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4月6日/木曜日(後)ーヒロインー

どうも、りゅうらんぜっかです。


初めての方は初めまして

前回の続きで読んで下さっている方は、ありがとうございます。


というわけで後編です。

相変わらずヒロインが可愛く描けていないので、善処したいところです。

自殺を止めた辻村君。彼がその後取った行動とは…?


それでは、どうぞ!

「黒羽」





名を呼ぶ。

それは決して死体にでも本人が居ないところで漏らした空言でもない。

触れれば彼女の体温を感じることができる、生きた彼女に呼びかける。


「…」


勿論生きているのだと言うからにはそれ相応の反応が返ってくる。

その呼ばれた方向へゆっくりと体ごとこちらに向けて立っている俺を見るため必然的に上目遣いで俺を見る。

目には泣きはらした後が、くっきりと残っている。

女の涙は一国すら狂乱する程の破壊力と原動力を持っているというのは強ち出鱈目でもなく、例えそれが後だとしてもその強靱な力は健在だ。

これほど庇護欲をかき立てられるものはない上目遣いと泣き後の双璧コンボに、一瞬ドキッとしたのを隠しつつ黒羽に問う。


「話があるんだ。昼飯を食いながらで良いから俺と一緒に屋上まで来てくれないか?」


昨日の俺からしてみればこの行動は異常であり、こうなるとは微塵もつゆ知らず。

一応言及しておくと、今後の話を進めるための会議をするために誘ったのではなく、決して一緒にお昼ご飯を食べようというものではないと意地を張っておこう。


「…」


学校で一番賑わいを見せる時間である昼休みな為、生徒達の喧噪がやたらと強調される。

黒羽は一切の表情の変化を見せず、その紅玉の瞳でただただ俺を見据える。

やめてくれ、恥ずかしいんだが。


「…はい」


そんな俺の地の文を読んでくれたのか、察してくれたのか分からないがそう承諾してくれた。


「それじゃいこうか」

「…はい」


文面は同じ『…はい』でも、声色は二極化するほどハッキリと分かれている。

つまりそれは黒羽の口から発せられたものではない。もっとハッキリ言うなら男の声だ。


「さ、行きましょう」


肩が重くなる。手が置かれたらしく、その手の大きさから明らかに男の手だ。


「あ?」


振り向く。

できるだけ不快感を全面に出した顔をしてそいつに空気が読めていないことを分からせる。


「そ…そんな嬉しそうな顔するなよ…//」


このドMがっ

どうしてこいつはこう、大事なときに限って姿を現すんだよ…

そこには1300行くらい振りにまともな台詞を言った達也が、出番を貰って嬉しそうな顔をして立っている。

そりゃそうだろう。こいつのその1300行前に言った最後の台詞は『フフっ、今こそ勉強の成果を見せてやるぞ!進研○ゼミであんなに勉強したんだもん!』だもんなぁ。

一応、一応念のために聞いてみる。


「どうした?なんか用か?」

「どうして?って俺1ワード100円だからそりゃたくさん喋んないと儲からないんだな、コレが」


おきまりである親指と人差し指をくっつけてそれを俺の方へ向ける『金』の意思表示。

エロゲ声優の1ワード単価かよ。

普段ならそうツッコむところだが、流石に場と空気が悪すぎる。ってかそれでそのツッコミが出る俺が一番気持ち悪い。


「今忙しいから後でな」


とにかく今は黒羽と話すことが何よりの最優先事項であり、こいつとの戯れ合いに付き合っている時間はない。

だが達也は一度噛みついたら中々引きはがせない良い意味でも悪い意味でも狂犬じみた根性を持っているためそう簡単には見逃してくれない。


「え?どうせ飯買いに行くんだろ?」


今俺と黒羽をみて何とも思わないのかっ。

