4月8日/土曜日(後)ー休日②ー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。
というわけで後半です。『水着回』の最後に急展開やシリアス展開、なんてものが多いですが、これもそれに例外なく…?
今回は少し短めになっております。
それでは、どうぞ!
こうして昼食を終えた俺たち3人と1斤は、この間達也と一緒に行った本屋の向かい側にあるカラオケ『カラヲケ館』に着く。
達也が関取紛いな動きで歩いていたことをここにばっちり記載しておく。
「うわぁ!カラヲケ館とか久しぶりだなっ!」
青い看板に赤い文字で『カラヲケ館』とかかれたものを見て栗崎はなんとも新鮮味溢れる感想をわくわくと顔に書きながら言った。
「ここがカラヲケ館…噂には聞いていましたが…」
今回のメインゲストである黒羽の興味津々な眼差しをばっちり観測でき、かなり上々の反応を示してくれたので誘うことの意義を噛みしめることができた。
だが俺が噛みしめて味わうだけでは意味がない。彼女自身に楽しさを味わってもらわねば何の意味もない。
そこに今回の会を開いたことの根源的目的であるし、達成できないようでは切腹ものだ。
「と…とりう゛ぁえず…すわひたひ…」
と…取りあえず座りたい…と切望する達也を無視してこの施設の概要でも説明しようかな。
俺達は店内に入り、早速俺が受付に向かう。
前述の通りここは『カラヲケ館』通称『カラ館』。首都圏を中心に運営している全国的に広がりつつある店で、歌うだけなら基本的に料金が安い。…元ネタは察して欲しい。
カラオケ機種を選ぶことができるのだが、特にこだわりがあるワケではないので今回はDOMを選んだ。
HELLSOUNDよりはエロゲソングが充実していると思うので、これで達也が終盤歌う曲がなくなるという最悪の事態は回避できたはずだ。…HELLSOUNDとかデスメタルしかない機種みたいで嫌だな…。
そんな気遣いに感謝して欲しいくらいだが、当の本人は店の入り口の待合室でぐったりと死にかけているからかける言葉もない。
…元はといえば俺が悪いワケなんだが。今度おごってやろう…『エベレストの溶岩』。
まぁなにがともあれ今日は歌うために集まったんだ。例え達也であっても仲間に入れて楽しむこれをメインイベントといわずしてなんと呼ぶ。
俺も少しずつではあるがテンションが上がってきた。
「はやくいこっ?」
栗崎がエサを我慢できない犬のように上目気味の期待しかない瞳でうずうずしている。
そんなを目をされて手を出さない男はもはや煩悩を捨てた僧に他ならない。
「おう、それじゃあいこうぜ」
頷くメンバー全員(一人除く)を促して、俺達は近場のエレベーターに乗り込む。
「ひょ…ひょっふぉまっへよぉ…」
のど元までせり上がる『ブツ』を必死に押さえ込もうとしながらこちらによろよろと向かう達也を尻目に『閉』ボタンを押すか押さないか迷ったが、流石に酷なので待つことにする。
部屋は401号室を選ばれたので、『4』のボタンは既に点灯している。
ここで達也が乗り込んでビーと、あの最大積載量オーバーしたときの音が鳴ればどれだけ面白いだろうか。
…と、そんな前フリも虚しく、何事もなく達也がエレベーターに乗ることができたので、適当に舌打ちをぶっ放して『閉』ボタンを押した。
「うっう…」
今の達也は地の文に突っ込まない程余裕がないらしい。…ここまでくると俺も少し反省しなければならない。
エレベーター特有の重力を感じ、上昇の合図を受け取る。
「う!うぅぅ…」
こんなグラビティですら現在のステータスの達也にはその気持ち悪さは100倍にも感じられるのだろう。
「大丈夫ですか…?」
ゲロ発射準備常時完了しているきつそうな達也に、黒羽が心配をかける。
「あひがと…でも…し…しむ…」
「あと少しですから、頑張ってください」
「クラウドはそう簡単には死なないはずだよねっ?ファイトッ!」
くっ…2人に心配をかけてもらるだなんて…
美味しいものを戻してしまう程食っておいしい思いまでしている達也君って幸せそう。だが俺は前者を味わってまでそれを受けたいとは思わないな…
チーン!
