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4月14日/金曜日(前)ー真実ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで前半です。

物語が動きはじめます。


それでは、どうぞ!



「ち…」

この現状に舌打ちするほかあるまい。

通学途中に突如降り出す雨に、足が自然と速まる。

空は最近の青空をぶっ飛ばした重い灰色の積乱雲が空を完全に覆い尽くしている。

そこから出撃する雨粒の数は尋常ではなく、このまま浴び続ければずぶ濡れ必至である。

よく肥えた雨粒が今までの鬱憤を晴らすように地上へ八つ当たりする。

考え事をしていてついつい傘を忘れてしまっていた。

何についてかは、もはや答えるまでもない。

目の前の現実に苦い顔を浮かべて、俺は大急ぎで学校へ向かった。




「やっとついた…」

「ううーん…おはよー…って!濡れすぎだよっ!」


机に顔を突っ伏していた栗崎が飛び起き、朝っぱらから生きの良い突っ込みを入れてくる。


「いきなり降ってきたから仕方ないだろう…」

「え?今雨降っているの?」


近場の窓から外の景色を確認する。

俺が濡れているのは自分からでもなんでもなく、外で猛威を振るっている雨に相違ない。


「うわー…降ってるねーっ」


栗崎がそれを溜息混じりにそう答える。


「あたし雨は嫌いなんだよね…」

「…どうしてだ?」

「んーなんか気分があがらなくなるよねー」


もう一度軽くため息を吐く。

笑顔で太陽を作る彼女にとっても、雨を呼ぶ厚い雲に気持ちが覆われるのだろう。


「へっくし!…うー…」


雨による二次災害が俺の身体の体温を奪う。

だが、ずぶ濡れの俺と対照的にからっからの制服を身につけている栗崎は思い出したように


「あっ!はい、タオル」


濡れている俺に栗崎から熊柄のタオルが投げ込まれる。

お礼をしつつ頭をふき、肩口までぐっしょり濡れた上着に応急処置をしていると意識していなければ気づけない気配が教室に侵入する。


「…」


なんとか視認できたのは、今にも消えていなくなるかならないかの狭間にある生気で彷徨っている黒羽の姿。

わからない。わからない。

いじめも終わった、人形も取り返した。彼女を苛むものはなくなったはずなのに、なぜ悪化しているのか。

今の彼女の姿は、白装束の襟の左を前にして着せても、何の違和感もない。

目は酷く濁り、行動一つ一つが気怠く、仕方なく生きているかのように見える。

ここ数日で彼女の周りで変わったことはなにか考えれば俺が中原達に介入したことが挙げられるが、それが直接的な原因とは思えない。俺が人形を取り返しいじめを止めたはずだからである。それが余計なことであったというのか。

他のの可能性を上げるのならば…『いじめは続けられていること』であるが…、それはありえないと、断言したい。

この二日間はストーカーと他人から認識されてもおかしくないくらい、黒羽に付きまとった自信があるからだ。

ではなんで…と、思考はここで堂々巡りする。

俺のロジックでは到達し得ない波乱が渦巻いているのか、果たして。

結局今できることは、彼女を見守る他なかった。





雨が降り続く中淡々と時間は過ぎていく。

相変わらず集中できない自分の脳が、右から左へと教師の言葉を流していく。


「えっと、来週からは三者面談で授業が4限授業になりまーす」


まかり先生がせっせと何かを話しているが、聞くことはできても理解までに及ばない。


「それでは今日はこれにて解散っ。みんなーっ、お疲れ様~」


…気づいたら学校は終わっていた。

隣を見れば雲はせっせと雨を降らせ続けている。こんなに長い雨は久し振りだ。

今日は授業も,達也や栗崎との会話も全然楽しくなかった。

駄目な自分に気が付きながらも、変えたいとも思わない。

病んでる、なんて言葉を,自分に当てはめる日が来ようとは夢にも思わなかった。

一人で教室を出て、学校から借りた傘をさしながら、俺は黙って帰った。






「ふっ…」


さっさと帰り、軽くシャワーを浴びてさっぱりしたところで,いつものソファーへ体を放り投げる。

いつもの様にテレビをつける。


「…で…まして…」


そしていつものようにこの時間帯に出演している父。


「はじめに昨日と一昨日の概要をお話しします」


そういえばこの3日間,いじめについて語っている。

…どうでもいいか…もう終わったんだ…

流石に3日連続同じ話を聞かされる苦痛に耐えきれない俺はテレビのリモコンに手をつける。


「いじめにはいろいろ手段がありましたね…」


自然と手が止まる。

なにか俺に欠けていた何かを言いそうな気がして。


「その中でも最も発見が遅れてしまうのは学校外でのいじめでしたね」


…今思えば、この話はやたらしつこくされていた。

いつも同じ話なんて繰り返さないはずの父が。なぜ3日も同じ話、それもいじめの話を。

それは、まるで俺に伝えるために。

黒羽のいじめは、まだ終わっていないことを。


「学校内は教師や他生徒が生徒の異常や現行犯に気づくことが出来、早期発見できますが、学校外になるとその発見が遅くなってしまうということでしたね」

「確かに、そうおっしゃっていましたね」

「はい、ターゲットの帰り道に犯行が行われやすく、その場合被害者の精神的苦痛は――…」


その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中で走馬燈が駆け巡る。




放課後になると死人の様な顔をする黒羽。



やたら公園から一緒に帰ることを拒む黒羽。



「うちらはもう黒羽を呼び出したりしていない」

「守ってるつもりでも全然守れていないてめぇにはなぁ!!」



中原が言った遠回しな言葉…




…!!