こいつはシリアスって言葉を知っているのだろうか。


「え?朝食で食べるアレ?」


テンプレなボケを披露してくれたところで、こいつの出番を強制終了させる。「ちょ…!」


「行こうか黒羽」

「…はい」


今度は達也でも何でもない、正真正銘黒羽からでた言質。

さっさと屋上へ向かうこととする。


「ちょ…!」





達也を無視したことは置いておいて、2人で先程まで自殺未遂現場だった屋上に到着する。

そんな事があったことを知る由もない同じクラスメイトが何人も昼飯をわいわい食べている。

これこそが日常風景であり、先程がいかに非日常であったかを改めて認識する。

今日もさわやかすぎるほどのいい天気に恵まれており、上着を着ていればじんわりと汗をかいてしまいそうだ。

そんな人を自然と引き寄せてしまう魔力を持つ屋上の一角のベンチ…一昨日俺と達也がすわっていたベンチに腰を据えることにしよう。

後ろを見れば黒羽が静かについてくる。

今から俺に連れられて怒られる生徒じゃないんだからそんな俯いてしょんぼりとしないでくれよ…。

その手には熊の風呂敷を持っている。粗方お弁当と言ったところだろうか。

再び前方を向き周りに中原達やつらがいないか細心の注意を払って周りを見渡すが、どうやらその警戒も徒労で終わりそうでなによりだ。

本当なら2人きりで話し合いたいところなのだが、生徒が拡散する昼休みに誰もいない場所を探すのは面倒だし、周りに人間がいた方が奴等も易々と手を出せないだろうという俺の独断と偏見の元でこの場所が選ばれた。

というか3限終わりに教室に戻ったときにはあいつらの机にモノはなにもなかった。

毎日虐めているというわけではないのか。その規則性のなさに本当に気儘にいじめを行っているのか、それとも…。

そんなことを考えている内に無事に到着した俺達は日差しで丁度良く暖まっているベンチに腰を下ろす。

黒羽は俺と十分距離を取って座ってくれて、まるで他人同士が座っているみたいだ。…解説するほど慈悲が溢れ出てくる。切ない。

お弁当を膝に置き,その上に両手を重ねる何とも上品な座り方。

その目は地面か己のつま先を見つめ、とてもじゃないが俺を見てくれているとは言い難い。


「…」


間。

かなり急な話だったので俺は食べ物も飲み物も全く持ち合わせておらず、両方の意味で手持ち無沙汰を味わう。

所謂『嫌な沈黙』がここぞとばかりに登場し、周りが五月蠅いのが唯一の救いといったところか。

とにかく俺から話題を振らなければこのまま互いに座ったまま昼休みが終わってしまう。そんなのイベントも糞もない。

出来事イベントのフラグを通過するために行動を起こす。


「さっきは大変だったな」


自殺しようとして。…だなんて公共的にも、彼女の心情的にもその台詞を続ける事なんてできないから意中でそう付け加える。

まるで労いのような言葉になってしまったが、それを乗り越えていたら黒羽は肉塊に代わり、この世に存在していない。


「…!」


小動物のように俺の言葉を敏感に感じ取った黒羽は、体をびくつかせ顔が強ばる。

俺のそれがスイッチを切り替え、さっきの記憶が蘇ったのだろう。

まずい、このままでは彼女の目の腫れで目が開けられなくなってしまう。


「す、すまん。また落ち着いたら本題に入るよ」


しばらく彼女に心の整理の時間をもうける。

何かを口含むことも、立ち上がることもできない俺にできる事といったら彼女を見ることしかないだろう。

改めて彼女の全容を再確認する。

ものの見事に彼女の肌が露出するところは無傷のように見える。作為的な、そして隠密的なそれに職人技すら感じてしまう。

こんなにも可愛らしい、小さな女の子にどうして手を加えるのだろうか。

嫉妬か?…いや、そんな単純なことでいじめが起きるというのなら世界はとっくに破滅している。

…?

