4月3日(前) -始業式-
この作品は昔自分達が作っていた黒歴史ギャルゲー『はなだね』に出てくるヒロインの一人、黒羽雪見のルートを小説版にリライトしたものです。
ゲーム自体は途中までできていたのですが、黒歴史作品ではお約束の『途中放棄』により、お蔵入りしました。
しかし、自分が書いた黒羽ルートは最後まで完成しているので、折角だからこうして投稿してみました。
かなり稚拙な文章とストーリーで、見苦しい部分が多々あるとは思いますが、読んで頂けたら幸いです。
基本的にtrueルート一直線なので、バットエンドになることはありません。
部分的にファンタジーが混ざっていますが、どちらかと言うと学園ものです。
なお、物語の途中に、現実とは比べものにならないくらい幼稚で、あくまで想像ではありますが『いじめ』のシーンが含まれています。苦手な方や不快に思う人は『戻る』ボタンを押して下さい。
また、少々ネットスラングやメタ発言があります。こちらも苦手な方はお引き取り下さい。
それでも大丈夫だという方は、よければ最後までお付き合い宜しくお願いします。
「―でありまして、こうして皆さんの元気な姿を見ることができて―」
「ふぁあああ…」
俺はここで出さないでいつ出すんだといわんばかりに主張してきた欠伸を噛み殺す。
早くおわらないだろうか。
そんな願いが通じる訳もなく、嗄れた声はテンプレな挨拶を続ける。
「―これから一年、心機一転して学業や部活動に勤しみ―」
一体今なにが行われているか。
説明するまでもないが、今は厳かな雰囲気で始業式が行われている。
俺はそれなりに大きな体育館の左下隅を陣取っている、所謂『三年生』の集団の中にいる。
人並み以上に身長は高いから、出来が悪い海苔のような、身長差による凸凹した生徒達の頭を見ることができ、勿論壇上も見える。
その壇上には若干髪の毛が薄くなっているが他の髪を寄せることで辛うじて禿を阻止している校長が突っ立っていて、挨拶の最中だ。
『校長挨拶マニュアル』53ページ辺りにありそうな型にぴったり当てはめて作りました的な挨拶は続く。
「今年も様々な行事があり、忙しくなるとは思いますが―」
長ったらしい挨拶の間に俺も校長に比肩する位テンプレな自己紹介をしておく。
俺の名前は辻村紅。高校三年生。
母親がいない、父と妹の三人家族だ。
父は今やテレビで自分のコーナーがあるほどの有名な弁護士で、俺はそれ以外で父を見る機会がほぼ皆無。
つまりは家に帰ってくることが滅多にない。
妹は病弱で現在町の一番大きな総合病院に入院中。
俺は特に特筆することもないような人生を送っている。
普通に生活して、普通に進学して、普通に社会に出る。
今や湯水のようにわさわさ出ているライトノベルの主人公にありがちな『ごく普通な高校生』…の部類に当てはまる。
オマケに部活にも所属していないので、更に無特徴成分を加速させている。
一応弁解しておくが、俺が部活に入っていない理由はある。
だが、今ここで説明しても仕方がないのでそれは後に回すことにする。
そんな俺も今日で三年生になったが、周りと一番大きな違いは『目標』か。
周りの部活動をやっている人間は所謂『最後の大会』に向けて程度の差はあれど目標はある。
が、部活に入ってない、大学も決めていない俺に目標なんてものは存在せず、ゴールのないマラソンを永遠と続けているようなものだ。
一気に気が重くなる。
「―というわけで皆さんこれから頑張って下さい」
沈んでいく気分に救いの手を差し出すかのように、グットタイミングで校長の話が終わる。
今は深く考えずに適当に生きていこう。
折角三年になったばかり、まだ先の話は考えるべきではないだろう。
そう思い直して、生徒会の声高な「解散」という言葉を聞き流して、俺はむさ苦しい体育館から早足で出て行く。
と、言うわけにはいかず、生徒を吐き出す出口はとてもじゃないが中の人数をスムーズに出すことができず、俺は足止めを食らう。
大繁盛している『波のプール』と似た光景が目の前に広がり、俺は人の波にもみくちゃにされる。
「ちょ…やだっ、痴漢っっ、んんっ!」
明らかに男の声なのに喘ぎに近い声を漏らしている馬鹿がいたような気がしたが、無視することにする。
今はとにかくここを抜け出すことだけを考える。
俺は満員電車の中のようなこの場所から一刻も早く抜け出すため、かき分けるようにして進んだ。
なんとか脱出が成功した。
今は数多の教室が並ぶ廊下をだらだらと歩いている。
