知っているか」
「くろは…?黒羽…!?」
「知っ―…」
「黒羽だとぉおおーっ!!?」
黒羽という言葉を聞くや否や顔を歪ませ有無を言わさず怒りを爆発させる。震怒の声に言葉通り鼓膜が怒り激しく揺れ、手が勝手に耳を塞ぐ。
「貴様あぁあ!!俺様になにをしにきたあぁ!?」
靡く程度の風で怒りの撃鉄を落とすゆるゆるのトリガーを持った銀堂の心に波風が大荒に立つ。
突然のバインドボイスはとても大怪我をした人間からとは思えない破壊力だった。
「なに…なにもしない…!」
「あ゛…!?フーッ…フーッ…」
額の血管が破裂しないばかりに怒張し歯ぎしりをたてて息が荒ぶる。中原達の怒りとはまるで毛色が違う。
「じゃあなにしにきたんだよ!!」
「やめてもらいに…」
「あ゛?」
「黒羽のいじめをや―…」
「黒羽の名前をだすなあぁあー!!」
もはや目の焦点がおかしい。
「ぐ…」
なんて五月蠅い奴だ。解決する頃には俺は難聴になっているかもしれない。
そもそも話し合いで解決できることすらどうか怪しいが。
「失せろ!あいつの名前なんか聞きたくもない!!」
話にならない。
ここは大人しく身を引いたほうが良さそうだ。
「すまん、またの機会にする」
「だれも来ていいなんていってねぇよ!!」
急いで出口に向かい、外に出る。
「死ね!二度と現れるな!!」
ドア越しから罵声がまだまだ収まることを知らない。
耳障りな言葉が聞こえないところまで離れてようやく安堵すると同時に一気に耳鳴りが耳を苛む。
僅か30秒の出来事だったが、とんでもない男とわかるには十分すぎた。『黒羽』という呪文ひとつで狂戦士に豹変し、力任せに鼓膜を両断する斧を振り回してじゃじゃ張るから手におえない。
これは中原たち以上にまともに取り合ってくれなさそうだ。果たしてこの先どうしたものか。
難所をやっとの思いで乗り越えたところで更なる難所に出くわし、現実から目を背けたくなる。現にどっと疲れが押し寄せてこれ以上の行動を制限させられる。
今日は大人しく帰ったほうが良さそうだ。
折角目と鼻の先に明日香の病室があるのだから見舞いをしにいくべきなのだろうが、難攻不落の状況を打破しなければならないと思うととても妹と楽しく談笑する気になれなかった。
疲れた体を引きずって3階を後にする。
夕日に照らされ伸びる影が、心なしか重たく感じた。
という訳で終了です。
銀堂というキャラが出てきましたが一体どうやってこの男を納得させていくのでしょうか。
その前にまた辻村君の前でとんでもないことが起こります。それは一体?
それでは最後まで読んでくださりありがとうございました。