4月8日/土曜日(前)ー休日①ー
どうも、りゅうらんぜっかです。
初めての方は初めまして
前回の続きを読んで下さっている方は、ありがとうございます。
というわけで前半です。今回はアニメやギャルゲエロゲで例えるなら『水着回』みたいなものです。
要は中身のない話ですので、軽く読んでもらえれば幸いです。
それでは、どうぞ!
「…あっ!おはよーっ!」
美しい栗色の髪をひらつかせながら、学校ではまず拝むことができない私服の女の子が駅から手を振りながらばたばたと俺たちの方へ向かって走ってくる
駅の中央にそびえ立つ時計台を見れば、時刻は午前11時をさすかささないかの瀬戸際。
ここは商店街の直ぐ傍にあるそこそこの規模を確保している駅…というか商店街と駅が一緒になっているといっても過言ではない。
駅からの帰りに買い物で商店街を利用したり、逆に商店街で買い物や遊びをしたあとに駅に向かって帰ることもある。
立地的にに俺達高校生が集合するのには絶好の場所であり、今回もココをセレクションした。
俺は集合時間の20分前には到着していて、達也は意外にも10分前前後には到着した。
その旨を聞いてみれば
「え?だってエロゲでは大抵早めに来て集合時間に来たヒロインに『いや、今俺も来たところだよ』っていうからさ、それを模倣したんだよ。どや?」
この男の行動源はエロゲの知識からであり、もしエロゲで主人公が遅れていくイベントを見ていたらこいつはなんの抵抗もなく遅刻をしていたことだろう。
対して俺は栗崎に初めて集合する場所へ先につくことができた優越感と満足感を同時に味わうために早く来たちっちぇ男だったことは伏せておく。
時々思い出したかのように吹き出る噴水をバックに、俺達は手を挙げるというアクションで彼女の来訪を歓迎する。
「やっはーっ!到着したぜーっ!!」
栗崎はエンジン全開と言ったところだろうか、いつも以上にテンションが高いな。
この笑顔で宗教がひらけるほどの輝かんばかりの眩しい笑顔を振りまきながらでのご登場だ。
昨日の部活動紹介という大きなイベントが済んだことによる開放感からのそれかもしれない。
「うむ、苦しゅう無いぞ」
達也も無駄にエンジン全開で時代錯誤で場違いな言葉を出す。エンストしてそのまま永遠に黙って欲しいものだが。
「んー?」
青いジャケットに黒いよく分からないシャツ、そしてチェック柄のミニスカート言う、かわいらしい服で身を固めた栗崎が思案顔で俺達2人を交互に視線を交わす。
―…嫌な予感しかしなく、案の定それは例外なく的中する。
「辻村君?となりの方は誰?」
「「ちょっっ!」」
天然腹黒が標準装備された栗崎に対して達也と俺はハモりながら彼女に突っ込む。
昨日の予想が逆に薄ら寒さを感じてしまうほどガッチリ当てはまったことの事実は、分かっていたとは言えあまりに達也が不憫すぎて涙がこみ上げてしまう。
「栗崎、だから昨日覚えておけってあれほど…」
突っ込まれたワケが分からないのか、目をぱちくりさせながら戸惑う栗崎に向かって一応そう指摘しておく。
すると目を見開き片方だけ唇を釣り上げ「え?そうなの?」と顔に書いてくれたが、直ぐさまおきまりの殺戮の刃を抜いた。
「うーん…あ、あぁ!そう、そうだったねっ」
「あへぇ」
その言葉に達也が遠慮なくアヘ顔を披露したが誰得である。
「い、いやいやぁ…忘れるわけないよっ。ねっ、クラウ○ド君?」
「そっちかよ!」
ひょっとしてそれはギャグで言っているのか?