運動したわけでもないのに俺の額からは汗がにじみ出る。
俺はズボンの右ポケットに突っ込んでおいたハンカチを取り出そうと手を入れる。
…ない。
慌てて服に付いている全てのポケットを触ってみたがみたが、ハンカチらしきものはない。
あるのは今朝何故か拾ってしまった星形のキーホルダーだけ。
さっき落としてしまったようだ。
妙な屈辱感を覚えた俺は思わず舌打ちしてしまう。
今から体育館に戻って探そうかと考えたが、あの人混みを思い出すとげんなりした。
きっと誰かが拾ってくれたんじゃなかろうかと、無意味な希望的観測をしてしまう。
だがすぐにあの数の生徒に悪意なく踏まれてボロぞうきんのように変わり果てたハンカチしか想像できなくなる。
もうだめだと盛大なため息をついて踵を返そうとしたそのとき
「ぁ…ぁの…」
なにかが聞こえた。
普通なら聞き取れないようなそれだが、どこか聞き逃せない雰囲気がそこにはあった。
「…?」
振り返ってしまう…いや、振り向かないといけない。
「…す…せ…」
そこには小さく息を吐き、胸元に手を当てて呼吸を整える女の子の姿が。
まさか走ってきてくれたというのだろうか。いや、そんなことより
「えぇ!?」
意外な展開に俺は無意識に素っ頓狂な声をあげてしまった。
「…すいません…」
生涯染める必要など一切ない程の美しい黒髪に、可愛らしいリボンで結ばれたツインテール、そして童顔が抜けきらないものの、よく整った顔立ち。
二次元の女の子をそのまま三次元に次元転換させたような美少女がそこにいた。
そう錯覚させるほどの破壊力であったが、周りを見渡せばそこはいつもの学校と変わらない。どうやらちゃんと現実世界のようだ。
ならこの子がギャルゲーから現実世界に彷徨ってきたというのか。
目を見開いて勝手な妄想を続ける俺を見る彼女は、どこか怯えたような表情だ。
瞬時に作り笑顔を浮かべ、こう出だしを伺ってみた。
「俺に何か用ですか?」
今にも歪んでしまいそうな笑顔を必死で保ちつつ、さっきからずっと上目遣いで見てくる彼女の返答を待つ。
そこでの彼女の返事は俺の期待の斜め上を駆け上っていた。
「…これ…落としましたよ…」
スッと、雪のように純白な手から差し出されたのは先程ボロぞうきんと確定したはずのハンカチが。
殆ど汚れた形跡は無く、俺が登校前に持ってきた状態と遜色なかった。
「ありがとう、どこで拾ってくれた?」
「…体育館の出入り口で」
どこかやりきれない表情のまま視線を逸らした彼女は、拡声器がほしくなるよな小さな声でそう言った。
やっぱりさっきあそこでもまれたときに落としてしまったのか。
しかし、と納得しきれない俺は思ってしまう。
あんな足元も確認できやしない混乱した場所で、よくもここまで綺麗なままで拾うことができたのかと。
思わず聞いてしまう。
「そうだったんだ。でもあそこ凄い人の数だったよね。良く見つけられたね」
そう純粋な気持ちで質問したはずなのに、まるで彼女は嫌みでも言われたかのような受け取りをし、落ち込んだ顔になる。
「…私、よく下を見て歩いているので…」
そう言ってそれを体現するかのように本当に下を向く美少女。
折角可愛いのに、宝の持ち腐れじゃないか…と、喉元まででかかった言葉を辛うじて飲み込む。
同時に謎の罪悪感が胸に突き刺さる。
「…たまたま、あなたの後ろを歩いていたので落ちたのをすぐ拾うことができました」
「すぐに『落としましたよ』って声をかけたのですが…気付かれなくて…」
ぽっきりと根元が折れたかのように首を垂らして俯いたまま彼女はそう言った。
俺はこんな可愛い娘から声をかけられたのに気付かず、あの馬鹿の喘ぎ声に気付いてしまった自分の愚かさに憤怒する。
「ごめん、でも本当にありがとうね」
そう言って女神に保護されたなんと強運なハンカチを受け取る。
「それじゃ…」
そう呟きながら俺の脇を通り抜け、あっという間に角まで走っていく女の子
ハンカチをポケットに入れることに気を取られすぎていた俺は反応が一瞬出遅れる。
「あ、ちょっと!」
俺のベタな引き留めも虚しく、彼女は階段を駆け上がる。
一人取り残され立ちつくしている俺を、教室に向かう生徒達は奇異な目を向けながら通り過ぎていく。
なんだったんだあの子。
あんな可愛らしい子から落としたハンカチを受け取るだなんて、それこそライトノベルやギャルゲーの話じゃあないか。
いや、今時そんな手垢のついたイベントを使う人なんかいないか。
さっさと3年の教室が連なる4階に向かう。
