第四章
-琉輝side-
あー・・・合コンかったりー。
分かったって言わなけりゃよかったなー・・・。
なんて、のんきに考えながら
綺麗な夜空を見上げ、とぼとぼと歩いていた。
星が綺麗に輝いている夜空は嫌いだ。
・・・辛い過去を思い出してしまうから。
家をよく飛び出していた小学生の時。おふくろの葬式の日。
由真と出逢った夜。由真の・・・ぬくもり。
思い出してしまうけど、
今日は何故か見たくなったんだ。
・・・
なんて考える俺ってまだまだ子供だな。
((RRRRR...♪))
ん?あ、携帯か。
ってか、もう9時過ぎてるし・・・。
ま、いっか。
「もしもし」
『おーい!琉輝おせーよ!』
声でかいっつの。
「うるさい。」
『あー、ごめごめ。もうみんな来てるぞー。早く来いよなー!』
「んー。あと5分くらいで着くわ。」
『おー。んじゃ、また後でな!』
プツッ・・・
-真由side-
合コン・・・か。
中3の時以来だな。
颯を忘れようと一回行った事があった。
「真由ー、琉輝くんって知ってる?」
琉輝?どっかで聞いた事あるような気が・・・
「知らない」
「ふーん?」
あー・・・
「あ、あの女子が騒いでた?」
「・・・そう。今日来るらしいよ?」
「へ・・・へえ?」
「・・・」
由紀・・・どしたのかな?
(真由気を付けてね)
(へ?)
「ねーねー、真由ちん。メアド交換しよ?」
ま・・・真由ちん!?
てか、何故名前を・・・。
「あー、俺もーっ」
え。ちょ・・・
ガラガラッ
「あー・・・す・・・」
ん?なんかこっち見てる?
しかも、由紀の表情が強張ったのは気のせい?
「琉輝?」
「あー・・・すまん。遅れた。」
なんか、この人・・・・・・。
-琉輝side-
ガラガラッ
男子に囲まれている女の子がいた。
「あー・・・」
ま、別に興味な・・・
「す・・・」
・・・え?由・・・真・・・?
「琉輝?」
「あー・・・すまん。遅れた。」
・・・なんで、由真が・・・?
てか、俺の事気づいてないのか?
しかも男子に囲まれてるし・・・。
-由紀side-
ガラガラッ
あ、ふーん?あいつが・・・琉輝、ねぇ・・・。
「あー・・・す・・・」
・・・
「琉輝?」
「あー・・・すまん。遅れた。」
真由の事は覚えてるのか・・・
「由紀?」
あ。しまった。
「ん?」
「どうかした?由紀」
「いや?なんでもない。」
「ってかさ!由紀ー!たーすーけーてー!」
「ははは。これで自覚しなさい。」
さて、悠斗のお願い叶えるとするか。
-琉輝side-
由真が・・・なんで此処に・・・
「ねぇ、琉輝くん。」
・・・?誰だこいつ。
「誰?あんた」
「ははは。・・・悠斗って知ってる?」
「悠斗?」
「うん。水沢悠斗。」
あ、悠斗ね。てか、なんだ。こいつ。
「あんた悠斗の何?」
「ん?彼女♪」
・・・え。
「悠斗のいとこなんでしょ?」
「・・・・なんで知ってんの。」
「なんでも知ってるよ?なんでも・・・ね。」
なんだよ。まじでこいつ。
「由真ちゃんの・・・事も。」
「・・・」
なんだよ、急に真剣な顔すんな。
「でも、今は由真じゃない・・・ってことも・・・ね?」
・・・は?今は、由真・・・じゃ、ない?
「それ、どういう意味・・・?」
「・・・由真が河原へ来なくなった中2の夜・・・」
・・・
「由真に何があったと思う?」
は?
「知らねーよ。」
「あんたとの約束・・・破ったとでも思ってる?」
なんで約束まで知ってんだよ。・・・悠斗か・・・。
「いや。・・・思ってない」
「・・・なんで?」
「信じるって、約束・・・したから。」
「・・・そう。」
糞。こいつむかつく。
「あの日の夜・・・何があったのか。教えたら辛いかもしれないけど・・・いい?」
辛い・・・ねぇ・・・。
そうとう傷付く事なんだろうな。
傷・・・付く・・・・・・。
「・・・ああ。」
本当は聞きたくなんかない。
「じゃあ、」
聞いてしまったら、
「教える。」
傷付くんじゃないかって・・・。
「由真は」
でも、
「あの日」
聞かないと後悔しそうで・・・。
「河原へ行く途中・・・」
・・・矛盾してるよな。
「車に・・・・・・轢かれたんだ。」
「え・・・?」
由真が・・・車に・・・。
「・・・だから来なかったし、だからその後も行けなかった。」
・・・でも・・・、
「でも、退院したら来れるはずだろ?なんで1年も2年も・・・その後も来なかったんだよ!」
「・・・」
「?なんでだよ。」
「車に轢かれた時、頭強く打っちゃったんだって。それで・・・」
「・・・それで?」
「・・・」
「なんだよ。」
「意識が無くなって・・・目覚めた時には、記憶がなくて・・・」
「え?」
記憶・・・喪、失・・・?
