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4月7日/金曜日(後)ー部活動紹介ー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで後編です。


部活動紹介を飛ばして頂ければ5分もしないうちに読み終わりますので、お気軽にどうぞ!



ざわ…ざわ…

散りに散っている生徒達がわざわざ一同に集合する、そんなフィールド。

そこで行われるのは全校集会や室内スポーツ、裏においてはいじめもできる多機能が詰まった利便性の高い巨大施設。

今日は特別にこうして俺達は1000人は収容できるであろう施設にすし詰め状態で入っている。

…別に下ネタを言っているわけでも禁止ワード言っているわけでもない。遠回しに言う必要などこれっぽっちもないので言及すると、ここは体育館だ。


「ふぇぇ…中いっぱいだよぉ…」


達也がゲームが始まる前は登場人物全員18歳以上だよと警告しているのに蓋を開けてみれば1○歳や○歳発言余裕の女の子達が出されたときいいそうな台詞を裏声で演技してくれて実に気持ち悪い。

そんな例えをする俺が一番気持ち悪いわけだが。

まぁそれは置いておいて俺達がどうしてこんな全生徒がギリギリ入りきるような狭い体育館に身を削るような思いをしてでも入っているのかというと、前回説明したとおりではあるが、今日の午後からの授業が全校生徒強制参加が義務づけられた『部活動紹介』がやってきたからである。

そこそこ部活が盛んのこの学校では、毎年1年生に向けて部活動を紹介する時間が設けられている。みんなの学校にもあったのではないだろうか。

野球に剣道、サッカーにテニス等、大抵の学校であるメジャーな部活から、冷蔵庫部、リモコン愛好会、昆部等、まさに誰得の部活まである。

そしてその部活の部長が2分間ほどのアピールスピーチをする。

そんな時間だ。


ぶっちゃけると栗崎√の残り香なわけで、丸々カットしても構わないのだが、折角なのでのせておく。


※時間がない方は下に『☆☆☆☆』とある所まで飛ばしてもらっても物語の進行上全く問題はありません。

みたい方はそのまま続けて見てください。





人の波の向こう側にある壇上では忙しく人が行き来しており、時折うちのユニフォームを来た部活の主将らしき人物が通り抜けている。

すわってくださーい!静かにしてくださーい!

生徒会の1人がマイクを使って好き勝手に喋り倒している俺達一般生徒に向かって遠回しに黙れと一生懸命声を張り上げて主張している。

あちらは相当イライラしていること間違いないが、こればっかりは仕方がない。ご愁傷様としか言いようがない。

ざわ…ざわ…

静かにして下さい!

生徒会もご苦労なこった

…ざわ…ざわ…

……


「えーえー、みなさんこんにちは」


なんとか話を聞いてもらえる程度の静けさになったところで、我が校の政党会長が挨拶を切り出す。

ギャルゲエロゲならずラノベでも言えることだが、それらの多くはなぜか生徒会の権限がおかしいくらい持っており、それによって様々なイベントが発生するが、うちでは生憎そんな設定はなく一般基準レベルの生徒会だ。


「いかにも!」


そんな権限も名前すらない生徒会長が冗談(冷笑)を交えながら新入生に挨拶をする。


「わはははは」


新入生の受けも上々(棒)で、良い雰囲気ができあがっている。


「…というわけで、早速各部活動の紹介をしてもらいましょう」


一礼し生徒会長が退場し、その代わりに見慣れたユニフォームを身にまとった男が出てくる。

あのユニフォームは…サッカー部だ。


「こんにちは、僕たちサッカー部は…」


なんのひねりもない定型文をダラダラしゃべり出す。


「おいおい、こんな場面をだらだらやっても仕方ないだろ。はやくあずきちゃんのところまで飛ばそうぜ」


達也が真顔でそんな事を言うのだから笑ってしまう。


「その通りだな。…よっと」


……


すると神納寺が思案顔でこちらに焦点を合わしてきた。俺の想像力が足りなかったのだろうかと問い合わせようと口を開きかけたとき、彼女の方が一歩先だった。


「…申し訳ないですわ。今日はMPが足りませんわ」


えむぴー?…MP?…マジックポイント?マジックポイントが足りない!?


「ままマジックポイントが足りない?!」


なんだよ!面接で特技イオナズン○って書いておいて実際はできないから、やれっていわれたときの言い訳で用意していた言葉みたいじゃないか!