そういえば新しいクラスを確認していなかった俺は4階に行った後その深刻な事態に気付き、面倒千万ではあるがそれを張り出している1階の多目的ホールに足を向ける。
自分が3年3組だと知り、1階から4階までうんざりしつつも上がり、自分の席に着いたときにはもうくたくただった。
3年生の教室が4階にあるのは『最高学年だから』というのは建前であって、本当はこの先運動不足になりがちな受験生に少しでも運動させたいという先生達のありがたいありがたい気遣いなんかじゃないかと思ってしまう。
無駄な体力を浪費した俺はさっきの女の子ではないが、少し弾む呼吸を整えつつ机に体を預ける形で倒れ込む。
俺の席は比較的窓側に近い場所で、後ろから2番目という居眠りをしていてもややばれない、なかなか良い席だ。
呼吸も落ち着いたところで、改めて現状を理解する。
普段運動をしない俺にとって、この往復は正直骨が折れる。改めて自分の体力のなさを呪う。
それに来て早々机に突っ伏し自分の世界に入るなど、初めからこんなんじゃ駄目じゃないか…と自問したが、すぐさま消失する。
クラス表をパッと見た限り一、二年で顔見知りの奴等ばかりで、今更自ら歩み寄って挨拶を交わす必要もない。
そういう安心感もあって俺は体を休めることに耽ることができ―…
「おーい、お前体育館から教室まで何時間かかってんだよ?」
…そうもない。
「おーい、お前体育館から教室まで何時間かかってんだよ?」
一言一句違わない、全く同じ言葉が俺の右耳に嫌でも滑り込んでくる。
誰とは言いたくもないが、敢えて言うならあの馬鹿がこいつだ。
「おーい、お前体育館から教室まで何時間かかってんだよ?」
台本でも用意したのかと疑いたくなるようなその熱烈な繰り返しに、怒りの感情以外こみ上げなくなる。
「おーい、お前体育館から教室まで何時間かかっぼげごはぁ!?」
俺の顔に隠れていた右拳を何の躊躇いもなく声の出何処にぶつける。
案の定顔面直撃したそいつは、溢れ出る快楽を一切自重しないで、満面の笑みをこぼす。
ちなみに今の地の文は嘘偽りもない、真実のみを綴っている。
「いん゛ててて!な、なにするんだよ!」
すぐに我に返ったそいつは、綺麗にはいった左頬をさすりながら抗議する。
「いや、顔面に殴って下さいって言うフリだろ?」
「誰もそんなこと言ってねぇよ!」
「あーも、面倒臭いから一人でしていろよ」
「でもそれじゃイカ臭くなるけどってか!?HAHAHAHAHA!」
…またこうしてこいつと中身のない会話を一年間続けることになるのか…
「こいつの名前は倉金達也。性格を一言で表すと だ」
「なんだよその空欄に何が入るんだよ!?ってかなんだその説明口調は?!」
「童貞には見えないんだなぁ、これが」
「なん…だと…?いい、いやいや、俺は見えていたんだけどね?見えていたんだけどねっ?」
「すまん、見えたら童貞だったわ」
「ど、童貞ちゃうわ!!」
両手を突き出し手を振る姿が実に童貞らしい。
「ところでその右手に持っている小冊子はなんだ?」
俺は達也の右手に握られた冊子を指さして聞いてみる。
薄い本を丸めて手に収めた感じのそれは、この場に余りに相応しくなかった。
「ん?台本だけど」
「やっぱりあったのかよ!!」
俺のツッコミとほぼ同時のタイミングで唐突に黒板に近い方の扉が音を立てて開けられる。
クラスの中の生徒という生徒から私語は消え失せ、一斉にその扉に注目を集める。
例外なく俺も達也もざわついた教室に一転の静けさを叩きつけた扉の先に視線を向ける。
「は、はーい!席についてくださぁい!」
ひょっこり出てきた教師は、去年お世話になった国語の教科担当の先生だ。
身長は150いくかいかないかの低身長。ショートの美しい茶髪に、さっきの女の子にひけをとらない童顔。加えて何が詰まっているんだとツッコミたくなるような豊満な胸。
俗に言う『ロリ巨乳』で、かなりマニアックな路線に属するAVz…先生だ。
教師歴2年という、所謂新米教師といったところか。
去年結婚もしており、それが知らされたとき、その愛くるしい笑顔に虜になった男子生徒達のあの絶望した顔は記憶に新しい。
『NTR!?俺のまかりがNTRされたって!?イヤッッホォォォォウウウ!!!』
だが、はじめからお前のものではないのに勝手にNTR属性をも取得し、正にHENTAIの天下無双を突き進む達也に隙はなかった。
まぁそんなどうでも良いことはともかく、結婚相手もここの学校の体育の先生という事もあり、今幸せの絶頂を迎えていることだろう。両方の意味で。