「って冗談冗談、倉金君でしょ?」
「なっ!?」
イタズラを成功させた子どもが見せるしたり顔の笑顔を花開かせながらそう言う彼女に俺が驚く。
素で言っているのかと思い気や、まさかボケてきていたとは。
この子…侮れん。
彼女の行動予報は一切の定石が存在しないため不可能であり、彼女と接するときは全てアドリブで対応しなければならない。
「な、なんだよ冗談だったのかよ……覚えていてくれなかった方が快感だったのに(ボソッ」
医者も黙って首を横に振るほどの末期ドMにとって栗崎の心に残っていなかった方が良かったらしい。
「…あれ?黒羽ちゃんは?」
改めて顔合わせをした後栗崎は視線を巡らせて黒髪ツインテールの女の子を検索するものの、引っかからないらしい。
「まだ来ていないみたいだな」
ふっと改めて背後にある噴水のど真ん中にそびえたつ時計台を確認すれば今し方長針が12を指したところだ。
一応集合時間になったことになるが、誰一人として彼女の姿を見ていない。
おいおい…
元々カラオケに行くことになったのは、彼女を元気づけるためであって、この3人で馬鹿をやりに来たのではない。
今回の集まりのメインである彼女が来ないということは、『ステーキ』を頼んだ筈なのに付け合わせのポテトと人参しかない状態と同義だ。
つまりは集まったことの意味すら疑う羽目になる。
そこまで思ったとき、嫌な仮説が1つ浮上せざるを得なくなる。
―彼女はこのまま…こない―…
有り得ない話ではない。
大体この計画自体無理矢理感が半端ではなく、黒羽も半ば強引に誘ったようなものなのだ。
出逢ってまだ1週間もたっていないような、しかも男2人もいるような空間に彼女が安易に足をつっこめるとはよくよく思えば考えにくい。
「……ん…!」
仕方がない。
「すい…せん!」
まぁこの面子でカラオケ行くことはやぶさかではないし、あと30分待って―…
「辻村君っ!来たよ!?」
「どぅえ!?」
栗崎のキーの高い声に我に返った俺は視線を急いで街の風景へ飛び込ませると
「遅れて…すみませんでした…!」
そこには確かに幻想でも願望の具現化でも何でもない、正真正銘本物の黒羽が確かに俺の眼に映る。
美しい黒髪を結ってできたツインテールが走ることにより発生するベクトルと風の流れに沿ってなびかせ、こちらに向かって走って来た。
「っハーッ…ハーッ…」
白いシャツの上に黒い上着を羽織り、黒いロングスカートでまとめるという、彼女らしいと思える服を身にまとっている。
地味ではあるが、裏を返せば落ち着いた格好をしており、彼女の性格を鑑みれば妥当といえば妥当であり、寧ろそれ相応であり、似合っていた。
もしここでパンクな服装で来ていたら俺はどういう表情を用意すれば分からなかったことだろう。
「そんなに急いでこなくても大丈夫だったのに」
「ハーッ…いいえ…ハァ…遅れるだ…なんて…」
相当急いだのだろう、言葉を途切れ途切れ語りながら彼女は膝に手をついて肩で息を吐きながらその加速した心臓を急速冷却している。
その顔には汗が浮かび、目を細めて呼吸を整えている辺りを察するに、かなりの距離を走ってきたことになる。
もしかしたらギリギリまで行くことを迷っていたのかもしれない。
「何がともあれこれで全員集合だな。うぅん、選り取り見取りだなぁ!」
達也がうんうんと下卑た笑いを浮かべてそう言う。どこかのAV男優といっても恥ずかしくも違和感はない。
「よし、全員揃ったことだし…」
俺は3人に言葉を向ける。
「今は11時5分なのだがどうする?」
あえてそうフッてみた。
勿論答える奴を目論んで。
「常識的に考えてまずは昼飯だろ常識的に考えて」
達也が珍しく常識的な意見を述べ―…
「俺はあずきちゃんが食べたい」
…るはずもなく、こいつは知り合って間もない女の子にとんでもない下ネタ発言をぶっ放す。
いや、それをそう捉えるのは早合点かもしれないが、達也のそのニタニタという擬音が完全に合致している時点でそっちの意味であることはもはや考察の余地がない。
「えっ?んふふ、あたしは高いよ?」
崩れない笑顔のまま意味深にそういうもんだから、達也の意図を理解した上でそう言ったのか判断に迷うところである。