それにしても今日の黒羽の姿には異変を感じる。

具体的に言えと言われたら答えに詰まるようなそんな感覚的な違和感。

髪の毛を切って雰囲気が変わったようなざっくばらんさはなく、もっと隠々とした…

そのしこりの正体を得るため食指を動かす。

食い入るように見つめ、その視線をグリグリ動かすもんだから、端から見れば俺が視姦しているように見えなくもない。

…!…分かった。

人形が、ないんだ。

黒羽という現代風モダニズム古風アンティークを演出させていたあの熊の人形が彼女から取り外されていたんだ。

一心同体と思われていたその関係だけに、意外だった。

…まぁ、そこまでたいしたことでもないか。

そう思い直し、1人納得していると同時期に黒羽の震えも止まり、ようやく再開することができそうだ。


「おちついたか?」

「…はい」


かすかに震える声で、あくまでも視線はこちらに向けずに小さく答える。


「そうか…。それじゃちょっと質問させてくれ」


黒羽の心中には幾十もの検問が存在し、下手をしたら一回目で引っかかってしまうかもしれない。

それくらい禁忌なことに首を突っ込むことになるのだが、今の俺の情報量では中原達を止めようにも止められない。


「答えたくないことがあったら答えなくて良い、今言えることだけを教えて欲しい」


だが、いきなり核心に迫るようなことはしない。まずは外堀を埋めてからじっくりと中を責めていこう。

だから敢えてそういう言い方を取る。

コク…と、彼女の首が動いたのを確認する。

尋問を開始させてもらおうか。

彼女の声をよく聞くために、距離を詰める。


「まず…あいつらに虐められはじめたのはいつ頃からだ?」


アウトラインすれすれなメンタル状態の黒羽に『いじめ』という起爆剤はさぞかしつらいものがあるだろうが…


「……」


膝上に置いてある熊の風呂敷を両手でギュッと握りしめたて言葉の錬成を試みてくれている。

傷跡に塩を塗り立てる、拷問のような作業で本当に申し訳ないが、ここは黒羽に頑張ってもらうしかなかった。

黒羽は微弱に声帯を震わせ、こう呟いた。


「…今年の1月くらいから…です」


周りの賑わう声にあっという間に混ざってしまいそうな声を俺はギリギリ聞き取る。

寧ろプライバシーを厳守するという意味ではこれくらいが良いのかもしれないが。

そんな彼女から出た言葉は何とも規格外なそれだった。

3ヶ月もやられているのか!?

昨日見た光景がそんなに長期間行われていだなんて想像するだけでも食傷してしまう。

精神的に病んでしまうのもうなずける。

だが、問題は次の質問だ。

しかし今の関係からしてこの質問は無粋な気がしないでもないが、聞くだけ聞いてみる。


「そうか…。黒羽に心当たりは無いのか?彼女たちに恨まれることを言ったりしたり」


疑問符を付けた辺りから即座に目を瞑り頭を横に振る。

肩に頭を埋め、小さく顔を振る彼女のこの行為を、演技だというのなら俺は誰も信じることができなくなる。

純粋に恐怖を感じている黒羽はこう言葉を繋げた。


「…ないです」


その声は衰弱した臨終患者のそれだった。

だが、語られた内容は俺の胸中を震撼させるほどのインパクトと飛距離を併せ持っていた。


「わたしは…いじめられるまで…中原さん達を知りませんでした…」

「なっ!?」


素で声が出る。


「お、同じクラスだったのか?…違うよな」


出来レースのような流れに従った答えが返ってくる。


「はい…」

「…」


今の俺の顔を見たらお前はラク○ーンシティに紛れ込み、ゾンビに囲まれた警察官かと突っ込まれそうなほどの驚愕顔をしていることだろう。

それくらい、驚いたと自覚している。

迷宮入りしかねない程の謎なことが起こっているのだから。

同じクラスならまだしもそうでもなく、面識もない赤の他人をいきなり虐めるなんて『いじめ』のゲシュタルトがボロボロに崩れさる。

理不尽というより奇怪千万という言葉が相応しい。

何がどうなればそうなるのか…?

