エピローグ:七色の轍
あれから三年。初夏の柔らかな風が、アトリエの白いカーテンを優しく揺らしていた。
彰人は、自らが代表を務めるデザイン事務所のデスクで、新しいプロジェクトの図面を広げている。
車椅子の背後には、かつてないほど自由に、色彩が躍るポスターが何枚も貼られていた。
「……彰人さん。休憩にしませんか。庭のハーブティーが淹れ終わりましたよ」
リビングから、エプロン姿の紬が顔を覗かせた。
彼女の指先には、今も熱心に創作を続けている証である、油絵の具の汚れが僅かに残っている。
「ありがとう、紬。……ちょうど、この曲線の色に悩んでいたところなんだ」
彰人は車椅子を鮮やかに操り、彼女が待つテラスへと移動した。
「ふふ。……三年前のコンペの時みたいですね。あの時の、虹色の轍を覚えていますか」
紬は、彰人の隣に腰を下ろし、陽光に透ける琥珀色の紅茶をカップに注いだ。
「忘れるはずがない。……あの夜明けが、俺のデザイナーとしての本当の始まりだったから」
彰人は遠くの街並みを見つめ、当時の苦難を懐かしむように、目を細めた。
二人はあの日、正蔵の元を去り、何の後ろ盾もない中で再出発した。
苦しい日々もあったが、彰人の「影を活かすデザイン」は、今や世界中で高く評価されている。
そして紬もまた、新進気鋭の画家として、初の個展を成功させたばかりだった。
「……お父様から、また手紙が届いていました。個展のお祝いだそうです」
紬が少しだけ困ったように、けれど嬉しそうに、一通の封筒をテーブルに置いた。
「……相変わらず、素直じゃない人だな。自分では来ないくせに」
彰人は苦笑しながら、封筒の隅に記された、力強い羽鳥家の筆跡を見つめた。
「でも、いつか……三人でこのお茶を飲める日が来るかもしれませんね」
「そうだな。……その時は、俺たちの最高の作品を、あの人に見せつけてやろう」
二人は顔を見合わせ、晴れやかな笑い声を午後の光の中に溶け込ませた。
彰人が車椅子を動かすたび、木漏れ日の下で銀色のハンドリムが虹色に輝く。
それはかつて、孤独な夜を切り裂いて走った、あの誇り高い騎士の輝きそのものだった。
二人の物語は、これからも絶えることなく、新しい色彩を轍として刻み続けていく。
(完)
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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