「10万までなら出す」
こいつはいつかピュアな紳士しか入れないクラブに通って飲んで貢いで破産するに違いない。
「はいはい話が逸れるからそれくらいにしようね」
「はいはい」
「はいはい!で?取りあえずお昼ご飯を食べるのっ?」
黒羽の呼吸も平常レベルにまで落ち着きを取り戻したし、このまま移動しても大丈夫そうだな。
「そうだな、食べに行こうぜ」
「おう!あずきちゃんをな!」「はい…」「りょうかーい!」
誰が何を喋ったかは割愛する。
俺たちは駅前の噴水広場から五分もしないうちにある飲食店が密集している区域に移動した。
「おーう!ここはいつ来てもすごいねーっ」
栗崎があっけにとられた声を出すのも無理はない。
ここは商店街の中間に位置する300Mは続く通り、正式な名は『パン☆パン☆スト☆リー☆ト』。
…つまりこの通りを抜ける頃にはお腹いっぱいだということだ。別に名前なんて付けなくても良かったんだが。
まさにその名に恥じない、道を挟むように飲食店がぞろぞろと整列している。
この通りはどこかに曲がるまでずっと飲食店しか並んでいないという、この街も何を考えているのかさっぱり理解できない。
その数は70は超える。数年もすればばたばたと共倒れすること請け合いだがそこには突っ込まないことにする。
様々な臭いがストリートいっぱいに広がり、別に密閉空間であるわけでないのに充満している。
敢えて菓子で例えるのなら端から端までチョコが入っているプレッツェルといったところか。
ここを通るだけで胸焼けを起こしそうだ。というか混ざりすぎて逆に異臭を放っているような。
こんな意味不明な場所や店があるのは美少女ゲーならではではないかという持論を展開してみるが、そんな偏見はメーカーに怒られそうなのであまり言わないでおく。
そんなストリートでもすでに行列ができている店もあり、なかなか侮れないところがある。
「凄い…」
というのは、目を丸くして驚愕を隠しきれていない黒羽の小口から漏れた言葉。
「ん?黒羽はここに来たことがないのか?」
無謀としか言いようがないこのストリートが開通した当時はそれなりにチラシや駅前なんかで広告されていたはずだが。
純粋な疑問からそう質問すると、黒羽は俺から僅かに視線を外して「はい…」と何故か恥ずかしそうに答えた。
「そこを理解できないからお前はいつまで経ってもDTなんだよ」
「ん?どうしてお前は鏡の前でそんなことを言っているんだ?」
「ぐぬぬ…」
否定しろよ。
「そんなことより!何を食う?」
涙が出るほど下手くそな切り返しをした達也が話を進める。
「そうだねぇ…」
「それじゃあ、それぞれ意見を聞こうか」
アーケードの入り口に突っ立ている俺達の隣にはこの通りの全てを一目で確認することができる案内掲示板が設置されている。
「こいつを元に行きたいところを話し合おうぜ」
おだやかな陽気につつまれた、どちらかといえばピクニックの方が似合う太陽を背に俺達は選んでも選びきれない数多ある店の名前が記載された看板を凝視する。
別に目が悪いわけではない栗崎が目を細めながら軽く唸り、細かい字が羅列された案内板を見つめていたが、途中でなにか吹っ切れた表情になり、視線が黒髪ツインテールの女の子に変更し、こう言った。
「んー…、雪見ちゃんは何が食べたい?」
投げたな。
「…別に私は何でもいいですよ」
そんなキラーパスに黒羽はうまくトラップをして無難なパスを渡したが、そんなぬるいパスを栗崎が許すはずがなかった。
「いやいや、あたしは黒羽ちゃんが食べたいところに行きたいなー」
「その棒読みはやめろよ…完全に黒羽に投げただろ」
「え?うんっ」
「開き直るなよ!」
「あ、俺はあずきちゃんで」
まだ引っ張るかお前は。
俺も特に拘りがあるわけでもないし、適当にすませられるのなら何処でも良い。
それは全員が思っていることであるわけで、このままでは一日中ここに立ち往生することになる。
それだけは避けなければ…そうだ。
ここは悪ノリでごり押しするしかない。
「それじゃあ黒羽行きたい店じゃなくて、自分が食べたいものを挙げてみてくれよ」
それが俺がこの足踏み状態を打開するために編み出した解。