なにかこの件には裏が隠されているのかもしれない。

もはやいじめの定義すら怪しくなっているのだ、陰謀論を主張をされても不思議でもなんでもない。

俺はこの件の最大の被害者である黒羽に質問を続ける。


「―虐められていて先生に言おうとは思わなかったのか?」


…この質問がいかに愚問であるかは十分承知していたが、念のために聞いてみる。

黒羽は遠くを見るときのように目を細め、更に頭が垂れ下がる。


「……」

「…さ…て……した…」


音量ボリュームがついに俺の耳が捉えられないレベルに下がる。


「ん?もう一度お願いできないか?」

「…脅されて…いました…」


恐怖で唇を歪ませ、手が小刻みに震えはじめる。


「…ちくったら…学校にこれなくなる…と…」

「そうだよな…」


やはり愚問だったようだ。

栗崎の様に陽気で活発な女の子ではなくおとなしい部類にはいる黒羽を黙らせるのはさぞかし簡単だったのだろう。

中原のドスの効いた脅嚇が彼女の勇気の扉を完全に閉ざしたのだろう。


「うん、ありがとう。参考になったよ」

「…そうですか…」


これ以上の詮索は黒羽に毒だ。またその目を腫れさせかねない。

手の震えは止まっていなく、汗ばんだ手先に触れる風呂敷は微妙にぬれている。

恐怖、思い出したくない過去をを忍んで俺に話してくれた黒羽のそんな彼女の姿を見て申し訳なくなった。


「あぁ、こんな雰囲気にしてしまって悪かった。さぁ、昼ご飯を食べてくれ」


どうぞどうぞのポーズを取って、その膝元に置かれた弁当を食すことを進める。


「…」


とても昼飯を食べる気分ではないだろうに。場を取り繕うためだけに出てきた完全無神経な言葉を言った己に失望する。

だが黒羽は俺の言葉を真に受けたのか、風呂敷を開き小さな弁当箱を日光に晒す。


・・・

・・


「…」

「…」


無言の食事がスタートした。

黒羽は何度も深いため息を吐きながら弁当箱をつついている。

手作り弁当なのか否かなのは定かではないが、女の子らしい可愛らしい盛りつけがされている。

ウインナーに卵焼き、唐揚げレタスミニトマトと、弁当シーンのエロゲ一枚絵は3割この組み合わせであろうおかず内容だ。

…これはなんとか話題を振って元気づけてやらねばならない。

なにか楽しい話題を振ろう。


「…黒羽」

「はい…?」


ピタリと箸が止まり、俺の言葉を聞く準備を整えてくれた黒羽に俺はこう言った。


☆選択肢☆


┌1 「彼氏いるの?」

├2 「スリーサイズなに?」

└3 「チョコって何が一番美味しいと思う?」




ロクでもない質問ばかりで本当にどうしようもない。

3は通常ルートを通っていないとわからなく、2はもはやセクハラじゃないか。

だからって1が良いというわけでもなく…、コレは迷う。

…まぁ、この中でかろうじてましなのは1か。

選択肢から選ぶことを強いられている俺は所詮プレイヤーの操り人形というわけだ。



「黒羽ってもしかして彼氏とかいるの?」


あまりにストレートで、脈略のなさ過ぎる発言に自分がびっくりする。


「!?」


かなりの反応速度でこちらを目を見開いて振り向く。

表情が乏しいと言われても仕方のない黒羽も流石にこの気が狂った発言には驚きを大にして表さなければならないようだ。

いや、黒羽のいつものテンションなら無視すらされそうな質問なのに一体全体どうしてか分からないが、非常に食いつきがいい。


「は…は?」


ごもっともらしい反応にありがとうを言いたい。

今までの話の内容が内容だけに180度大回転な話の方向性に誰もついて行く事なんてできやしない。


「ハハっ、あまり直球過ぎたね。まぁ撤回しないけど」


…まぁこのくらい刺激がある話を振った方が黒羽の気を引くという意味では良いのかもしれない。


「で、いるの?いないの?」


ええ…と小言を漏らしながら口を結んで視線を俺に定めようとしない。

弁当のミニトマトほどではないが、その頬がほんのり赤くなる。


「え…いや…つ…」


いやいや、そこまで慌てるこたないだろう。逆に俺が不安になる。


「…辻村君は…そんなことを聞くために私をよんだのですか…?」


今までが全て建前で、全てはこの結果に集約するために頑張ってきたのかという疑問が投げつけられる。

失敬な!これは不可視の力が働いているだけであって俺の本心ではない!絶対にだ!…あぁ。


「滅相もない!だけど気になったからだよ」


取りあえずその不本意な疑いを不承知すると、黒羽が微妙にジト目で見てくるものだから可愛くてしょうがない。