滞りなく4階に到着し、解き放たれた扉の真正面先に見えるは俺達が取った401号室。
「ほら、行くぞ」
達也に肩を貸し、まるでけが人を運ぶようにして俺達は入室する。
カラオケ屋で肩を貸しながら入室している人間達なんてそうそういるものではなく、他の客から懐疑の目でじろじろされたが今回ばかりは俺の責なので仕方あるまい。
しかも貸している人間が酔っぱらいではなく食い過ぎで動けない人間だからそのレアリティは鰻登りである。
ガチャッ
「おふっ」
4人が入るのに相応な広さを持つ部屋に設置されているソファーの一角に達也は中に入った瞬間ぐったりと横たわる。
「倉金さん…本当に大丈夫でしょうか…」
「まぁ食い過ぎただけだし、別に命に支障が出るワケじゃないから放っt…いや、安静にさせていたら大丈夫だろう」
これ以上黒羽に心配をさせたくないのでそう言うと栗崎も
「そうそうっ、クラウド君のことだから、すぐ元気になるって!」
…と一緒になって前向きな意見を言ってくれたので、後押しされた黒羽は何とか頷いて納得してくれた。
さぁ、こっから先は俺達の最高のカラオケライフが始まる…
「2人ぎゅっと~ぎゅっとかーさねて~頬にちゅっとちゅっとキースした~~!!」
…はずだった。なんちゅう歌詞だよ。
俺達がカラオケを始めて2時間を経過しようといったところで漸く復活した達也がマイクを持ち、歌い始めたのだ。
そこまでは別に可笑しい話でもないし、構わなかったのだが、問題は歌の中身だった。
「いくせーんもーいくまーんもーただきりむすんできたぁ~!」
確かに俺はエロゲソングしか歌えない達也のためにDOMを選択したが、よくよく考えなくても一般人の目の前でエロゲソングを歌うこと自体間違っている事実に気付かされた。
黒羽は勿論の事、アニソンにはそこそこ精通していた栗崎さえもポカーン顔が離れることはなかった。
でもかなしいかな、俺は作品自体はしたことはないものの曲だけは達也に洗脳されているだけあって全部どの曲か理解することができた。
「空を目指すためー種はぁーちか深くから 手 を のぉばーす~」
ど、どうしてこうなることになる前に発覚することができなかったんだ…
こいつと一緒にいることによって完全に一般人の感覚が麻痺して、段々かけ離れていくのだろう…恐ろしい。
最初こそは栗崎がBBA48の、今を生きる大体の人間が知っているであろうノリの良い曲を熱唱したり、カラオケに行ったことない黒羽が必死に歌を歌っている姿を堪能することができていたのだが…
「きみの~ひぃーとぉーみぃーにーうつるぅ~~、わたしぃ~は何色でぇーすぅ~かぁ~」
今では完全にコイツに場の空気は乗っ取られ、このカラオケルームは達也の独壇場と化していた。
まぁ唯一救いなのが達也の歌声はそこそこ綺麗というかうまいので、例え誰も知らない曲だとしてもまだ聞くに堪えるところか。
その辺りは元設定がそのままにされているらしい。
現に「なんの曲かはさっぱり分からないけど、クラウド君歌うまいねぇっ!」と、頬に「|||」線を付けて微笑している栗崎から太鼓判をもらっている。断じて「///」ではない。
これが音痴だったらこの空気の読めない馬鹿にガンジーも助走して殴りにかかっていたことだろう。
…まぁ、コイツの場合エロゲソングを取られたら本当に6時間ソファーの隅でこじんまりとして黙っている未来しか残されていないか…。
そう思えばこの展開も仕方ないと言えば仕方ない…が、これからはあいつに常人にも分かるような曲を覚えさせよう…。
「やがーてくーるかこーくーもぉーーーーー!」
アウトロが流れる中女の子2人完全放置な曲を歌いきった達也は水以外なにも頼んでいないため比較的綺麗な机にマイクを置いた。
「どや?俺の歌は」
確かにそのどや顔に見合った歌声を持っている。だがそんな含み笑いのドヤ顔をするなら誰もが知っている曲を歌ってからそうやるんだな。
「あぁ、お前が空気が読めない馬鹿だってことがよく分かった」
今までずっと黙っていたのでいざそう言うと俺の言葉が人語に聞こえなかったのか目をパチクリさせてこう言い返してきた。
