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4月17日/月曜日(前)ー本当の敵ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで前編です。

朝起きた辻村君は、なにやら電話をしているようですが…?


それでは、どうぞ!

「あ、もしもしおはようございます。3年3組の辻村ですが…」


鼻をすするような音を出す。


「はい、実は今日風邪を―…ゴホッ、引いてしまったので…はい…はい…そうです。今日はお休みすると担任に伝えていただけないでしょうか…はい…はい…」


分かりました、伝えておきますと事務的な答えが返ってきて思わずニヤリと笑みをこぼす。


「はい、それでは失礼します………これでよし」


これで俺は学校公認で休むことができた。

本来学校を休むときの電話は親がやらなければ無効なのだが、片親で父も家にいないことが多いことが分かっているため、俺が電話しても休むことが出来るという仕組みだ。

そもそもこれを使う機会が殆ど無いし、成績もそんなに悪くないので高校二年になったときに家庭訪問で事情を知った学校側が与えてくれた特権だ。

特権で横暴するなんて我が儘な王を連想するが、別に特権なしで横暴する鬼女達がいるのだ。それくらい勘弁してもらいたい。

そういう訳で俺は飯を食って仕度をした。



そしていつもの時間に登校し、いつもの時間に到着し、いつもの時間に教室に…入らない。

完全に無視して通り過ぎる。

教室の窓の先に見える少女は写真を撮りたくなるような寝顔を無意識に晒け出していた。

そんな姿に苦笑しつつそのまま歩いて行き…



向かい風で少し重い扉を開けるとその風は全身に吹きそそぐ。

言わずもがな、屋上へ到着する。

ここに来る間人間との接触はゼロ。これは俺にとってすさまじく好都合なシナリオだ。

今日ほど早起きの習慣が役に立った事はない。


「…」


心地よい風が吹く生徒達の至高の憩いの場、屋上。当然今はその役割を果たしておらず、太陽光線が降り注ぐ無人の領域だ。

なにをしに来たかなんてそんな疑問は愚の骨頂だ。

あえて答えるなら、ある時間になると必ずエンカウントする、黒羽の幸せを奪い去ったモンスター3体と戦うためだ。

出現時間は10時前後。

本来は授業中である。

その時間帯に既に俺は2回授業中脱出したためかなりきつい状況に立たされた。

だから俺は今日学校を休んでまでこの機会をつかみとる。全ては奴等と戦うために。


「…ふぅ」


使い古しの青いベンチに腰を下ろす。

俺は止まない春風をまだ痛むでこにたっぷり受けつつ三人の登場を待つ。

…俺は昨日家に帰ってからずっと考え続け、導き出された結論があった。

――中原達のいじめは意のままでない。

クリームが入っていないシュークリームがある感じなのだ。

外見はいじめているよ…という生地があるが、肝心のいじめる原動力に当たるクリームは外見に背き空っぽ。

つまり形だけ黒羽をいじめている気がするのだ。

何度記憶の本を同じ場所で紐解いたかわからないが、黒羽の自殺を止めたあの日黒羽の口から出た言葉を今一度思い出す。


━━━


「まず…あいつらに虐められはじめたのはいつ頃からだ?」


アウトラインすれすれなメンタル状態の黒羽に『いじめ』という起爆剤はさぞかしつらいものがあるだろうが…


「……」


膝上に置いてある熊の風呂敷を両手でギュッと握りしめたて言葉の錬成を試みてくれている。

傷跡に塩を塗り立てる、拷問のような作業で本当に申し訳ないが、ここは黒羽に頑張ってもらうしかなかった。

黒羽は微弱に声帯を震わせ、こう呟いた。


「…今年の1月くらいから…です」


周りの賑わう声にあっという間に混ざってしまいそうな声を俺はギリギリ聞き取る。

寧ろプライバシーを厳守するという意味ではこれくらいが良いのかもしれないが。

そんな彼女から出た言葉は何とも規格外なそれだった。

昨日見た光景がそんなに長期間行われていだなんて想像するだけでも食傷してしまう。

精神的に病んでしまうのもうなずける。

だが、問題は次の質問だ。

しかし今の関係からしてこの質問は無粋な気がしないでもないが、聞くだけ聞いてみる。


「そうか…。黒羽に心当たりは無いのか?彼女たちに恨まれることを言ったりしたり」


疑問符を付けた辺りから即座に目を瞑り頭を横に振る。

肩に頭を埋め、小さく顔を振る彼女のこの行為を、演技だというのなら俺は誰も信じることができなくなる。

純粋に恐怖を感じている黒羽はこう言葉を繋げた。


「…ないです」


その声は衰弱した臨終患者のそれだった。

だが、語られた内容は俺の胸中を震撼させるほどのインパクトと飛距離を併せ持っていた。


「わたしは…いじめられるまで…中原さん達を知りませんでした…」

「なっ!?」


素で声が出る。


「お、同じクラスだったのか?…違うよな」


出来レースのような流れに従った答えが返ってくる。


「はい…」

「…」



━━━


3日前にも整理したこの件。

中原たちは黒羽をいじめる動機や期間、過激さがすべてチグハグで破綻しているのだ。

要するに中原たちは特別、本人の意思で黒羽を嫌っているわけではなくなにかしらの理由で、こんなにも長くやっていると思わなければ話が合わないのだ。

それを裏付ける証拠ならいくつか心当たりがある。

例えば彼女たちが学校に登校した際、わざわざ教室に入ってきて屋上に行く一連の流れ。

この行為は彼女たちからしたらただ先生に怒られるだけで、メリットがまるでないのだ。

だが見方を変えれば彼女たちが登校して先生と悶着を起こし怒号を響かせれば、それだけで黒羽に恐怖心を刷り込むことができないだろうか。

そのほかにも帰りの公園で彼女を待ち伏せていじめるという行為。

ただでさえいじめすること自体が不可解なのに、待ち伏せしてまでとなればもはや意味不明である。

もう一つ言わせてみれば体育館裏でいじめを止めた時、中原の肩を押して黒羽と距離を取らせたときにいった『さわんじゃねぇ』。

肩を押したのは俺なのにその言葉は倒れ込んでいた黒羽に向けられていた。これだけではなく、露骨なまでに黒羽に恐怖をこれでもかと与え続けていた。

そこまで考えて、俺は一つの結論を導いた。

本当に中原たちの考えでいじめをしていないのなら、彼女たちがここまでするつもりはなかったと思わせるための強い後悔を感じさせる、まさに一撃必殺の言葉をふっかけてみてはどうだろう。