追撃追撃。


「それで?どうなの?」


話のベクトルを無理押しし俺が望むが儘に方向修正し、もう一度彼女にセクハラに限りなく近い質問を再議させる。


「…いませんよ」


視線を弁当箱に落とし、少し、ほんの少し怒気が籠もったふて腐れにも似た調子で返事が返ってきた。

こんなに変化豊かな黒羽は見たことがない…違う、本来の彼女はこんなにも少女らしい一面を持つ普通の女の子だったはずなのだ。

そんな性格の根幹を掘り出して思う儘にいじめという力でそれを歪形にさせ、黒羽の本来持つ心が再起不能に陥り、今の性格に仕上がったのだろう。

唾棄すべき絶対にあってはならない結果であり結末。その心の傷を癒すのには一体幾月かかるのか予想も想定もできない。


「…辻村君?」


彼女の心配を表に出した声と面によってようやく俺が長考していたことに気付く。


「おっと、ごめんごめん」


咳払いをし、彼女に開いた手をその綺麗な顔の前に置いて大丈夫のポーズを取る。

話を再開しようか。


「んじゃあ今までには?」


いつまでこの話引っ張るつもりだよ、俺。


「…いませんよっ」


心配して損したと言いたげな気持ちが注入された呆れに近い答え。

でもなんだかんだで彼女の男事情を知ることができたというのは良い収穫だ。…とはいえそもそもギャルゲエロゲに元々彼氏がいる設定なんて殆どn(ry

すると今まで一方的に問わされていた黒羽が一矢報いようと思ったのか、こんな質問をしてきた。


「そういう辻村くんh」

「いないよ」


間髪入れずとは正にこのことか。

初めから俺はこの答えを用意しており、インスタントより早く仕上がっていたので即答する。

彼女につけいる隙を見せさせない。


「…」


実に淡泊で全く面白みがない俺の答えにばつの悪そうな顔で無言の主張をしてきた。

自分は必死に答えたのに向こうは平然と答えるものだから、悔しかったのだろう。


「悪いな。でも意外だな」

「え?」

「黒羽に彼氏が今まで一度もいないなんてさ。もっとモテモテかと思っていたよ」


ギャルゲーのメインヒロインに対して愚問の中の愚問をぶつけてみる。

寧ろここでどうしてヒロインのあたしに彼氏がいるんですかと顎を外しかねないほどのメタ発言をしてくれたらそれはそれで革命的な新しさだっただろう。

黒羽は先程までガッチリ捉えていた俺を視界から外し、なんとなく恥ずかしそうにこう答えた。


「そ、そんなわけないじゃないですか」


上がっていた声のトーンをいつも通りかそれより少し劣ったレベルにトーンコントロールしてこう続けた。


「私は暗いし…可愛くないし…無愛想だし…」


寧ろここでどうしてモテないのか論を運んできたらそれはそれで革命的な新しさだっただろう。

黒羽が可愛くないとすれば世の中の女の子は大抵ブスに成り下がる程であり、世界の顔面偏差値はそこまで高くはない。

自虐に走る黒羽の肩を叩いて立ち止まらせる。


「もっと自分に自信をもっていいと思うよ」

「え?」


天の声を聞いた修道士のようにその目を俺に向ける。

角度的に、身長的にどうしても彼女を見下ろす形になる俺は彼女の無垢な上目遣いを常時見続けるご褒美を頂く形になっている。

なんだよ…犯罪的じゃないかっ

そんなはしたないふしだらな気持ちに叱咤を入れ、切り替えて黒羽にこう言った。


「あいつらに人格まで否定されて自信をなくしているんじゃないのか?」


どちらかと言えば洗脳と言った方が語弊が少ないのかもしれない。

中原達の言葉の暴力はその人間の性質をも拉げ、陥落させる力を持っている。

そんな奴等の犠牲者の1人…いや第一人者と言っていいのが黒羽だ。


「今の黒羽と会話していて、俺はそんなこと全然思わないけど」


これは本当に素直に出てきた言葉。


「…違います…私はそんな…」


黒羽も退かない。


「確かに会話自体が少ないからそう思うかもしれない。じゃあこうしよう」


俺は先生が幼稚園児とささやかな秘密を共有するときのように、人差し指を立てて笑ってこう言った。


「俺が必ずあいつらからいじめをやめさせてるから、変わったかどうか確かめさせてくれよ」


ようやくこの台詞を言うことができた。

さっさとこの話に持ってくればいいのに、婉曲に婉曲にたらい回していたら今になってしまった。


「……はい…」


なんとも歯切れの悪い返事。

しかもそれを先程までは晴れ上がっていたのにこの言葉を聞いた途端顔に暗雲をたちこませてそう言うのだから、ますます不安が煽られる。

―まだ俺を信用していないのだろうか、それとも…?

