最初の予算会議
朝の霧が、辺境の村を薄く包んでいた。
領主館の一室。
粗末な木製の机を囲んで、三人が向かい合っている。
俺――レオン・フォン・アルヴァレス。
伯爵家三男、16歳。
そして転生者。
隣には、メイドのセリーナ。
落ち着いた表情で帳簿を抱えている。
向かいには、侯爵家令嬢――アリア・フォン・リュミエール。
同い年で、やや緊張した面持ちだ。
「……それで、レオン様。本当に“町を発展させる計画”を立てるのですね?」
セリーナが静かに問いかける。
「うん。というか、やらないと詰む」
俺は即答した。
アリアが小さく首をかしげる。
「詰む、とは……?」
「あ、いや……なんでもない」
危ない。
転生者の言語が出かけた。
◆領地の現実
セリーナが帳簿を開いた。
「現在の人口は約100人。
主な収入源は農作物と少量の木材。
税収は……正直に言って、最低限です」
最低限。
つまり、ほぼゼロに近い。
俺の視界に、例のUIが浮かぶ。
【領地ステータス】
人口:100人
食料:安定(余剰なし)
住居:不足気味
産業:農業Lv1、林業Lv0
財政:赤字寸前
満足度:48%
「……ひどいな」
思わず本音が漏れる。
アリアが慌ててフォローする。
「で、でも、村としては普通だと思います……!」
「普通だけど、王様が来るなら話は別」
俺は指を組んだ。
「二年後に視察。
発展してなかったら、“伯爵家の統治能力不足”って評価される」
セリーナが頷いた。
「最悪の場合、領地の縮小、あるいは他家への譲渡もあり得ます」
アリアの顔色が青くなる。
「そ、そんな……」
◆最初の一手
俺は深呼吸した。
「まずは、やるべきことは三つ」
指を一本ずつ立てる。
「一、食料の余剰を作る」
「二、住居を増やす」
「三、特産品を作る」
セリーナが驚いたように目を見開く。
「……なぜ、その三つを?」
「人口と経済の基礎だから」
俺はUIを見ながら答えた。
「人が増えなきゃ町は大きくならない。
でも、食料と住居が足りなければ人口は増えない。
特産品がなければ金も増えない」
アリアが小さく息を呑んだ。
「まるで……国の運営みたいですね」
「まあ、そんな感じ」
実際は、シムシティの知識だけど。
◆ヒロインの違和感
アリアが少し考え込んだ後、ぽつりと言った。
「……レオン様の考え方、少し不思議です」
「え?」
「普通、貴族の方は“税を上げる”とか、“労働を増やす”とか、そういう発想から始めます」
俺は内心ドキッとした。
セリーナも静かに頷く。
「確かに。
ですがレオン様は、“仕組み”から考えている」
しまった。
会社員の戦略思考が出すぎた。
だが、アリアは微笑んだ。
「でも……私は、その考え方、嫌いじゃありません」
一瞬、胸が妙にざわついた。
◆最初の建設計画
俺は机を叩いた。
「よし。まずはこれをやる」
「何でしょう?」
「畑の拡張と、簡易住宅の建設」
UIに、新しい選択肢が浮かぶ。
【建設可能】
・農地拡張(小)
・木造住宅×3
・伐採所(簡易)
必要資金:少額
必要資源:木材
「木材は……足りませんね」
セリーナが言う。
「なら、伐採所を作る」
俺は即断した。
「これが、最初の“投資”だ」
アリアが目を輝かせる。
「投資……!」
この瞬間、俺は確信した。
この領地は――
ゲームじゃない。
でも、ゲームのように“攻略”できる。
そして二年後。
王様が来る頃には、この村を“町”にしてみせる。
俺の異世界領地経営は、ここから本格的に始まった。