おぅっと、ここはチャプター4だったわ。

…と、こんな意味の分からないご託はもういいので、さっさと栗崎のところまでいかせてもらう。

……


「それでは陸上部、お願いします」


進行係がついに彼女の登場を促した。


「お、あずきちゃん来たよ!?」


俺の斜め前にいる達也がおおげさにこちらを振り返りながら歓喜の声を上げる。

やめろまるで俺が彼女の彼氏みたいに見えてしまうじゃねぇか。

首を180度回転させている達也に追い払う仕草をして、この距離からでも美しさが発散されている栗崎に焦点を合わせる。

美麗な栗色の河を作り上げている髪を静かに波立てるように揺らしながらステージの手前に歩いてくる。

その顔にはいつにない緊張の色が見える。いや、一般人からしたらそれは笑顔のように見えてしまうが、俺から言わせてみれば100%の照明が80%に下げられて暗くなった印象を受けてしまう。

いつも目を細めて直視できないほどの破顔一笑を見せてくれる彼女だ、その面が作り物だとくらいわかる。

ざわ…ざわ…

…と、ここまでどや顔で解説していると、今まで借りてきた猫のように黙っていた1年が急に水を得た魚の如く騒ぎ出す。

まぁ可愛いからな。DT共が騒ぎ立てるのも無理はない。

もし陸上選手であんな長髪じゃ走りにくいったらありゃしないだろという輩が騒ぎ立てていようなら注釈すると、あれは2次元だからこそ許される特権であり、3次元ならそれこそ惨事を招いている。

