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4月10日/月曜日ー悪化ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。


さあ本格的に黒羽ルートに入りました。

今思えばどうしてこうなったのだろうと思う展開を、できるだけ自然に見えるように頑張りたいですね。


それでは、どうぞ!

「キャラ崩壊しているじゃないか!」

「…実はなんにも考えついていないんだ。テヘ」

「やっぱりな…」

「それにしても昨日はホントに楽しかったねーっ」


屈託ない笑顔で感想を述べる栗崎に、身をり出した自分が馬鹿馬鹿しくなり,強力な磁力が俺の背中を背もたれに引きつける。

ここはいつもの教室。

そしていつものように朝1、2番にきた俺と栗崎は、いつものようなくだらない会話を交わしていたところに、栗崎は唐突に話題を捻じ曲げてきた。


「まあ昨日は楽しかったよな」


急な話題転換に辟易しながらも同意して栗崎に顔を向けると、彼女の瞳は俺ではなく明後日の方向、教室への入口へと向けられていた。


「…」


クラスで三番目に早く来る少女が静かに,足音も立てずに入場する。


「ゆきみちゃん!おはよーっ!」

「……」


聞こえていないはずがない栗崎の挨拶に声おろか会釈もせずに黒羽は黙って自分の席に着く。


「ん?元気ないのかなっ?」


しょうがないな、と、立ち上がった栗崎は席に着いたばかりの黒羽のそばまで駆け寄る。


「おはよっ!ゆきみちゃん!」

「……」

「お,おはよ?」

「…」

「おっはーっ!」

「…」

「…は,はは…」

「…っ,ごめんっ!」


全力疾走で戻ってくる。


「むじざれたあああ!」


半泣きで俺に敗戦報告してくる。


「どうしたんだろう…」


今のは『無視している』と言うより『聞こえていない』という方が正しいか。

土曜にカラオケにいった帰り際のテンションをそのまま引きずっている。

あのとき俺は彼女を助けるといったが、黒羽には俺の言葉は全く届いていないのだろうか。はたまた期待していないのだろうか。

なんにせよ、彼女は変わっていなかった。見た限り何一つ。

思わず黒羽の席のそばに寄る。


「黒羽、おはよう」

「…」


カバンを膝に置き,まだ点々と落書きが残った机を見つめている。


「…」


完全に黒羽は自分の世界に入り込んでいた。それは決して娯楽的な楽しい意味ではなく、己に纏わりつく絶望に打ちひしがれていた。

…今の彼女に何を言っても無駄だ。

そう判断した俺は、おとなしく席に戻った。


「黒羽ちゃん…大丈夫かな…」


席に戻るや否や、いつもの笑顔に陰りをみせた栗崎が、心配そうにそう口を開く。


「大丈夫だよ、きっとすぐ元気になる」


俺はそういって栗崎をなだめることしかできなかった。






ガラッと、粗々しく扉が開かれる。

完全に沈黙だった授業中の教室に当然のように扉の開閉音が教室に響く。


「またおまえらか!」

「…」


3時間目、いつもの様にやってきた中原達が教師を無視して席に着こうとする。


「おい!どうして遅刻をした!理由をいえ!」

「だるいからだよ」


不機嫌が常につきまとうその顔から,突き刺さる視線を出し惜しみなく振りまく。


「そんなのが理由になるか!あとで職員室へ来い!」


そんな視線を全く気にせず、教師はいつものように怒号を浴びせる。


「ケッ…」

「おい、待て!」


自分の席を蹴り上げた中原といじめっ子は、いつものように悠々と教室からでてくる。

教室内が若干ざわめく。

いつもの光景といえばそうなのだが、やはり普段の授業からかけ離れた一部始終に、クラスメイト達は黙らずにはいられないようだ。

そんな隣近所と今の顛末の感想を述べ合っている連中に埋もれてしまうほど小さな背中を、俺は見逃さなかった。


「…」


恐怖を、震えという形で体現していた。







その後、中原達に絡まれることもなく,一日が終わる。

日課となりつつあるが、俺は黒羽と帰っていた。


「それでさ,達也の頭が180度回転してな」

「…」

「ゴミ箱に頭からつっこんでいったんだよ」


身振り手振りを加え、できるだけ楽しい話題を振り続けるが、そのスイングはすべて空を切り三振。


「…」


これはまずい。

文頭に『明らかに』が付くほど暗くなっている。