取りあえず早急にこの気まずさMAXなこの悪状況の修復作業を敢行する。


「ごめんごめん、こんなところであいつらのことを思い出させてしまって」

「いえ…気にしないでください」


気にしないでくださいという人間がそんな低調で言うものか。

一気に昼休みを謳歌する生徒達のざわめきが2人の間に流れ始める。

追撃したくてもできないこの歯がゆさに嫌気がさす。

正直今の場面で謝るべき所はそこではなかったのかもしれない。


「…」


黒羽は再び箸を動かして冷え切ってしまっているからあげをつまみ上げ、その小さな口に運んでいる。

…この場面で奴等を出してしまったのが失敗だったか。

折角良い雰囲気で会話を織りなすことができたのにこれではさっきに逆戻りしてしまったではないか。

会話の選択肢を見誤った事を後悔し、そこまで気遣うことができなかった自分に憤怒を覚える。


「ま、まぁ…そう言う事だ」


打破したくてたまらないこの微妙な距離感を感じる無言の聖域にアンチサンクチュアリを唱えるに値する呪文を詠唱してみる。


「今日から一緒に帰ってもいいか?」


咳払いもそこそこに、そう提案してみる。

学校にいる間はこうして黒羽の傍にいることができるが放課後帰りとなるとそうはいかない。

狡猾にエサの蹂躙じゅうりんを目論んでいる狩人が狙う絶好の場面と言えばそのエサが1人になり且つ油断する放課後の帰り道に他ならない。

そこをもカバーしなければ完全なる安全は保証できない訳で、現にそうしないと中原達の遊撃がそこを定める可能性が大だ。

だからこその提案だが…


「…?」


黒羽は俺の内なる企てを把握できてないのか、その原因と結果が繋がらない不思議な台詞に眉を寄せて怪訝な顔を見せる。

どうやら説明が必要らしい。


「説明もなしに変なことを言い出してごめん。中原達が帰り道に襲ってこないとは言えないから用心棒として一緒に帰ろうと言ったんだ」


疫病神を追い払うためのお札になりましょうという、至ってシンプルな提案だ。

それに対して彼女は次の手をどうしようか迷っている棋士のような、己の中で思考と思考がぶつかっている思慮顔になる。

どれを指してその顔をしているのか、はたまた全てに対してなのかは彼女のみぞ知る。

するとようやく次の動かす駒を選び終わったのか、俺を視界の上の方で捉えて彼女はこう言った。


「…お願いします」


これまたなんとも言えない返答。

…まぁ何がともあれ承諾を得ることができたんだ。俺はそれを受けて行動するのみだ。

こうして俺と黒羽の昼食は、テンションが低空飛行を保ったまま過ぎていったのだった。




流れるように授業が進んでいき、あっと言う間にHRが始まる。

後は放課後であり、各々やるべき行くべき場所へ散らばるのみだ。

ガララッ


「は、はぁーい!席についてくださーい!」


相変わらずあざとさ百人力を誇るこの学校の幼女異常嗜好者殺戮兵器ロリコンキラー、まかり先生がこれまたパタパタとあざとく登場する。


「まかりぃ!俺だ!結婚してくれ!」


既婚女性に向かって熱いラブコールを送っているのは…ええ、隣の奴だ。

そんなコールにまかり先生は幼女しか持ち得ないはずのはなまる笑顔で対応し、ファンを萌え殺す。

本当にどうでもいいが、原作では先生が男なので達也はここで舌打ちを打っている。男とロリでこうも対応が違うのか。


「それではほーむるーむを始めますね」


そんな声が後ろから2番目の俺の席まで届く程度の静けさになる。