…という無粋な指摘をしてはみたものの、そのざわめき具合から察するに、それは決して肯定的なものではなかった。

その音質はまるで今まで休学していた不良生徒が再び教室に入ってきた直後に湧いてくる殺伐としたどよめきのような、そんな不穏さが見え隠れしていた。

この場面に当てはめて考えてみれば、悪い噂を聞いていた人物がすまし顔でやってきた…といったシチュエーションだろうか。

とは言え俺は栗崎の悪い噂などデマでも聞いたことがないし、むしろ彼女のその元気と可愛さっぷりを称えられた取り沙汰しか聞かない。


「あずき…あずき…あずき…っ!!っっ!」


…現に俺の周りにいる3年生は栗崎の美貌に対してコメントはしているが、舌打ちや悪態はまるでない。

妙な温度差がある空間に一抹の不安がよぎったと同時にスーッとマイクに息継ぎのSEが捉えられた、次の瞬間


「みんなーっ!こーんにーちはー!!」

「ぐはっ!?」


会場が良い意味で爆発した。

○NHKの某教育番組に出てくる体操のお兄さんを踏襲したとしか言いようのない挨拶をかます。

彼女を今まで見てきた3年生からは『また栗崎か』と言わんばかりの笑いや声が聞こえる。

闇討ちに近いギャグでうっかりこぼれてしまった笑みをもどしながら再び前をみると

そこには笑いあっている2、3年とは雲泥の差を垣間見せる、困惑の表情を浮かべている1年達。

刑務所の中にコンビニの店員が混じっているような場違いの雰囲気を醸し出している。

当の栗崎は笑って欲しかったはずの1年に滑ってしまったからであろうか、照れを交えながら苦笑いを浮かべている。

が、すぐに笑みを作って話を続けた。


「あ、あたしは陸上部主将栗崎だよっ!みんなよろしくね!」


元気に快活に明朗に自己紹介を済ませると、栗崎の両サイドから生徒会の役員らしき人物達がなにやらプリントを配り出す。


「まず始めにこれをみんなにプレゼントするよっ!」


そのプリントは十中八九昨日栗崎が見せてくれた部活動紹介の紙で間違いないだろう。


「一枚ずつとってね~」


栗崎がそんな注意を促しているうちにようやく俺達の所までそれが行き届く。

回されてきたものを受け取って内容を見てみれば、やはり前日眼前に押しつけられかけたあの用紙だった。

このプリントだけでも陸上の楽しさが伝わってくる。というより栗崎が本当に楽しく書き上げたものだと文字の端々に見える躍動感のようなものですぐ感じられた。


「後ろまで配られたかな?!それじゃあ、説明するよっ」


依然として陰気な態度をとり続ける1年とは真逆のベクトルのテンションを保ちつつ、栗崎が説明を始める。


「いいたいことはその紙に書いてあるから要所だけ話すよっ」

「みんな陸上って、ただ走るってイメージしかないと思うけどっ そんなことないの」


そんな切り口で栗崎の演説は始まった。


「ただ走るだけじゃないの。フォームや腕フリ、タイミングがすっごい重要なシビアなスポーツなんだよっ」

「投擲も、走り幅跳びも、みんないえることなんだ」


嬉しそうに、陸上の魅力を語る栗崎。

彼女の陸上に対する姿勢と態度には目を見張るものがあり、稚拙な表現ではあるが格好良く、輝いて見える。


「だからそのタイミングやフォームがわかって自分の記録が伸びたときの達成感とうれしさが直に伝わる競技なんだよっ」

「なぜなら陸上は数字で自分の実力がわかる数少ない競技の一つだからっ」

「例えばサッカーや剣道って、自分がどれくらい強くなったのか実感が湧きにくいじゃん?」

「対戦相手との相性なんかもあるし、勝ち続ければ強いってことはわからないよね」

「うまいと分かっても、そのうまいは曖昧になりがちだよね?」

「でも陸上はみんな同じ条件で戦うから結果イコール実力が結びつくことが出来るんだよ」

「とは言っても、勿論結果が全てじゃないの。一番大事なのは」


言葉を切り、すっと息を吸い込み,


「どんな競技においても好きなことを楽しむことだとあたしは思うの!」


まっすぐ未だに微妙な顔つきをしている一年にハッキリと持論を公言する栗崎。

それってサッカーや剣道にも当てはまる事じゃないか…?

陸上の魅力を語っているようでそうでない。

いかにも栗崎らしい意見だった。

栗崎の言葉が続く。


「結果が出せない、思うようにいかない。そんな時はあるよ」

「逆に言えば、実力がわかるということは行き詰まってることもすぐわかるからね」

「でもそんな時必ず仲間が助けてくれる。原因を教えてくれる」

「その原因を解決したとき、また成長できる」

「互いに切磋琢磨できる、陸上ってすばらしいスポーツなんだよ!」

「あたしの先輩達がそれを教えてくれたんだけどねっ」


───

―ここまで元陸上部員が持論を展開させてもらった。そこそこ言えてることだと思うのだが、いかがだっただろうか?

───


「さぁ,この話やその紙で興味を持った君?3年3組のあたしまで来てねっ!喜んで陸上部に招待するよっ!」


そして最後にこう付け加えた。


「この超ツンデレな部長がまっているよっ!」


ハハハ!

オマエハツンデレジャナイダロ!!

2、3年には笑いの渦が発生したり、野次が飛んだりと大盛り上がりだったが、1年は憮然というより無反応に近いそれだった。

いや、栗崎のその言葉がみんなが抱腹絶倒するような魔力はもってないにしろ内輪ネタでもないわけで、すこしは笑いくらい起こっても良いようなものだが。

不気味に感じてしまうほど新入生達の反応はペラッペラだった。


「それじゃ陸上部の説明はこれでおしまいですっ。聞いてくれてありがとね!」


一番受けて欲しいはずの奴等に全く良い反応をされなかったことに動揺しているであろうが、取りあえずそういって一礼し、退場する栗崎

俺の周りの生徒は笑いながら栗崎に賞賛の拍手を送る。

だが1年はパラパラと拍手があがるだけで拍手よりざわつきのほうが大きかった。

なんだ…?

