夏の夜の夢②~ナースの恋心
18歳白衣の天使の淡い恋物語は学園附属病院の内科外来診察室でポツンと消えたかと思えば…
国立大の大学院研究室秘書という新たなる形で再燃する。
「すいません。よろしくお願いします。学園から出向して参りました」
医学部本部人事課でナースは事務手続きをする。
「あなた様は学園からの出向ですか?ハイッ聞いております。医療職員さんですね。お名前は?」
パソコンの端末を叩き本人確認。非常勤の職員の手続きをしておく。
「研究室のアシスト(秘書業務)をお願いいたします」
殺伐とした殺風景な国立大の事務室だった。
ナースが待ち合いにいたら可愛らしいこともさることながら
人事課の事務員らは可愛いらしいナースを見て喜びを隠せない。
「医療職は看護職?へぇ~"ナース"さんですか」
大学当局が秘書として臨時契約する職員雇用の人件費はバカにならない。
しかも看護資格(ナースは准看)を有するプロともなればそれなりに資格手当も弾まねばならない。
※ナースの給与は学園が全額負担する
「こちらこそ宜しくお願いします」
ナースは事務員から国家公務員の就労規則を渡される。
「臨時とは言え」
外部から見たら職員か臨時とかわらない。
アシスト用の実験白衣のサイズを聞かれる。
「あとのことは研究所の方で」
研究室にいらっしゃいます教授の先生や院生の方に職務を聞かれてください
『秘書』
学園医学部附属病院では
『白衣のナース』
一瞬医療の現場でバタバタ働く肉体労働の看護からインテリ(女子大卒業)のセクレタリーを彷彿してしまう。
だがとんでもないところに来ている。
有名国立大医学部研究所
「私なんて働きながら看護学校出ただけだもん」
学歴の壁を感じるナースである。
ところが研究所である。
秘書という肩書きの響きはよいが…
研究室が欲しい人材は雑務をこなす便利なアシスタントお嬢さん。
何事もテキパキこなす人材に来てもらいたかった。
夢と現実
理想的な職場と未知の世界
医療研究室に案内されナースは憧れの医科大学院生の研究室へ向かう。
国立大医学部の校内は私大の学園とは異なっている。
私大は見栄えに金を注ぎ込み芝生が綺麗な日本庭園や噴水の広場がある。
「かわいいお嬢さんじゃあないか。どちらの方なんだろう」
が…
いかんせん
明治時代からの開学の学内は殺風景で埃りぽく古びた校舎が乱雑に並ぶだけである。
殺伐としたキャンパス。
飾りも味気もない
風景と裏腹にナースの心は新鮮で幸せあった。
「早く先生にお逢いしたい」
恋する乙女がナースだった。
"盲目の恋"
"届かぬ夢物語"
秘かに医師に恋心を持ってしまう。
「あれっあれっ!」
医学部キャンパスは学生の数は少ない。擦れ違う学生や職員はまばらである。
「えっ!」
あれっ
ナースの容姿に医学生は一瞬足が止まる。
頭をくるりと振り向かせメガネの度合いを確かめる。
カワイコチャンだ
「あらっ?誰だいあの娘!」
へぇ~
「あんなカワイコチャンが医学部キャンパスにいたかい」
医学女子大生?
本学の女子大生なんて2~3人だ。数えて数えられる。
違うね!
爽やかな春風に乗って
天使が現れた
女神が降臨した
擦れ違う医学生だけでない。
ちらっと目が合う入院患者さん。(医学部附属病院は別の敷地にある)
「大学に?可愛いい女子大生がいるのか」
信じられない光景を見せてもらう。
じろじろ
頭からスカートから
「イヤ~ン私どうしましょ」
キャンパスの医科大生からじろじろ見られ恥ずかしくなる。
研究室の棟にさっさと入る。そこは憧れの医科大学院生の居場所であった。
「いやぁ~ナースさん!本当に研究室に来てくれたんだね」
出迎えたのは主任教授と手の空いた実験助手。
医科大学(院)生らに両手を挙げて歓待をされた。
「ふつつかものでございます」
こちらの研究室に縁がありました。
医科大学院生は鼻が高い。
「皆さんに紹介します」
彼女は学園医学部ではよく気がつくナースさんと評判でした。
「今回の人事は。研究室からナースさんに無理を言ってしまって」
外来診察室での勤勉な働きぶりを研究スタッフに強調した。
大学院とナースが横に並ぶとお似合いのカップルである。
「お世話になります」
可愛らしくペコリとお辞儀をする。
つぶらな瞳でパチクリ
茶目っ気があり
愛嬌がある
ナースというカワイコチャン
羞じらいは研究所には新鮮さを与えた。
「ほおっ~かわいらしいお嬢さんですね。学園の外来ナースさんでございますか」
60歳を越えた研究主任教授は目を輝かせた。
初老から見れば
18なんて娘か孫
単に若い女の子にしか見えない。
「可愛い女の子だね」
年齢差があまりない医科大学(院)生らにはアイドルさんに見えていく。
「なんというか」
テレビにいるカワイコチャンの歌手やタレントが研究室に遊びに来てくれた感じ。
テレビに出演するカワイコチャンに似ている。
「タレントに似ている?
