王子様? お断りします。森の小人たちと暮らすほうが快適なので
「もう、すっごい快適」
元お姫様は、薬草茶を飲みながら満足げにうなずきました。
深い森の中の家。
床の上では丸く平べったい魔道具が動き回って、掃除をしています。
四角い食器洗い機は、熱湯を吹きかけ、熱風で食器を乾かします。陶器や木製の器が壊れてしまったため、陶磁器を作りました。
洗濯機は、鉱石を掘る作業着の汚れも落とし、乾燥までしてくれます。
「なんとなく、こういうものが欲しいと言っただけで、作ってくれるなんて。あなたたち、どこまで有能なのかしら」
元お姫様に褒められた七人の小人は、ニコニコしています。
母親に命を狙われて、森へ逃げ込んだお姫様。
小屋を見つけて、匿って欲しいとお願いしたら、家事をやれと言われました。
「やりたい気持ちはあるのだけれど、やったことがないのでできません」
お姫様は正直に白状しました。
「教えるのも面倒くさいんだけど」
「そのお妃様が軍を率いて攻めてきたら、どうする?」
「匿ってあげる義理もないよね」
お姫様は前世の記憶を頼りに、歌ってみました。
「ハイホー、ハイホー」
お姫様は転生者だったのです。
すると、あら不思議。
小人たちは、ノリノリで踊り始めました。
「なんだか、身体がうずうずするぞい」
「気分良く働けそうだ」
「いや、とっとと働いて、帰ってきたくなる感じじゃ」
そうやって八人での暮らしが始まりました。
慣れない食器洗いをやりながら、お姫様は呟きました。
「ショクセンキがあればいいのに」
「それは何だ?」
「入れ物に食器を入れると、水流で汚れを落としてくれる道具よ」
と説明してあげた。
そうしたら、とても器用な小人と、魔術が得意な小人で作ってくれました。
「なるほど。便利だ」
そんなことを繰り返し、お姫様は優雅な暮らしを手に入れました。
トントントン。
「はい、どなた?」
お姫様は扉を開けずに、誰何します。
「僕は王子だよ。君を助けに来た」
「……毒リンゴを持って?」
変装したお妃様かもしれません。
「はっはっは。持っていないよ。用心深いね、気に入った。正真正銘の王子さ」
快活なしゃべり方と、自信たっぷりな態度は、本物の王子らしく思えます。
「あなたの国に連れて帰るということ?」
「まずは、そうだね。結婚して何年か経ったら、君の祖国へ行こう。子どもは君しかいないのだから、僕が王配になってあげるよ」
この王子は、かなり下調べをしてきたようです。
「わたくし、まっとうな後継者教育を受けていませんの。あなたは教育を受けていますか?」
「僕は三男だから、そんなにしっかりとは受けていない。だけど、スペアのスペアだから、それなりには叩き込まれているよ。君と結婚したら、残りも頑張って勉強するさ。とりあえず、家に入れてくれよ」
「小人さんたちに、他の人を入れてはいけないと言われているので、無理です」
お姫様はそう答えてから気がつきました。
お城に行くなら、この便利な道具たちともお別れです。
常に使用人たちが身の回りのことをやってくれる代わりに、いつでも誰かに見られています。
採寸してオーダーメイド、つまりピッタリのドレスを着て生活をします。
淑女は腕を頭より上に上げる動作をすることがないので、指を組んで伸びをすることもできません。肩周りに余裕がないデザインなので、布が引っ張られてしまいます。
コルセットで締め上げられて、お腹いっぱい食べることもできません。
スケジュールがびっしりで、寝っ転がってお昼寝もできません。体調不良かと医者を呼ばれてしまいます。
「ここで、家事を魔道具にやってもらって、寝転んでいる方が幸せな気がするわ」
お姫様はそう思いました。
「申し訳ないけれど、扉は開けないし、あなたと一緒には行けません」
「はあ? 嘘だろ。わざわざこんな森の中まで来たんだぞ」
王子様は怒鳴りつけ、扉をドンドンと叩きます。
「頼んでませんけど」
お姫様は腹を立てて、言い返しました。
「そういうこと言うか、普通? この、ブス!」
「人の顔も見ていないで、振られたからって暴言吐くなんて。かっこ悪いわ」
「くっそー。火を付けてやる」
王子は従者に火付けを命じました。
「しかし、王子殿下。ここは隣国です。国家間の問題に……」
「非公式に訪問したんだ。黙っていればバレないさ。
それに、妃が娘を殺そうとしたことがきっかけなんだから、この国の王も隠蔽するしかあるまい」
「周囲の木に燃え移ったら大火災になってしまいますよ」
「国力が削げたら、父上に褒められるかもしれないな」
「この、腐れ外道!」
話が聞こえていたお姫様は、家の中から叫びました。
小人たちから教えてもらった罵り言葉を並べます。
「ははは。本物の姫があんな言葉を知っているはずがない。森に住み着いた浮浪者だよ」
王子はとんでもないことを言い出しました。
お姫様、万事休すです。
そのとき、王子たちを覆うような影ができました。
「おい、こら。俺たちの家に何してくれてんじゃ」
「え、小人って……」
王子たちよりも遥かに大きな人が、七人も立っていました。
「我々は、巨人族が他種族を襲ったことで産まれた混血児だ。純粋な巨人より小柄だから、群れから離れて暮らしとるんじゃい」
ということで、王子様はコテンパンにされ、森から逃げていきました。
小人たちは実の母親から嫌われ、彷徨ってこの森に辿り着いたのです。
小人たちは、ただの小人ではありませんでした。
鍛冶や金属加工が得意なドワーフ。魔術や薬草に詳しいエルフ。錬金術や細工が得意なノーム。料理や農業が得意なブラウニー……。
巨人族の血を引きながら、それぞれ違う種族の技能を受け継いだ、優秀な職人たちだったのです。
だから母親に嫌われたお姫様に同情して、一緒に仲良く暮らしたのでした。
数年後、九人目の住人が現れて、「これだけの技術があれば、巨人族を滅ぼせるんじゃない?」と言い出すまで――




