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4月12日/水曜日(前)ー再戦ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。


中原たちと再び直接対決です。勝負の行方は?


では、どうぞ!


「…はい」


俺は黙って頷くほかなかった。

少し時は遡る。


「辻村君、聞きましたよー?昨日の国語の授業中いつの間にか出ていったって」


…それが国語教師兼このクラスの担任であるまかり先生が、朝のホームルームのため教室に入ってから最初に放った言葉だった。

当然だがあの後俺がいなくなったことがばれていたようだ。


「あ、いやあ…あの時は突然おなかが痛くなって、その、保健室にです─」


ベタな言い訳をはにかみながら言うものの、まかり先生は口元を膨らませて俺の下手糞な嘘を遮る。


「だからといって、黙って出てっていいわけではないですよっ。それにこの間もいきなり出て行ったりもしたでしょー?そろそろ先生も、怒っちゃいますよ?」

「あーですよね…ははは、次は気を付けます」


いつもは柔和で優しいまかり先生だが、教師という名は伊達ではなく、悪い行いをした生徒にはピシャリと指導する先生らしい一面を持っている。

そして今回もそれは遺憾なく発揮され、怒った顔も可愛いまかり先生から宣告を受ける。


「次そんなことをやったら、流石の先生も然るべき処置を取らせてもらいますからねー。わかりましたー?」


…そう、このようにピシャリと指導するのだが、とても教師とは思えない可愛らしいお顔と背丈、揺れる胸のせいでまるで頭に入らないのが現実だ。

とはいえ、物腰こそ柔らかいものの次無断で授業中退席したらタダでは済まないだろう。やりづらくなった。


「…はい」


俺は黙って頷くほかなかった。

こうして回想は終わり冒頭に時間軸が追いつく。


「はーい!それじゃみんなまた3限にねー」


そう言いながら出席簿やプリントなどを形を整えるように机に軽く落として揃え、まかり先生がにっこりといつもの表情に戻り、教室から退散する。

ホームルームを終えたばかりの教室は雑談と一限に向けて教科書を出したりなどの雑音が混ざり合い、程よく騒がしくなる。


しかし困った。

今日も中原達に会いに行く心持で学校に来たというのに、朝のホームルームでその出鼻を挫かれてしまった。

嘆息しながら背もたれに体を預けてどうしたものかと思案していると


「おい、昨日の国語の授業中どこに行ってたんだよぉ」


俺の隣に座っている、両腕を組んでこっちを見ている達也が純粋な疑問を口にしてきた。

同じ授業を、それも隣にいるはずの達也が俺の不在を今の今まで知らなかったのは、言わずもがなそのときこいつに意識がなかったからである。

こいつに中原たちに会いに行って人形を取り返していた。と、馬鹿正直に話すわけにもいかないだろう。

ここは適当にお茶を濁す。


「あ?本当に腹が痛くて出てっただけだよ」

「ふぅん?そうなんだ」


歯切れの悪い意味深な発言を残す達也。こいつとはなんだかんだで付き合いが長いから、もしかすると感づかれたのかもしれない。


「紅、俺には分かってるぞ」

「え?」


まさかこいつほ…


「我慢できなくなって抜きにいったって。授業中不意に大きくなっちゃうときあるもんな」

「えー!?辻村君抜いてたの!?」

「栗崎!?」


かなり首に負担がかかる振り向きをしてしまう。後ろの栗崎がいきなりこの下ネタに乗ってくる事実を逸早く確認したかったからだ。

彼女はこんな風に突如話題に乗っかってくることがあるが、いや、絶対意味わかってないだろ栗崎。


「そうだよあずきちゃん、男の子ってのは時に見抜きが必要なほど抑えきれないときがあるのさ」

「見抜き…?」

「はい」