「…と言うことで,この3年3組の担任になりました甲斐中まかり です。みなさん宜しくお願いしますねぇ」
HRが始まり、卒業式以来久し振りに役目を貰った黒板がチョークをノリ良く滑らせたためか、非常に可愛らしい字で先生の名前が黒板の中央を縦断する。
というか半分まる文字であり、本当に国語の教師なのかと疑いたくなるが、可愛いからそんなことは瑣末な問題である。
「んふっ、可愛いよっ。書いた文字もっ、身体もっ。んふっ」
その崩れた顔を自重しようとしない達也を尻目に、俺はこの先生が担任で良かったとほくそ笑んだ。
彼女のとても成人とは思えない(一部を除く)ロリ体型による癒しもさることながら、なにより『楽』なのだ。
その身体立ちに見合った性格であり、よく言えば優しく、悪く言えば甘い。
また、俺達の担任をするということは、先生が専門とする国語も俺達のクラスに教えると言うことになる。
宿題を一つ出さなかっただけで単位の生死を持ち出す教師もいる中、例え宿題を全部出さなくてもなんだかんだで単位をくれるのがこの人だ。
別に俺が宿題をサボる癖があるというわけではないが、最悪出さなくても大丈夫という保険があるだけでその安心感は飛躍する。
更に言わせてもらえば授業中何をしていようが何も言われないので、内職や居眠りもやり放題という、『あたり授業』が出来上がる。
達也までとはいかなくても、ついつい顔が綻んだことに気づき、自制しようと右手で頬を押さえつけたそのとき
「いやーっ、まかりせんせーでホント良かったねっ。すっごく楽だしっ」
俺の心の中を見透かし、代弁したかのようなそのあまりに的確な言葉に、手で押さえつけなくとも頬が引き締まる。
だが、この声色はどこかで聞いたことがある。いや、聞いた。
「皆さんは今年は受験生で、勉強が本格的に忙しくなるとおもいますが―」
一生懸命担任を演じようとするまかり先生には悪いが、この事態には後ろを振り向かざるを得ない。
恐る恐る肩越しに背後を見る。
「ねっ?」
悪戯を考え、うまくいったときの結果に心を躍らせる少女のような笑顔がそこにある。
隣の人に話しかけていたのを、俺に話しかけていたんじゃないかと勝手に勘違いしていたわけではなかったので、その点は安心する。
「…やはりお前か、栗崎」
「あはっ、やっぱり辻村くんだったんだねっ」
その言葉から察するに、栗崎は俺かどうか確かめるべくあたかも隣の人に話しかけているんですよ的な台詞を言って様子を見たわけか。
なんか見事に罠にはめられてような気がして、少し悔しい。
そんな俺とは裏腹に、そんな悔しさも馬鹿馬鹿しく思えてくる改心の笑顔を惜しげもなく見せながら彼女は言葉を続けた。
「今年も同じクラスだねっ。これから一年間よろしくねっ」
駄目だしにウインクまでかましてくる。
…ここいらで、また説明臭くなって申し訳ないが、彼女を解説しよう。
彼女は栗崎あずき、元ヒロi…高校2年から同じクラスメイトである。
肩くらいまでかかった栗色のストレートの髪で、前髪は三角のピンで髪を分けているこれまた美少女である。
彼女を端的に言い表すと『元気娘』である。
かなり明るい性格で、彼女の顔から陰りを見たことは、少なくとも俺はない。それくらい彼女はいつも快晴の笑顔模様なのである。
先程のやりとりで分かるように、不純物など欠片もない天然で女の子らしさを振りまくので、コロッとやられた男は数知れない。
そんな彼女は陸上部の部長を務めている。…厳密に言うと務めざるを得ないが表現としては正しい。
つまり今現在陸上部には彼女しか部員がおらず、今年で部員が集まらなければ廃部の可能性もある、正に崖っぷちな状態だ。
その部員集めを手伝うというのはまた別のお話。
「あぁ、今年もよろしくな」
栗崎には劣るが、こちらも笑顔を差し出して答える。
それに対しニッと擬音が飛び出してきそうな程見ていて気持ちが良い笑顔を返してくる。
「うんっ、よろしくねっ」
これを誰であろうと無条件でやってくれるのだからたまったものじゃない。それに狙ってやっていないというのだから恐ろしい。
俺はこのままずっと見ていたい衝動をぐっと堪え、視線をまかり先生に向け直し、HRが終わるのを待ったのだった。
という訳で前半終了です。
所謂『日常パート』ですので、適当に読み流して頂けたのではないでしょうか。
後半は妹の登場です。
それでは最後まで読んで下さり、ありがとうございました。