こんだけ店があれば食べたいものから店を絞り込んだ方が無難だと判断しての言葉。
「えっ、私がですか?」
俺の提案に予想通り眉を寄せて困惑する彼女の反応がみれただけで俺はこの台詞をいった甲斐があったのかもしれない。
普段通りの彼女はこんなにも可愛いんだから。
「YOU!決めちゃいなYO!」
この台詞が達也が言っても栗崎が言ってもしっくりくるから困るが、この台詞は暦として達也の口から出たものだ。
そんな後押しがあったからか、彼女は明らかに頭で検索をかけ始めた。
「そうですね…」
黒羽が本腰を入れてまじまじと考えている最中、計画通りに物事が進んで満足げに頷く栗崎に俺は苦笑するほかない。
達也を見れば通りすがりの親子連れの幼女に性的な眼差しをすり込んでいた。
時間的に言えば10秒が過ぎた頃だろうか、ついにその重い口を開き思考回路を巡らせ欲望に忠実に従った答えがはじき出された。
「…グラタン」
「「「え?」」」
黒髪の女の子を除く3人がその料理名に対して疑問符を付けてもう一度尋ねる。
「…グラタンが食べたいです」
各々がそれぞれ作りだした表情に向かって彼女は3つの壁を見まわしながらそう答えた。
「グラタン!いいねっ」
栗崎が快諾する。
「それは全然構わないが、しかしグラタン専門の店あるか?」
見ているだけで気分が悪くなりそうな細々した字をつらつら読んで目的の店を探すのは苦行に等しく、できれば探したくない。
「まかせろ。俺のスーパーコンピューターより高性能な頭を使って見つけ出してやんよ」
スーパ○ファミコン程度のCPUしかもっていない達也が案内板に張り付く。
「むむむむむ…」
指先をずらしながら自分が読んでいる位置を見失わないようにしてグラタンを主に取り扱っている店の羅列を捜索する。
背後の風景に映る人間が最初見たときから一通り入れ替わったくらいだろうか、達也が額に僅かににじませた努力の跡を拭いながらこう言った。
「……うん、多分ないからそこのファミレスでいいか?」
俺もそれを提案しようかとずっと思っていた。
しかし、達也があんなにも張り切っていたものだったからついついその言葉をだすことを躊躇ってしまった。
いや、決して面倒だったからとかではない、決して。
「…確かにな」
「んじゃあそこで」
達也23人分(約50M)離れた先にある茶色い壁のレストランを指す。
そのレストラン『joyhell』は九州寄りに店舗を着々と増やしているチェーン店である。
ハンバーグを売りにしており、リーズナブルながらも豊富なメニューを揃え、ドリンクバーとスープバーを完備している等の要因が相俟って、学生の絶好の溜まり場所として有名だ。
レストラン名の由来は『地獄にあっても笑顔になれるお店』…のコンセプトから。
所謂ファミレスという分類にはいるため、黒羽が望んでいるグラタンも当然メニューの中に入っている。
「黒羽、それでいいか?」
「はい、大丈夫ですよ」
特に不満をこぼす素振りも表情も返事もしなかった。
栗崎は?と聞けば、「いいよっ」の二つ返事が返ってきたのでここに満場一致が実現され、確定事項になる。
「それじゃあ行こうか」
「ジョイヘル!久し振りだなぁ」
「性欲の前に食欲を満たしておくか…」
「…」
全員が言いたいことを適当に述べつつ、俺達はジョイヘルへ向かった。
「いらっしゃいませー」
そこにはでかいポニーテールバージョンのまかり先生に酷似した店員が俺達の来訪を出迎える。
「何が言いたいかと敢えて説明すると、ロリ巨乳の体の小さいポニーテールの女の―…」
地の文口調でお前は誰に向かってそれを言っているんだ。
そんなこんなでいざ店に入ってみると、店内はまだ客で埋まっていなく席に余裕があった。
タイミング的に忙しくなる手前に俺達は入館を果たせたらしい。
人数を述べて俺達は店内に案内され、俺たちは窓側の席に腰を落ち着かせる。
席の奥に座った俺、隣は黒羽、向かい側には達也と栗崎が座った。
「お~し!今日は食うぞー!」
席について早々達也が縦にしたら顔が隠れるほどのメニューを取り出して閲覧しながらセリフっぽいセリフを吐く。
それは『フリ』として受け取って良いのかな?