この消化不良、いや、不完全燃焼みたいなもやもやが心の中を彷徨き回り引きはがすことができない感じは。

どうして陸上のときはこんなに1年の見る目が変わったんだ。

…露骨な伏線をみた気がした。

こういうわけで栗崎の部活動紹介は終了し、あとはダラダラと続いたのだった。





そして無事に部活動紹介が終わり、HRもなにごともなく過ぎ、待ちに待った放課後に。


「あぁー疲れたーっ!」


全員で挨拶を終えた瞬間真後ろの栗崎が極限まで伸びをして全力で脱力しながらそう言った。

1年生のあの有り体すぎる、むしろ気付いて欲しいのではないかと思わせるほどの反応に疑念が残るが、何がともあれ彼女の苦労を労うことに異論は持てない。


「お疲れ栗崎」

「お?辻村君っ、ありがとっ」


笑顔料を支払いたくなるほどの、全く疲れを感じさせない栗崎スマイルが返ってくる。


「栗崎ちゃん、とってもよかったよ!俺感動しちゃったなぁ」


達也がニヤニヤと大嘘をかます。


「えっ、あなた誰?」

「ちょっっ!」


実は栗崎と達也がまとも(?)に会話するのは今が初めてなのである。

なんだかんだうまい具合に2人はすれ違っていたようで、一番驚いているのはさくしゃだというのは内緒だ。

…かと思いきや2日前(4月5日)に栗崎は朝達也が来たときに手を振って挨拶をしている描写がある。

コレが意味するのは空気な強者(ストロングエアー)としてのポテンシャルが遺憾なく発揮された結果なのか、それとも栗崎が見境なく挨拶をしているのか…

…間違いなく前者だな…と根拠もへったくれもなく俺はそう納得する。


「や、やだなぁ。倉金だよ。倉金達也。同じクラスメイトでしかも栗崎ちゃんの斜め↑だよ?またまた、ご冗談を」


達也が予想していた守備範囲を軽く頭上オーバーした変則シュートにたじろぎする達也。

そんな哀れなゴールキーパーに栗崎はトドメのシュートを一切の遠慮を挟まずに蹴り上げる。


「うーん…あ、あぁ!そう、そうだったねっ」


その答え方が一番残酷である。


「うわぁぁあああぁあぁあああ!」


首をかしげて『?』マークを掲げる栗崎に、達也は慟哭するが誰も聞いていない。


「栗崎」


俺は嘆く達也を放置して、折角だからさっき思ったことをありのままに聞いてみよう。


「どうしたの?」

「今日の発表の時,1年の様子がおかしいことに気がつかなかったか?」


あからさまな動揺と、冷めた態度。

あれは明らかに栗崎の時だけに訪れた異変であり、その前後の書道部や弓道部は何事もなかったように1年は振る舞っていた。

そんないじめに近い対応の取り方に対しての栗崎の意見を求める。

すると彼女はいつもの笑みをぶれることなく維持しながら、顎に指先を乗せてこう答えた。


「あ,あぁ~,確かに少しざわついていたねっ。もしかしてあたしの顔に入れ墨があったからかな?」

「俺が見る限りでは、そんなものはないんだが」


冷静にというか当然の指摘をすると栗崎は考える仕草を解除する。


「んまぁ、そんなことは気にしなくて良いよっ今更そんなこと言っても遅いからねっ」

「いや、確かにその通りだが…」

「いいよいいよ。きっとみんなわかってくれたし」


あまりにも晴れ晴れとしている栗崎をみて、自分が考えていることが馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「そうだな。そうだよな」

「そういうことっ。よし!それじゃああたし部活してくるねっ」


補助カバンを肩に掛け、立ち上がる栗崎。

新入部員が入らなければ廃部の危機に瀕している陸上部、その陸上の唯一の部員であり部長である栗崎。

陸上を愛している彼女が廃部することを望んでいるはずがない。

栗崎は焦っているはずだ。一刻も早く部を復興させたい。なのに…


「あたしの演説を聴いて、新入部員きてくれるといいなっ」


全くそのような素振りを見せず屈託のない笑顔を輝かせている。

ただ脳天気なのか、他人に心配させたくないからなのかわからない彼女を見送る前に、俺もやることをやる。




☆☆☆☆




「ちょっと待ってくれ栗崎。部活に行く前に話がある」


その用件とは、勿論カラオケの話である。

彼女が参加しなければこの話は企画倒れになってしまうほど、彼女の存在はこのプロジェクトに多大なる影響力を持っており、是が非でも参加させなければならない。

人を元気にする、やる気をださせることのプロフェッショナルである栗崎がこの計画に参加することは絶対条件だ。                                             

部活に行く気まんまんだった栗崎はまさか俺から呼び止められるとは思わなかったらしく、少し驚きが混じった顔で振り向く。


「ん?やっぱりあたしの顔に入れ墨がついてた?」

「いやそれはない」                        


未だに自己の存在を栗崎に知られていなかったことのショックで悶え続ける達也を通り越して、体の進行方向が廊下へ向かっている栗崎の近くまで歩いた俺は一つ咳払いして本題に入る。