その暴落速度は止まることを知らず、このままではこの間の二の舞になってしまう可能性も否定できない。

早く何とかしないといけない。


「黒羽!」

「!…?」


彼女が驚くのも無理はない。普通の人ならいやな顔ひとつされかねない程の声で彼女を呼んだからだ。

肩を揺らして、驚いた顔でこちらを向く。   


「黒羽」            


ゆっくりと、もう一度彼女の名前を呼ぶ。


「一昨日は…本当に楽しかったか?」


どうしても確かめておきたかった。土曜日の行為が無駄ではないのか。彼女の心を傷つけてしまっていないのか。


「………はい……」        


その言葉に嘘偽りを感じとることはできない。

では一体どうして彼女をここまで落ち込ませるのか。わからない。


「今日はどうしたんだ?朝から元気がなかったみたいだけど」

「……いえ、なんでもないです。…大丈夫です」


聞いてみるものの、間をいれた彼女の返事は一辺倒。

そこで会話は終わり,後は無言が続いた…。




そしていつもの分かれ道にくる。

いつもはここで別れるが…別れるわけにはいかないだろう。


「…大丈夫です……」

「え?」


久方ぶりに黒羽の口が先に動いたと思ったら、それは俺の心を見越したかのような言葉。


「もう…大丈夫…ですから…」


ここまで食らいついてくる黒羽を久し振りに見た。

そんな彼女の提案を,主張を,却下するわけにはいかない。


「…そうか,分かった。気をつけて帰ってくれよ」

「…はい…ありがとう…ございます…」


そうして彼女と別れた。

彼女を見送っている背から聞こえる、かっこうの夕方を知らせる鳴き声が、やけに煩く感じた。






「…ふぅ」


帰ってそのままシャワーを浴び、全身から湯気が吹き出る。


「ふーっ」


居間を圧迫するソファーに体を預け,ため息をつく。

この一時が,俺の至福の時なのかもしれない。

ぱっとリモコンでTVをつける。

これも、習慣化した生活の一部だ。


『銀堂ハーウスー!』


慣れ親しんだCMを挟んだ後、画面は切り替わる。

テレビが映したのは、相も変わらずダークスーツを身につけた父…辻村煉の姿。


「父さん…」


こんなに近くにいる親に話しかけても、本人は当たり前ではあるが一切気にしない様子でいつものように淡々と仕事をこなしている。

そんな親の仕事を見ながらふとあまり思いだしたくない顔がよぎる。

言わずもがな、中原達だ。               

中原達は一年黒羽をいじめていた。                  

だが、今週の水曜を境にその光景は全く見られなくなったはずだ。       

それは俺が彼女の近くにいるから…であるはず。             

『いじめ』は終わった。確かに終わったはずなんだ。           

だから今日の帰り,無理してまで彼女について行かなかった。       

しかし…                              

今日の三時間目,中原達がいたときの黒羽のあの震え方は尋常ではなかった。

中原達がいると必ず発生する,彼女にだけに起こる震度4の地震。それは俺たちにはない震源が、いるからである。             

震源は中原達。完全に終わっていないのだ。               

彼女たちの口から「もうしません」の警戒解除の言葉を聞かない限り…。          


「そういうことです」                     


唐突に、父の言葉が耳に刺さる。                    

TVの言葉,それも俺に向けての言葉じゃないが、低く,どこかさっぱりしている父の言葉には,不思議と説得力があった。

やっぱり彼女達に直接あって話し合うしかない。             

人形を取り返すしかない。

もう,黒羽の泣き顔は見たくない                   

そう心に決めて,俺は夕食の準備を始めるのであった…。        


というわけで終了です。


全く元気にならない黒羽。今後の展開はどうなるのでしょうか。


それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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