「グラタンもありますね…」
ここに来て金銀財宝をようやく発見できたトレジャーハンターのような一番トーンが高い声がでる。
それほどグラタンを食べたかったのだろうか。
「黒羽ちゃんがグラタンなら俺は…」
「ああ、お前の分は俺が決めてやる」
達也の手からメニューを強引に引き離す。
「なっ!?」
左拳を震わせながら力強く握りしめている達也から、いつか波紋が出てきそうで恐ろしい。
達也に向かって「チッチッチ」と挑発する。
「サプライズサービスだよ」
意味深な口調でそう告げる。
「なにぃ?」
「サプライズ…それは何がくるか分からないドキドキ感。これはカードパックを開ける前のと通じるものがある…違うか?」
「た…確かに」
だからなんなんだって話なんだが。
「いつも世話になってるからな。お前にそれを味わって欲しいのさ」
過程からの結論が全く持って繋がっていない日本語としてどうかと思う言葉を口走る。
「サービス?仕方ないな…お前がどうしてもって言うなら、任せてやるよ」
デート商法に豆腐を切るくらい簡単に引っかかりそうなこれ以上にないほどのピエロな達也を、今回も俺の手のひらで踊らせる。
隣の栗崎に視線を移す。
「後は栗崎だけだが…栗崎は何食べるんだ?」
「う~ん…そうだねぇ…」
腕を組んでうなり声を上げて悩む。
メニューのページを見れば、セットについてくるような小さいどんぶりやうどん系だ。
上下に動く眼球がぴたりと止まったその先は…
「じゃあこれにするねっ!」
栗崎が指差したのはうどん(小)
「…と?」
「ん?これだけだよ?」
俺の「&」発言を轢殺する一言。
「え?どう考えても足りないだろ?」
カツ丼と付け合わせならまだ話は分かるが、それ単体は一般的な高校3年生には圧倒的に少ない。
するとちっちっちとさっきの俺ではないが、指を振る栗崎。
「女の子は大丈夫なんだよっ。あとあたしダイエット中なんでねっ!」
「ダイエットって…別に太っちゃいないと思うが…」
周りの女子が引きちぎりたくなる程の欲しがるそこの脂肪を除けば、太っているどころか痩せている方だ。
典型的なボンキュッボン。三次元ではそうそうお目に掛かることのない、逆に二次元では当たり前のスタイルの持ち主であるというのに。
これ以上のスタイル強化は女の敵を増やすばかりだと思うが。
「あたしは限界を目指しているのっ!」
そんなものか。
「ほらほら!店員呼ぶから用意しなさいよねっ!」
そう言うなり『達也』は呼び出しのベルを鳴らした。
俺がメニューを注文した後、さっき案内してくれた店員は薄笑いを浮かべながら厨房へ去っていく。
「お…おい、お前一体なに頼んだんだよ」
その薄笑いの元凶のメニューを俎上に載せる。
「ん?エベレストの溶岩のことか?」
「そうそうそれそれ。何だよそれ?名前から矛盾してるじゃねーかっっ」
至極全うなツッコミであるが、そこは来てからのお楽しみとしか俺は返事をするしかない。
「そこはき「ってえぇえーっ!?」
これまたどっちが言ったか分からないセリフだが、今度は栗崎だった。
「ど、どうした?」
栗崎は視線を野郎共2人に移し、ありのままを伝えた。
「それがねっ、黒羽ちゃんにカラオケでなに歌うの?って聞いたらなにも歌わないって言ったんだよっ!?」
驚き発狂しかねない栗崎とは雲泥の温度差である黒羽は、もの凄い不思議そうに熱弁する栗崎を見ていた。
何をそんなに驚いているのか分からない、とでも言いたげな目つきで。
「ROM専…だと?」
その話を聞いた達也の導火線にも火がついたのか、一緒になってその理由を問い質す。
「え?え?えっ?」
まさかこんな展開になるとは夢にも思わなかったであろう黒羽はそんな職務質問に近い圧迫にただただ戸惑うしかないようだ。
ここは助け船を出航させるべきだろう。
恐ろしい栗崎達也の猛攻の間を割って俺が話を差し込む。
「いやいや、別におかしな話じゃないだろう」
「なにぃ!?」
「えぇっ!?」
なんだお前らどうしてそんな牙むき出しなんだ。
ここは中立派(笑)である俺がこいつら過激派に向かって提言させてもらう。
「お前らはカラオケは歌う場所、という固定概念にとらわれているだけだ。別にカラオケ行っても歌わなくても不思議な話じゃあないだろ」
あくまで定義としての論であって、それをやったら空気が悪くなる可能性が孕んでいるという常識での論とはまた話が違うんだが。
