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第四章:モノクロームの挑戦


 月曜日の朝、オフィスに差し込む光は刃のように鋭かった。


 彰人は車椅子をデスクに固定し、液晶画面の中に広がるモノクロームの曲線と対峙していた。

 クライアントから突きつけられた「明るさが足りない」という言葉が、胸に棘のように刺さっている。


「……光を際立たせるのは、いつだって影なんだ」


 独り言が、冷えたキーボードの上に落ちる。

 彰人はマウスを握る手に力を込め、紬が描いたあの騎士の銀輪を思い浮かべた。

 彼女の孤独が、あの夜の雨が、どれほど自分の魂を深く彩ったか。

 それを表現できないのなら、デザイナーとして生きている意味がないとさえ思えた。


 一方、紬は実家の重厚な門扉の前に立ち、冷たい鉄の感触に指を震わせていた。

 家の中に一歩足を踏み入れると、そこには冬の底のような沈黙が支配している。

 廊下の突き当たりにある書斎から、父親の低く、威圧的な咳払いが聞こえてきた。


「……お父様、お話があります」


 書斎の重いドアを開けると、厳格な面持ちの父、正蔵が机に向かっていた。

 彼は娘の姿を見ても視線を上げず、ただ冷徹に書類を捲る音だけを響かせる。


「夜遊びは楽しかったか。……羽鳥家の人間として、最低限の矜持すら捨てたようだな」


「遊びではありません。私は……自分の描きたいものを見つけたんです」


 紬の声は、かつてないほどはっきりと静謐な空間に響いた。

 正蔵はゆっくりと顔を上げ、氷のような眼差しで娘を射貫く。


「描きたいものだと? そんな子供騙しの落書きが、何を生む」


「来週、叔父の経営する全寮制の学校へ行け。そこでお前の歪んだ性根を叩き直す」


 宣告は、紬の心に深い裂傷を残した。

 全寮制の学校――それは外界との接触を絶たれることを意味している。

 もう、あの深夜のコンビニで、彰人の車椅子の音を待つことはできなくなる。


「……嫌です。私は、ここでお会いしたい人がいるんです」


「黙れ。不具者の車椅子に付き纏うような恥知らずに、拒否権などない」


 父の放った言葉が、紬の心の中で何かが弾ける音をさせた。

 自分の否定は耐えられても、彰人の尊厳を汚されることだけは許せなかった。


「……彼を、そんな風に言わないでください」


 紬は震えながらも、初めて父を真っ向から見据えた。


 同じ頃、彰人はデザインの核心に辿り着こうとしていた。

 真っ白なキャンバスに、一筋の影を落とす。

 それは孤独ではなく、誰かを包み込むための温かな夜の色だった。


「見ていてくれ、羽鳥さん。俺も、戦うから」


 二人の間に立ちはだかる、現実という名の巨大な壁。

 一人はキャンバスの前で、一人は冷徹な父の前で。

 互いの体温を杖にして、それぞれの「モノクロームの挑戦」が始まった。


彰人は、オフィスに一人残り、デザインの最終調整に没頭していた。


 液晶画面から放たれる青白い光が、彼の険しい表情を浮き彫りにする。

 求められているのは「万人受けする明るさ」だが、彼が描きたいのは「光を抱く影」だ。


「……これじゃない。もっと、彼女の瞳のような、深い色が要るんだ」


 独り言が空虚に響き、彰人は何度も色のパレットを塗り替えた。

 車椅子のタイヤが床と擦れる音が、沈黙したオフィスに彼の焦燥を刻んでいく。


 その頃、紬は二階の自室で、冷たい鍵の音を聞いていた。

 正蔵によって外側から鍵をかけられ、文字通りの軟禁状態に置かれたのだ。


 カーテンの隙間から見える月は、あの日二人で見た時と同じ、優しい銀色だった。

 紬は机の引き出しから、隠し持っていた画用紙と一本の鉛筆を取り出した。


「瀬戸さん……あなたは今、何をしていますか」


 彼女は窓際の僅かな光を頼りに、震える手で紙に線を引いた。

 それは、車椅子を力強く漕ぎながら、朝焼けの街を突き進む彰人の姿だった。


 父がどんなに否定しても、彼女の心の中にある「真実」だけは消せなかった。

 紬は描き終えた紙を小さく折り畳み、ある決意を固めた。


「……お願い、届いて。私の最後の、わがまま」


 彼女は深夜、監視の目が緩んだ隙を突いて、窓の鍵を静かに開けた。

 二階の窓の下には、庭の大きな木が枝を伸ばしている。


 一方、彰人はデスクの上で、偶然重なった色の層に目を奪われていた。

 黒に近い紺色と、淡い琥珀色。

 それは、あの雨の夜に紬が淹れてくれた、コーヒーの湯気の向こう側にある色だった。


「これだ……。この色なら、光の温もりを伝えられる」


 彰人の指先が、魔法にかけられたように動き始めた。

 絶望の底でこそ輝く、一筋の希望の色彩。


 深夜二時。

 彰人のスマートフォンの画面が、唐突に震えて一通の通知を知らせた。

 それは連絡先すら知らなかったはずの、彼女からの短いメッセージだった。


「瀬戸さん。……今、あなたの家の前にいます」


 彰人は椅子を蹴るようにして、玄関へと急いだ。

 心臓の鼓動が、かつて陸上競技でゴールを駆け抜けた時よりも激しく脈打っていた。



この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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