背筋に液体窒素をぶっかけられたような悪寒が走る。

そして次に気づいたとき、俺は既に走り出していた。





バシャリと水たまりを一切躊躇することなく踏み切りながら全速力で駆ける。

雨音を奏でるオーケストラコンサートが半日以上ぶっ続けて行われてるが、それでも尚指揮者はタクトを下ろすことなく振り続けている

辺りはもう夜への以降は完了しつつあった。

雨脚は弱くなるどころか加速すら見せているが、そんな雨の中を俺はがむしゃらに走っていた。

俺はなんて馬鹿だったんだ。

これは俺が彼女になんの相談もしなかったのが招いた最悪の結果。あまりの不甲斐なさに自分を殴りつけたくなる。

俺の足は雨脚に負けない早さで動き続けた。

黒羽がいる,あの公園へ、無我夢中で走り続ける。

髪は赤くすれたでこにはっつけられていて、一昨日派手にやられた身体の悲鳴が痛みとして出てくるが、そんな痛みを気にしている暇はない。

走って大きく揺れる視線の向こうには横断歩道が見える。この先に行けば公園にたどり着く。

…大丈夫だ。ここは全く車は来ない…

俺はスピードを落とさずに道路に躍り出るが、やぱり車など走っていなかった。

365日歩行者天国の横断歩道を渡り抜け、そろそろ目的地が見えてくる。


分針が動かない程度の時間で目的地である公園へ向かう階段下に着くと、ここまで一度も止まらなかった足が流石に止まる。

オーバーヒートした身体は緊急停止と冷却の命令が下され、吹き出すと言うよりあふれ出るといった方が正しい汗が出る。

俺は肩で呼吸を整え、鼓動を感じることができる心臓を落ち着かせながら周りを見渡す。

左手には今渡ったばかりの横断歩道が、右手には『桜山ヶ丘公園』の看板が、目の前には階段が、この上に黒羽が。

まだ休息を欲する体と心を衝動が踏みにじり、階段を駆け上がる。

階段はかなりの勾配と数を備えており、今の体では全速で登りきることはできそうにない。

それでも一度も止まらないで彼女の元へ。


…おかしいと思った。


階段を上りながら思う。

俺が黒羽の傍に来て以来、おかしいくらいビタリと止んだいじめ。

今なら分かる。

それは俺の目を欺けるため、いじめる場所は公園だったのだ。

俺という厭わしい存在の登場により学校でいじめるのを避け、公園に焦点を絞ったのだ。

父の言葉を借りるなら、最も発見が遅れる状態に彼女を(・ ・ ・)助ける(・ ・ ・)ため介(・ ・ ・)入した(・ ・ ・)俺自身(・ ・ ・)()そうさせたのだ。

その言葉通り、発見が完全に遅れてしまった。

俺はそれを示唆する光景に立ち会っていたのに、それなのにこの事態に気づけなかった自分がこの上なく恨めしい。

ハァ…ハァ…!