「え?ちょっとなに言っているのか分からないんだけど?」
察せない馬鹿に俺は目で達也の視線を女子2人に誘導させて
「見ろ、2人にはお前の歌う曲は一切分かっていないんだよ」
と、なんとも形容し難い表情を浮かべている彼女達を達也に見せつけると案の定『うわっ…私の年収、低すぎ…?』と言いたげな顔になる。
含み笑いから苦笑いに豹変した達也が恐る恐る女の子2人にそう質問する。
「え、ぇ、え?ちょっと黒羽ちゃん、あずきちゃん…俺が歌ってた曲どれか知ってる?」
「すみません…ひとつもわかりませんでした…」
「ううん…さっぱり分からなかったよ」
その顔に見合った達也にとって天地を揺るがす衝撃的な返答に、大ダメージを受ける。
「いや、俺はてっきりみんな知っているものだと…」
「お前はどれだけ誤った常識抱えているんだよ…」
「へへ…『エベレストの溶岩』くらい?」
「あぁ、もう手遅れだな」
この後達也はソファーの端で俺達の曲を永遠と聴き続けたのだった…。
「んー!!今日は楽しかったーっ!」
俺達が一番最初に集合した噴水前で、栗崎が腹チラをするなんとも淫靡な伸びをする。
結局3人でローテーションで歌い続け、フリータイム終了時刻と同時に俺達はココまで舞い戻ってきた。
空はすでに夜への準備に取りかかっており、一日の役目を終えかける太陽が名残惜しげに俺達を照らしている。
「久し振りにたのしかったよぉ」
達也も満足そうだ。…なのか?
おいおいおい、現地集合現地解散とかどんだけ健全な高校生だよ。
さて、ここからゲーセンにいって飯を食って…。…ゲーセンの場面はカットされているだなんて口が裂けても言えない。
そう提案しかけた直後
「あーっ!あたし電車きちゃうから、もう行くね!」
左手に付けた小さな腕時計を見ながら栗崎が慌てながらそう言った。
「えっ」
「また月曜日にねっ!!」
そう言って自慢の脚力を使って。俊敏に駅の中に消えていく。
「ちょ…!栗崎っ!」
そう言っても彼女の耳には空を切る音しか聞こえていないのだろう。全く振り向く素振りも見せず、爆走し続ける。
「ちょ、まって、俺も!俺もいくんだよぉぉおおおおお!」
カラオケの時とは真逆に、完全に放置された達也が女の尻追いかけるように、到底追いつくことのできない彼女に必死に追いつこうと走って行った。
瞬きする間もなく俺と黒羽だけが取り残される。おいおい酷い急展開だな。
……まぁ、こうなっては仕方ないか。
「…帰るか」
「…はい…」
にぎやかさがまだまだ続く商店街から離れ、俺達は帰路を歩く。
辺りは本格的に暗闇が視界を遮るものの、それに対抗して電灯が次々と夜道を照らし始める。
定時刻になった電灯は今日も労働基準法を無視した労働を開始するわけだ。
この通りは一通りが少ないので、電灯の数もそれに見合っており、物寂しい雰囲気をかもし出している。
俺たちの視線の向こうにある静かに照らされた横断歩道に車の車輪がすぎることは滅多にない。
その人気のなさがひき逃げの人気を集めているそうで、ここはひき逃げが多い。
そういえば去年うちの学校でひかれたやつがいたっけか。
名前は…覚えていないが。
そんな細い路地にポツリとある横断歩道の存在を示したい明かりの下を通ったところで黒羽に今日の感想を聞いてみることにしよう。
黙々と歩く彼女に向かって、やや頭の上から言葉を投げつけてみる。
「今日は楽しかったか?」
「…はい、とても楽しかったですよ」
こっちを見ずにそう言ったのでハッキリと表情を読み取ることはできなかったが、本心から言ったらしい言葉。だが最初の間は余計だ。
俺としては間髪入れずに『楽しかった』といって欲しかった。
「…」
元々黒羽に元気を出してもらうのが一番重要で最大の目標だった今回の会。
だが今の反応を見て今日の遊びは全く無意味ではなかったと思う。
joyhellの中やカラオケの最中は楽しんでいる様子を伺うことはできた。
しかしあくまで『全く』『無意味』でなかっただけであり、換言すれば殆ど意味がなかったと言わざるを得ない。