教室は放課後からの開放感に包まれており、部活をしている人間の席は空席で、していない人間は同士で集まり、談笑に花を咲かせている。


「単刀直入に言うと、明日カラオケに行かないか」                   


本当にばっさりと聞いてみる。

彼女と会話する上で気をつけないといけないのは、常に本題に沿って話さないといけないことだ。

少しでも俺が話を脱線させたら最後、彼女はその脱線後も喜んで乗車するため、元の線路に復帰するまで相当の時間が掛かるからだ。

普段なら俺はそれで構わないのだが、栗崎にあまり時間を取らせたくないから今回はこのように処置する。

水面下でこんな努力をしていることを知らないであろう栗崎が、俺の提案に急遽怪訝な顔に変わる。

その顔に不安を覚えたが、どうやら俺の杞憂だった。                      


「え?あたしとそんな所に入りたいなんて、変わった趣味しているねっ」 


…お前は何を言っているんだ(AAry


「…一応言っておくがカンオケじゃない。カラオケだ」

「あー!あれ?鶏肉を揚げた奴?ちょっと意味が分からないなぁ」

「それはカラアゲ」

「えー…いやー、あたし人の物強奪なんかしたくないよ」

「それはカツアゲ」

「あたし,そんなことされるくらいなら口を割るよ…」

「それはゴウモンって…一文字もあってないじゃねぇか!」


オカシイナ、話を直入しても話がズレズレダゾ…       


「カラオケ!カラオケだっ!小さな部屋がたくさんあって、中に機械があってそこに歌いたい曲名を入力するとインストルメントと歌詞がながれるからそれに準じて歌うことができる娯楽施設の一つのことだよ!」                 

「あー、カラオケねっ!」                


馬鹿みたいにカラオケの概要を力説すると、流石の彼女も頷きながら納得してくれた。                 

           

「いいよっ!」                   


こっちが気持ちが良くなるくらいの即答。                


「やけにあっさり決めたな」                     

「だって断る理由がないんだよ?」                


汚れを知らない無垢な瞳をきらめかせながら小首をかしげ、あたりまえのように言う。         

もっと恥ずかしがるとか、照れるとかないのかよ…。   

…最もそんな反応を栗崎に期待する方が間違っているかもしれない。

誰とでも平等に接し(1名除く)誰とでも仲良くなれる彼女に(1m(ry)とってクラスメイトとカラオケに行くことなど造作もない。

彼女にとって俺のこの提案は、明日野球のメンバーが足りないから来てくれないか?と言われたのと同レベルなのだろう。


「いや、おまえがないなら良いけど…」                

「うんっ!それで?何時に集合なの?」               

「そうだな…」                                                       

らんらんと期待を込められた瞳に答えるべく思考のテーブルに席を落ち着かせた刹那、外野から意外な提案が投げつけられた。

それはもう、漫画なら1ページ使い、背景真っ白の中に1人だけ描いてその存在感を強調させたいくらいに。


「明日の11時に駅前で集合でどうだ?」

「な…」               


体全体を捻ってその発言者を確認すると、今まで悶えていてはずなのに、いつの間にか立ち上がって腕を組んで会話を聞いていた達也の姿が。

その余りにまともな意見に、思わず感心してしまいこんな事を言ってしまった。


「おまえから半世紀振りにまともな意見がでたな」           

「ふっ、よせよ…照れるじゃないか…」                


自覚はしているらしい。                          


「11時に駅前に集合だね?わかったよ!…って」             


補助カバンを持ち直して栗崎は中途半端に言葉を切る。

ついでに視線が俺に向けられていなく、その怪異を見るような目つきは…今しがた100年に一度のまともなことを言った達也へ突き刺していた。


「あなたは…?」 

「…ん?」                            


笑顔のままで固まる達也。

彼女の言いようが何回リピートして聞き返しても初めての人間に投げかけるそれだったから。


「栗崎ちゃん?それってどういう…?」

「辻村君!どうして背景が喋っているの!?プログラムミス!?」


迫真顔でシステムバグを指摘する栗崎…じゃねぇよ。

本来ギャルゲーになっていたこの作品は、教室風景を背景に立ち絵の栗崎が表示されているはずで、その背景に映っている生徒が喋ったよ!?という何とも分かりづらいネタである。     