「なん…だと…?」
「いや、そうだけどさ…俺は黒羽ちゃんの歌声がきーきーたーいーのー!」
その台詞だけで金髪ガングロ女子高校生が形成できるレベルの腹立たしさではあったが、流すことに徹する。
確かに達也の気持ちも分からんでもない。寧ろ賛同したい位だが、無理強いすることはできない。
あくまで今回の目的は、『黒羽を元気にする』が大前提でピークなのだから、やりたくもないことをやらせるわけにはいかない。
「うぅん、じゃあ黒羽ちゃんはカラオケ行ったときずっと歌わないで来たの?」
俺が聞きたかったことを栗崎が一言一句違わない言葉で聞いてくれる。
「…」
ニュートラルポジションであるやや俯きがちに視線をおろすその格好はつまり。
「というか黒羽、カラオケ行ったことないんじゃないか?」
遠回しにとやかく言うのもあれなので、思い切って真相を突きつけてみる。
「……」
証拠品を「くらえっ!」と言いながら突きつけたわけでもないのに、その言葉で黒羽は多大なダメージを受けたようだ。
完全に俯き、その頬は真っ赤に染まっていた。
図星らしい。
「あぅぅ…」
「えっ、もしかして本当に…?」
プラン外な反応に漫画的表現である『汗マーク』を出しかねない苦笑いに近い顔で、すっかり撃沈してしまった黒羽に真偽を問う。
「ま、まさかぁ、俺の妹がカラオケに行かないはずが…」
「……」
3人が固唾を呑む勢いで彼女のその一言を待つ。
店内のささやかな会話の波が静かに聞こえる。
その答えないといけない雰囲気に負けたのか、頭をたれ下げて恥ずかしさを誤魔化していた彼女の重い口がついに開かれた。
「…はい」
顎が首に近いため、声帯が押されている弊害もあってか、もはや言ったのかすら分からない程度の声でそう言った。
「あっ…」
「ご、ごめんねっ…そうとも知らず変に驚いちゃって…」
なんだこの葬式みたいな厳かなムードは。
「おいおいやめろやめろ。別に行ったことがないくらい変じゃないだろ」
それにその答えに妙な納得を覚えたのは俺だけじゃないはずだ。
「せ、せやな」
「了解了解!今日が初めてなんだったら私が手取り足取り優しく教えてあげるから安心してねっ」
栗崎が反対側で落ち込んでいる(?)黒羽の肩をポンポンと叩く。
黒羽もゆっくりと重い顔を上げて未だに冷めぬ炎上した顔のままこう言った。
「…はい、宜しくお願いします」
「おまたせしましたー!」
いいタイミングで先程俺達を案内してくれたロリ巨乳のちっちゃい女の子が料理を運んできた。
三枚持ちをしており、俺が頼んだカルボナーラと、黒羽のグラタン、そして栗崎のうどんをそれぞれテーブルにのせる。
達也のがないのは無理もない、あれを片手で持ってくるのはこの女の子では難しいだろう。
「残りのお客様、少々お待ち下さいねー」
そう言ってパタパタと厨房の裏に消えていった。
「ディ…デュフフ…待ちますよ」
どうやらあの店員の犯罪的な小ささとロリボイスに、まかり先生と同じような状態に成り下がっている。
しかしそんな風にブヒッていられるのも今のうちだけだ。
「…!」
唐突に、なにか痺れるようなものを鼻から感知する。
それは香辛料をたっぷり使った料理のにおいをかいだときに感じるそれであり、料理の影すら見えないこの場からそれがするという時点でそれは異常であり、おかしい。
「来たみたいだな」
「え?…え?」
「おまたせしましたー!」
「…」
黒羽は初めから絶句。
「うわー…すごーい…」
流石の栗崎も目を丸くしている。
俺は達也の向かい側にいるはずなのに、その料理のおかげで達也の顔しかみえない。
「おい…?これはなんだ?」
「何ってお前…カレーだろ?分からないのか?」
「これがカレーに見えるかっっ!」
達也の前には確かに俺が注文したカレーがある。
「ちゃんとカレーを注文したが?」
「じゃあ何でこんなにでかいんだよっっ!」
「ああ、飯だけで2.5kgあるらしい」
「か…カレーにしては赤いねぇ…」
「ああ、それは“エベレストの溶岩”だからだな、名折れしてないだろ?」
達也の前にあるそのカレーのルーは茶色いという常識設定など最初から破棄されており、もはやカレーとはいえない別な料理なのかと思ってしまう色をしていた。
その色はすべてを飲み込む溶岩のように真っ赤。