彼女の家庭事情を少し垣間見ることができたのが怪我の功名といったところか。
馬鹿騒ぎは彼女の性に合わないのだろうか。
「…」
黒羽はいつまで経っても電池が半入れになった人形のようなままの印象が烙印されたままだ。
どこか空回り、どこか空元気しているイメージが崩れない確固たるものになっている。
それは俺達と関わるのが嫌だからだろうか…それとも。
…確かにやや無理強いした感はあった。だがよく考えろ、彼女の意志で行くと言ってくれたし、集合場所にも走ってでも間に合おうとしてくれていた。
そんな彼女自身が本心で思っている事とは矛盾した行動をとり続けていると言われても反論できないであろう黒羽が、何を思考して動いているのか正直分からない。
―…そう、俺はここ最近の…具体的に言えばいじめが終わったであろう後の黒羽から妙に引っかかるものをずっと感じていた。
歯に刺さった小骨、いや、それ以上の何か、ウナギの骨が刺さったような途轍もない異和感。
苛立ちにも似た、白と黒をハッキリしない灰色をうろうろしている黒羽の行動に対して。
今は彼女と2人きりという絶好の機会だ。ばっさりとそれを聞いてみるのも良いかもしれない。
…駄目だ。そんなの意味が分からない。
酷く濁ったもやもやが俺に決断を急がせているが分かる。
一度深呼吸をして昂ぶる気持ちの水位を少し下げ、もう幾度脳内で円卓会議を開いて十分練った結論を導き出そう。
考えろ。いじめが終わって以来彼女に変わった事と言えばなんだ?
いじめという彼女の生気を奪い去る要素がなくなった今、それに改めるなにかが彼女の元気を殺しているとしか思えない。
…
俺達と接することが多くなったこと?俺と一緒に帰ることになったこと?…
そこまで考えたとき、数十種類の鍵の中からぴったり当てはまり、この問題の錠を解き明かす事象がひとつ、思い浮かんだ。
……人形が、なくなった…事?
俺がここ最近で彼女を視認する上で唯一変わったこと、それはその転機があるまで必ず黒羽を見たとき目に入ってきた…そう、あの人形がなくなった事だ。
そしてこの転機というのは黒羽が自殺しようとしたあの日以降…であるから辻褄も合う。
冗談にも思える結論だが、彼女にとってはそれは別格なものであるということは人形の状態からも分かることであり、強ち間違いでもないのではないか。
そうでなくても、そこに解決の糸口を掴むことができるかもしれない。
思い切って質問をする。
「黒羽」
「はっ!はい?」
さっきの会話からしばらく間が開いたため、表現的に『突然』の呼びかけに黒羽は少し驚いて反応する。
過労からか点滅する蛍光灯の下を通り過ぎながら俺は一拍おいて、チカチカする彼女に顔を定める。
「ずっと気になって事があったんだ。聞いてみて良いか?」
「…なんでしょうか」
普通の純愛系ならここで愛の告白なんかが始まっても可笑しくないシチュエーションであることは誰しもが縦に頷くわけだが、今から口に出す言葉は余りにそれからかけ離れているのが少し滑稽だ。
タブーに触れるわけでもないのに微妙に緊張して乾きを覚える喉を唾を飲み込んで、一応こちらを向いてくれた彼女に向かってこういった。
「…いつも持っていた人形はどうしたんだ?最近見ないが」
「…!!」
表情の琴線をツメで強く引っかかれたような、豹変といっても過言でないくらい彼女の反応はあからさまで、顕著なものだった。
『別に』とか『たまたま付けてない』とかの言い訳では到底覆い隠す事のできないその反応の意図を、リダイアルしてもう一度問い質す。
「…どうしたんだ?」
「……」
俺から弾くように視線を外した黒羽の体に、僅かではあるが『震え』という変化が訪れる。
これは確変からの大当たりを引いてしまったのかもしれない。…良い意味でも悪い意味でも。
「…」
俺の質問は無言という返答を返された可能性が高いが、生憎それで納得して身を引くわけにはいかないのだ。
このクエスチョンの答えは俺の中の不穏とも呼べる蟠りのガス抜きを果たしてくれるはずだからだ。