「栗崎、それ背景やない。倉金や」

「えっ!?」


もう一度達也を探るように見直すものの、記憶にないのか美術品を初見する見物客のような態度で背景たつやを観察する。


「うーん…あ、あぁ!そう、そうだったねっ」


また残酷な刃で達也のハートを串刺しにしやがった。


「おい!…そろそろ名前くらい覚えてあげろよ…」

「うぅーん…」                          


真剣な表情で迷っている。あれか、興味がないものは徹底的に思考から排除する人間か。                          

「…うん,そうだねっ!念のため覚えておくよっ」          


なにが念のためなんだろうか…                    


「こいつの名前は倉金だ。いいか?」                 


デパートのマネキンのようにさわやかな笑顔で固まっている達也をコンコンと叩きながら彼女の思考回路にその名を通す。     

仮にも明日一緒にカラオケに行く仲なんだ。名前くらい覚えて貰わないとこの子が不憫すぎる。


「倉田君ね…うん!覚えたよっ!」

「あぁ…もうそれでいい」                    

「OK~」                             


この調子じゃ、明日もまた忘れるだろう。

また同じ台詞をいう羽目になりそうだ。


「そういうことだ。引き留めて悪かった。部活頑張ってくれよ」      

「うんっ!それじゃ、辻村君…く…く…ク○ラウド君!またねっ」


超究武神覇斬を放つ傭兵である彼の名を言い放って弓で放たれたように教室から去っていった。

達也と同格にされてしまったクラウド○はさぞかし心外だろう。


「おまえもそれくらい格好良ければな」                


このままフィギュア化したら、一個も売れることはないだろう達也の肩をたたいた。

…と

栗崎を誘うことについ夢中になって彼女が待ってくれているか確認し忘れていた。

視界を黒板側へ開かすと、見慣れた背中…いや、見慣れたツインテールがぶら下がっている頭を視認することができた。

ありがたいことに待っていてくれていたようだ。


「それじゃな」


フィギュア化した達也にそう軽く挨拶を投げかけて俺は急いで彼女の元へ向かった。




…向かって一緒に帰るのは良いものの…


「…」

「…」


無言が続く。

美麗なる桜並木のど真ん中を女の子と歩くという最高のシチュエーションなのに、行われているのは最低のコミュニケーション。

教室を出てからここまで、俺が話しかけてもすべて聞き直されたり、相づちで返される、なんとも同情を呼び起こす会話劇。

カラオケの話をしても、素っ気ない態度で対応されるのだからお手上げだし、全て最近のことや、テレビのことなど、俺が考える上での最高の身近な話題を振っているのに。

今まで彼女から返された言葉は『なんて言いましたか』『そうですね』『そうですか』の3つの分岐のみだ。

音声認識が悪いゲームのキャラクターに何度も同じ質問をする気分になる。いや、シー○マンだってもうちょっと認識がいいはずだ。

そして伝わったかと思えば、似たような返事が返ってくる。

言葉のキャッチボールなんて成立するはずもなく、ただ俺が一歩的に投げて彼女が受け取らない。そんな無意味な会話のボールが彼女の後方へ数だけが増えていく。

なんなんだ…?

昨日より落ち込んでいるのは何故なんだ?

人間の『負』の部分をそのまま再現したかのような沈んだ顔。

昼間はあんなに元気というか、まだ会話が成立するというのに、どうして放課後になると極端に口数や生気が減少するのだ。

なにか帰りに彼女をそうさせるフラグが用意されているというのか。

…分からない。

幸い最近中原達の猛攻を受けていないのが救いか。

だとしても彼女の今の姿は虐められているときとあんまり差はない。というか変わっていない。

逆に言えばそれは今も虐められているという意味なのか?

…いや、それを肯定してしまったら今俺がやっていることを全否定してしまうことになる。

『有り得ない』ということにして、別の理由を考えることに専念することに…

…と、そうこうしているうちにいつもの分かれ道についてしまった。


「…」


彼女が歩く道は商店街に向かう方だ。

そういえば彼女の家がどこにあるのか知らない。

―…聞いてみよう

一寸先は闇しか見えていない彼女に、あたかも思い出したかのような口ぶりで聞いてみた。


「そういえば、黒羽の家は商店街を突っ切るのか?」

「…はい?」

「黒羽の家は商店街をすぎた先か?」

「…いえ…商店街より前の通りを曲がっていきます…」


商店街周辺はたいしたものはなく、あるのは住宅街だけだ。

強いて挙げるとすれば、この街一番の高度を誇る公園くらいか。


「そうか。それじゃあ気をつけて帰れよ」

「はい……では…」


黒羽のその身長だけが原因ではない小さな背中を見送るその前に…だ。


「…黒羽」


去り際に我が身を殺すような言葉だが、身を呈してでも聞いておくべきだろう。

小さく振り返った彼女に、こう言った。


「もう、いじめられていないんだよな?」


自分に言い聞かせるように、彼女に確認を取る。

はらはらと散っている桜のカーテンからのぞかせる華奢で儚い可憐な女の子は、小さい口相応の声だが、確かにこう言った。



「…はい」



俺は、彼女のその言葉を信じる他なかった。







という訳で後編終了です。


相変わらず黒羽がでると空気が重くなる仕様で申し訳ないです。

次回は明るめでいきたいと思っていますので、宜しくお願いします。


それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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