それは店長が世界から探し出してきた多種多様な唐辛子を入れてひたすら辛さを高めたからだ。(メニュー表より抜粋)
盆のような皿に白米の山が形成され、その上にドロドロした正に溶岩と形容する名にふさわしいルーがまんべんなくかかっている。
「め…目がかゆいです…」
黒羽が目を擦りながらそう言うように、その辛さはまず目に先制攻撃を仕掛ける。
ルーに収まりきらない香辛料が蒸発して、見ているものの目を涙目にするほどの破壊力。
まさに噴火直後の溶岩、そして火山ガスさながらだ。
そんな光景の前ではエベレストは活火山じゃない…なんて突っ込みは無意味だ。
「わ、わかった。これがカレーだって事は百歩譲って理解しよう…だがなんでここにストップウォッチをもった店員がいるんだよっ!」
他の店の客が見てしまうほどの圧倒的な存在感を誇っているカレーから一度目を横にスライドすれば、ポニーテールの店員がストップウォッチを持って微笑んでいた。
「チャレンジメニュー!!“エベレストの溶岩”30分以内に食べきれば2万円贈呈ですっ!」
「2万円!?すごい!」
栗崎がそのまんま喜ぶ。
「いや、こういうのは罰金が隠れているもんだ。店員さん…食べ切れなかったら?」
恐る恐る聞いた達也に向かって店員がにっこりと微笑む。可愛い。
一瞬の静寂…
「はいっ!罰金5000円いただきます」
「…」
達也が凍りついた。
だが達也とは対照的にカレーはモクモクと蒸気をあげている。
そんな達也をほっといて店員は残酷な宣言をする。
「ではスタートです」
カチッ
店員は手に持ったストップウォッチのボタンを押した。
こっから先は一秒も無駄にできない。
「…おし、覚悟はできた…。こうなったら食いきってやるぜ!」
黒羽がグラタンを食べるときに使っているスプーンと比較して2倍はあろう巨大なスプーンを取る。
勢いと覚悟だけは勇者だ。
一瞬血が掛かっていると間違えそうなほど濃赤なカレーを一口口に運ぶ。
「あぎゃー!!!辛ぇぇえ!?」
一口運んだだけで顔、舌、目、カレー、全てが真っ赤な何ともおぞましい光景が完成している。
「あたしたちもたべよっ?お腹すいたしねっ」
そんな地獄絵図と大して変わらない光景にも動揺せず、栗崎は食事の開始を提案している。
「そうだな」
「…そうですね」
3人で手を合わせる。
「「「いただきまーす」」」」
「かれぇええぇええあ!?」
それぞれが頼んだメニューを口に運ぶ。
可もなく不可もない。、この値段だったら妥当の味か。
「く、口が燃えルウううぅううぅ!?」
「ふー、フー」
息を吹きかけながらスプーンにのったグラタンの熱を冷ましている黒羽。可愛い。
「…おいしいです」
「だ、誰か…水!みず!うぉーたぁあああプリィィィズ!?」
「う~んコシがあって歯ごたえが良いねぇ」
栗崎は小麦粉のデンプンで甘みを感じるほど何度も顎が上下している。
やっぱり足りないんじゃないのか…?
「無視しないでいただけますかねえ!?」
「黒羽おいしいか?」
「はい」
「…ち…ちくしょおぉぉ!」
ここでついに頭のスイッチが誤作動を起こしたのか
「この味…革命的だ…!」
なぜか賢者モードに突入していた。
ところでいつ水の中に入ったのだろうかと錯覚を覚えるほど達也の全身は濡れている。
激辛からくる絶え間ない汗が、達也をぬらし続けているらしい。
「うわあ…それおいしそうだねっ。一口いっただっきまーす!」
シュッと栗崎の腕が伸び、麺を箸が絡み取り、奪い去る。
「ちょ、俺のカルボナーラを!」
「そんなことはこのおいしそうなカルボナーラの前では些末な問題だよっ!」
「まぁ大丈夫だけどさ」
死闘を繰り広げている達也と一転して俺達は平和な昼飯を食べた。
少しうるさかったが、楽しい昼食だった。
達也の結果?言うまでもないだろう。
見事に半分以上残してギブアップしていた。
残りはスタッフがおいしく頂いたらしい。
と言うわけで前半終了です。
どうでもいい話ですがこの文章は以前友人が書いたのをリメイクしたものをリメイクしたものです。もしかしたらいつもと雰囲気が違うのかもしれません。
次回もこんな調子で進むので、お付き合い頂けたらと思います。
それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。