「黒羽ああああ!!」


階段の最上段に足を叩きつける。


「黒羽!!」


雨が降り注ぐせいで見にくい景色の中から黒羽を捜す。鉛色の雲が光を覆い、既に辺りは闇で覆われ視界がこの上なく悪い。

しかし、彼女を発見するのは容易だった。


「いや…いやああああああああ!」


壊れた人形のように公園の中央で力なく座り込み、雨音に負けない声を張り上げていたから。


「あ…あああ…ああああああああああああ!」


その姿は踏まれて茎が折れ、無条件に首が垂れるタンポポのそれだ。

しかし彼女は物理的に踏まれて首が垂れているわけではない。あれは彼女の中の生気の秩序が崩壊したあからさまな証拠だった。


「いや…いや…いやああ…ああああ!」


その姿をこの公園唯一の外灯が黒羽を淡く照らし出しているのが、悲劇のヒロインを皮肉に照らし出す照明に見える。


「黒羽!」


側に駆け寄る。


「ああああああああああああああ!」

「こ、これは?」  


彼女に近づいて初めてわかる、無惨に散乱する教科書らしきものたち。

ズタズタに引き裂かれ、教科書としての機能はどこかに行ってしまっている。

黒羽の黒鞄の中身全てが同じ末路を辿っており、水に滅法弱い紙類は,雨に漬けられインクが雨水と共鳴している。


「あああ…ああああ…ああああああ!」


腐っている。人間の思考じゃない。

同じ人間にこれほどまで愚の骨頂を磨き上げ、骨頂の意味が追いつかないほど最低な人間がいるなんて考えもしなかった。

煮えすぎて五月蠅く沸騰する怒りが自然と全身に力を入れさせる。

慟哭し続ける黒羽に目を落とす。

黒羽が弱々しく伸ばす指先に触れている、激しく素を露わにした人形が。

もはや別物になりかけているそれだが、土下座をしてまで欲念し、希有にして手に入れたものを見違えるはずもない。

それは、黒羽がなによりも大切にしているクマの人形。

しかし今は切り刻まれ、綿が大量にはみ出ており、首は完全に刈り取られて頭は存在していない。

中原ので間違いない、とどめのナイフが人形の胸元を容易く貫通し、その場に固定されている。

突き刺さるナイフが、中原達がやっていないという雀の涙ほどの可能性を、彼女たち自らがその可能性を全否定してくれた。

人形一つにここまでするのは、黒羽がこれに思い入れがあったことを重々承知での犯行。


「うっ…うう…ああ…ああああ!」


今は露骨に感情を露わにしている黒羽を放っている場合ではない。


「黒羽、落ち着け!」


黒羽の両肩を押さえつける。

その肩はぐっしょり濡れているどころか、彼女の体全身がずぶ濡れだ。

雨の所業は想像以上に彼女の心と体を凍えさせていた。


「あああ………ああああああ!」


黒羽はただ、叫びつづけている。


「黒羽!冷静になるんだ!」

「いやああああ…ああああ!」


何度も彼女の悲痛な顔を見てきたが、今の彼女はそんな顔が比にならないほど酷い顔をしている。

母の死を受け入れられない子供のように、大声で泣き続けている。


「ああああああああああああ!」

「黒羽ぁ!!」

「!!」


一括入れる。

ようやく俺の声に体を震わせて認知する。

特大の大きさの涙が自重することなく流れ落ち、水はけの悪い公園の地面にぽたぽたと毀れている。


「落ち着くんだ…」

「……」

「う…うわああああああああああああああ」


止まったのも束の間、再び泣いているのか叫んでいるのか分からない状態になる。

俺は…!


選択肢



┌1抱きしめる                    

└2中原たちを追いかける


迷うことはない。

                                  


「落ち着いてくれ!」

俺の体は無意識に彼女を抱きしめる。


「あ…ううっ…く…ああああああ」

「黒羽…」


彼女の体をこれ以上冷たくしたくなかった思いがあったのかもしれない。

彼女を落ち着かせたかった思いがあったのかもしれない。

どちらにせよ、俺は彼女を抱きしめずにはいられなかった。


「うっ…あ…ごめ…ごめん…ごめん…ああああああ!」


彼女も自分から俺の体にしがみついてくる。

それは今まで一人だった孤独のつらさを俺にすがるように、いじめのつらさを誰かに分け与えたいかのように。


「…!」


背中に回した手から、無数の腫れ跡を感じる。

この跡は明らかに誰かに傷つけられてできたものだ。

奴らは服で隠れる部位を殴って、周りから感づかせないようにしていたのだ。


「黒羽…どうして…」


今の彼女に何を言っても答えてくれないことが分かっていても、言わずにはいられない。


「どうして…俺に言わなかったんだよ…」

「う…ひっ…ぐ…あああ…ああ」

「いってくれればこんなことには…ならなかったのに…」


いうチャンスなんていくらでもあった。

俺が公園まで送ろうといったあの日も、中原たちは待機していたに違いない。

なのに俺の誘いを断って、自分から精神と体を痛めつけられにいくなんて、中原たちに言われて口止めされたか…?

それとも、巻き込みたくなかったのか。

それとも、俺は全く信用されていなかったというのか。 

そんな邪推が、俺の頭の中では大音量に変換して木霊する。

前者か後者か。そう考えたら前者のほうが可能性は高い。

なのに後者の考えが前者を完全に納得させてくれない。


「うっうう…」


止まない雨、止まない涙。

だが、抱きしめること数分、ここにきて少し落ち着きが見られたので今のうちに家に帰すべきだ。

これ以上濡れることのない彼女の制服を掴む。


「黒羽…風邪を引かないうちに家に帰ろう…」

「ひっ…うう…ごめんな…さい…ごめんなさい…」


俺以外の誰かに謝っている。


「雨が酷くなってきたからさ…さっ」


彼女の手を引く。


「うっ…うっ…あ…ああ…」


ボロボロと出る涙を彼女はただ片手で押さえつけるだけだった。

俺は彼女が握っている泥水ですっかり汚れきった首なしの人形を取る。

見事に貫かれた身体に刺さったままのナイフを抜き、折りたたみ式なので閉じてポケットに入れる。

彼女の他の私物も回収したいところだが、この暗さではすべて回収することは困難であるし、何より寒さと恐怖とショックの三重で震える黒羽をどうにかすることが最優先だ。


「さぁ、いこう」


水をたっぷり吸い込んだ人形と鞄を握りしめ、彼女に肩を貸して一緒に出口へ向かう。





その体は、女の子とは思えない程重かった。


というわけで後半終了です。


無事に家まで送り届けることができるのか?


それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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