18歳の乙女~白衣のナース
附属病院のバックヤードである。
休憩室はフリードリンク・コーヒーコーナーが並びお菓子やケーキ類がデザートとしてある。(入院患者さんからの付け届け)
パクン
ごっくん
パクン
チュルチュル
休憩室は勢い女の子の溜まり場。大半が若いナースであるが女子事務員スタッフも負けてはいないとばかり口を開けささやかな茶話タイムである。
「ねぇねぇみんな聞いて聞いて」
新しいテレビドラマ見たかしら
わいわい
「あらっ見たわよ。病院のドラマでしょ。なんか豪華キャスト勢揃いみたいね」
ショートケーキは早く手を出さないと食欲旺盛なナース仲間では品切れになる。
パクン
パクパク
「エヘッ!私は夜勤しながらチラッと見たわよ」
ダメでしょ
仕事中にテレビなんて
メッ!
ガヤガヤ
「毎回のドラマはトレンディ。若い女の子が喜ぶ恋愛物語なんだけどなぁ~」
パクパクなんでも口に入れるたくましいナースたち
ゴニョゴニョ言いながらまくし立てた。
「最近のドラマはマンネリ化よ。面白みに欠けるとか新鮮味にっと言うこと」
"売れているトレンディ俳優の顔を代えるだけ
新番組制作は安易過ぎてつまんない
「私は不平だなあっ」
テレビドラマは繰り返し同じストーリーを放映するだけ。
テレビから飛び出してお茶の間へ。
人気あるハンサムな俳優の尽力で制作をされいずこの局のドラマも似たり寄ったり。
主役の顔がドラマの顔となって一作の例外もなく好視聴率をあげていた。
ドラマの当たりハズレは俳優次第である。
「でもこの新番組は違っているんじゃあないの」
主役に抜擢は今をときめくトレンディ俳優の中のKINGである。
デビューして以来テレビや映画の役者であるが
"医者の役だけは演じない!"
若い女の子が憧れを抱くトレンディな役柄は大半をこなし人気を博してきた自負がある。
しかし
医者だけは拒否したい。
医系の息子だからこそ
"偽物たる医者"の役柄
引き受けたくない。
ナース仲間はケーキを平らげるとお菓子のワゴンに次々手を伸ばしていく。
パクパク
ムシャムシャ
さらに
「あのハンサムな顔をして頑固さがあるんだもん。意地みたいなものがドラマに反映されているかもね」
"医者はやらない"
どうしても演じない
頑として突っぱねた役者魂があった。
「(噂だけど)テレビ局は彼のプロダクションを"抱え込み"してしまったんでしょ」
売れるトレンディ俳優から端役の役者や新人タレントまで所属タレント総勢の面倒をドラマ出演条件にみる。
「だからこのトレンディドラマ。一大スペクタクルな仕上がりになるはず」
ドラマフアンはテレビ局の本気度をひしひし実感しているのである。
わいわい
お菓子の甘い香りが騒がしい休憩室に漂う。
外来担当の若いナース仲間が入ってくる。最後尾には内科診察室の18歳ナースが新人ゆえに先輩ナースに遠慮をして頭下げてやってくる。
「あらっ外来さんの一行さんが来たわ」
ねぇねぇ
知らないかしらっ?
新しく始まったドラマのモデルさん
外来内科のドクターさん
"医科大学院生なのよ"
背が高くてかっこいい先生よ。
「羨ましいなあっ」
18歳の新人ナースはカワイコチャンだね。
内科の週一ドクターと仲良く診察室だものっ
「あの大学院生ってさあ」
双子さんなんだって
「トレンディ俳優がお兄さんになるらしいわ」
へぇ~
双子って一卵性なの?
「俳優さんはかなり美容整形が…往き届いているから」
よりいっそのこと端正な堀の深い顔立ちよ。
外来病棟の内科診察室なんて患者を呼ばないと"鍵のかかる密室状態"ですわっ。
18歳ナースが好む好まざるによらず
「ねぇあなたっ!幸せねぇ」
ふたりっきりの密なる世界があるのである。
医科大学院生さんは附属病院に週一でやってくる。
外来病棟は総合病院ゆえ細分化された診察室である。
同じ外来ナースでもその凛々しい姿を見掛けることは少なかった。
内科ナースは医科大学院生を独り占め!
ドクターからのすべての愛を独占の巻きである。
「どうぞお幸せにキャア~」
ナース仲間は口元が弛くなりぱなし。噂話をお菓子食べ食べ好き勝手に飛ばし放題である。
"熱愛のカップル誕生しちゃいます!"
ドクター&ナースの禁断のラブロマンス
内科のナース本人に向かって年配ナースは盛んに冷やかしである。
「イヤ~ンやめて頂戴っ」
皆さん意地悪さんなんだから
「私と先生は…そんな仲じゃあないモンッ」
嫌っ!
根も葉もないて言うのに
18歳の白衣のナースはかわいらしい素振りで嫌々をする。
年増ナースら意地悪な古参女はたまらない生け贄の小娘に思えた。
ひとりの古参が18歳ナースの手を持上げた。
「午後の内科外来の診察室はふたりだけの密室です…ドクターの甘い囁きでナースはほんわかしていますかぁ~」
ハァーイ
新人ナースの私はドクターとイチャイチャしていまーす
キャア~
意味深だわぁ
長年の病院勤務にこれっといった楽しみがないナースたちである。
手短な恋愛沙汰はカッコウの茶話会の"餌食"である。
18歳ナースは耳の先まで真っ赤に染まってしまう。
「もう(先輩ナースさんたち)苛めないでください」
ナースがドクターと恋仲になりゴールインをしたりしたら…
禁断の"職場結婚"は
「ドクターサイドからは歓迎はされはしないけど」
良家育ちのお嬢さま
大学教授の娘さん
いづれかがお見合いして本妻に居座るのが常識ではないか。
ナースは玩ばれたことに気がつく。
いいとこ"2号さま"になり日陰の関係を甘受する。
「ナースの小娘が医者の妻になるなんて」
童話のシンデレラ姫のような甘い夢物語を本気にしてはいけない。
雲の上なる天上人(医師)を恋人に思ってはいけない
痛い目に遭う
ナースとは社会的地位の違う医学界
ナースは泣きを見る
社会的弱者であるナース
火を見るより明らかである。
「悪いことは言わない。あんたにお似合いの"それなりの男"を探してあげるわ」
附属病院の新人ナースは研修を受けないといけない見習いさん。
「内科診察室や外来で覚えて欲しいことは山のようにあるですわ」
ピシャッ
ハンサムなドクターに夢中になることは結構である。
だがその前に
やるべき看護が待っている。
30過ぎ独女は自分に言い聞かせるかのごとく若いナースを説き伏せた。
「あんたには若さという特権があるさっ」
だが2~3年もしてごらん
「18歳の新人ナースは毎年病棟に派遣されているんだからね」
毎年老いていくし新人ナースは目白押し。
若い若いと思っているのは自分だけ
「気がつくと三十路女にドン!」
ベテランナースの実体験談で締め括り。
騒がしく楽しいはずの茶話会がしおっと萎んでしまった。




