転生した伯爵家三男は、数字で世界を見てしまう
異世界転生ものです。
目を覚ましたとき、天井がやけに高かった。
知らない天井。
知らない匂い。
知らない身体。
――あれ?
起き上がろうとして、違和感に気づく。
身体が軽すぎる。
筋肉の感覚が違う。
手が小さい。
目の前に伸ばした指は、どう見ても自分のものじゃなかった。
「……は?」
声も若い。明らかに若すぎる。
混乱したまま周囲を見渡すと、そこは豪奢とは言えないが、妙に古風な部屋だった。
木製の家具、厚手のカーテン、壁にかけられた剣。
剣?
なんで剣があるんだ。
ベッドの脇に置かれた鏡を見て、息が止まった。
そこに映っていたのは、見知らぬ少年だった。
黒髪。
細身。
どこか気弱そうな顔立ち。
年齢は――せいぜい十代半ば。
「……誰だよ、これ」
口に出した声が、またしても若い。
脳裏に流れ込んでくる記憶。
伯爵家。
三男。
名前――レオン・フォン・アルヴェリア。
「……冗談だろ」
昨日まで、俺は日本の会社員だったはずだ。
37歳。
都市開発会社の中間管理職。
残業続きで、帰宅して、布団に倒れ込んで――。
それだけだ。
事故もない。
トラックにも轢かれていない。
神にも会っていない。
寝て起きたら、異世界の貴族の息子になっていた。
ふざけるな。
そう思ったのに、不思議と現実感があった。
夢じゃない。
これは現実だ。
そう理解した瞬間だった。
視界の端に、ありえないものが浮かび上がった。
半透明の光の板。
文字。
【領地管理システム 起動】
……は?
思わず目をこすったが、消えない。
むしろ、より鮮明になる。
【アルヴェリア領 概要】
人口:100人
幸福度:42%
財政:-1200G/月
特産品:なし
「……詰んでるだろ」
思わず本音が漏れた。
【需要】
食料:不足
衣料:不足
住居:不足
娯楽:皆無
追い打ちのような表示。
完全にブラック企業よりひどい。
さらに画面が切り替わる。
【潜在資源】
北:山脈(鉄鉱石・魔物)
西:海(魚・塩・交易)
東:森林(木材・薬草)
南:王都街道(商業・政治)
ゲームかよ。
いや、ゲームならまだ救いがある。
でもこれは、現実だ。
俺が生きていく世界。
俺が責任を負う領地。
「……笑えねえ」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、黒髪の女性だった。
年齢は二十歳前後。
落ち着いた表情。
完璧な所作。
メイドだ。
「坊ちゃま、本日はいかがなさいますか?」
坊ちゃま。
つまり、俺のことか。
言葉に詰まっていると、彼女はわずかに首を傾げた。
「……何か、いつもと違いますね」
鋭い。
俺は苦笑した。
「いや、ちょっと……夢を見てた」
「そうですか」
メイドはそれ以上追及しなかった。
だが、その視線はどこか探るようだった。
――この人、侮れない。
そんな予感がした。
窓の外を見ると、遠くに小さな村が見えた。
木造の家。
畑。
煙。
あれが、俺の領地。
たった百人の村。
その瞬間、理解した。
俺はもう、会社員じゃない。
逃げ場もない。
ここで生きるしかない。
「……やるしかないか」
誰に言うでもなく、呟いた。
すると、視界のUIが静かに光った。
【新規イベント発生】
王都からの使者:到着予定
嫌な予感しかしなかった。
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
この領地が、
やがて王国を揺るがす都市になることを。
そして――
隣の領地に、自分と同じ“転生者”がいることを。
はじめて 書いてみました。いかがだったでしょうか。今後もよろしくお願いします。




