第六章:決戦の舞台(二)
会場を包み込む拍手は、彰人の耳には遠く、どこか非現実的な響きを持っていた。
スクリーンに映し出された最高賞の文字が、眩暈がするほど白く輝いている。
彰人は隣に立つ紬の、熱を持った小さな掌を、壊れ物を扱うように握りしめた。
「……瀬戸さん。届いたんですね。私たちの、本当の気持ちが」
紬の瞳から溢れた涙が、ホールの照明を反射してダイヤモンドのように散った。
「ああ。……君がいなければ、俺は、あの闇に飲み込まれていたよ」
彰人の声もまた、隠しきれない震えを伴っていた。
だが、その至福の時間を引き裂くように、椅子の脚が床を擦る鋭い音が響く。
審査員席から立ち上がった正蔵の顔には、もはや理性的な父親の面影はなかった。
敗北の屈辱に染まったその瞳は、濁った炎を宿し、真っ直ぐに娘を射抜く。
「……茶番は終わりだ。紬、今すぐその男から離れてこちらへ来い」
正蔵の声は低く、地を這うような冷徹さを持ってホール全体を凍りつかせた。
「嫌です、お父様。……私はもう、あなたの引いた線の中には戻りません」
紬は彰人の車椅子の横に立ち、細い肩を震わせながらも、凛として言い放った。
「思い上がるな。誰のおかげで不自由なく生きてこれたと思っている」
「……あなたは、私を生かしてくれたかもしれません。でも、心を殺したのはあなたです」
紬の言葉は、正蔵が長年築き上げてきた「完璧な家族」という偶像を打ち砕いた。
激昂した正蔵は、傍らに控えていた黒服の男たちに、短く顎で合図を送る。
「連れて行け。……力ずくでも構わん。それが、この子の教育のためだ」
男たちが、獲物を追い詰める獣のような足取りで、ステージへと迫る。
会場の招待客たちは、その異常な光景に息を呑み、静まり返った。
「……させない。俺が、彼女の盾になると言ったはずだ」
彰人は車椅子のブレーキを弾くように解除し、男たちの前に立ちはだかった。
動かないはずの足に力がこもるような錯覚さえ覚えるほどの、凄まじい気迫。
「不具者の分際で、何ができる。……お前はただ、彼女を泥沼に引き摺り込むだけだ」
正蔵の罵倒を浴びながら、彰人は静かに、けれど揺るぎない眼差しで彼を見据えた。
「俺は、彼女を泥沼から救いに来たんじゃない。……共に、歩きに来たんだ」
「影の中を、車輪を回して、色彩を探しながら。……二人で、生きていくために」
彰人の言葉に、会場の空気は再び一変した。
それは単なる恋愛の告白ではなく、不条理な世界に対する、二人の魂の宣戦布告だった。
正蔵は拳を握りしめ、言葉を失ったまま、震える二人を見つめることしかできなかった。
彼がどれほど力を振るおうとも、二人の間に流れる絆の温度までは奪えなかったのだ。
ホールを去る間際、彰人は静かに、けれど確かな勝利を確信しながら扉へと向かった。
外は、いつの間にか雪が降り始めていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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