・・・だから俺の事気づかなかったのか。
俺の事・・・忘れたのか・・・。
・・・忘れた・・・ねぇ・・・。
「今の名前は本橋真由。逆にしただけ。しかも、今は大好きな人がいるから。」
・・・
ストレートだな。
でもまぁ、それが普通だよな。
記憶失くして、約束も忘れて、・・・傷付いた過去も忘れて・・・。
・・・
そっちの方が良かったのかも知れない。
「・・・お幸せに。」
俺は小さく呟いた。
「・・・」
悠斗の彼女は、寂しそうな顔をして黙り込んでいた。
傷付くのは、俺だけで十分なんだ。
真由には、普通に恋して、普通の高校生活送って欲しい・・・。
普通でいいんだ。・・・普通で。
傷ついた過去を思い出してしまうと、普通じゃなくなるから。
「・・・記憶失くして良かったのかもな。」
今の幸せを壊して欲しくない。
「え?ちょ・・・」
悠斗の彼女が何か言うのを遮るように、俺は席を立った。
「・・・真由と、話さないの?」
「・・・今更、話す事なんてないだろ。話してどうなる?話したら思い出してくれんの?」
「・・・」
「忘れたんならしょうがないだろ。」
「・・・」
そう言って俺は部屋を出た。
「え、ちょ・・・おい!琉輝!」
後ろで遥稀(合コン誘った奴)が何か叫んでいたが、
もう何も聞こえない。何も見えない。
もう、何も・・・・・・。
*****
俺は走った。
・・・あの河原へ走った。
おふくろの葬式の日みたいに・・・。
俺は何に傷ついてんだ?
由真が・・・真由が生きてたって安心したはずだろ?
会えたって喜ばなきゃいけないんだろ?
由真が幸せになれたんだから、笑顔にならなきゃいけないんだろ?
笑えよ。笑えよ。笑え・・・。
何度も自分に言い聞かせているのに、笑えないのは何故?
由真が約束を忘れてしまっているから?
俺の事を忘れているから?
由真を守れなかったっていう自分の情けから?
分からない。分からない・・・。
-悠斗side-
あ、居た。
「琉輝ー」
「悠斗・・・」
「・・・由紀から聞いたよ。突然飛び出して行ったってね。」
・・・やっぱ、傷付くよな。
「ずっと黙っててごめん。」
あの日の夜、言ってしまったら琉輝が壊れそうでずっと言えなかった。
「・・・・すべての幸せが苦しみに変わる。」
「え?」
琉輝・・・?
でも、琉輝にとっては・・・
「そうだよな。」
「俺、由真の優しさに甘えてたのかも。」
「・・・」
「おふくろが死んだ時、由真が居たから立ち直れた。」
そうだな。
その頃だったもんな、真由と出逢ったの。
「急に居なくなって・・・・」
・・・
「また会えた」
「・・・うん。」
「でも・・・」
そう言って、琉輝は寂しそうな顔をした。
「会えたのは・・・姿は由真でも・・・」
「・・・でも?」
「・・・」
・・・
「姿は由真でも・・・記憶を失くして別人となってしまった、本橋真由。」
と俺が言うと、琉輝は小さく頷いた。
「由真は、今真由として幸せに生きてる。」
うん。
「由真として、今生きていたら・・・幸せじゃなかっただろうな。」
・・・琉輝・・・。
「今、真由が幸せならそれでいい。今の幸せを壊して欲しくないって思う。」
そう言って琉輝は星空を見上げた。
「・・・うん。でもな、琉輝・・・そんなの建て前だよ」
「ああ、分かってる・・・。」
こんな真剣な琉輝、初めて見た。
「心の底のどこかで記憶が戻って欲しいって思う自分が居る。」
「・・・」
「由真、彼氏いるんだろ?」
「・・・ああ。」
「彼氏居るのに・・・俺・・・最低だよな。」
「・・・」
「でも、それでもまた会いたいって思う自分が情けない。」
「会わないの?」
「会わないっていうか、会う機会がないっていうかね・・・」
「あぁ・・・。」
「俺・・・どうすればいいのかな・・・」
「・・・琉輝のしたい様にすれば、いいんじゃない?」
「・・・」
「誰にも文句言う権利なんてないから。」
「・・・・そうだな。」
琉輝には諦めてほしくない。
だからといって颯から奪ってほしくもない。
どうすればいいか俺も分かんないんだ・・・。