中原達の裏に潜む本当の敵。中原達という大型ロボットの中で操る首謀者がいるのかもしれない。

だが、ここまで考察しても謎を解く綻びすら見せていない、推理することすら許されないことが1つあった。


『やめで下ざい!!!』


いじめを受ける側がいじめをする側を庇ったあの一言。

なぜ黒羽は中原たちを擁護したのか。それだけは解明のメスを差し入れる余地がなかった。





携帯のデジタル時計は『10:11』を表示している。

今は二時間目の途中、通常通りならばそろそろ現れてもおかしくない。

運動場には体育に勤しむ生徒達が声を張ってソフトボールをしている。

柔道部主将の鋭いホームラン性の当たりが出て歓声があがったその時


『アッハハハハハ…』


耳にたこができるほど聞いた下劣笑い声に虫酸と怒気が走り抜ける。

その笑い声がガソリンとなり、俺の怒りのエンジンが掛かる。


『後二日,来なかったらもう完璧だね』

『あぁ…,たんまりもらおうか』


普通ならこんな時間に絶対開けられない扉が開かれる。


「ハッハハハ,チョーウケルなー」

「ハハハハハハ!」

「でさー…あ?」


それまで日常会話に花を咲かせていた彼女たちの花が唐突に枯れ果てる。向こうも俺の顔を見て虫酸が走ったようだ。

暗闇にライトをつけるよりハッキリと、クッキリと顔つきが変わる。

軽いジャブを入れるつもりで挨拶をしてみる。


「またあったな」

「しつけぇぞ!!」

「またおまえ!?おまえと一緒の空気すいたくないんだけど!?」

「いやいやいや,ここまでキモイと犯罪だぞ?」


返ってきたのは全力右ストレート。

思わず眉間にしわを寄せてしまったがここは一つ冷静に口を開く。


「まだ黒羽をいじめているな」

「は?もういじめてねーし」

「また妄想?精神科いけよぉ」

「また被害妄想?精神科いけよぉ」

「プッ…ハッハハハハ」


息ぴったりで笑いあう三人。


「これをやったのはお前らだろ?」


怒り特有の不快感が全身に回り始めるが噛み殺し、リュックから黒羽の亡き教科書を取り出す。

春風でバラバラになりかねないほど命の瀬戸際を彷徨っている。


「んなことするかよ!」

「ってかそれ自分のでしょ?」

「ハハッ。腹いせにうちらのせいにするとか。餓鬼以下だな」


今日の対峙を脳内で幾度もシミュレーションしたときに必ず出てきた答えが、本当にシミュレーション通りに返ってきた。

そしてそんな返答を受けて、脳内実験の中の俺は必ずこう答えていた。


「これをみてまだそんなことが言えるか?」


取り出す。

それを見た一同雰囲気が激変する。

俺の右手に握る刃渡り6、7センチほどの刃物。

言うまでもなく、それは中原が持っていたナイフだ。


「こいつは誰のものだ?」

「…しらねぇよ!」


そういっても,中原の顔に書いてある『しまった』の文字は力強く浮かび上がっている。


「嘘をつくな。これはお前が持っていたものだ。なんなら…」


見せつけるようにそのナイフを持つ腕をゆっくりと上げる。それにつられて中原の目は小さくなる。


「指紋を調べてやろうか!?」


渾身の力で叩きつける。

刃が欠けて刃と柄が分離する。所詮は安物の果物ナイフだ。


「て、てめぇ!!なにしやがる!!」


それを見た中原の顔色が変わる