「え…?……あー、もしかして、たまってる、ってやつなのかな?」


言いながら段々顔が赤くなる栗崎。ウブすぎてそれこそ抑えきれなくなる程、その初々しい反応はくるものがあるぞ。


「ぶほっ!あずきちゃん、もう一度」


興奮しながら中年の上司が新人社員に下ネタを言わせるような、訴えれば100%勝てるセクハラに対して栗崎は


「え?や、やめてよ…」


真っ赤な頭を縮めて目を瞑りながら首を振る。

意味を理解した上での素の拒否に、おもわず頭が沸騰しそうになる。


「うひょおおおおおおおおおお゛お゛お゛お゛」


達也が絶頂を迎えるのも仕方ない。童貞に今の台詞は閾値0%代で十分バーストできる未曾有のぶっ飛ばし力を誇っている。


「やめろ警察を呼んでおいた」

「ア…、どうぞ、捕まえてもらって結構です…」


涙を浮かべて至福の極を味わっている達也にやれやれと俺は首を振るものの、その内心は嬉しい気持ちに包まれている。

今の栗崎の発言が聞けたというのも否定はしない。だが、それより最近は黒羽のことで頭がいっぱいで、こんなバカな会話をしたのが久方ぶりだったからだ。

思いつめすぎた部分があったことは承知しているが、ガス抜きする余裕もなかった。

それだけに今のやりとりは俺の狭まった視界を開かせる良い明りになってくれた。


「ちょっとっ!辻村君もそんなほっこりした顔しないでよっ」

「え?あ?ごめんごめん」


心に少しだけ余裕ができたが、俺は黒板方向に顔を向けて兜の緒を締める。

彼女の周りは、始めからそこには誰もいないように振る舞われている違和感のない違和感がある空間。

それは決して彼女自身が大人しいからだけではない。彼女の生きようとする灯があまりにも乏しく、観測えなくなりつつあるからだ。

一刻の猶予もない。迅速に形姿同じものでは代用できないあのクマの人形を救出し、心をコールタールの海に沈めている黒羽も助けなければならない。

どうしてここまで俺は彼女に献身的になるのか、それは今は問わないことにする。

決意を胸に、俺は決戦の時まで静かに闘志を燃やすことにした。








「こらぁ!またお前らか!」


3時間目の授業も半ばに入ったころ、俺はついに開戦の合図を聞く。

荒々しく放たれた扉は、はっきりと悪魔…いや、彼女たちの姿を顕現させた。


「…」


そんな教師の発言を軽くスルーする彼女たち。

中身も授業を受ける意識も空っぽなカバンが宙を舞って机に不時着する。


「こらぁ!席に着かんか!!」

「うちらイライラしているからしゃべんな!!殺すぞ!」

「それが教師に向かっての口の利き方か!?」


教師に容赦なく言葉の刃物を突きつけるが、先生も声を張り上げ叱責する。


「……」


咄嗟に始まった地震により、黒羽はガタガタ震え出しているのが遠目からみてもすぐわかる。


「うぜぇんだよ!口出しすんじゃねーよ!」


ガララ…

いじめっ子三人は出て行く。


「おいこら!!…ったく、すまん、生徒指導の先生に連絡入れてくる」


やれやれと手に持った教科書を机に置くと、先生は自習を指示しながら教室を出ていく。

扉が閉まる音を皮切りに、教室がざわめく。

以前も思ったが、わざわざ怒られに来るという不可解な行動は一体何なのだろうか。

疑問符が浮かんだが、今は目の前のことに集中することにする。



「あんな風に罵られながら踏まれたいなあ…」


それよりお誂え向きに絶好の機会が訪れる。何気なく教室をでれば中原たちに会う子とは容易だ。

しかし警告音という名のまかり先生の言葉がすんなりとGOサインを出せなくする。

いくらまかり先生と言えど二度も、それも連続で抜けるのは目に余るというもの。本当に然るべき処置を下されるだろう。

俺はそれでも構わないが、この先も中原達との対談が続くというのなら、処置により行動に支障がでるのは厄介だ。

…どうすればいいのか。先生が帰ってきたらさらに抜けづらくなる。