俺の視野には中原達3人が座っているはずの席が空白になっている。


「連絡ですっ。明日は部活動しょうかいが5、6時間目にあるのでっ、そうじが終わったらたいいくかんに集合してくださいね?」


意図的にひらがなにしているので決して変換ミスではない。

新一年生へ向けての部活動紹介なのだが、何故か全員参加になっている謎行事の1つ。

まぁ2、3年から部活にはいることは別に間違ってもおかしくもないのだが。

後ろの席の栗崎にとっては勝負の日だろう。

部員は己のみ。ここで頭数が揃わなければ廃部なのだから。


「部活動紹介か…3年で帰宅部の俺には何の関係もねぇし、いい睡眠時間になりそうだな」


本来ならバンドをしていたはずの達也だが、最終的には部活をしていないということになっている。


「酷い説明口調です、本当にありがとうございました」

「うるせぇ、いっつも寝てるくせによ」


すると達也はアメリカコメディ番組ばりの肩をすくめ、手のひらを天井へ向けてやれやれとこう言った。


「いやいや、1日16時間睡眠は当たり前でしょう」

「やれやれ、世の中には1日12時間しか生活できない少女だっているというのに」

「それって当時はHOTだったのかもしれないが今となっては結構古いネタだよなHAHAHA!」


本当だよ。どんだけ年月経ってんだよ。


「―それじゃあ今日はここまででーす!みんなまた明日ー!」


かなり局地的なネタをぼやいていたらHRが終わっていた。

まかり先生との挨拶を済ませ、放課後が到来する。

ざわっと、沈黙の防波堤があっという間に決壊した教室は一気に騒がしくなる。

さて、俺は帰ることとしよう。

…黒羽と共に。


「おっし紅!3人で帰ろうぜ3人で!」


手早く準備を済ませた俺は生徒達が横行する中を通り抜けて黒羽の元へ向かう。


「黒羽」


後ろで集中線を使っている男には目もくれず黒羽に話しかける。

触るのを躊躇ってしまうほどの美しいツインテールが微々と右往左往し、それが何かをしていることを示している。

どうやら帰りの仕度をして、丁度終わったところらしい。

俺に呼ばれた彼女はその活動を一時停止し、首だけこちらを見て少しだけ瞼を拡大させる。


「昼休み話した通りだが…大丈夫か?」


少し心配の色を混ぜた顔でそう尋ねると頷きという無言の肯定が返ってきた。

良い…らしい。


「それじゃあ行こうか」


ピッチハイクの形を作ってその親指を教室の扉へ差し向ける。

再び口を開かないでの了解を得て俺達は授業の呪縛から解き放たれて、緊張感が失われた教室から出る。


「ちょ…おま…!」





達也を完全に無視し、黒羽と一緒に校門から出て、桜並木を同じ足取りで歩く。

しかし周りの見ているだけでうっとりしそうな夕桜を眼中に入れない、入れてはいけない。

時折四方八方を確認する。

いつ中原達がやってくるかわからない。

彼女の深く傷ついた心に追い打ちを掛ける暗殺者は牙を常時見せながら執拗に彼女を狙っているはずだ。

いじめをやめさせるまでに、いかに黒羽の心の傷を深くさせないかが重要だ。

しかしこのままではじり貧なのは分かっている。この状態は後ろに進むことはないが前に進むこともない。

はやくなんとかした気持ちばかりが募るばかりで、その気持ちの矛先が定まらないからどうしても空回りしている節がある。

早急に定めなければ。


「…」


黒羽は黙々と歩いている。

この2人が歩いている光景の一枚絵にいる俺をフォトショッ○プで加工して消してもなんら違和感のない作品に仕上がるだろう。