私がですか。アラッ~嫌ですわ」
ユーモア溢れる医科大学(院)生からかわれてしまった。
「ナースさん。さっそくだがこちらに来て欲しい」
研究課題は決まっている。あとはいかにして論文に仕上げ医学学会で発表をするかだけであった。
「ハイッ先生。しっかりお手伝いしたいと思います」
ナースの医者への恋は第2章を迎え入れる。
医科大学院生は最終論文の作成に24時間を費やしていた。
「忙しいのは今だけだよ。論文さえ脱稿したら楽になれる」
ナースはインターネットでデータ集計された資料を簡単にメモリに写し変える程度の作業。
だが…
24時間連続の研究詰めは健康管理が問題となる。
いくら研究する本人は医師であると言えども
"医者の不養生"は明らか。
体に無理な徹夜を繰り返しては持たない。
野戦病院化した研究所
ナースとなると病棟に見立てて"患者さん"扱いしてしまう。
最終なデータは分刻みで集める段階にある。
実験データを見ては研究者に仔細な論文分析の裏付けを要求された。
裏付けは英・仏・独文とお構い無く世界中から飛び込んでいる。
さらには…
世界のいずれかの研究者も先を競い論文分析をしているかもしれない。
世界初を信じるため
食事はほどほど
休憩もないがしろ
日本医学会の最新鋭医学論文ができるか
研究者が体調を崩して病気になるか。
一か八かの勝負
いやっ
気分的には世界選手権かオリンピックである。
「先生っ」
ナースは研究室で毎日毎晩ハラハラして見ている。
せめても
好きな院生だけは過労から大事に至らないようにと願うばかりであった。
「うん?」
データ集積はピークを迎えつつある。例え可愛いらしい秘書ナースが話し掛けたとしても
五月蝿いのである。
「ナースさん。どうかしたかい」
最後の詰めだった。
論文分析の最高責任者の自負として実験データを右か左か明確な判断を下さなければならない。
カリカリ
なんとも難解な数字の羅列ではないか。
修士程度の医学生理学の知識では判断に迷ってしまう。
「ちくしょう」
基礎医学・生理研究の膨大な資料を繙いて"確認"をし"実証"されなければならない。
…時間が掛かるぞ
パソコンの前に座り込んで腕組み。
遅々として進捗しないイライラは募るばかりだった。
「うーん」
秘書のナースは露知らず。
研究室の時間をみて"ティータイム"(休憩)を考える。
「(研究室の皆さんに)少しでも休んで鋭気を養ってもらえたら」
疲れが取れてリフレッシュな飲み物がいいかなっと冷蔵庫やパントリー(収納庫)を見る。
「あらっ珈琲の山ですこと」
深夜の眠気覚ましにカフェイン強めな珈琲が乱雑に置かれていた。
「カフェインもこれだけ頻繁に摂取されては」
からだを壊すか
カフェイン中毒になるか
医師の皆さんだけど
「やれやれだなあ」
研究員それぞれ自前の珈琲カップである。ナースは手際よくドリップを淹れる。
「皆さんは珈琲だけど」
ナース愛する院生の先生は…
珈琲ばかり飲んでしまう
若い先生の胃を傷めてはいけない。
親心から
親切心が働く
医療の従事者
紅茶が最適です。
「先生は紅茶にしておきます」
このナースの独断がいけなかった。
研究員一人一人カップとお茶菓子を机やパソコンテーブル横に運ぶ。
可愛いらしいナースが笑顔でサービスすると苦虫潰す研究員も多少は和んでいる。
「ありがとう。カワイコチャンに紅茶を貰うと気分が違いますなあ」
堅物で知られた担当教授がにっこりとしていた。
「先生もどうぞ」
院生はパソコンを睨み盛んにデータ解読である。
難解な分析判断を迫られていた時である。
話し掛けられて邪魔などされたくない!
「先生っどうぞ」
キイッ!
"五月蝿いなっ!"
パソコンに顔を埋めるが
チラッ
ナースがサービスしたカップを見た。
紅茶?
うん!紅茶かっ
薄切りレモンが浮かんでいた。
"なんだっ"
女子供の飲む紅茶なんか…
飲めるか!
データ収録に忙しい最中に
気に食わない紅茶などを
「紅茶なんか飲まない!さげてくれ」
手をカップにちょこんと触れ取り替えを要求するつもりだった。
ガチャン!
カップは勢いをつけ床に落ち熱湯がナースに。
「キャア~」
熱い紅茶は溢れナースのスカートから足許にかかってしまった。
パンティストッキング越しに火傷である。
「あっ熱い~」
しっしまった!
とんだ失態だ
すぐさま水で足元を冷やさなくてはならない。
「ごめんなさい。僕が悪い。大丈夫ですか」
流し台に連れてパンティストッキングの上から冷やしてみる。
膝丈スカートに紅茶がかかっている。
手をスカートに入れなくては
"パンティにも紅茶が"
サアッ~
男の手を使いナースの純白な女心が見えてしまった。