やはり授業中に抜け出すのはリスキーか。ここは作戦内容を根底から覆し、別の切り口から中原達との接触を図るべきか。

そんな思考を巡らせていると


「そんなにあいつらのところへ行きたいのか?」


不意に男の声が俺の右耳に入り込む。

俺の隣の席は…そう


「昨日からそうだが、中原たちに用があるみたいだな。援交か?」


達也が言葉とは裏腹に、いつになくシリアスな顔をして俺の目を見てくる。

昨日は寝ていたはずなのに、どうして俺が昨日中原たちに会っていたことを知っているのだろう。


「…そうだな。どうしてわかった」


俺の隣にいる奴は、フッと、キザな息を吐いて肩をすくめる。


「俺が何年お前とつきあっていると思っているんだ?両方の意味で」

「…ああ、長年 付 き合っているな」


達也が手でWサインを俺に向ける。


「カツサンド3つだ。それで手を打とうじゃないか」

「どうするつもりだ」

「先生が帰ってきたら、腹痛でお前は保健室に行ったと言っておいてやる」


一体どうしたというのか。お助け親友ポジションみたいな対応を取り始める。


「雪見ちゃんとあいつらの良くない噂は聞いている。中原たちに会うということはそういうことだろ?最近一緒に帰っている理由もそれだろ。行って来いよ」

「それ全部あたしが言ったことだけどねっ。頑張ってきてね!辻村君」

「ああーっ!折角普段は悪友だけどいざというとき頼りになる友人ポジションが確立できたのにぃーっ!」


今まで後ろで黙って聞いていた栗崎がオチを付ける。


「後は任せなさいっ。黒羽ちゃんのこと、頼んだよっ」

「達也、栗崎……。恩に着る。後は任せた」


感謝の言葉を伝え、俺はそそくさと教室を出ていく。









「はぁ…はぁ…」


多少息を弾ませながら誰にも見つかることなく屋上へ続く入口に到着する。

達也と栗崎が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。

これ以上危険な綱渡りは体が持たない。おそらく次抜け出そうものなら俺は落ちてしまうだろう。

絶対に取り返す。今日で決着だ。





「またてめぇか!!!」


入った刹那,罵声でお出迎えられる。


「…」


その罵声が下の階に響き渡らないよう、ゆっくりと扉をしめる。


「そんなにうちらにかまってほしいの?気持ち悪いんだけど」

「ストーカー容疑で警察に連絡すっぞ?」

「またお願いに来たのか!!?黒羽黒羽って。反吐が出るんだよ!!」


侮蔑を装填したマシンガントークを仕掛けてくる彼女たちとは出来れば永久に関わりたくない。

だが俺は彼女たちの向こうにある『真実』を手に入れて帰ってこなければならない。

早速打ち込まれた弾丸をかすりながらも避けて、さっさと本題に入る。


「そうだ…お前達が返してくれる…俺はここにくる」

「うわー…キモヲタよりキモイわお前…」

「なぁ、てめぇは黒羽の近くでヘラヘラしてりゃいいんだよ」

「下心丸出しなんだよ。そんなにあいつとヤりたいの?」

「違う!俺は黒羽を助けたいだけだ!」


その一心で叫ぶ。俺はそんな疚しい気持ちで彼女と接しているつもりも謂れもない。


「助けたい?そんなの建前でしょ?助けて彼女にしたいのが目的なんだろ?」

「ありがとう…辻村君…大好き…なんての期待してんだろ?」

「うわ…全力で引くわ…。そんなことしてまで欲しいなんて…」

「そんなんじゃない!」


本当に好き勝手言われるのは全く持って不快だ。

俺は彼女を助けたい。それは――…


「俺はただ…性格だけが原因じゃない暗い女の子を助けたかっただけだ!その原因を作るお前らから!」


三人の表情に余裕が消えた。


「お前らが一年もいじめて…黒羽は苦しんでいる!どうしてお前らはそんな子とするんだ?!なぜなんだ!!なにがお前らに黒羽をいじめさせているんだ!?」