それでも答えないというのなら、俺から誘導をかけてみる。
「いや、無理に詮索するつもりはないんだが…これだけは言わせて欲しい」
有り体にいえばいつも通りの黒羽になった彼女に俺は確認を取るような口調でこう告げた。
「それは中原達が関係しているんじゃないか?」
「…!……」
『中原』の単語が耳に通過した途端体をびくりと動かす黒羽は、ひょっとしたら隠し事が苦手なのかもしれない。
例え無返答であってもその歯応えを見ただけで十分肯定を意したものとみて反論の余地はないだろう。
勝手に話を進める。
「ならあいつらがその人形を持っている解釈でいいのか?」
「……あn…」
「…分かった。俺に任せておけ」
ひとつ微笑を浮かべて俺がこの件の胴元を務めることを宣言する。
「ここまで乗りかかった船だ、最後まで付き合わせてもらっていいだろ?」
それが、黒羽の笑顔を壊す元凶だというのなら。本当の日常が返り咲くというのなら。
当の彼女はかというと、すっかり狭くなった歩幅で歩きながら俯いたままだ。
もしかしたらこんな俺の超お節介に対して呆れの意味での反応なのかもしれない。
だが虐められた人達の前に再び立ち、面と面向かって話し合う事なんて正直無理な話であり、ましてや物の返却を求めるなど神の力でも借りない限り不可能だろう。
ならば神の力には足元にも及ばないが、俺がやってあげたい。
どうしてこんなに俺が頑張っているのか分からないが、とにかく彼女の力になりたい。
そこまで思ったときには俺の隣には暗闇が一緒に歩いてくれており、1人で歩いていることに気が付く。
いつの間にか彼女は立ち止まってしまっていたらしい。
振り返れば電灯に僅かに照らし出された彼女は公園へ続く階段前にその体を置いていた。
確かここの上は…そう、桜山々丘公園。
今では名前に一ラウンドKOするほど名前負けした所謂落ちぶれた公園。
昔は名前に見合う数多くの桜が乱れ咲く公園であり、その目を見張る美しさに多くの行楽客が訪れる人気スポットだったが。
なにを思ったかある日その桜を殆ど切り落とした。
それがこの公園の人気を失速させた最大の原因であるというか、当然の未来である。
今では一本しか桜は残っていなく、木も魅力も人気もそぎ落とされた公園になっている。
そんな公園の先は住宅街となっており、そこもまたこの世界から切り離されたような死に絶えた所となっているが…。
「…あ、黒羽は公園先に住んでいるのか」
ならばここでお別れだが…
「家まで送ろうか?」
道を逆戻りしながら彼女に問う。
すると俯きがちなため完全に暗影のカーテンで顔が隠れた彼女はほんの少しだけ首を横に振った。
「…そうか、それじゃあここでお別れだな。気分を悪くしたなら誤るよ。ごめん」
「…きにしないで、ください」
そろそろこの防音壁越しから言うより小さい声量に耳が慣れてきた。
「わかった、それじゃあね」
軽く手を振って彼女に別れを告げた後、俺は再び暗い細道に歩を進める。
さて、解決方法は見つかった。問題はいかにしてその解決をつかみ取るか。
再び彼女達と会話を交わさないと行けないかと思うと気が引けるし、しかも今回は物を返して貰うという下の立場にいるのだから尚更厄介だ。
…元々勝手に奴等が取ったのだから下の立場も糞もないのだが、不条理ながらそっち側に回らなければ会話すら成立しないだろう。
まぁその辺りは追々考えるとして、今日はこの大きな収穫を喜ぶべきだろう。
そんな考えを巡らせながら俺は星がチラホラと輝き始めた空の下、家に帰ったのだった。
と言うわけで後半終了です。
因みに前半達也が歌っていた曲は本物のエロゲソングの歌詞の一部で、一つでも分かった方は相当の猛者です。
果たして黒羽の人形を取り戻すことができるのか?その人形で黒羽は本当に元気になることができるのか?
その答えの前に一つ話を挟みます。
テーマは『美少女ゲームの日常回』。ついに最初で最後の彼女のメイン回です。
それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。