「その言葉がお前のナイフであることの何よりの証拠じゃないか?」

「うるせぇ!!よくも俺のものを…!!」


一糸まとわぬ怒りを転がった果物ナイフよりも鋭利な目力で形に表し、俺の心を刺殺しに来る。いつ襲われてもおかしくない状況だ。


「どうしてまだいじめる!?なぜ嘘をついた!!」

「は!?俺は嘘なんかついてねぇ!!」


己にある怒りの感情を拳に込めて空回す。


「俺は『よびだしはしない』っていったんだよ!うちらは呼び出していない。勝手にあいつが通りかかるんだよ!」


とても女がする顔とは思えないほど表情はひどく歪み、顔だけには収まらないのか、言葉遣いも持論も歪めてこう続けた。


「あの公園になぁ!は!うちらは約束を守っているんだよ!あとさあ、目の前に空き缶あったら蹴り飛ばしたくなるだろ!?それと同じだよ!黒羽が通りかかるからやってるだけだよ!!」


あまりにも倫理を欠く暴言に、怒りを抑制するリミッターがうねりを上げて動く。こんなに短い期間に2回も切れていれば誰でもその制限器は脆いままだ。

ティッシュを裂くより安易に解離するのは必然であり、俺も自制が効かなくなりつつある。

ただ、暴力の衝動ではない事は確かだった。


「黙れ!!!」


一喝する。

黒羽の身の危険性がなくなった今、俺を制限する鎖は全て千切れ去った。発言の束縛もなければ行動の束縛もない。俺は後ろ盾が木の板と化した彼女たちに、ここ二週間近くもの間蹲っていた気持ちを一気にはき出した。


「ふざけるんじゃねぇぞ!!お前らがやっているのは全て間違っている!」


想定外であったであろう突然の爆発に対処しきれなかった中原たちは、口を開けて立ち尽くす。


「黒羽とお前達の間になにがあったかは知らん!だがな…お前らがやった『いじめ』は取り返しが付かないほど重い罪なんだよ!」


火蓋を切り、言葉を続ける。


「暴力,暴言,暴行…。お前らの自己満足のためにそれを強いられた黒羽はどうなるか!?今も未来もすべて,その力にねじ伏せられたんだよ!全てが閉ざされた人間の最後の行く先はどこか?希望がなくなった人間が辿り着くのは『死』だ!おまえらにはそれがわかっているのか?」


返事も待たずに湯水のように湧く言葉をとにかく吐き出していく。


「黒羽は今の現状から逃げ出したくて,解放したくて…自らの命も絶とうとした。それをお前らは陰で嘲笑って!馬鹿にして!てめぇらはどこまで腐ってんだよ!」

「…は…!」


ここまで発言権を強奪していたが、その権利を譲渡すると減らず口が返ってくる。


「だからなんなんだよ,それがどうかしたのか…?」


流石にこの程度で動揺するとは思っていない。だから


「お前らなんにも知らないんだな」

「あ?」

「お前らの,そんな下らない筋書きのレールに乗った黒羽は」

「あ?黒羽がどうかしたのか?」

「天国へ旅立った?ん?」

「いいことじゃないか。なぁ?」

「あぁ教えてやるよ。黒羽は!」


一呼吸いれて気合をいれる。

平等に流れる春風に乗せて、俺は言い放った。


というわけで前編終了です。


辻村君は果たしてなにを言ったのでしょうか。


それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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