そのくらい一緒に帰っている意味がない。これでは俺が最初からボディーガードとしているほうがまだいい。

話を振ってみる。


「…こんな風にさ」


彼女の興味を引く。


「こうやって二人で歩いているのを,周りはどんな風に見ているんだろうな?」


なかなか渾身の振りだと自負する。

もしこれが美少女ゲーなら『ばっ、ばっかじゃないの!?』とか『え、えええええぇ!?』なんて反応すること請け合い…


「…」


完全無視。


…自信のあるギャグを流されたときに感じる虚無感が俺の心中をふてぶてしく通過する。

なんだ、俺の発想はもはや時代遅れだとでも言いたいのだろうか。


「…」


俺の満身の振りを無言というカウンターでSAN値を打尽した黒羽は、正面の先の先のみを見据え、その顔は葬式へ向かう親戚のようだった。

…どうしてだろうか。

どうして彼女は昼休みより落ち込んでいるんだ? 

少なくとも昼ご飯を食べているときの彼女はこんな顔をしていなかった。

中原達にいつ襲われるかわからない恐怖があるからか。

俺がいるというのに?そんなに俺は頼りない男なのだろうか。それともまったく違う用件なのだろうか?

全く意味も訳もわからない。

思い切って聞いてみる。


「ど、どうした?元気ないぞ?」


これまた無視が帰ってくるかと思えば、意外に早く返事が返ってきた。


「…なんでもないです。ちょっと…疲れてしまっていて…」


俺の疑問を納得できる程度の理由を聞くことができたものの、それは本当に本心なのか疑ってしまう。

…いやいや、俺から彼女を信用しないでどうするんだよ。


「そうか。今日は色々大変だったもんな。気を遣えなくてごめん」

「…いえ…」


……

俺の背後で合唱部の場所を選ばず無差別で主が儘に練習している音や運動部の青春溢れるかけ声が刺さるように入ってくる。

…なにやってんだろうなぁ、俺。

気の利いた言葉もかけてやれない自分に苛立ちを覚えていたら黒羽と俺は大きく離れていく。

丁度ここは学校の入り口であり、おおざっぱに言うと2方向行くことができる。

右側に歩いていけば商店街や駅に着くことができ、黒羽はそっちの方向へ歩き出している。

黒羽はそっちの方向に家があるのか。

所謂ココが分かれ道というわけだ。

…計画では黒羽の家まで一緒に行きたかったのだが、今日は身を退くことにする。


「今日は一人の方が良いだろ。もうあいつらもここまできたら来ることもないだろうし。また明日ね」


俺は一方的に話を進めた言葉を投げつけると黒羽はそれに静かに同意を示してくれて、ポツリと歩き始める。

夕日によってできる長い影からさえも、元気のなさを伺わせる。

…俺はなにか間違ったことをしているのだろうか。

迷惑だったらハッキリ言って欲しい…それが言えないからあんな顔をしていたのだろうか。

分からない、分からない。

小さくなって行く黒羽を見送っていると、無意識に手に力が入り込んでいた。


というわけで後編終了です。


黒羽はどうしてこう腹が立ってくるほどこんなに落ち込んでいるのか…

中原達とどう立ち向かっていくのか…

まだまだ物語は続きます。


それでは最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


…ちなみに1日12時間しか~は車輪の国(18禁)ネタですので、ご了承ください。

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