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王子様? お断りします。森の小人たちと暮らすほうが快適なので

作者: 紡里
掲載日:2026/09/25

「もう、すっごい快適」

 元お姫様は、薬草茶を飲みながら満足げにうなずきました。


 深い森の中の家。

 床の上では丸く平べったい魔道具が動き回って、掃除をしています。

 四角い食器洗い機は、熱湯を吹きかけ、熱風で食器を乾かします。陶器や木製の器が壊れてしまったため、陶磁器を作りました。

 洗濯機は、鉱石を掘る作業着の汚れも落とし、乾燥までしてくれます。


「なんとなく、こういうものが欲しいと言っただけで、作ってくれるなんて。あなたたち、どこまで有能なのかしら」


 元お姫様に褒められた七人の小人は、ニコニコしています。


 母親に命を狙われて、森へ逃げ込んだお姫様。

 小屋を見つけて、匿って欲しいとお願いしたら、家事をやれと言われました。


「やりたい気持ちはあるのだけれど、やったことがないのでできません」

 お姫様は正直に白状しました。


「教えるのも面倒くさいんだけど」

「そのお妃様が軍を率いて攻めてきたら、どうする?」

「匿ってあげる義理もないよね」


 お姫様は前世の記憶を頼りに、歌ってみました。

「ハイホー、ハイホー」

 お姫様は転生者だったのです。


 すると、あら不思議。

 小人たちは、ノリノリで踊り始めました。

「なんだか、身体がうずうずするぞい」

「気分良く働けそうだ」

「いや、とっとと働いて、帰ってきたくなる感じじゃ」


 そうやって八人での暮らしが始まりました。


 慣れない食器洗いをやりながら、お姫様は呟きました。

「ショクセンキがあればいいのに」


「それは何だ?」

「入れ物に食器を入れると、水流で汚れを落としてくれる道具よ」

 と説明してあげた。


 そうしたら、とても器用な小人と、魔術が得意な小人で作ってくれました。

「なるほど。便利だ」


 そんなことを繰り返し、お姫様は優雅な暮らしを手に入れました。



 トントントン。

「はい、どなた?」

 お姫様は扉を開けずに、誰何します。


「僕は王子だよ。君を助けに来た」

「……毒リンゴを持って?」

 変装したお妃様かもしれません。


「はっはっは。持っていないよ。用心深いね、気に入った。正真正銘の王子さ」

 快活なしゃべり方と、自信たっぷりな態度は、本物の王子らしく思えます。


「あなたの国に連れて帰るということ?」


「まずは、そうだね。結婚して何年か経ったら、君の祖国へ行こう。子どもは君しかいないのだから、僕が王配になってあげるよ」

 この王子は、かなり下調べをしてきたようです。


「わたくし、まっとうな後継者教育を受けていませんの。あなたは教育を受けていますか?」

「僕は三男だから、そんなにしっかりとは受けていない。だけど、スペアのスペアだから、それなりには叩き込まれているよ。君と結婚したら、残りも頑張って勉強するさ。とりあえず、家に入れてくれよ」


「小人さんたちに、他の人を入れてはいけないと言われているので、無理です」

 お姫様はそう答えてから気がつきました。


 お城に行くなら、この便利な道具たちともお別れです。

 常に使用人たちが身の回りのことをやってくれる代わりに、いつでも誰かに見られています。

 採寸してオーダーメイド、つまりピッタリのドレスを着て生活をします。

 淑女は腕を頭より上に上げる動作をすることがないので、指を組んで伸びをすることもできません。肩周りに余裕がないデザインなので、布が引っ張られてしまいます。

 コルセットで締め上げられて、お腹いっぱい食べることもできません。

 スケジュールがびっしりで、寝っ転がってお昼寝もできません。体調不良かと医者を呼ばれてしまいます。


「ここで、家事を魔道具にやってもらって、寝転んでいる方が幸せな気がするわ」

 お姫様はそう思いました。

「申し訳ないけれど、扉は開けないし、あなたと一緒には行けません」


「はあ? 嘘だろ。わざわざこんな森の中まで来たんだぞ」

 王子様は怒鳴りつけ、扉をドンドンと叩きます。


「頼んでませんけど」

 お姫様は腹を立てて、言い返しました。


「そういうこと言うか、普通? この、ブス!」

「人の顔も見ていないで、振られたからって暴言吐くなんて。かっこ悪いわ」

「くっそー。火を付けてやる」

 王子は従者に火付けを命じました。


「しかし、王子殿下。ここは隣国です。国家間の問題に……」

「非公式に訪問したんだ。黙っていればバレないさ。

 それに、妃が娘を殺そうとしたことがきっかけなんだから、この国の王も隠蔽するしかあるまい」

「周囲の木に燃え移ったら大火災になってしまいますよ」

「国力が削げたら、父上に褒められるかもしれないな」


「この、腐れ外道!」

 話が聞こえていたお姫様は、家の中から叫びました。

 小人たちから教えてもらった罵り言葉を並べます。


「ははは。本物の姫があんな言葉を知っているはずがない。森に住み着いた浮浪者だよ」

 王子はとんでもないことを言い出しました。


 お姫様、万事休すです。


 そのとき、王子たちを覆うような影ができました。

「おい、こら。俺たちの家に何してくれてんじゃ」

「え、小人って……」

 王子たちよりも遥かに大きな人が、七人も立っていました。


「我々は、巨人族が他種族を襲ったことで産まれた混血児だ。純粋な巨人より小柄だから、群れから離れて暮らしとるんじゃい」


 ということで、王子様はコテンパンにされ、森から逃げていきました。



 小人たちは実の母親から嫌われ、彷徨(さまよ)ってこの森に辿り着いたのです。


 小人たちは、ただの小人ではありませんでした。

 鍛冶や金属加工が得意なドワーフ。魔術や薬草に詳しいエルフ。錬金術や細工が得意なノーム。料理や農業が得意なブラウニー……。

 巨人族の血を引きながら、それぞれ違う種族の技能を受け継いだ、優秀な職人たちだったのです。


 だから母親に嫌われたお姫様に同情して、一緒に仲良く暮らしたのでした。



 数年後、九人目の住人が現れて、「これだけの技術があれば、巨人族を滅ぼせるんじゃない?」と言い出すまで――


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― 新着の感想 ―
巨人族への復讐戦のついでに姫を捨てた祖国も三男を育て損なった国もちょこっと燃えちゃうかもしれないけど、黙っていればバレないさ♩
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