「黙れ!!」


俺の声を遙かに超える怒号が俺の主張をかき消す。


「てめぇに知ったことか!なにもしらねぇくせに!教えるかよ!!」

「守ってるつもりでも全然守れていないてめぇにはなぁ!!」

「うちらの目的も知らない無知は,黙って黒羽の手でもニギニギしてろ!」

「ほんっと,無知って愚かだよね…醜い…。あら,ごっめーん!本人の目の前でっ!」


奴等の煽りに発火し激高したら負けだ。

話を聞いてくれなくなったらそこでアウトだ。もう相手にしてくれないだろう。

そんな見送り三振でゲームセットするような負け方だけはしたくない。喉から出たがっている言葉を飲み込んで,主張を繰り返す。


「お願いだ…人形を返してくれ」

「チッ…さっきから同じ事ばっかりいやがって…」


心底嫌そうな顔をした後、彼女たちの口が気持ちが悪いくらいピタリと止まる。

どんな銃でも弾切れはあるものだ。今の彼女たちは次の罵詈雑言を浴びせるためのリロード中と言ったところか。

取り巻き二人は中原に全身を向けて、次の言動を待っている。

俺も強制的にそれに従って中原の言葉を待つ。


「…」


固唾を呑んで腕を組んでなにかを考えている中原を見る。

木々の葉が風に誘われて揺れ踊る音が、この静けさの間を埋めてくれている。


ニヤリ、と、そんな擬音が聞こえてくる口がゆっくりと動く。


「…しょうがないな…そんなに願うならよぉ…」


中原がため息を吐いて近づいてくる。


「しょーがねーなー」


ギラギラと光る歯を見せながら俺のすぐ近くまで寄って止まる。


「願うなら…くれてやるよ!」


!!?

あまりにも不意な豪打に、一瞬何が起こったのか分からなくなる。


「が…!?」


本能的に後ずさった体が扉に全身で強打する。

重い打撃音が両耳に入り込み、そのまま尻だけ床に崩れ落ちる。

『頬を殴られた』ということだけは理解する。


「アッ…ハハハハハハハハ!!」

「ウヒャハハハハハハハハ!!」


中原達の狂喜、狂気、驚喜はさながら快楽殺人の虜になった狂人の絶頂を有り体に表す厭わしい喜びだった。


「本当にてめぇは黒羽にそっくりだなぁ!!」


言葉だけでなく視線も見下す形となった中原はせせら笑いながら言葉を続ける。


「こうやって騙されて!哀れに倒れて!!あいつとお似合いだよ!!」


勢いのある蹴りが俺の胸に直接ぶち込まれる。


「ぐはっ…!」


胸部に激痛が全身に巡る。


「だよねーっ。ほんっと,騙されやすい女だよね!」

「あれ?飲まないのにジュースを買ってさ,細っせー腕で持ってきてさ!」

「そうそう!で,それを投げつけたときのあの絶望した顔!!マヂうける!!ハハハハハ」


笑い会う三人。


「おまえはあいつと同類なんだよ…」

「一生懸命うちらの玩具になってよぉ!オラッ!」

「グッ…がっ…あっ…クッ…!」


女の顔をしていない女が、蹴りや正拳を俺に次々と打ち込む。


「が…は…」


抵抗できるのに抵抗できないもどかしい気持ちをも勝る痛みに悶えざる終えない。


「そして飽きるまでもてあそばれて!捨てられる!」

「黒羽は自動で捨てられるけどね!!」

「自動自殺機能搭載!みたいな!?キャハハハハ!!」

「ハッハハハ!こいつよりは有能だな!!」


その言葉が俺にまとわりつく痛みを全て無にする。





なにか( ・ ・ ・)が切れ( ・ ・ ・)た音が( ・ ・ ・)した( ・ ・)

という訳で前半終了です。


ついに辻村君が切れてしまいました。無事人形は取り戻すことはできるのか?

中原たちのいじめを止めることはできるのか?


それでは最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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