届かぬ恋①~先生が好き!
附属病院のロビーの待ち合いに朝早くから診察券を出して待つ外来患者がぽつぽつといた。
「なあっ知っていなさるかい。ドラマだけどさぁ」
高齢の患者さんはドラマの話がわかる方を見つけたい。
うん?
「お医者さんのドラマをテレビで放映しなさるだろ。病院のやつさ」
テレビドラマかい
医者のドラマという?
『白い巨塔』の財前教授?
財前?
「財前さんは田宮二郎さんだろっ。違う違う」
マンガだったら
手塚治虫の『ブラック=ジャック』(無免許の医師)
「誰がマンガの話をしているんだよ」
昨夜のテレビだよ
お医者さんドラマにトレンディ俳優が出演しなさった。
「あっ~あれか」
トレンディ俳優が主役なんだぞ
「若い女が夢中になるドラマじゃあないか。おっちゃんの俺が見ても面白くも痒くもないぞ」
トレンディなんぞ女や子供のためのテレビだぞ。
「男たるものは『水戸黄門』の印籠を楽しもうぜ。この印籠が目に入らぬか!あれが最高だなっ」
トレンディドラマなあ~
「こちらにいなさるお医者さんがドラマに出演していなさるんだよ」
えっ!
「附属病院のお医者さんをしていてかっ。ドラマにも出るのかい?」
あるときは医者
あるときは俳優
「してっ!その実態はなんじゃいなっ?」
双子の兄弟さっ
「双子?なんだそれっ」
トレンディドラマで盛り上がってくる。診察を待つ患者さんは徐々に増えてくる。
「テレビに出ているそのハンサムな俳優は知ってるよ。だけどさぁ~附属病院のこちらのドクターはなんだそれっ」
トレンディ俳優のソックリさん?
似ている医者がいる
「ああっこちらの内科医らしいぞ」
内科医?
内科ってたくさんいなさるよ
内科診察待ちの患者が色めく。
「内科医って誰のことだい。若い医者だって?」
外来内科に通院に来てはいるも
若い先生なんか見たことがない。
「内科医は間違っていないか。内科医といったってさまざまな分野に細分化されているかならな」
いやいや
「若い医者といったところがアッハハ。ミソだよっ。たぶん研修医じゃあないか」
トレンディ俳優と同年だもの
「知らんなあっ~内科医ならナースさんに聞いたらわかるかも」
通院する内科の患者さんは年輩のドクターしか診てもらえないと嘆く。
「でも若い医者ってさぁ。診察の経験が浅いから大丈夫かな」
やがて診察の時間がやってくる。
内科外来では18歳白衣のナースが診察順に名前を読み上げる。忙しい一日が始まった。
「お待たせしました。(カルテを見ながら)順番にお呼びいたします」
かわいらしいナースの声が待ち合いに響けば附属病院の幕開けである。
「ねぇ~ナースさん。ちょっと聞きたいんだけどさあ」
声は年輩の患者さんだった。
「えっトレンディ?テレビで医院のドラマがやっていた…」
ギクッ
驚きの18歳の顔。
「こちらにいらっしゃる内科の先生だよ。トレンディドラマと関係があるって聞いたんだけど」
内科診察で若い先生なんか見たことないけどなあっ
「あっ~はあっ」
担当のナースさん
詳しいこと知ってなさるだろうに
「トレンディドラマの俳優さんが内科にいるんだって?」
質問を受けたナースのまわりに患者さんの人だかりができてしまう。
「あれっ~ナースさん。顔が赤くなってきたぞ」
厭っだぁ~
ナースも若いドクターに"惚の字"なのか
"変なこと言わないで"
かわいらしい白衣のナースはかわいらしく困った顔をする。
「内科外来の…たぶん…研修医さんのことですから」
医科大学院生の研修医。
「あれっ?俺はいつも内科に通うけどそんな先生見たことないぞ」
ナースが意地悪をして
「ハンサムな先生がやって来たら患者の我々に合わせないようにしているな」
密室の診察室でしっぽり二人っきり!
「受付のナースだもの。好きに診察室をコントロールできちまう」
"週一の医科大学院生"は内科外来の担当医に名前も出してなかった。
「そんなぁ。(ドクターを)隠しているなんて」
先生はお忙しいの。週一の診察と申しますが予定日に必ず来てくれるとは限らないの。
「へぇ~そんなもんかい」
赤ら顔のナースに疑いの目が向けられる。
「ここしばらくは大学院が忙しくて…」
ナースも逢いたいと思ってはいるが
「ではっ。研修医か大学院生かっ。どうしたら外来に来てくれるんだい」
リクエストをしたら
内科診察室に大丈夫か
「かわいらしいナースが逢いたいなあっ~と言ってます」
やんややんや
「ここにいなさる患者に姿を見せていないんだよ。なんかなあ幻のドクターだな」
ひょっとしたら
「トレンディドラマの俳優さんがその研修医さんだったりして」
医者より役者が面白いから附属病院には勤務しなくなってしまった。
アッハハ~
ナースはナースで恥ずかしくなって萎縮してしまう。
"私だって…先生にお逢いしたい"
患者にからかわれながら
診察室で優しく抱かれた感触を思い出していた。
「オイッ!君ッ~」
診察室から年輩のドクターが怒って出てくる。
「診察時間はとっくに過ぎたというのに。一人もクランケが来ないじゃあないか」
プリプリ
白衣ナース
"しまったわっ"
ペロッと舌を出した。
「はいっすいません。順番にお呼びいたしまぁ~す」
待ち合いに失笑がわきあがる。